24 / 88
こんなの、夫婦じゃない……!
24
しおりを挟む
少し走ると、タクシーはとあるタワーマンションの前で停車した。若佐先生がクレジットカードで支払いをしている間、何気なく運転席に設置されているカーナビを見ると、見覚えのある建物名が表示されていた。
(もしかして、ここって若佐先生が住んでいるマンション……?)
飛行機の中でも、離婚届が入っていた封筒に書かれたマンション名を何度も見ていたので間違いない。どうやら、若佐先生は自宅に私を連れて来たらしい。
カーナビを見ている間に、支払いを済ませた若佐先生が、先に私のスーツケースを持ってタクシーを降りてしまったので、私もタクシーを降りて後に続く。マンション前の階段を上ると、若佐先生はタワーマンションの入り口脇の集合玄関機にカードキーを指して自動ドアを開けたところだった。中に入ると、若佐先生は白い大理石のエントランスホールを通り、迷わずエレベーターに向かって行った。到着したエレベーターに二人揃って乗り込むと、若佐先生はすばやく二十二階のボタンを押して、ドアを閉めたのだった。
上昇していくエレベーターに中で若佐先生の横顔を盗み見るが、やはり眉間に皺が寄ったままであり、どことなく怒気まで漂ってきているような気がして、エレベーター内の空気が重苦しい。
「あの、若佐先生……」
私が謝ろうとした時、丁度エレベーターは二十二階に到着したようで、音と共にドアが開いた。先に降りた若佐先生に続いて、私もすぐにエレベーターを降りたのだった。
エレベーターを降りて右にずっと歩いて行くと、突き当たりの部屋の前で若佐先生は先程のカードキーをドアに差した。カチャリという音と共に部屋の鍵が開くと、若佐先生に続いて、私も中に入る。
つい日本にいた時と同じ感覚で靴を脱いでしまいそうになったが、靴を履き直すと、部屋の奥に入って行った若佐先生を追い掛けたのだった。
「わあ……」
部屋はリビングルームとベッドルームの二部屋しかないようだったが、さすが外国といえばいいのか、日本のマンションよりも広く、一部屋に大人六、七人は余裕で寝られそうだった。タワーマンションだけあって日当たりもよく、ベランダも大きかった。こんなところに若佐先生が住んでいるとは思わず、今の状況も忘れて感嘆の声を漏らしてしまう。
「素敵なお部屋ですね」
リビングルームのソファーと床の上に脱ぎ散らかされた服や取り込んだまま放置されたと思しき洗濯物、テーブルの上の法律関係の本や書類が置かれたままになっているのは、出会った頃から何も変わらなかったが、服と仕事関係以外の物が少ないからか、部屋の中はどこかさっぱりとしていたのだった。
「埃もあまり落ちていないんですね。やっぱり、ニューヨークはハウスクリーニングが当たり前だったりするのでしょうか……」
「……どうして、来たんだ」
「えっ?」
私が振り向いたのと、若佐先生が両肩を掴んできたのがほぼ同じだった。
「どうして連絡も無くここに来たんだ! 危うく犯罪に巻き込まれるところだったんだぞ!」
(もしかして、ここって若佐先生が住んでいるマンション……?)
飛行機の中でも、離婚届が入っていた封筒に書かれたマンション名を何度も見ていたので間違いない。どうやら、若佐先生は自宅に私を連れて来たらしい。
カーナビを見ている間に、支払いを済ませた若佐先生が、先に私のスーツケースを持ってタクシーを降りてしまったので、私もタクシーを降りて後に続く。マンション前の階段を上ると、若佐先生はタワーマンションの入り口脇の集合玄関機にカードキーを指して自動ドアを開けたところだった。中に入ると、若佐先生は白い大理石のエントランスホールを通り、迷わずエレベーターに向かって行った。到着したエレベーターに二人揃って乗り込むと、若佐先生はすばやく二十二階のボタンを押して、ドアを閉めたのだった。
上昇していくエレベーターに中で若佐先生の横顔を盗み見るが、やはり眉間に皺が寄ったままであり、どことなく怒気まで漂ってきているような気がして、エレベーター内の空気が重苦しい。
「あの、若佐先生……」
私が謝ろうとした時、丁度エレベーターは二十二階に到着したようで、音と共にドアが開いた。先に降りた若佐先生に続いて、私もすぐにエレベーターを降りたのだった。
エレベーターを降りて右にずっと歩いて行くと、突き当たりの部屋の前で若佐先生は先程のカードキーをドアに差した。カチャリという音と共に部屋の鍵が開くと、若佐先生に続いて、私も中に入る。
つい日本にいた時と同じ感覚で靴を脱いでしまいそうになったが、靴を履き直すと、部屋の奥に入って行った若佐先生を追い掛けたのだった。
「わあ……」
部屋はリビングルームとベッドルームの二部屋しかないようだったが、さすが外国といえばいいのか、日本のマンションよりも広く、一部屋に大人六、七人は余裕で寝られそうだった。タワーマンションだけあって日当たりもよく、ベランダも大きかった。こんなところに若佐先生が住んでいるとは思わず、今の状況も忘れて感嘆の声を漏らしてしまう。
「素敵なお部屋ですね」
リビングルームのソファーと床の上に脱ぎ散らかされた服や取り込んだまま放置されたと思しき洗濯物、テーブルの上の法律関係の本や書類が置かれたままになっているのは、出会った頃から何も変わらなかったが、服と仕事関係以外の物が少ないからか、部屋の中はどこかさっぱりとしていたのだった。
「埃もあまり落ちていないんですね。やっぱり、ニューヨークはハウスクリーニングが当たり前だったりするのでしょうか……」
「……どうして、来たんだ」
「えっ?」
私が振り向いたのと、若佐先生が両肩を掴んできたのがほぼ同じだった。
「どうして連絡も無くここに来たんだ! 危うく犯罪に巻き込まれるところだったんだぞ!」
1
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

