2 / 4
アフター鬼ごっこ その1
しおりを挟む
柿本と矢島は、「正々堂々と勝負」する為に私を同時に捕まえることにした様だ。
「せーのっ」
矢島が言った瞬間、柿本がガバッと私を抱き締める。
「塚田! 捕まえた!」
「あ! 狡いぞ柿本!」
矢島は柿本の甘めの顔を遠慮なく鷲掴みにすると、「うわっ」と柿本が怯んだ隙に私を柿本の腕の中から引っ張り出し、自分の腕の中に収めた。
この時点で、私の思考は既にパンクしている。
「わ、あ、その……っ!」
「愛理、柿本のあれはフライングだから、俺が優先順位一番に繰り上げだな!」
矢島の顔が異様に近かった。しかもお互い全力疾走した後だから肌が汗ばんでいて、触れている部分が熱いししっとりしている。
ついこの間まで彼氏はいたけど、手を繋いで辿々しいキスをしたくらいで、こんな接触なんてなかった。
私が自分に自信がなくて遠慮がちだった所為もあるだろうけど。
「おい! 狡いぞ矢島!」
今度は柿本が矢島を引き剥がしにかかったけど、矢島は自分の身体でそれを阻止する。
超至近距離で私を見つめると、ミントガムの香りがする息を吹きかけた。
「愛理、俺と二人で水着を見に行こう?」
「あわ、わわわ」
「狡い! 二人きりの行動は抜け駆けだぞ!」
柿本が抗議すると、矢島がフフンと鼻で笑う。
「お前がフライングするからだ。これだから堪え性のない奴は駄目だな」
「何をー!」
矢島は続ける。
「愛理が彼氏と別れないからって次々に彼女を乗り換えてたじゃねえか。俺は一途に待ってたぞ?」
「く……っ」
すると、柿本が突然わっと手のひらで顔を覆ってしまった。
「だって……! 塚田に触れられない寂しさを堪えられなかったんだよ……!」
「ほら愛理、こいつはこーゆー奴だから。ほら行こう行こう」
矢島が私の肩を抱いて柿本の横を通り抜ける。
「あれは! 俺に好きな人いるけど期間限定でもいいって言うからー!」
ぐすん、と泣き顔で柿本が必死で訴えてきた。
「俺も! 俺もおおおお!」
その場で泣き崩れてしまった柿本を見て、矢島は呆れ顔で肩を竦めた。
◇
矢島に守られる様にして教室に戻ると、沙羅が怒りながらも待っていた。
「ちょっと、廊下で追いかけながら告白したって聞いたんだけど」
沙羅が可愛い顔をぷうっと膨らませると、柿本の腕を掴む。
「柿本、愛理と付き合っちゃうの?」
柿本が腕を引っこ抜こうとしていると、矢島がずれた眼鏡をくいっと上げながら伝えた。
「告白したのは俺もだ。愛理はまだどっちも返事してないからな、柿本が付き合うとは決まってない」
「え? 矢島もなの?」
沙羅が驚く。私だって驚きだから、沙羅の驚きはよく理解出来た。
「言っとくけど、俺は会ってすぐに好きになったからな。それをあの阿呆のモト! 彼が抜け駆けしやがって、しかも振るとかとんでもない贅沢なことしやがって」
元彼の元だけを強調する矢島。ブツブツと呟く眼鏡の奥の目が怖い。すると、柿本が反論し始めた。
「好きな時間の長さは関係ないだろ! 俺は塚田と友達になって、性格に惚れたんだからな! 俺の方が深い!」
「何をー!」
「何だよ!」
柿本と矢島が睨み合いを始めると、沙羅が私を指差しながら呆れた様に言う。
「いい加減にしなよ。愛理、鼻血出てるよ」
「えっ」
「あっ」
そう。訳が分からなさ過ぎて、パンク状態の私のキャパは既にオーバーしていたのだった。
◇
「試着してるところ、見たかった」
柿本が不貞腐れる。
「ちょっと無難過ぎないか?」
矢島が眉間に皺を寄せる。
「これが限度なんだって。じゃないと行ってくれないって言うんだもん。勘弁してよお」
と、これは沙羅。柿本がお気に入りな沙羅だけど、「あんたに柿本を振れって言ったところで柿本は振り返らないことくらい分かるし」と言って、不貞腐れながらも水着を買いに行くのに付き合ってくれたのだ。
沙羅は自分の欲にとても忠実だし私を引き立て役にすることを公言して隠しもしないけど、こういうところは素直だ。だから、困ったところはあっても未だに付き合いが続いているんだろうと思う。
そう、裏表がないんだろう。女子っぽさが苦手な私には、それくらいはっきりしてる女友達の方が付き合いやすいのかもしれなかった。
「これなら海に行ってくれるって言うからさ。いいじゃん、セパレートは了承させたんだから」
「……うん、だな」
柿本が頷くと、沙羅はその腕に腕をするりと絡ませた。
「矢島、私矢島を応援するから!」
「おい」
「沙羅、実はお前いい奴だったんだな!」
矢島が、普段はチャラ過ぎてあんまり気にならないけど、よく見ると凄くスッとした鼻筋にくしゃりと皺を寄せる。
「実はって何よお」
「だって愛理に厳しいじゃん」
すると、沙羅はむっとした表情を浮かべると可愛らしく唇を尖らせた。
「この子は昔っからマイナス思考だから、闘争心煽ってやってんの!」
え、そうだったの、沙羅。
私が驚いた顔を沙羅に向けると、沙羅は柿本の腕を引っ張りながらプイッと後ろを向いてしまった。
沙羅の耳が赤い。
私は、沙羅の態度を誤解していた自分を恥じた。
「せーのっ」
矢島が言った瞬間、柿本がガバッと私を抱き締める。
「塚田! 捕まえた!」
「あ! 狡いぞ柿本!」
矢島は柿本の甘めの顔を遠慮なく鷲掴みにすると、「うわっ」と柿本が怯んだ隙に私を柿本の腕の中から引っ張り出し、自分の腕の中に収めた。
この時点で、私の思考は既にパンクしている。
「わ、あ、その……っ!」
「愛理、柿本のあれはフライングだから、俺が優先順位一番に繰り上げだな!」
矢島の顔が異様に近かった。しかもお互い全力疾走した後だから肌が汗ばんでいて、触れている部分が熱いししっとりしている。
