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アフター鬼ごっこ その3
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海でたっぷり遊んだ後は、かき氷を作って食べて、夏の一日を満喫した。
帰りの電車で、沙羅がうとうとし始める。
ようやく愛理がちゃんと楽しそうにしたから、はしゃぎ過ぎた。
そんなことをボソリと言われたら、可愛すぎて思わず抱き締めたくなった駅までの道。
かくんと船を漕いだので私に引き寄せようとすると、反対側に座ってた矢島が「重いだろ」と言って沙羅を自分の肩に引き寄せた。なので、有り難く甘えさせてもらう。
矢島が、沙羅を起こさない様小声で話しかけてきた。
「また近い内に行こうよ。おばさんもお前らのこと気に入ったみたいだし、いつでも来いって言ってたぞ」
「いいの? でも本当に素敵な場所だったよねえ」
おばさんのところには娘さんがいるそうだけど、その友達はあまり素行がよろしくないらしい。来ても挨拶はしない、靴は脱ぎ散らかす、ゴミはちゃぶ台の上に置いたまま帰る。それらが重なり、「最近の若い子は」と憤っていたところ、来たのが普通の私たちだったので感激してしまったらしい。
「愛理、楽しそうだったよな」
私の隣で、柿本がにこにこと笑った。すっかり下の名前を呼び捨てが定着してしまった柿本が、私の名前を呼ぶ度にドキッとしているのは、内緒だ。
「元彼さ、束縛強かったし、これまで一緒に遊ぶ機会なんて本当なかったもんな」
矢島が同意した。
そう。私を振った元彼は、かなり束縛の強い人だった。初めはそんなことなかったけど、付き合っていく内に段々と束縛が強くなっていったのだ。
多分、原因は私の優柔不断だ。私の「争いたくない」という曖昧な態度が、結果としてあの人を威張らせる結果になったんだろうと、矢島や沙羅に言われた。今ならちょっと分かる。嗜虐心を煽ってしまったんだろう。
「教室で、愛理が俺たちと一緒にいるだけで嫌そうだったもんなあ」
矢島が言うと、鼻の頭が赤くなった柿本が気怠そうに言う。
「俺、呼び出されて脅されたことあるよ」
「え?」
柿本の方を向くと、柿本は甘さたっぷりの顔をにやけさせた。
「愛理の周りをうろちょろするんじゃねえって、男子トイレで凄まれた。怖かったなあ」
ちっとも怖くなさそうな口調でそんなことを言う柿本。口をあんぐり開けていると、矢島が眼鏡の奥の目を大きく開いた。
「え? お前も?」
お前も、ということは。
「俺も男子トイレで言われた。しかもさあ、俺らとは連絡先交換するなって言ってある、俺の言うことは何でも聞くんだよとか言うからさー」
確かに、男子とは連絡先を交換するなとは言われていた。スマホの履歴も「やましいことないなら見せろよ」と言われて見せたことも、何度もある。
でも。
「何でも聞く……?」
そんな風に思われてたなんて。別れたとはいえ、さすがに傷付く。
それに、別れてからまだそう時間は経っていない。さすがに動揺を隠せないでいると、矢島がニヤリと笑った。
「そう。だからカッチーン! てきてさ。じゃあお前は女子の連絡先ないのかよって迫ったら、途端ビビりやがって」
「何やってんの矢島」
「仕方ないだろ、腹立ったんだから」
仕方なくはないと思うけど、私の為を思ってくれて言ったのなら、いい……のかな。
「目が泳ぎまくってたからさ、スマホ開かせたんだよ。そしたらまあ出てくるわ出てくるわ。女子とのやりとり、なんか結構セクハラ紛いの発言も多いしさ」
……確かに、文章だとこちらが「えっ」と思うことも言われたことは、度々あった。
「だから『てめえの所業、全部学校中にバラしてやるぞ。でもすぐに愛理を解放するなら黙っといてやる』って脅したら、泣きべそかいてさあ」
「はい?」
すると、横から柿本が話し始める。
「……実は、俺も脅された時に、丁度その時付き合ってた子があいつが別の女子と手を繋いで歩いてるの見たって聞いたばっかだったからさ、『お前こそ隠れて浮気してんのバレてねえと思ってんのかよ』って凄んだら、ブルブル震えちゃってさ」