彼の秘密はどうでもいい
真朱
恋愛
アンジェは、グレンフォードの過去を知っている。アンジェにとっては取るに足らないどうでもいいようなことなのだが、今や学園トップクラスのモテ男へと成長したグレンフォードにとっては、何としても隠し通したい黒歴史らしい。黒歴史もろともアンジェを始末したいほどに。…よろしい。受けてたちましょう。
◆なんちゃって異世界です。史実には一切基づいておりませんので、ご理解のほどお願いいたします。
◆あらすじはこんなカンジですが、お気楽コメディです。
◆ざまあのお話ではありません。ご理解の上での閲覧をお願いします。スカッとしなくてもクレームはご容赦ください。

婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話
ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。
リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。
婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。
どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。
死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて……
※正常な人があまりいない話です。

ロザリーの新婚生活
緑谷めい
恋愛
主人公はアンペール伯爵家長女ロザリー。17歳。
アンペール伯爵家は領地で自然災害が続き、多額の復興費用を必要としていた。ロザリーはその費用を得る為、財力に富むベルクール伯爵家の跡取り息子セストと結婚する。
このお話は、そんな政略結婚をしたロザリーとセストの新婚生活の物語。

【完結】契約の花嫁だったはずなのに、無口な旦那様が逃がしてくれません
Rohdea
恋愛
──愛されない契約の花嫁だったはずなのに、何かがおかしい。
家の借金返済を肩代わりして貰った代わりに
“お飾りの妻が必要だ”
という謎の要求を受ける事になったロンディネ子爵家の姉妹。
ワガママな妹、シルヴィが泣いて嫌がった為、必然的に自分が嫁ぐ事に決まってしまった姉のミルフィ。
そんなミルフィの嫁ぎ先は、
社交界でも声を聞いた人が殆どいないと言うくらい無口と噂されるロイター侯爵家の嫡男、アドルフォ様。
……お飾りの妻という存在らしいので、愛される事は無い。
更には、用済みになったらポイ捨てされてしまうに違いない!
そんな覚悟で嫁いだのに、
旦那様となったアドルフォ様は確かに無口だったけど───……
一方、ミルフィのものを何でも欲しがる妹のシルヴィは……

不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする
矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。
『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。
『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。
『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。
不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。
※設定はゆるいです。
※たくさん笑ってください♪
※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる