尻尾が生えたら優等生な幼馴染みがキスをすると言い出した

ミドリ

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1 白い尻尾

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 夏休みの、とある一日。

 自分の部屋のシングルベッドで目を覚ますと、短パンを履いてむき出しになった腿にふさふさとした物がふにふにと触れていることに気が付いた。

 これは何だろう。眠い目を擦りながら感触がした方を見ると、白い大きな尻尾の様な物がもふもふと動いているのが視界に入る。

「え……?」

 それは、我ながらキュッと引き締まった私のお尻から飛び出していた。というか、恥骨の上あたりからもっさりと生えていて、パンツがずり下がっている。

 ふわふわの白い尻尾は、犬の尻尾の様に見えた。

「……おいおい」

 思わずうら若き女子らしからぬ言葉が飛び出した。急ぎベッドから飛び降りると、姿見の鏡の前に立つ。

 そこに映るは、スラリとした足。短パンとパンツが骨盤からずり落ちかけている下腹部の背後には、先程確認した白い尻尾がパタパタと動いている。その上に行くと、高校生になって大分発達してきた胸部に、長いサラサラな黒髪が垂れる。スタイルの良さにはちょっと自信があったが、乗っている顔は丸く童顔なので、若干ちぐはぐ感は否めない。これからに期待したいところだ。

 そして、その頭の上からは、白い耳が生えていた。

 猫耳ならぬ、犬耳。立派な白い尾。それがぴょこぴょこと私の意思とは関係なく揺れている。

「なにこれ……」

 拙い。何が拙いって、これからの高校生活をずっとこれで過ごす訳にはいかないだろうし、そもそも耳と尻尾を出したまま日常生活を送るなんて頭の痛い子みたいなことが出来る訳がない。というか何だこれ。何でいきなり耳と尻尾が生えてるのか。

 私が固まっていると。

「キョウー? 起きてるか……」

 ガチャ、といきなりノックもなしに人の部屋のドアを開けた奴がいた。

「わっ! セイ!」

 誓と書いてセイと読む名のこの幼馴染みは、人の家だろうが人の部屋だろうが例えそれが若い女子の部屋だろうが何も気にせず勝手に入ってくる、同い年の男子高校生だ。

「あ、珍しく起きて……え?」

 最近急激に背が伸びたが、顔にはまだ幼さが残る。少し垂れ目の優しい雰囲気を持つセイは、小学校や中学校では女子女子とからかわれていたが、高校になってからは急激にもて始めた。私はそれが、ちょっと腹立たしい。

 ――自分ばっかりもてやがって。

「……コスプレ?」
「するかボケ」

 思わずつっこむ。セイは大事な幼馴染みだが、でもだからこそ気心が知れすぎて思いやりの言葉を使用することが出来なかった。

 追い越されただけでなく段々と見上げる様になった背も、同じくらいだった肩幅もどんどん逞しくなっていって、気付けば視線はいつもセイに向いてしまっていた。

 最近、私はちょっとおかしいみたいだ。

「起きたらこんな状態になってて」
「え? あれ、動いてる」

 セイは私に近づいてくると、セイが近付くにつれパタパタと動きを激しくし始めた尻尾に恐る恐る手を触れる。

「あっ」

 今まで感じたことのない存在しない筈の場所に触れられた不思議な感触に、私は思わず変な声を出す。すると、セイが目を見開き私を見下ろした。

「ちょっと、変な声出すなよ」

 そう言って、ムニムニと尻尾を撫でくり回す。

「ひゃっや、やめて!」

 あまりのくすぐったさに身を捩って笑うと、セイの視線が私の尻尾の付け根に注がれていることに気が付いた。

「あ」

 プリッとした私のお尻が、むき出しになっている。

 たらり、とセイの鼻から赤い血が流れていった。
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