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こんなの、夫婦じゃない……!

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 少し走ると、タクシーはとあるタワーマンションの前で停車した。若佐先生がクレジットカードで支払いをしている間、何気なく運転席に設置されているカーナビを見ると、見覚えのある建物名が表示されていた。

(もしかして、ここって若佐先生が住んでいるマンション……?)

 飛行機の中でも、離婚届が入っていた封筒に書かれたマンション名を何度も見ていたので間違いない。どうやら、若佐先生は自宅に私を連れて来たらしい。
 カーナビを見ている間に、支払いを済ませた若佐先生が、先に私のスーツケースを持ってタクシーを降りてしまったので、私もタクシーを降りて後に続く。マンション前の階段を上ると、若佐先生はタワーマンションの入り口脇の集合玄関機にカードキーを指して自動ドアを開けたところだった。中に入ると、若佐先生は白い大理石のエントランスホールを通り、迷わずエレベーターに向かって行った。到着したエレベーターに二人揃って乗り込むと、若佐先生はすばやく二十二階のボタンを押して、ドアを閉めたのだった。
上昇していくエレベーターに中で若佐先生の横顔を盗み見るが、やはり眉間に皺が寄ったままであり、どことなく怒気まで漂ってきているような気がして、エレベーター内の空気が重苦しい。

「あの、若佐先生……」

 私が謝ろうとした時、丁度エレベーターは二十二階に到着したようで、音と共にドアが開いた。先に降りた若佐先生に続いて、私もすぐにエレベーターを降りたのだった。

 エレベーターを降りて右にずっと歩いて行くと、突き当たりの部屋の前で若佐先生は先程のカードキーをドアに差した。カチャリという音と共に部屋の鍵が開くと、若佐先生に続いて、私も中に入る。
 つい日本にいた時と同じ感覚で靴を脱いでしまいそうになったが、靴を履き直すと、部屋の奥に入って行った若佐先生を追い掛けたのだった。

「わあ……」

 部屋はリビングルームとベッドルームの二部屋しかないようだったが、さすが外国といえばいいのか、日本のマンションよりも広く、一部屋に大人六、七人は余裕で寝られそうだった。タワーマンションだけあって日当たりもよく、ベランダも大きかった。こんなところに若佐先生が住んでいるとは思わず、今の状況も忘れて感嘆の声を漏らしてしまう。

「素敵なお部屋ですね」

 リビングルームのソファーと床の上に脱ぎ散らかされた服や取り込んだまま放置されたと思しき洗濯物、テーブルの上の法律関係の本や書類が置かれたままになっているのは、出会った頃から何も変わらなかったが、服と仕事関係以外の物が少ないからか、部屋の中はどこかさっぱりとしていたのだった。

「埃もあまり落ちていないんですね。やっぱり、ニューヨークはハウスクリーニングが当たり前だったりするのでしょうか……」
「……どうして、来たんだ」
「えっ?」

 私が振り向いたのと、若佐先生が両肩を掴んできたのがほぼ同じだった。

「どうして連絡も無くここに来たんだ! 危うく犯罪に巻き込まれるところだったんだぞ!」
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