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11 デジャヴ
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「んんんっ!」
セイは私をがっちりと押さえ込み、上から抱き抱える様にしてキスをしている。
振り払おうにも出来なかった。気持ちばかりが焦る。
一体どうしちゃったんだ。何で昨日他の人とキスをしてるのに、私にこんなことをするんだろう。
これは、今まで私が知ってたセイとは別人なんじゃないか。思わずそう思ってしまうくらい、今この瞬間のセイが全く理解出来なかった。
混乱で逃げ出したいのに、セイが離してくれなくて逃げられない。
「……セイ! ちょっと……っ」
セイに唇を奪われている状態で無理矢理口を開く。すると。
「――ふぁっ!?」
開いた口の間から中に入ってきたのは、セイの舌だった。なになになに、なにが起きている!
完全にパニックに陥り、逃げようとしていたことすら忘れただセイの荒々しいキスを受け入れてしまっていた。
だが。
ん? 待てよ……と思った。
ふと、デジャヴを感じたのだ。
時折、夢に見ることのあったセイとのキスシーン。起きると自分の欲求不満ぶりに悶絶したくなったものだが、その中には、恥ずかしながら所謂ディープキスというのもあったのだ。だが。
――何故、感触まで一緒なんだろうか。
下唇の噛み方も、歯茎のなぞり方も、舌の厚さも、何故夢のそれと酷似しているのか。
為すがままにされていた私だったが、ふとひとつの可能性に気付いてしまった。
……まさかあれは、夢じゃなかったんじゃないか、と。
「――セイ!」
無理矢理口を引き剥がすと、まだキスをしようとするセイの顔を押さえながら問う。
「きっ昨日キスした相手って、ままままままさか……!」
すると、セイは悪びれもせずに頬を赤らませてあっさりと答えた。
「あ、やっと気付いた? そう、キョウだよ」
しかも、何故か嬉しそうに微笑んでいるじゃないか。本当に訳が分からない。
でも、それであの夢の生々しさと夢の中のキスと現実との合致に納得がいった。
「道理で……」
「ん? 道理で何? ――まあいいや」
まあいいやじゃない。昨日した相手が私ということは、よく考えたら私は寝込みを襲われているってことじゃないか。それは倫理的に如何なものか。
だが、セイにとってそこは重要なポイントではないらしい。
「俺さ、キョウに好きだってばれたら避けられるんじゃないかって思ってずっとビクビクしてたんだよな。だから寝てる時限定で。へへ」
「え……っ」
へへ、じゃないし、そもそも今、なんて言った? ――好き? セイが私を? え? え?
心ばかりが焦るが、脳みその処理が追いつかず、言葉が出てこなかった。
段々と薄暗さに傾く空が、セイに普段は見られない陰影を色濃く付ける。
そんな中、セイは妙な色気を醸し出しつつ話を続けた。その姿に、私はごくりと唾を呑む。
「だけどさっきの髪の毛を見て、堪らなくなった。あ、これもしかしてキョウは俺と同じかな……って」
ふに、と私の唇に唇を触れながら、セイが聞く。さりげなくキスを繰り返すセイ。私は、あまりの急展開に何も出来ないでいた。――それに、セイのキスは恥ずかしいけど嫌じゃない。あまりにも違和感がなさ過ぎて。
「なあ……あの髪の毛、俺の……だろ?」
泣きそうな、だけど期待が込められた熱っぽい目で私を見つめるセイを見て、じわりと想いが浮き出る。
もう、怖がらなくてもいいのかな。
失わないのかな。
白いふさふさの尻尾が、再びゆっくりと左右に動き出す。
この動きが表すのは、きっと期待だ。これからいいことが起こる、そう予想しているパタパタだ。
言ってしまえ。答えてしまえ。ここまできたら、失うものなんてきっともうない。だけど躊躇して失うものは、セイだ。
セイ以上に失いたくないものなんて、この世に存在しないから。
「……うん、うん、そうだよ……!」
必死で絞り出した返答に、セイの瞳に赤くなり始めた陽の光が映り込み、キラキラと輝いた。
「やった……!」
セイと違って臆病者の私は、やっぱり好きだと面と向かって言うことが出来ない。代わりに疑問が口から飛び出してきた。
「でも、セイは他の人が好きなんだとずっと思ってたから……!」
「なんでだよ……」
「だって! 突然キスやめたじゃん!」
「へっ?」
「小学校の時!」
私が怒った様に泣き顔のまま尋ねると、セイは「ああ!」と言って笑った。何故笑うのか。
答えはセイの解答の中に用意されていた。
「俺がキョウにしてたら、田川覚えてる?」
「あー、ガキ大将な」
「そうそう、その田川が、誰にでもするんだろ、ならクラス全員にもしてみろ! て絡んできたから」
ガタイのいい典型的なガキ大将だった記憶がある。セイは女子よりも可愛い存在だったから、――もしかしたらそれ、自分もしてもらいたかったんじゃないだろうか。
だが、セイはそうは受け取らなかったらしい。
「だから、ああ、皆の前でしてるとその内キョウも他の男子としろって言われるのかなあって思って、それで外ではやめた」
「――はい?」
私は、思わず聞き返した。
セイは私をがっちりと押さえ込み、上から抱き抱える様にしてキスをしている。
振り払おうにも出来なかった。気持ちばかりが焦る。
一体どうしちゃったんだ。何で昨日他の人とキスをしてるのに、私にこんなことをするんだろう。
これは、今まで私が知ってたセイとは別人なんじゃないか。思わずそう思ってしまうくらい、今この瞬間のセイが全く理解出来なかった。
混乱で逃げ出したいのに、セイが離してくれなくて逃げられない。
「……セイ! ちょっと……っ」
セイに唇を奪われている状態で無理矢理口を開く。すると。
「――ふぁっ!?」
開いた口の間から中に入ってきたのは、セイの舌だった。なになになに、なにが起きている!
