尻尾が生えたら優等生な幼馴染みがキスをすると言い出した

ミドリ

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13 これから毎日

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 私に生えた白い尻尾と耳は、セイと告白し合った途端、霞となって消えた。

「代理な気持ちじゃ駄目だったてことじゃね?」
「にしても、なんで犬だったんだろうねえ」

 いずれにせよノーパンであることに変わりはないが、帰りは尻尾がないのでスカートを押さえながら自分で階段を降りることが出来た。

 勿論、帰る時は今度は一礼を忘れなかった。私とセイのすれ違いを解消するキッカケとなってくれた耳と尻尾だ。ほぼ一日ノーパンで過ごす羽目になったとはいえ、感謝している。

「……犬じゃないと思うけど」
「え? そうなの? なんで?」

 何の疑いもなく犬のものだと思っていた。白いし。

 セイがくしゃりと笑った。

「いや……ここ白狐の稲荷神社だし」
「あ、そうか」

 セイの解説によると、この神社は神の使いの白狐が人間の娘に恋をして、天より舞い降りて住まった地なのだという。娘と夫婦になった白狐は、娘の愛するこの地を庇護する為に尽力をつくし、やがてこの小森町の守神となったのだそうだ。

「つまり、縁結びの神様なんだよ」
「へえー知らなかった」

 道理で恋愛絡みの七不思議が絡んでくる筈だ。そしてさすがはセイ、私よりもよく知っている。

「――なあ、キョウ」
「うん?」

 私の手を恋人繋ぎでしっかりと握り締めているセイが、夕日を背に影になった顔を綻ばせた。きっとわたしの顔は夕日と照れとで真っ赤に見えることだろう。

「これからは、起きてる時もキスしていいよな?」
「ぶっ」

 いきなり何を言うのかと思ったら、まさかキスのことだとは思わなかった。だが待てよ、とふと思う。先程のセイの話を聞く限り、セイは一にキス、二にも三だって多分キスだった。多分、キスという行為自体が好きなのだろう。

 ――寝ている私の口の中に突っ込んでくる様な奴だ。恐らく間違ってはいない。

 毎朝キスをされても起きなくて夢だと思っていた自分の間抜けさは棚に上げ、少しばかり調子に乗ってみる。思っていたよりもセイのぐいぐい度が強めなのが、私に優越感を与えてくれたのだろう。

「セ、セイがそんなにしたいなら、してもいいよっ」

 いきなり上からな私の答えにも、セイは一切動じなかった。

「うん、じゃあこれから毎日するからな」
「毎日……」
「してもいいんだろ?」
「あ、うん、まあそうだけどっ」

 うまく言い包められた気がしないでもなかったが、キスをしたいが為に他の女に走られるのは勘弁だ。私が相変わらず可愛くない返答をすると、セイがポツリと言った。

「夏休み、沢山遊ぼうな」
「……うん」

 石の階段を降り進むと、両脇が緑の闇の場所に差し掛かる。足元が暗くて、ちょっと怖かった。

 でも、セイと繋いでいる手があるから我慢できた。これからは、私にはこれがある。

「夏祭りに行こう」
「うん」
「課題もさ、一緒にやろうな」
「うん」

 それはとてもいい提案だ。ほぼ何もやっていない身としては、是非ともお願いしたい。

 眼下に、地上が見えてきた。アスファルトを照らす街灯の灯りが、辺りが闇に包まれ始めていることを表している。

「……口以外も、沢山キスするから」
「うん――はっ!?」

 私が驚いて足を止めると、一段先に進んでいたセイが私を眩しそうに振り返った。心底嬉しそうに。

「それとは別に、キスってさ、沢山すると唇が腫れるんだって。今度朝から試してみような」
「ちょ、ちょっとセイさん?」
「きっとそんなキョウも滅茶苦茶可愛いと思うよ」
「か……」

 可愛い? 今セイは私のことを可愛いと言ったか? セイからその言葉を聞くのは、もしかしたら初めてかもしれない。

 くい、と手を引っ張られて、私たちは再び地上へと向かう。後ろをフイ、と振り返ると、階段の一番上、境内の入り口に白い何かがフワッと舞った気がした。

 今度は始めからちゃんと恋人として来るんだよ、それにそう言われた気がした。

「……お尻も可愛かったし、次はちゃんと見せてもらうから」
「え、…………ええええっ!?」

 夕日を移したキラキラな瞳で、セイが私を見つめている。

 あ、来るかも。そう思った瞬間、一段上に立つ私と顔の高さが合ったセイの顔が近付き、そっと私にキスをした。

 唇を名残惜しそうに離すと、囁く様に言う。

「これから毎日、楽しみだね」

 今度は小さくチュッと音を立ててキスをすると、私の手を引っ張って降り始めた。

 セイは、あれこれ楽しみにしているらしい。ちゃんとそれについていけるだろうかと不安になった。

「さ、帰ろう。買い物行かなくちゃだろ」
「あ、う、うん」

 そのいつの間にか逞しく育っていた背中を見て、あ、もうこれ完全にセイのペースに呑まれたな、と思わず苦笑する。

 とん、とアスファルトの上に足を着くと、セイがにっこりと笑った。

 これからセイに滅茶苦茶振り回されていくのが容易に想像出来たが、この笑顔が見られるならいいか。

 そう思える笑顔に、私も満面の笑みを返したのだった。

-完-
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