尻尾が生えたら優等生な幼馴染みがキスをすると言い出した

ミドリ

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5 セイのチャーハン

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 そうは言っても時刻はまだ昼前。四時四十四分まではまだまだ時間がある。

「今日はおばさんいなかったぞ」

 鍵の掛かっていない玄関から勝手に他人の家に侵入し、家の中に人がいないかを確認した上で私の所にやってきたことが窺える発言をしたセイが、何気ない雰囲気でそう言った。

「あ、今日日勤だって。夜ご飯私の担当なんだった」
「あ、じゃあ俺も食べる」
「セイのお父さん、また出張?」
「そ」

 セイの家は父子家庭で、両親が離婚している。セイのお父さんの仕事が忙しく、夫婦の会話がなくなっていたことが大元の原因らしく、セイが中学校に進学したのをきっかけに離婚。お母さんは実家に戻って最近再婚したという噂を小耳に挟んでいる。

 セイがいい子な優等生でいたのはギスギスした家庭環境が原因だったのでは、と私は考えていた。我儘を言えば取り返しがつかなくなるのでは、そう思って行動していた節があったからだ。勿論そんなことは本人には聞けなかったが、セイを見ていればなんとなくそうだろうと分かった。

 離婚が決まった時、セイは母親っ子だったのでてっきり母親に付いていくのかと別離を悲しく思っていたのだが、セイは当然の様に父親と残ることを選んだ。理由をさり気なく聞いたが、はっきりと答えてくれなかった。何かしら家庭の事情があったのだろうと思い、それ以上は聞いていない。

 ということで、徒歩三十秒圏内の我が家にこの幼馴染みは事ある毎に入り浸り、セイのお父さんが出張でいない時などは一緒に食事をしたりしている仲だった。

 セイは私の両親の前でも優等生っぷりを発揮しているので、小さい頃からセイをよく知る二人はセイに滅茶苦茶甘い。下手をすると、実の娘の私以上に可愛がっている。

「キョウの作る飯、好き」

 にこにこと、柔和な笑みを浮かべてそんなことを言う。こいつはちょいちょいこういうことを当たり前の様に言うので、外ではあまりにこやかではないセイが私のことを家族同様に思っていることが窺えた。つまり、気を使う必要のない相手ということだ。

「……おう」
「何だよそれ」

 はは、と笑うセイと、台所で昼ごはんになりそうな食材を漁ることにした。冷蔵庫の中身はあまりないが、卵だけはやたらとある。

 すると、人の家の冷蔵庫を当たり前の様に覗いていたセイが、にこりと笑いながら私を振り返った。

「チャーハンでも作るか」
「あれ、セイが作ってくれるの?」

 セイはあまり料理が好きじゃない。だから我が家に入り浸っているのだと思っていたが。

「俺も大分上達したんだぞ」

 それにその尻尾が邪魔だろ、と先ほどから歩く度にあちこちの物を倒して落としている私を見て、セイが小さく笑った。気を遣ってくれたのか。考えが直接的でお子ちゃまな私とは、やはりセイは違った。

「じゃあお願いしよっかな」
「任せとけ」

 セイはちゃっちゃと勝手知ったる人の家の台所で仕込みを始めた。なかなか手際がいい。時折確認する様にチラチラとこちらを見るのが、ちょっと新鮮で可愛かった。

 余っていたご飯にハムと卵とネギを入れ、中華スープの粉末を入れて炒める。フライパンの周りからさっと醤油を回し入れると、醤油の焦げる香ばしい香りが立った。

「はいお待たせ」
「おー! すごいじゃんセイ」
「味はどうかなー」
「とりあえず匂いは美味しそうだよ」

 ワイワイと話しながらひと口食べてみると、美味しい。若干胡椒が足りないなと思って足すと、更に美味しくなった。

「やるじゃん」

 私が褒めると、セイは嬉しそうに顔を綻ばせた。こういう顔を外でもすればいいのにと思うが、こいつは優等生ぶりたいからか、外ではそこそこ他人に素っ気ない態度を見せる。だからこの笑顔は、幼馴染みである私の特権だった。

 チャーハンを口に運びながら、提案する。

「時間までゲームしようよ」
「好きだなあ」

 セイは笑うが、嫌そうではない。

「対戦しよ、対戦。ハンデあげるからさー」

 ハンデという言葉に、セイは反応した。

「くそ! 今度こそ勝ってやる!」
「ふはは、私に勝てると思うなよー」

 身体から白い耳と尻尾が生えている異常事態の割には、隣に色々と私の代わりに考えてくれるセイがいるからか、私はその後は比較的穏やかにその時間まで待つことが出来たのだった。
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