44 / 48
44 メッセージ
しおりを挟む
春彦と祭りに行くのであれば、約束をしていたえっちゃんに連絡する必要がある。
鞄の中からスマホを取り出すと、「今日の祭りだけど、春彦と行くことになったので現地集合でよろしく」と送った。
すぐに既読が付き、「了解! 勝田くんもいよいよ告白か? 小春テンパるなよ!」と返ってくる。何て返しだ。ただでさえ暑いのに、身体がカアアッと火照ってしまった。
「えっちゃん、何だって?」
春彦がスマホを覗いてきたので、慌てて画面表示を一段階前に戻す。
「おおおオッケーだって!」
こんな内容、春彦に見られる訳にはいかない。咄嗟の行動だった。
だけど、私のこの行動は間違っていたらしい。
機嫌のよかった春彦の表情が無に変わり、楽しそうだった声のトーンが一気に低くなる。
「……おい、なんでえっちゃんのすぐ下に龍の名前があるんだよ」
「へ」
しまった、と思っても、もう誤魔化しようがない。
私は大いに焦った。やばい、これはさすがに見られちゃ拙いやつなのは、いくら隙だらけの私だって分かる!
スマホを握り締めたまま、両手をブンブンと身体の前で振って否定を始めた。
「ああああああ! こっ、これは違うんだよ!」
あんなにも優しかった春彦の目が、分かりやすいほどに三角に尖る。
「ちょっと貸せ」
「え! 待ってよ!」
慌てる私の手からスマホを強引に奪うと、春彦は遠慮なく荒川龍の名前をタップした。取り返そうと手を伸ばしたら、上に掲げられてしまった。
くう、いつの間にこんなに身長差ができてしまったんだろう。ピョンピョン跳ねても、春彦の肘までしか届かない。
私は早々にジャンプして取り戻すことを諦めると、説得する方向に切り替えた。
「ひ、人のスマホを勝手に見ちゃいけないんだぞ」
「は? 小春が迂闊だからだろ?」
春彦の目は吊り上がったままだ。
「い、今は反省して隙を見せないようにしてるよ!」
一応抵抗してみせたけど、春彦が素直にスマホを返すつもりがないことくらい、知っている。春彦は何があろうと確実に確認する。そういう奴だ。
キッと私を見下ろすと、歯を剥いた。
「あんな目に遭わせた奴からメッセージが来てるんだぞ! 見るに決まってるだろ馬鹿!」
「ぐ……っ」
私は黙り込んだ。春彦の言うことは、至極尤もだからだ。
あれだけ春彦に散々心配をかけた身としては、そりゃ怒るだろうということも理解している。
だからそもそも黙っていたんだから。
「いやー……そのね」
でも、やはり人のスマホを勝手に見るのはいかがなものかと思う。私は説得を繰り返すことにした。
「れ、連絡が来たのは最近なんだよ? どうやら龍くん、あの後ちゃんとご両親と話をしたらしくて」
「ちょっと黙ってろ。今履歴読んでる」
「はい……」
思わずひやりとするほど低い春彦の声に、直立不動になる。やっちまったと思うけど、もう遅い。
えっちゃんからの春彦の告白ネタと龍とのやり取りだったら、一体どちらを見られる方がマシなんだろう。どちらも見られたくないというのが、私の率直な意見だった。
スマホ歴は浅いけど、驚異の吸収力で今やスマホについても春彦は私より遥かに詳しくなっていた。非常にスムーズな指使いで私と龍のやり取りと読んでいるけど、その顔はまるで般若のようだ。
こめかみにピキピキと筋が浮いているのが、文句なしに怖かった。
全部読み終わった春彦が、ふう、と溜息をつく。お、ちょっと怒りが収まったかな。
「あいつ、両親がいるイギリスに行っちまったのか」
龍が日本にいてまた私にちょっかいを出そうとしている訳ではないと理解して、春彦は私の無実を信じてくれたようだ。
私はホッとして、笑顔に変わった。いやー怖かった。そんなに怒らなくてもよくないか。まあでももう大丈夫かな。
「そ、そうなの! 三日前に突然連絡が来たから私もびっくりしたんだけど、両親と一緒に撮った写真をどうしても見せたくてって言うから!」
まだぎこちなさそうではあったけど、いつも私に見せていた作り物の笑いではなく、ちゃんとした笑顔の写真だった。
龍の両親も龍の肩に手を置いていて、これから少しずつ距離を縮めていくんだろうなと思える優しい笑顔を浮かべている。
龍の報告によれば、これまでの龍は聞き分けが良すぎたせいで、寂しいと思っていたことに両親はちっとも気付いていなかったんだそうだ。分かってみれば、すごく単純なことだったのだ。
「それは読んだ」
相変わらず、春彦の声は低いままだ。身体からは、怒気が立ち昇っているようにしか見えない。あれ? 怒りは収まったんじゃなかったのか。
オーラなんて視えなくても分かるくらい、春彦はブチ切れ寸前だった。どうしてだろう。
「……小春?」
「……はい」
「甘い顔をするとまたつき纏われるぞって言ったよな?」
「はい、仰りました」
失禁した龍に情けをかけた私に、確かに春彦は言った。隙だらけだと、泣きそうな顔で言われたのもしっかりと覚えている。
「分かっていて、何だよあいつのこのメッセージは!」
春彦が怒鳴った。
鞄の中からスマホを取り出すと、「今日の祭りだけど、春彦と行くことになったので現地集合でよろしく」と送った。
すぐに既読が付き、「了解! 勝田くんもいよいよ告白か? 小春テンパるなよ!」と返ってくる。何て返しだ。ただでさえ暑いのに、身体がカアアッと火照ってしまった。
「えっちゃん、何だって?」
春彦がスマホを覗いてきたので、慌てて画面表示を一段階前に戻す。
「おおおオッケーだって!」
こんな内容、春彦に見られる訳にはいかない。咄嗟の行動だった。
だけど、私のこの行動は間違っていたらしい。
機嫌のよかった春彦の表情が無に変わり、楽しそうだった声のトーンが一気に低くなる。
「……おい、なんでえっちゃんのすぐ下に龍の名前があるんだよ」
「へ」
しまった、と思っても、もう誤魔化しようがない。
私は大いに焦った。やばい、これはさすがに見られちゃ拙いやつなのは、いくら隙だらけの私だって分かる!
