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アフター鬼ごっこ その1
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柿本と矢島は、「正々堂々と勝負」する為に私を同時に捕まえることにした様だ。
「せーのっ」
矢島が言った瞬間、柿本がガバッと私を抱き締める。
「塚田! 捕まえた!」
「あ! 狡いぞ柿本!」
矢島は柿本の甘めの顔を遠慮なく鷲掴みにすると、「うわっ」と柿本が怯んだ隙に私を柿本の腕の中から引っ張り出し、自分の腕の中に収めた。
この時点で、私の思考は既にパンクしている。
「わ、あ、その……っ!」
「愛理、柿本のあれはフライングだから、俺が優先順位一番に繰り上げだな!」
矢島の顔が異様に近かった。しかもお互い全力疾走した後だから肌が汗ばんでいて、触れている部分が熱いししっとりしている。
ついこの間まで彼氏はいたけど、手を繋いで辿々しいキスをしたくらいで、こんな接触なんてなかった。
私が自分に自信がなくて遠慮がちだった所為もあるだろうけど。
「おい! 狡いぞ矢島!」
今度は柿本が矢島を引き剥がしにかかったけど、矢島は自分の身体でそれを阻止する。
超至近距離で私を見つめると、ミントガムの香りがする息を吹きかけた。
「愛理、俺と二人で水着を見に行こう?」
「あわ、わわわ」
「狡い! 二人きりの行動は抜け駆けだぞ!」
柿本が抗議すると、矢島がフフンと鼻で笑う。
「お前がフライングするからだ。これだから堪え性のない奴は駄目だな」
「何をー!」
矢島は続ける。
「愛理が彼氏と別れないからって次々に彼女を乗り換えてたじゃねえか。俺は一途に待ってたぞ?」
「く……っ」
すると、柿本が突然わっと手のひらで顔を覆ってしまった。
「だって……! 塚田に触れられない寂しさを堪えられなかったんだよ……!」
「ほら愛理、こいつはこーゆー奴だから。ほら行こう行こう」
矢島が私の肩を抱いて柿本の横を通り抜ける。
「あれは! 俺に好きな人いるけど期間限定でもいいって言うからー!」
ぐすん、と泣き顔で柿本が必死で訴えてきた。
「俺も! 俺もおおおお!」
その場で泣き崩れてしまった柿本を見て、矢島は呆れ顔で肩を竦めた。
◇
矢島に守られる様にして教室に戻ると、沙羅が怒りながらも待っていた。
「ちょっと、廊下で追いかけながら告白したって聞いたんだけど」
沙羅が可愛い顔をぷうっと膨らませると、柿本の腕を掴む。
「柿本、愛理と付き合っちゃうの?」
柿本が腕を引っこ抜こうとしていると、矢島がずれた眼鏡をくいっと上げながら伝えた。
「告白したのは俺もだ。愛理はまだどっちも返事してないからな、柿本が付き合うとは決まってない」
「え? 矢島もなの?」
沙羅が驚く。私だって驚きだから、沙羅の驚きはよく理解出来た。
「言っとくけど、俺は会ってすぐに好きになったからな。それをあの阿呆のモト! 彼が抜け駆けしやがって、しかも振るとかとんでもない贅沢なことしやがって」
元彼の元だけを強調する矢島。ブツブツと呟く眼鏡の奥の目が怖い。すると、柿本が反論し始めた。
「好きな時間の長さは関係ないだろ! 俺は塚田と友達になって、性格に惚れたんだからな! 俺の方が深い!」
「何をー!」
「何だよ!」
柿本と矢島が睨み合いを始めると、沙羅が私を指差しながら呆れた様に言う。
「いい加減にしなよ。愛理、鼻血出てるよ」
「えっ」
「あっ」
そう。訳が分からなさ過ぎて、パンク状態の私のキャパは既にオーバーしていたのだった。
◇
「試着してるところ、見たかった」
柿本が不貞腐れる。
「ちょっと無難過ぎないか?」
矢島が眉間に皺を寄せる。
「これが限度なんだって。じゃないと行ってくれないって言うんだもん。勘弁してよお」
と、これは沙羅。柿本がお気に入りな沙羅だけど、「あんたに柿本を振れって言ったところで柿本は振り返らないことくらい分かるし」と言って、不貞腐れながらも水着を買いに行くのに付き合ってくれたのだ。
沙羅は自分の欲にとても忠実だし私を引き立て役にすることを公言して隠しもしないけど、こういうところは素直だ。だから、困ったところはあっても未だに付き合いが続いているんだろうと思う。
そう、裏表がないんだろう。女子っぽさが苦手な私には、それくらいはっきりしてる女友達の方が付き合いやすいのかもしれなかった。
「これなら海に行ってくれるって言うからさ。いいじゃん、セパレートは了承させたんだから」
「……うん、だな」
柿本が頷くと、沙羅はその腕に腕をするりと絡ませた。
「矢島、私矢島を応援するから!」
「おい」
「沙羅、実はお前いい奴だったんだな!」
矢島が、普段はチャラ過ぎてあんまり気にならないけど、よく見ると凄くスッとした鼻筋にくしゃりと皺を寄せる。
「実はって何よお」
「だって愛理に厳しいじゃん」
すると、沙羅はむっとした表情を浮かべると可愛らしく唇を尖らせた。
「この子は昔っからマイナス思考だから、闘争心煽ってやってんの!」
え、そうだったの、沙羅。
私が驚いた顔を沙羅に向けると、沙羅は柿本の腕を引っ張りながらプイッと後ろを向いてしまった。