ちょっと待って、何それ。
「お前今すぐきっちりしねえとどうなるか分かってんのかって言ったら、あんな振り方しちゃったみたいだよ。ごめんね愛理」
「は? え?」
矢島と柿本を交互に見る。二人とも、ちょっと申し訳なさそうな笑顔を浮かべていた。
「だから、どうも愛理がフラれたのって俺たちが脅した所為みたい」
「あんな馬鹿な振り方すると思わなくてさ。ごめんな?」
「え……えええ?」
つまり、元彼は同じクラスでつるんでいることの多い柿本と矢島を個別に呼び出し釘を刺そうとしたのはいいけど、反対にやり込められた結果、背の高いのは何だと理由をつけて振ったということか。
「だから、背の高いとかいう理由は、後で考えたものだと思う」
と、矢島。
「俺、愛理のそれ格好良くて好きだよ」
サラリと好きとのたまう柿本。
「沙羅は沙羅で、直接愛理に『あいつはやめとけ』って言ってたしなあ」
つまりさ、と矢島が笑う。
「愛理は俺たち三人に愛されてんだな」
「矢島……柿本……」
私は皆のことをカースト上位だのなんだのと、自分と違う人種だと思ってた。
でも、三人とも私のことをちゃんと友人と見て、私の知らないところで私のことを思って行動してくれていた。
――友達甲斐がなくて、距離を置いていたのは私の方だ。
「み、皆ありがとう……!」
思わず涙ぐむ。
「ちょ、愛理?」
「ご、ごめん! 勝手なことしてたのを黙ってて……!」
ううん、と首を横に振り、笑った。
「私、もっと皆とちゃんと友達になりたい……!」
向き合って、いいところも悪いところもお互いに認め合える様な、そんな人間になりたい。
矢島と柿本が、視線を合わせる。やがて二人ともふっと笑うと、間に私と沙羅を挟み、肩を組んだ。
「友達……からだな」
「そうだな。勝負はこれからだし、ゆっくりやるか」
じゃあ、次の遊びの予定立てようぜ。
そう言って笑い合う柿本と矢島に、私は心からの笑顔で大きく頷いた。
※※※※※※※※※
続きは、不定期であげていこうかと思います。
帰りの電車で、沙羅がうとうとし始める。
ようやく愛理がちゃんと楽しそうにしたから、はしゃぎ過ぎた。
そんなことをボソリと言われたら、可愛すぎて思わず抱き締めたくなった駅までの道。
かくんと船を漕いだので私に引き寄せようとすると、反対側に座ってた矢島が「重いだろ」と言って沙羅を自分の肩に引き寄せた。なので、有り難く甘えさせてもらう。
矢島が、沙羅を起こさない様小声で話しかけてきた。
「また近い内に行こうよ。おばさんもお前らのこと気に入ったみたいだし、いつでも来いって言ってたぞ」
「いいの? でも本当に素敵な場所だったよねえ」
おばさんのところには娘さんがいるそうだけど、その友達はあまり素行がよろしくないらしい。来ても挨拶はしない、靴は脱ぎ散らかす、ゴミはちゃぶ台の上に置いたまま帰る。それらが重なり、「最近の若い子は」と憤っていたところ、来たのが普通の私たちだったので感激してしまったらしい。
「愛理、楽しそうだったよな」
私の隣で、柿本がにこにこと笑った。すっかり下の名前を呼び捨てが定着してしまった柿本が、私の名前を呼ぶ度にドキッとしているのは、内緒だ。
「元彼さ、束縛強かったし、これまで一緒に遊ぶ機会なんて本当なかったもんな」
矢島が同意した。
そう。私を振った元彼は、かなり束縛の強い人だった。初めはそんなことなかったけど、付き合っていく内に段々と束縛が強くなっていったのだ。
多分、原因は私の優柔不断だ。私の「争いたくない」という曖昧な態度が、結果としてあの人を威張らせる結果になったんだろうと、矢島や沙羅に言われた。今ならちょっと分かる。嗜虐心を煽ってしまったんだろう。
「教室で、愛理が俺たちと一緒にいるだけで嫌そうだったもんなあ」
矢島が言うと、鼻の頭が赤くなった柿本が気怠そうに言う。
「俺、呼び出されて脅されたことあるよ」
「え?」
柿本の方を向くと、柿本は甘さたっぷりの顔をにやけさせた。