ついこの間まで彼氏はいたけど、手を繋いで辿々しいキスをしたくらいで、こんな接触なんてなかった。
私が自分に自信がなくて遠慮がちだった所為もあるだろうけど。
「おい! 狡いぞ矢島!」
今度は柿本が矢島を引き剥がしにかかったけど、矢島は自分の身体でそれを阻止する。
超至近距離で私を見つめると、ミントガムの香りがする息を吹きかけた。
「愛理、俺と二人で水着を見に行こう?」
「あわ、わわわ」
「狡い! 二人きりの行動は抜け駆けだぞ!」
柿本が抗議すると、矢島がフフンと鼻で笑う。
「お前がフライングするからだ。これだから堪え性のない奴は駄目だな」
「何をー!」
矢島は続ける。
「愛理が彼氏と別れないからって次々に彼女を乗り換えてたじゃねえか。俺は一途に待ってたぞ?」
「く……っ」
すると、柿本が突然わっと手のひらで顔を覆ってしまった。
「だって……! 塚田に触れられない寂しさを堪えられなかったんだよ……!」
「ほら愛理、こいつはこーゆー奴だから。ほら行こう行こう」
矢島が私の肩を抱いて柿本の横を通り抜ける。
「あれは! 俺に好きな人いるけど期間限定でもいいって言うからー!」
ぐすん、と泣き顔で柿本が必死で訴えてきた。
「俺も! 俺もおおおお!」
その場で泣き崩れてしまった柿本を見て、矢島は呆れ顔で肩を竦めた。
◇
矢島に守られる様にして教室に戻ると、沙羅が怒りながらも待っていた。
「ちょっと、廊下で追いかけながら告白したって聞いたんだけど」
沙羅が可愛い顔をぷうっと膨らませると、柿本の腕を掴む。
「柿本、愛理と付き合っちゃうの?」
柿本が腕を引っこ抜こうとしていると、矢島がずれた眼鏡をくいっと上げながら伝えた。
「告白したのは俺もだ。愛理はまだどっちも返事してないからな、柿本が付き合うとは決まってない」
「え? 矢島もなの?」
沙羅が驚く。私だって驚きだから、沙羅の驚きはよく理解出来た。
「言っとくけど、俺は会ってすぐに好きになったからな。それをあの阿呆のモト! 彼が抜け駆けしやがって、しかも振るとかとんでもない贅沢なことしやがって」
元彼の元だけを強調する矢島。ブツブツと呟く眼鏡の奥の目が怖い。すると、柿本が反論し始めた。
「好きな時間の長さは関係ないだろ! 俺は塚田と友達になって、性格に惚れたんだからな! 俺の方が深い!」
「何をー!」
「何だよ!」
柿本と矢島が睨み合いを始めると、沙羅が私を指差しながら呆れた様に言う。
「いい加減にしなよ。愛理、鼻血出てるよ」
「えっ」
「あっ」
そう。訳が分からなさ過ぎて、パンク状態の私のキャパは既にオーバーしていたのだった。
◇
「試着してるところ、見たかった」
柿本が不貞腐れる。
「ちょっと無難過ぎないか?」
矢島が眉間に皺を寄せる。
「これが限度なんだって。じゃないと行ってくれないって言うんだもん。勘弁してよお」
と、これは沙羅。柿本がお気に入りな沙羅だけど、「あんたに柿本を振れって言ったところで柿本は振り返らないことくらい分かるし」と言って、不貞腐れながらも水着を買いに行くのに付き合ってくれたのだ。
沙羅は自分の欲にとても忠実だし私を引き立て役にすることを公言して隠しもしないけど、こういうところは素直だ。だから、困ったところはあっても未だに付き合いが続いているんだろうと思う。
そう、裏表がないんだろう。女子っぽさが苦手な私には、それくらいはっきりしてる女友達の方が付き合いやすいのかもしれなかった。
「これなら海に行ってくれるって言うからさ。いいじゃん、セパレートは了承させたんだから」
「……うん、だな」
柿本が頷くと、沙羅はその腕に腕をするりと絡ませた。
「矢島、私矢島を応援するから!」
「おい」
「沙羅、実はお前いい奴だったんだな!」
矢島が、普段はチャラ過ぎてあんまり気にならないけど、よく見ると凄くスッとした鼻筋にくしゃりと皺を寄せる。
「実はって何よお」
「だって愛理に厳しいじゃん」
すると、沙羅はむっとした表情を浮かべると可愛らしく唇を尖らせた。
「この子は昔っからマイナス思考だから、闘争心煽ってやってんの!」
え、そうだったの、沙羅。
私が驚いた顔を沙羅に向けると、沙羅は柿本の腕を引っ張りながらプイッと後ろを向いてしまった。
沙羅の耳が赤い。
私は、沙羅の態度を誤解していた自分を恥じた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました
常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。
裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。
ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?


【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。
西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。
私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。
それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」
と宣言されるなんて・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる