12 / 13
12 告白
しおりを挟む
『外ではキスをしない』
どうしてそういう発想になるのかが逆に気になったが、この際それは今はいい。問題は、「外では」というところだ。
「あのお……『外では』?」
私が聞くと、セイはまたちゅ、と軽く唇に触れてから笑顔で答えた。照れた様な顔をしている割には、遠慮がない。
「うん。なら見られないところでしようと思って、あの頃はまだお母さんが家にいて、朝早くに家を出ると怪しまれたから、週末限定で起こしに行く時に」
来ていた。休みになると、朝も早よから私を起こしに来ていた。
まさか、キスが目的だったのか。
愕然とした。
私の受けたショックなど気付いていないのか、セイはにこにこと続ける。
「母さんたちが離婚した時はどっちについて行くかさすがに迷ったけど、朝のチューがない生活なんてもう考えられなかったし」
「そこ? 基準そこ?」
思わずそう返すと、セイがちょっといじけた様ななんとも可愛い表情を惜しげもなく見せた。
「だって、キョウの唇ふわふわだし」
「え、いや、ちょっと」
「離婚した後は毎日行ける様になっただろ?」
「……はい」
毎日来ていた。懲りもせず。
「いつも口が少し開いてるから起きないか心配だったんだけど、中学入ってからは疲れてるのか眠りが深くなってたから、思い切って。へへ」
入れたのか。そうやって人の初ディープキスを人の知らない間に奪っていたのか。
だが話はまだ終わってない。ちゃんと確認しておかないと、こんなこと後になって聞くなんて恥ずかし過ぎて絶対出来ないから。
「す、好きな人がいるって女の子たちの告白を断ってたって……!」
「好きな人はキョウのことに決まってんじゃん」
相変わらずの照れ顔で、サラリとそんな台詞をのたまった。
ポリ、とこめかみを指で掻く仕草が、――可愛い。
「でも、キョウはいまいち何考えてるか分かんないし、鈍感そうだし、俺の気持ちにもちーっとも気付いてなさそうだし、他の奴が好意を持って近付いても気付いてないからさ、俺結構ガードするの大変だったんだぜ?」
「は? ガード?」
「ほらな?」
「……」
何も知らない。その時点で、確かに私は色恋沙汰に疎いのかもしれない。
「だから、なかなかその……断られたら嫌だから、言えなくて」
「セイ……」
セイも、ずっと私と同じ想いを抱えていたのだ。言いたいけど言えない、今の心地よい関係が崩れたら隣に居られなくなる、そう思って。
うなじに触れるセイの手に、ぐっと力が籠る。
「……キョウ、好きだ。キョウは? 俺のこと好きか?」
とうとう来た。もうこれはどんなに恥ずかしかろうが、ちゃんと言わないと絶対ダメなやつだ。そして未だに付いている尻尾が、高速パタパタを繰り返している。
セイの視線が、捲れ上がるスカートへと注がれた。口角が微妙に上がっている。こういうところはこいつもしっかり男なんだなあと思う。鼻血は、丸見えにならなければ出ないのだろうか。今のところ大丈夫そうだ。
と思ったら、見ていたのは考えていたのとは違う部分だった。
「……嬉しそうな尻尾だな」
「あっこれはそのっ」
「教えて、キョウ」
赤い光が、セイの横顔を眩しく照らす。至近距離だと確認出来るセイの可愛いそばかすがある頬が、柔らかく上がるのを眺めた。
「――き」
セイの口が、ぴくっと引き締まる。
「――好き、ずっと好き、これからも好き!」
その途端に見せた、花が咲いた様なセイの笑顔は、きっと一生私の宝物になるだろう。
「キョウ! 俺も大好きだ!」
「わっ」
ガバッと私に抱きついたセイが、顔を斜めにしてもう何度目になるか分からないキスをしてきた。今度は私もそれに応える。
「キョウ、キョウ……! 夢みたいだ……!」
「セイ……」
セイの手が、私の頭に伸びてきた。そのまま愛おしそうに撫でまくる。――あれ。
無理矢理セイの顔を引き剥がすと、まだキスしようとするセイの攻撃を掻い潜って聞いた。
「セイ、耳は!?」
「うん、ないよ、もうない」
「尻尾は!?」
「キョウ、黙って」
「大事なことでしょ! ……ぶっ」
セイのキス欲の前には、無駄だった。身体を密着させる様に抱きすくめられた私は、その後空が見事な赤焼けを見せて段々と暗くなっていくその時まで、ひたすらチュッチュチュッチュとキスをされ続けたのだった。
どうしてそういう発想になるのかが逆に気になったが、この際それは今はいい。問題は、「外では」というところだ。