「愛理の周りをうろちょろするんじゃねえって、男子トイレで凄まれた。怖かったなあ」
ちっとも怖くなさそうな口調でそんなことを言う柿本。口をあんぐり開けていると、矢島が眼鏡の奥の目を大きく開いた。
「え? お前も?」
お前も、ということは。
「俺も男子トイレで言われた。しかもさあ、俺らとは連絡先交換するなって言ってある、俺の言うことは何でも聞くんだよとか言うからさー」
確かに、男子とは連絡先を交換するなとは言われていた。スマホの履歴も「やましいことないなら見せろよ」と言われて見せたことも、何度もある。
でも。
「何でも聞く……?」
そんな風に思われてたなんて。別れたとはいえ、さすがに傷付く。
それに、別れてからまだそう時間は経っていない。さすがに動揺を隠せないでいると、矢島がニヤリと笑った。
「そう。だからカッチーン! てきてさ。じゃあお前は女子の連絡先ないのかよって迫ったら、途端ビビりやがって」
「何やってんの矢島」
「仕方ないだろ、腹立ったんだから」
仕方なくはないと思うけど、私の為を思ってくれて言ったのなら、いい……のかな。
「目が泳ぎまくってたからさ、スマホ開かせたんだよ。そしたらまあ出てくるわ出てくるわ。女子とのやりとり、なんか結構セクハラ紛いの発言も多いしさ」
……確かに、文章だとこちらが「えっ」と思うことも言われたことは、度々あった。
「だから『てめえの所業、全部学校中にバラしてやるぞ。でもすぐに愛理を解放するなら黙っといてやる』って脅したら、泣きべそかいてさあ」
「はい?」
すると、横から柿本が話し始める。
「……実は、俺も脅された時に、丁度その時付き合ってた子があいつが別の女子と手を繋いで歩いてるの見たって聞いたばっかだったからさ、『お前こそ隠れて浮気してんのバレてねえと思ってんのかよ』って凄んだら、ブルブル震えちゃってさ」
ちょっと待って、何それ。
「お前今すぐきっちりしねえとどうなるか分かってんのかって言ったら、あんな振り方しちゃったみたいだよ。ごめんね愛理」
「は? え?」
矢島と柿本を交互に見る。二人とも、ちょっと申し訳なさそうな笑顔を浮かべていた。
「だから、どうも愛理がフラれたのって俺たちが脅した所為みたい」
「あんな馬鹿な振り方すると思わなくてさ。ごめんな?」
「え……えええ?」
つまり、元彼は同じクラスでつるんでいることの多い柿本と矢島を個別に呼び出し釘を刺そうとしたのはいいけど、反対にやり込められた結果、背の高いのは何だと理由をつけて振ったということか。
「だから、背の高いとかいう理由は、後で考えたものだと思う」
と、矢島。
「俺、愛理のそれ格好良くて好きだよ」
サラリと好きとのたまう柿本。
「沙羅は沙羅で、直接愛理に『あいつはやめとけ』って言ってたしなあ」
つまりさ、と矢島が笑う。
「愛理は俺たち三人に愛されてんだな」
「矢島……柿本……」
私は皆のことをカースト上位だのなんだのと、自分と違う人種だと思ってた。
でも、三人とも私のことをちゃんと友人と見て、私の知らないところで私のことを思って行動してくれていた。
――友達甲斐がなくて、距離を置いていたのは私の方だ。
「み、皆ありがとう……!」
思わず涙ぐむ。
「ちょ、愛理?」
「ご、ごめん! 勝手なことしてたのを黙ってて……!」
ううん、と首を横に振り、笑った。
「私、もっと皆とちゃんと友達になりたい……!」
向き合って、いいところも悪いところもお互いに認め合える様な、そんな人間になりたい。
矢島と柿本が、視線を合わせる。やがて二人ともふっと笑うと、間に私と沙羅を挟み、肩を組んだ。
「友達……からだな」
「そうだな。勝負はこれからだし、ゆっくりやるか」
じゃあ、次の遊びの予定立てようぜ。
そう言って笑い合う柿本と矢島に、私は心からの笑顔で大きく頷いた。
※※※※※※※※※
続きは、不定期であげていこうかと思います。
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