完全にパニックに陥り、逃げようとしていたことすら忘れただセイの荒々しいキスを受け入れてしまっていた。
だが。
ん? 待てよ……と思った。
ふと、デジャヴを感じたのだ。
時折、夢に見ることのあったセイとのキスシーン。起きると自分の欲求不満ぶりに悶絶したくなったものだが、その中には、恥ずかしながら所謂ディープキスというのもあったのだ。だが。
――何故、感触まで一緒なんだろうか。
下唇の噛み方も、歯茎のなぞり方も、舌の厚さも、何故夢のそれと酷似しているのか。
為すがままにされていた私だったが、ふとひとつの可能性に気付いてしまった。
……まさかあれは、夢じゃなかったんじゃないか、と。
「――セイ!」
無理矢理口を引き剥がすと、まだキスをしようとするセイの顔を押さえながら問う。
「きっ昨日キスした相手って、ままままままさか……!」
すると、セイは悪びれもせずに頬を赤らませてあっさりと答えた。
「あ、やっと気付いた? そう、キョウだよ」
しかも、何故か嬉しそうに微笑んでいるじゃないか。本当に訳が分からない。
でも、それであの夢の生々しさと夢の中のキスと現実との合致に納得がいった。
「道理で……」
「ん? 道理で何? ――まあいいや」
まあいいやじゃない。昨日した相手が私ということは、よく考えたら私は寝込みを襲われているってことじゃないか。それは倫理的に如何なものか。
だが、セイにとってそこは重要なポイントではないらしい。
「俺さ、キョウに好きだってばれたら避けられるんじゃないかって思ってずっとビクビクしてたんだよな。だから寝てる時限定で。へへ」
「え……っ」
へへ、じゃないし、そもそも今、なんて言った? ――好き? セイが私を? え? え?
心ばかりが焦るが、脳みその処理が追いつかず、言葉が出てこなかった。
段々と薄暗さに傾く空が、セイに普段は見られない陰影を色濃く付ける。
そんな中、セイは妙な色気を醸し出しつつ話を続けた。その姿に、私はごくりと唾を呑む。
「だけどさっきの髪の毛を見て、堪らなくなった。あ、これもしかしてキョウは俺と同じかな……って」
ふに、と私の唇に唇を触れながら、セイが聞く。さりげなくキスを繰り返すセイ。私は、あまりの急展開に何も出来ないでいた。――それに、セイのキスは恥ずかしいけど嫌じゃない。あまりにも違和感がなさ過ぎて。
「なあ……あの髪の毛、俺の……だろ?」
泣きそうな、だけど期待が込められた熱っぽい目で私を見つめるセイを見て、じわりと想いが浮き出る。
もう、怖がらなくてもいいのかな。
失わないのかな。
白いふさふさの尻尾が、再びゆっくりと左右に動き出す。
この動きが表すのは、きっと期待だ。これからいいことが起こる、そう予想しているパタパタだ。
言ってしまえ。答えてしまえ。ここまできたら、失うものなんてきっともうない。だけど躊躇して失うものは、セイだ。
セイ以上に失いたくないものなんて、この世に存在しないから。
「……うん、うん、そうだよ……!」
必死で絞り出した返答に、セイの瞳に赤くなり始めた陽の光が映り込み、キラキラと輝いた。
「やった……!」
セイと違って臆病者の私は、やっぱり好きだと面と向かって言うことが出来ない。代わりに疑問が口から飛び出してきた。
「でも、セイは他の人が好きなんだとずっと思ってたから……!」
「なんでだよ……」
「だって! 突然キスやめたじゃん!」
「へっ?」
「小学校の時!」
私が怒った様に泣き顔のまま尋ねると、セイは「ああ!」と言って笑った。何故笑うのか。
答えはセイの解答の中に用意されていた。
「俺がキョウにしてたら、田川覚えてる?」
「あー、ガキ大将な」
「そうそう、その田川が、誰にでもするんだろ、ならクラス全員にもしてみろ! て絡んできたから」
ガタイのいい典型的なガキ大将だった記憶がある。セイは女子よりも可愛い存在だったから、――もしかしたらそれ、自分もしてもらいたかったんじゃないだろうか。
だが、セイはそうは受け取らなかったらしい。
「だから、ああ、皆の前でしてるとその内キョウも他の男子としろって言われるのかなあって思って、それで外ではやめた」
「――はい?」
私は、思わず聞き返した。
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