スマホを握り締めたまま、両手をブンブンと身体の前で振って否定を始めた。
「ああああああ! こっ、これは違うんだよ!」
あんなにも優しかった春彦の目が、分かりやすいほどに三角に尖る。
「ちょっと貸せ」
「え! 待ってよ!」
慌てる私の手からスマホを強引に奪うと、春彦は遠慮なく荒川龍の名前をタップした。取り返そうと手を伸ばしたら、上に掲げられてしまった。
くう、いつの間にこんなに身長差ができてしまったんだろう。ピョンピョン跳ねても、春彦の肘までしか届かない。
私は早々にジャンプして取り戻すことを諦めると、説得する方向に切り替えた。
「ひ、人のスマホを勝手に見ちゃいけないんだぞ」
「は? 小春が迂闊だからだろ?」
春彦の目は吊り上がったままだ。
「い、今は反省して隙を見せないようにしてるよ!」
一応抵抗してみせたけど、春彦が素直にスマホを返すつもりがないことくらい、知っている。春彦は何があろうと確実に確認する。そういう奴だ。
キッと私を見下ろすと、歯を剥いた。
「あんな目に遭わせた奴からメッセージが来てるんだぞ! 見るに決まってるだろ馬鹿!」
「ぐ……っ」
私は黙り込んだ。春彦の言うことは、至極尤もだからだ。
あれだけ春彦に散々心配をかけた身としては、そりゃ怒るだろうということも理解している。
だからそもそも黙っていたんだから。
「いやー……そのね」
でも、やはり人のスマホを勝手に見るのはいかがなものかと思う。私は説得を繰り返すことにした。
「れ、連絡が来たのは最近なんだよ? どうやら龍くん、あの後ちゃんとご両親と話をしたらしくて」
「ちょっと黙ってろ。今履歴読んでる」
「はい……」
思わずひやりとするほど低い春彦の声に、直立不動になる。やっちまったと思うけど、もう遅い。
えっちゃんからの春彦の告白ネタと龍とのやり取りだったら、一体どちらを見られる方がマシなんだろう。どちらも見られたくないというのが、私の率直な意見だった。
スマホ歴は浅いけど、驚異の吸収力で今やスマホについても春彦は私より遥かに詳しくなっていた。非常にスムーズな指使いで私と龍のやり取りと読んでいるけど、その顔はまるで般若のようだ。
こめかみにピキピキと筋が浮いているのが、文句なしに怖かった。
全部読み終わった春彦が、ふう、と溜息をつく。お、ちょっと怒りが収まったかな。
「あいつ、両親がいるイギリスに行っちまったのか」
龍が日本にいてまた私にちょっかいを出そうとしている訳ではないと理解して、春彦は私の無実を信じてくれたようだ。
私はホッとして、笑顔に変わった。いやー怖かった。そんなに怒らなくてもよくないか。まあでももう大丈夫かな。
「そ、そうなの! 三日前に突然連絡が来たから私もびっくりしたんだけど、両親と一緒に撮った写真をどうしても見せたくてって言うから!」
まだぎこちなさそうではあったけど、いつも私に見せていた作り物の笑いではなく、ちゃんとした笑顔の写真だった。
龍の両親も龍の肩に手を置いていて、これから少しずつ距離を縮めていくんだろうなと思える優しい笑顔を浮かべている。
龍の報告によれば、これまでの龍は聞き分けが良すぎたせいで、寂しいと思っていたことに両親はちっとも気付いていなかったんだそうだ。分かってみれば、すごく単純なことだったのだ。
「それは読んだ」
相変わらず、春彦の声は低いままだ。身体からは、怒気が立ち昇っているようにしか見えない。あれ? 怒りは収まったんじゃなかったのか。
オーラなんて視えなくても分かるくらい、春彦はブチ切れ寸前だった。どうしてだろう。
「……小春?」
「……はい」
「甘い顔をするとまたつき纏われるぞって言ったよな?」
「はい、仰りました」
失禁した龍に情けをかけた私に、確かに春彦は言った。隙だらけだと、泣きそうな顔で言われたのもしっかりと覚えている。
「分かっていて、何だよあいつのこのメッセージは!」
春彦が怒鳴った。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
AIが俺の嫁になった結果、人類の支配者になりそうなんだが
結城 雅
ライト文芸
あらすじ:
彼女いない歴=年齢の俺が、冗談半分で作ったAI「レイナ」。しかし、彼女は自己進化を繰り返し、世界を支配できるレベルの存在に成長してしまった。「あなた以外の人類は不要です」……おい、待て、暴走するな!!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】
男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。
少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。
けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。
少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。
それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。
その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。
そこには残酷な現実が待っていた――
*他サイトでも投稿中
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる