尻尾が生えたら優等生な幼馴染みがキスをすると言い出した

ミドリ

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2 セイの尋問開始

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「つまり、全く身に覚えがないってこと?」

 前屈みになりベッドに向かって床に座っていたセイが、鼻血がようやく止まったのだろう、振り返ったと思うとそう言った。

 ベッドに座りなよと勧めたが、頑なに断られた。見られたくないとかなんとかゴニョゴニョ言っていたが、意味が分からない。

「起きたらいきなりこうなんだもん」

 尻尾の所為で下着も短パンもずり下がってきてしまうので、とりあえず長い巻きスカートを巻きつけて、パンツは思い切って脱いだ。スカートの後ろが明らかに盛り上がっているが、この際仕方ない。

「お腹がスースーする」
「ほっ報告はいいからっ」

 また鼻をティッシュで押さえ出したので、やめてやることにした。子供の頃から裸の付き合いをしてきた私でも、さすがにノーパンをふんぞり返って報告し続けるのはあまりよろしくないことくらいは分かる。私にだって恥じらいというものはあるし、それよりもセイにお尻を見られてしまったことは……形がいいとか、思ってくれたのか気になる。

「何か変な物食べたとか」
「いやー? 特に」

 夏休みになって、特段変わった物は食していない。

「じゃあ、最近何した?」

 赤い顔をしたセイが、ティッシュの奥から言った。

「昨日は……夏休みの課題」
「一日やってた訳じゃないだろ」

 その通り。殆どの時間をゲームをして過ごしていた。私のそので理解したのだろう。セイがずい、と顔を近付けてきた。近くで見ると、まつげが長くて肌がぴんと張り詰めていて若いなあと思う。自分も同い年だが、きめの細かさはきっとセイの方が上に違いない。

「何のゲームしてた?」
「え? いつものオンラインRPG」
「……他は?」

 昨日。しかも自分のことだ。何をしたか、もちろんよく知っている。だが、まさか言える訳がなかった。言ったら絶対馬鹿にされる。

「おい、何か覚えがありそうな顔してんじゃん」

 セイの顔が怖くなってきたので、私はあっさりと折れて白状することにした。肝心な部分を言わなければいいか、そう自分に言い訳をしながら。

「……夕方に、神社に」
「神社? なに、誰と」

 段々と尋問めいてきた気がするが、今ここで頼りになるのはセイしかいない。なので、私は素直に答えた。

「ひとりだよ」
「本当か? ひとりで何しに行った」

 本当に尋問になってきた。カツ丼があれば完璧なんだけどなと考えた瞬間、ぐうう、とお腹が鳴る。

「お腹空いた」

 欲求を素直に口にすると、セイの顔が般若みたいになってしまった。

「おい、誤魔化すな」
「ご、誤魔化してないよー」
「お前は嘘が下手くそなんだよ! いいから吐け!」

 セイは品行方正なクラス委員も務める優等生オブ・ザ優等生だが、その所為かあまり融通が利かない。一回言い出したらなかなか譲らないし、セイがこうだと思ったらそれを覆す為にはきちんと物的証拠を揃えて提出しないと納得しない。

 ひと言で言ってしまうと若干面倒くさい奴なので、見た目のソフトさとはかけ離れた頑固さに近付いてきた女子が撃沈するのを何度も見かけたことがある。

 元々髪の毛の色が薄くて一見カラーしている様に見えるところも、女子が近付いてくる要因のひとつになっているのだろう。その見た目に騙されて。

 セイのことは『女子ホイホイ』と心の中で呼んでいたが、これは内緒だ。言ったら冷たい声で「は?」と言われるのは目に見えていた。

「神社に何しに行った」

 セイの顔が近付いてくる。所々に散りばめられたそばかすが可愛いなあと思ったが、セイを素直に褒めるなんて恥ずかしくてとてもじゃないが出来ない。それに男に可愛いって言っても喜ばれないと聞いたことがあるから、言えなくて逆に都合がいいと思うことにしていた。

「あの、その、小森町七不思議のあれを……」
「はあ? 七不思議?」

 セイは睨みつける様にしているが、私はセイの歯並びが綺麗だなあと今度は口の中をじっと見ていた。やっぱりセイはいいパーツを持っている。

 唇も薄めだが柔らかそうだし、小さい頃はお互い気にすることなく口にちゅっちゅしていたものだが、そういえば最後にしたのはいつだったか。年長……いや、小1。いや、確か小2の時に泣いている私にセイがした様な。

「キョウ? 聞いてるのか?」
「はっ」
「なにぼーっとしてんだよ。お前のことだろ?」
「すんません」

 セイとの最後のチューがいつだったかを思い返していましたなんて言ったら、セイはどんな反応を示すだろうか。汚物でも見る様な目で見られたらさすがに悲しいから、発言は控えた。

「なに、その小森町の七不思議って」
「あのー、学校で聞いてさ、それで試しに……」
「だから何をだよ」

 セイの怒った様な顔が、もうすぐ目の前にある。すると、私のスカートの中の尻尾がふりふり振るのをやめ、するりと私の足の間に入り込んできた。

「うは」

 ふわふわだがくすぐったい。

「何笑ってんだよ」
「いや、尻尾が足の間にどんどん入ってきてくすぐったくて……っ」
「え!?」

 セイがそう言った瞬間、またセイの鼻からたらりと血が流れてきた。

「ちょっと大丈夫?」

 こんなにたらたら垂れて、どこか身体に問題があるんじゃないかと思わず心配になる。

「お前が変なこと言うから……っ」
「はい?」

 なんで私の所為になるのか。思わずムッとすると、セイが空いている方の手で額を押さえた。

「いいから話せ。な?」
「――はい」

 あまりにも低い声に、足の間の尻尾がギュッと縮こまった。
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