沙羅の耳が赤い。
私は、沙羅の態度を誤解していた自分を恥じた。
「せーのっ」
矢島が言った瞬間、柿本がガバッと私を抱き締める。
「塚田! 捕まえた!」
「あ! 狡いぞ柿本!」
矢島は柿本の甘めの顔を遠慮なく鷲掴みにすると、「うわっ」と柿本が怯んだ隙に私を柿本の腕の中から引っ張り出し、自分の腕の中に収めた。
この時点で、私の思考は既にパンクしている。
「わ、あ、その……っ!」
「愛理、柿本のあれはフライングだから、俺が優先順位一番に繰り上げだな!」
矢島の顔が異様に近かった。しかもお互い全力疾走した後だから肌が汗ばんでいて、触れている部分が熱いししっとりしている。
ついこの間まで彼氏はいたけど、手を繋いで辿々しいキスをしたくらいで、こんな接触なんてなかった。
私が自分に自信がなくて遠慮がちだった所為もあるだろうけど。
「おい! 狡いぞ矢島!」
今度は柿本が矢島を引き剥がしにかかったけど、矢島は自分の身体でそれを阻止する。
超至近距離で私を見つめると、ミントガムの香りがする息を吹きかけた。
「愛理、俺と二人で水着を見に行こう?」
「あわ、わわわ」
「狡い! 二人きりの行動は抜け駆けだぞ!」
柿本が抗議すると、矢島がフフンと鼻で笑う。
「お前がフライングするからだ。これだから堪え性のない奴は駄目だな」
「何をー!」
矢島は続ける。
「愛理が彼氏と別れないからって次々に彼女を乗り換えてたじゃねえか。俺は一途に待ってたぞ?」
「く……っ」
すると、柿本が突然わっと手のひらで顔を覆ってしまった。
「だって……! 塚田に触れられない寂しさを堪えられなかったんだよ……!」
「ほら愛理、こいつはこーゆー奴だから。ほら行こう行こう」
矢島が私の肩を抱いて柿本の横を通り抜ける。
「あれは! 俺に好きな人いるけど期間限定でもいいって言うからー!」
ぐすん、と泣き顔で柿本が必死で訴えてきた。
「俺も! 俺もおおおお!」
その場で泣き崩れてしまった柿本を見て、矢島は呆れ顔で肩を竦めた。
◇
矢島に守られる様にして教室に戻ると、沙羅が怒りながらも待っていた。
「ちょっと、廊下で追いかけながら告白したって聞いたんだけど」
沙羅が可愛い顔をぷうっと膨らませると、柿本の腕を掴む。
「柿本、愛理と付き合っちゃうの?」
柿本が腕を引っこ抜こうとしていると、矢島がずれた眼鏡をくいっと上げながら伝えた。
「告白したのは俺もだ。愛理はまだどっちも返事してないからな、柿本が付き合うとは決まってない」
「え? 矢島もなの?」
沙羅が驚く。私だって驚きだから、沙羅の驚きはよく理解出来た。
「言っとくけど、俺は会ってすぐに好きになったからな。それをあの阿呆のモト! 彼が抜け駆けしやがって、しかも振るとかとんでもない贅沢なことしやがって」
元彼の元だけを強調する矢島。ブツブツと呟く眼鏡の奥の目が怖い。すると、柿本が反論し始めた。
「好きな時間の長さは関係ないだろ! 俺は塚田と友達になって、性格に惚れたんだからな! 俺の方が深い!」
「何をー!」
「何だよ!」
柿本と矢島が睨み合いを始めると、沙羅が私を指差しながら呆れた様に言う。
「いい加減にしなよ。愛理、鼻血出てるよ」
「えっ」
「あっ」
そう。訳が分からなさ過ぎて、パンク状態の私のキャパは既にオーバーしていたのだった。
◇
「試着してるところ、見たかった」
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「ちょっと無難過ぎないか?」
矢島が眉間に皺を寄せる。
「これが限度なんだって。じゃないと行ってくれないって言うんだもん。勘弁してよお」
と、これは沙羅。柿本がお気に入りな沙羅だけど、「あんたに柿本を振れって言ったところで柿本は振り返らないことくらい分かるし」と言って、不貞腐れながらも水着を買いに行くのに付き合ってくれたのだ。
沙羅は自分の欲にとても忠実だし私を引き立て役にすることを公言して隠しもしないけど、こういうところは素直だ。だから、困ったところはあっても未だに付き合いが続いているんだろうと思う。
そう、裏表がないんだろう。女子っぽさが苦手な私には、それくらいはっきりしてる女友達の方が付き合いやすいのかもしれなかった。
「これなら海に行ってくれるって言うからさ。いいじゃん、セパレートは了承させたんだから」
「……うん、だな」
柿本が頷くと、沙羅はその腕に腕をするりと絡ませた。
「矢島、私矢島を応援するから!」
「おい」
「沙羅、実はお前いい奴だったんだな!」
矢島が、普段はチャラ過ぎてあんまり気にならないけど、よく見ると凄くスッとした鼻筋にくしゃりと皺を寄せる。
「実はって何よお」
「だって愛理に厳しいじゃん」
すると、沙羅はむっとした表情を浮かべると可愛らしく唇を尖らせた。
「この子は昔っからマイナス思考だから、闘争心煽ってやってんの!」
え、そうだったの、沙羅。
私が驚いた顔を沙羅に向けると、沙羅は柿本の腕を引っ張りながらプイッと後ろを向いてしまった。
沙羅の耳が赤い。
私は、沙羅の態度を誤解していた自分を恥じた。
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