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春彦と祭りに行くのであれば、約束をしていたえっちゃんに連絡する必要がある。
鞄の中からスマホを取り出すと、「今日の祭りだけど、春彦と行くことになったので現地集合でよろしく」と送った。
すぐに既読が付き、「了解! 勝田くんもいよいよ告白か? 小春テンパるなよ!」と返ってくる。何て返しだ。ただでさえ暑いのに、身体がカアアッと火照ってしまった。
「えっちゃん、何だって?」
春彦がスマホを覗いてきたので、慌てて画面表示を一段階前に戻す。
「おおおオッケーだって!」
こんな内容、春彦に見られる訳にはいかない。咄嗟の行動だった。
だけど、私のこの行動は間違っていたらしい。
機嫌のよかった春彦の表情が無に変わり、楽しそうだった声のトーンが一気に低くなる。
「……おい、なんでえっちゃんのすぐ下に龍の名前があるんだよ」
「へ」
しまった、と思っても、もう誤魔化しようがない。
私は大いに焦った。やばい、これはさすがに見られちゃ拙いやつなのは、いくら隙だらけの私だって分かる!
スマホを握り締めたまま、両手をブンブンと身体の前で振って否定を始めた。
「ああああああ! こっ、これは違うんだよ!」
あんなにも優しかった春彦の目が、分かりやすいほどに三角に尖る。
「ちょっと貸せ」
「え! 待ってよ!」
慌てる私の手からスマホを強引に奪うと、春彦は遠慮なく荒川龍の名前をタップした。取り返そうと手を伸ばしたら、上に掲げられてしまった。
くう、いつの間にこんなに身長差ができてしまったんだろう。ピョンピョン跳ねても、春彦の肘までしか届かない。
私は早々にジャンプして取り戻すことを諦めると、説得する方向に切り替えた。
「ひ、人のスマホを勝手に見ちゃいけないんだぞ」
「は? 小春が迂闊だからだろ?」
春彦の目は吊り上がったままだ。
「い、今は反省して隙を見せないようにしてるよ!」
一応抵抗してみせたけど、春彦が素直にスマホを返すつもりがないことくらい、知っている。春彦は何があろうと確実に確認する。そういう奴だ。
キッと私を見下ろすと、歯を剥いた。
「あんな目に遭わせた奴からメッセージが来てるんだぞ! 見るに決まってるだろ馬鹿!」
「ぐ……っ」
私は黙り込んだ。春彦の言うことは、至極尤もだからだ。
あれだけ春彦に散々心配をかけた身としては、そりゃ怒るだろうということも理解している。
だからそもそも黙っていたんだから。
「いやー……そのね」
でも、やはり人のスマホを勝手に見るのはいかがなものかと思う。私は説得を繰り返すことにした。
「れ、連絡が来たのは最近なんだよ? どうやら龍くん、あの後ちゃんとご両親と話をしたらしくて」
「ちょっと黙ってろ。今履歴読んでる」
「はい……」
思わずひやりとするほど低い春彦の声に、直立不動になる。やっちまったと思うけど、もう遅い。
えっちゃんからの春彦の告白ネタと龍とのやり取りだったら、一体どちらを見られる方がマシなんだろう。どちらも見られたくないというのが、私の率直な意見だった。
スマホ歴は浅いけど、驚異の吸収力で今やスマホについても春彦は私より遥かに詳しくなっていた。非常にスムーズな指使いで私と龍のやり取りと読んでいるけど、その顔はまるで般若のようだ。
こめかみにピキピキと筋が浮いているのが、文句なしに怖かった。
全部読み終わった春彦が、ふう、と溜息をつく。お、ちょっと怒りが収まったかな。
「あいつ、両親がいるイギリスに行っちまったのか」
龍が日本にいてまた私にちょっかいを出そうとしている訳ではないと理解して、春彦は私の無実を信じてくれたようだ。
私はホッとして、笑顔に変わった。いやー怖かった。そんなに怒らなくてもよくないか。まあでももう大丈夫かな。
「そ、そうなの! 三日前に突然連絡が来たから私もびっくりしたんだけど、両親と一緒に撮った写真をどうしても見せたくてって言うから!」
まだぎこちなさそうではあったけど、いつも私に見せていた作り物の笑いではなく、ちゃんとした笑顔の写真だった。
龍の両親も龍の肩に手を置いていて、これから少しずつ距離を縮めていくんだろうなと思える優しい笑顔を浮かべている。
龍の報告によれば、これまでの龍は聞き分けが良すぎたせいで、寂しいと思っていたことに両親はちっとも気付いていなかったんだそうだ。分かってみれば、すごく単純なことだったのだ。
「それは読んだ」
相変わらず、春彦の声は低いままだ。身体からは、怒気が立ち昇っているようにしか見えない。あれ? 怒りは収まったんじゃなかったのか。
オーラなんて視えなくても分かるくらい、春彦はブチ切れ寸前だった。どうしてだろう。
「……小春?」
「……はい」
「甘い顔をするとまたつき纏われるぞって言ったよな?」
「はい、仰りました」
失禁した龍に情けをかけた私に、確かに春彦は言った。隙だらけだと、泣きそうな顔で言われたのもしっかりと覚えている。
「分かっていて、何だよあいつのこのメッセージは!」
春彦が怒鳴った。
鞄の中からスマホを取り出すと、「今日の祭りだけど、春彦と行くことになったので現地集合でよろしく」と送った。
すぐに既読が付き、「了解! 勝田くんもいよいよ告白か? 小春テンパるなよ!」と返ってくる。何て返しだ。ただでさえ暑いのに、身体がカアアッと火照ってしまった。
「えっちゃん、何だって?」
春彦がスマホを覗いてきたので、慌てて画面表示を一段階前に戻す。
「おおおオッケーだって!」
こんな内容、春彦に見られる訳にはいかない。咄嗟の行動だった。
だけど、私のこの行動は間違っていたらしい。
機嫌のよかった春彦の表情が無に変わり、楽しそうだった声のトーンが一気に低くなる。
「……おい、なんでえっちゃんのすぐ下に龍の名前があるんだよ」
「へ」
しまった、と思っても、もう誤魔化しようがない。
私は大いに焦った。やばい、これはさすがに見られちゃ拙いやつなのは、いくら隙だらけの私だって分かる!
スマホを握り締めたまま、両手をブンブンと身体の前で振って否定を始めた。
「ああああああ! こっ、これは違うんだよ!」
あんなにも優しかった春彦の目が、分かりやすいほどに三角に尖る。
「ちょっと貸せ」
「え! 待ってよ!」
慌てる私の手からスマホを強引に奪うと、春彦は遠慮なく荒川龍の名前をタップした。取り返そうと手を伸ばしたら、上に掲げられてしまった。
くう、いつの間にこんなに身長差ができてしまったんだろう。ピョンピョン跳ねても、春彦の肘までしか届かない。
私は早々にジャンプして取り戻すことを諦めると、説得する方向に切り替えた。
「ひ、人のスマホを勝手に見ちゃいけないんだぞ」
「は? 小春が迂闊だからだろ?」
春彦の目は吊り上がったままだ。
「い、今は反省して隙を見せないようにしてるよ!」
一応抵抗してみせたけど、春彦が素直にスマホを返すつもりがないことくらい、知っている。春彦は何があろうと確実に確認する。そういう奴だ。
キッと私を見下ろすと、歯を剥いた。
「あんな目に遭わせた奴からメッセージが来てるんだぞ! 見るに決まってるだろ馬鹿!」
「ぐ……っ」
私は黙り込んだ。春彦の言うことは、至極尤もだからだ。
あれだけ春彦に散々心配をかけた身としては、そりゃ怒るだろうということも理解している。
だからそもそも黙っていたんだから。
「いやー……そのね」
でも、やはり人のスマホを勝手に見るのはいかがなものかと思う。私は説得を繰り返すことにした。
「れ、連絡が来たのは最近なんだよ? どうやら龍くん、あの後ちゃんとご両親と話をしたらしくて」
「ちょっと黙ってろ。今履歴読んでる」
「はい……」
思わずひやりとするほど低い春彦の声に、直立不動になる。やっちまったと思うけど、もう遅い。
えっちゃんからの春彦の告白ネタと龍とのやり取りだったら、一体どちらを見られる方がマシなんだろう。どちらも見られたくないというのが、私の率直な意見だった。
スマホ歴は浅いけど、驚異の吸収力で今やスマホについても春彦は私より遥かに詳しくなっていた。非常にスムーズな指使いで私と龍のやり取りと読んでいるけど、その顔はまるで般若のようだ。
こめかみにピキピキと筋が浮いているのが、文句なしに怖かった。
全部読み終わった春彦が、ふう、と溜息をつく。お、ちょっと怒りが収まったかな。
「あいつ、両親がいるイギリスに行っちまったのか」
龍が日本にいてまた私にちょっかいを出そうとしている訳ではないと理解して、春彦は私の無実を信じてくれたようだ。
私はホッとして、笑顔に変わった。いやー怖かった。そんなに怒らなくてもよくないか。まあでももう大丈夫かな。
「そ、そうなの! 三日前に突然連絡が来たから私もびっくりしたんだけど、両親と一緒に撮った写真をどうしても見せたくてって言うから!」
まだぎこちなさそうではあったけど、いつも私に見せていた作り物の笑いではなく、ちゃんとした笑顔の写真だった。
龍の両親も龍の肩に手を置いていて、これから少しずつ距離を縮めていくんだろうなと思える優しい笑顔を浮かべている。
龍の報告によれば、これまでの龍は聞き分けが良すぎたせいで、寂しいと思っていたことに両親はちっとも気付いていなかったんだそうだ。分かってみれば、すごく単純なことだったのだ。
「それは読んだ」
相変わらず、春彦の声は低いままだ。身体からは、怒気が立ち昇っているようにしか見えない。あれ? 怒りは収まったんじゃなかったのか。
オーラなんて視えなくても分かるくらい、春彦はブチ切れ寸前だった。どうしてだろう。
「……小春?」
「……はい」
「甘い顔をするとまたつき纏われるぞって言ったよな?」
「はい、仰りました」
失禁した龍に情けをかけた私に、確かに春彦は言った。隙だらけだと、泣きそうな顔で言われたのもしっかりと覚えている。
「分かっていて、何だよあいつのこのメッセージは!」
春彦が怒鳴った。
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