「あのお……『外では』?」
私が聞くと、セイはまたちゅ、と軽く唇に触れてから笑顔で答えた。照れた様な顔をしている割には、遠慮がない。
「うん。なら見られないところでしようと思って、あの頃はまだお母さんが家にいて、朝早くに家を出ると怪しまれたから、週末限定で起こしに行く時に」
来ていた。休みになると、朝も早よから私を起こしに来ていた。
まさか、キスが目的だったのか。
愕然とした。
私の受けたショックなど気付いていないのか、セイはにこにこと続ける。
「母さんたちが離婚した時はどっちについて行くかさすがに迷ったけど、朝のチューがない生活なんてもう考えられなかったし」
「そこ? 基準そこ?」
思わずそう返すと、セイがちょっといじけた様ななんとも可愛い表情を惜しげもなく見せた。
「だって、キョウの唇ふわふわだし」
「え、いや、ちょっと」
「離婚した後は毎日行ける様になっただろ?」
「……はい」
毎日来ていた。懲りもせず。
「いつも口が少し開いてるから起きないか心配だったんだけど、中学入ってからは疲れてるのか眠りが深くなってたから、思い切って。へへ」
入れたのか。そうやって人の初ディープキスを人の知らない間に奪っていたのか。
だが話はまだ終わってない。ちゃんと確認しておかないと、こんなこと後になって聞くなんて恥ずかし過ぎて絶対出来ないから。
「す、好きな人がいるって女の子たちの告白を断ってたって……!」
「好きな人はキョウのことに決まってんじゃん」
相変わらずの照れ顔で、サラリとそんな台詞をのたまった。
ポリ、とこめかみを指で掻く仕草が、――可愛い。
「でも、キョウはいまいち何考えてるか分かんないし、鈍感そうだし、俺の気持ちにもちーっとも気付いてなさそうだし、他の奴が好意を持って近付いても気付いてないからさ、俺結構ガードするの大変だったんだぜ?」
「は? ガード?」
「ほらな?」
「……」
何も知らない。その時点で、確かに私は色恋沙汰に疎いのかもしれない。
「だから、なかなかその……断られたら嫌だから、言えなくて」
「セイ……」
セイも、ずっと私と同じ想いを抱えていたのだ。言いたいけど言えない、今の心地よい関係が崩れたら隣に居られなくなる、そう思って。
うなじに触れるセイの手に、ぐっと力が籠る。
「……キョウ、好きだ。キョウは? 俺のこと好きか?」
とうとう来た。もうこれはどんなに恥ずかしかろうが、ちゃんと言わないと絶対ダメなやつだ。そして未だに付いている尻尾が、高速パタパタを繰り返している。
セイの視線が、捲れ上がるスカートへと注がれた。口角が微妙に上がっている。こういうところはこいつもしっかり男なんだなあと思う。鼻血は、丸見えにならなければ出ないのだろうか。今のところ大丈夫そうだ。
と思ったら、見ていたのは考えていたのとは違う部分だった。
「……嬉しそうな尻尾だな」
「あっこれはそのっ」
「教えて、キョウ」
赤い光が、セイの横顔を眩しく照らす。至近距離だと確認出来るセイの可愛いそばかすがある頬が、柔らかく上がるのを眺めた。
「――き」
セイの口が、ぴくっと引き締まる。
「――好き、ずっと好き、これからも好き!」
その途端に見せた、花が咲いた様なセイの笑顔は、きっと一生私の宝物になるだろう。
「キョウ! 俺も大好きだ!」
「わっ」
ガバッと私に抱きついたセイが、顔を斜めにしてもう何度目になるか分からないキスをしてきた。今度は私もそれに応える。
「キョウ、キョウ……! 夢みたいだ……!」
「セイ……」
セイの手が、私の頭に伸びてきた。そのまま愛おしそうに撫でまくる。――あれ。
無理矢理セイの顔を引き剥がすと、まだキスしようとするセイの攻撃を掻い潜って聞いた。
「セイ、耳は!?」
「うん、ないよ、もうない」
「尻尾は!?」
「キョウ、黙って」
「大事なことでしょ! ……ぶっ」
セイのキス欲の前には、無駄だった。身体を密着させる様に抱きすくめられた私は、その後空が見事な赤焼けを見せて段々と暗くなっていくその時まで、ひたすらチュッチュチュッチュとキスをされ続けたのだった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説


極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる