我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな

ミドリ

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第十一章 陰る光

71.眉間に皺が寄るからすぐに泣かないでもらいたい

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 先程から椿と亮太しか喋っていない。本来一番関係のある人間、いや神と妖は黙りこくったままだ。

 亮太はアキラの隣に仁王立ちして厳しい表情をしたままの蓮をそっと見た。その隣のアキラは、相変わらず読めない。亮太の後ろに座っているコウを見ると、何やら考え込んでいる様だった。お前ら誰か話を進めてくれよと思ったが、やはり誰一人口を開かない。

 亮太はテーブルを挟んで反対側に座るリキを見ると、リキは亮太の視線に気付き小さく頷いてみせた。よかった、意外と空気が読める人間らしかった。

「後は私が話すわ。今回の騒動を引き落としたのは、全て私の我儘の所為だから」

 リキはそう言うと居住まいを正した。ピシッと正座をして座る姿は威風堂々としており、さすがは須佐之男命スサノオノミコトといったていだった。

 リキは真っ直ぐに亮太を見つめた。

「亮太さん、貴方はどこまで私達の話を聞いてますか?」

 椿の前でどこまで答えたらいいものか亮太が一瞬迷い目を泳がせると、リキがふ、と笑って言った。

「椿くんのことを心配しているなら、私の事情は知ってるから大丈夫。どこまで信じてるかは分からないけど」
「だってなあ」
「でも多分、今日でその疑いも晴れるわ」

 リキが亮太に小さく頷いてみせた。亮太は亮太が知っていること全てを話すことに決めた。

「俺の婆ちゃんが島根に居るもんで帰省したんだけど、車のトランクにアキラがいつの間にか入っていたのが始まりだった。そこから狗神が来て、みずちを探して見つけて、コウが来た。今は皆俺の家に寝泊まりしてるよ。狭いけどな」

 これを聞いたらどういう反応をするだろうか。亮太はリキの目を見つめながら続けた。

「アキラの封印から飛び出た八岐大蛇の首を含め、今まで合計で四匹の首を退治した」

 リキが目を見張る。

「え……! だって、あれは草薙剣くさなぎのつるぎがないと退治が出来ない筈……!」
「その草薙剣くさなぎのつるぎを、俺が使っているんだよ」
「!」

 リキは亮太の言葉が信じられなかったのか、コウを見る。コウははっきりと頷いてみせた。

「亮太はみずちととても良好な関係を築き上げている。だからだと思うが、実際に私もこの目で亮太が三匹倒すのを見た」
「じゃあ、本当に草薙剣を貴方が……」
「そうだ。だけど、あんたも分かってると思うけど、まだ残りを退治しないといけないけど俺の力だけじゃいずれ限界が来ると思って、コウの提案であんたを探してたんだ」
「コウちゃんが、私を探す様にと?」

 亮太は少し身体を乗り出した。

「首はどんどん強くなる。実際、四匹目はかなり実体に近かった。だけど俺達だけだとこの先もっと強くなる首を確実に仕留めるのは難しいと思うんだ。だから、あんたに協力してもらいたいんだ」
「私が、一緒に戦う……?」

 不安そうな表情のリキ。リキの逃げ出した理由の中にはきっと戦うことへの恐怖もあるのだろう。そこをはっきりさせた方がいいかな、亮太はそう思って一番根本的な疑問を投げかけた。

「だから、まずは教えてくれないか。何故アキラの首をあんなになるまで絞めた?」

 リキが固まった。それはそうだろう、自分が首を絞めた相手が目の前にいて、それを正されるのだ。八岐大蛇退治から逃げ出す様な人間がこの場から逃げたくなるのは当然かもしれなかった。

「何が怖かった? 何から逃げた? 俺達はあんたを責める為に来たんじゃない。ちゃんと話し合って、和解して、あんたと共にアキラの未来を守りたいからここに来たんだ」
「アキラちゃんの、未来……」

 リキが不安げな表情でアキラの方を見る。アキラはそれを静かに見つめ返しているだけだった。こいつはやっぱり何も言うつもりがないらしい。自分のことだというのに、まだ周りを巻き込むことを遠慮しているのかもしれない。こんな平然とした顔をして、何でもないふりをして。

「リキさん。アキラは、諦めようとしていたんだよ。蓮が俺に協力をさせようとするのを止めていた。俺をこれ以上巻き込みたくないからってそれだけの理由で、中学生のまだまだこれからの子が自分の未来を捨てようとしてたんだぜ。あんたが逃げて、裳着もぎまでに全ての首を退治するのは難しいだろうからって」

 ぽろぽろと大粒の涙がリキの目から次から次へと溢れ出した。また泣きやがった。これじゃあ話が進みやしない。亮太が若干苛ついた顔になってしまったのが分かったのだろう、椿がふう、と息を吐くと、リキの頭をわしゃわしゃと撫で始めた。

「ほら泣くなリキ。お前の悪い癖だぞー」
「う、うん、ごめん椿くん……」
「謝るのは俺にじゃなくて話を中断させてることにだろ? なー亮太さん」

 椿の言っていることは至極まともなので、亮太は素直に頷いた。ちょっと一緒にいただけでもリキはかなり面倒臭い奴だと思ったが、これと一緒に暮らしていられて且つ上手く手綱を握っている椿は、もしかしたらかなり心の広い人物なのかもしれなかった。

 自分の袖で涙を拭いたリキが、まだ少し潤んだ目をしながらもしっかりと亮太に向き直った。

「亮太さん、皆、ごめんなさい。もう泣かないから」
「頼むぞ」

 亮太を見ていたリキが若干びびった表情をしている。すると、後ろから覗き込んできたコウが耳元で囁いてきた。

「亮太、眉間の皺」
「あ」

 つい顔に出ていたらしい。亮太は指で皺を伸ばすと、精一杯人好きのする嘘くさい誠実な顔を作った。よし、完璧だ。

「続きを」
「はい……。私は、ずっと向き合うのが怖かった。八岐大蛇の退治なんてしたくないのに、皆は私がするのが当たり前だと思っている。みずちちゃんのことも本当は苦手なのに、コウちゃんが可愛がるから平気なふりをずっとしてた」
「え? そうだったのか?」

 コウが驚いていた。

「こんなに可愛いのに」

 ポーチのチャックを少し開けると、みずちが顔をひょっこりと覗かせた。

「ひっだ、だって苦手なものは苦手なんだもの……」
「僕、分かってたのー」

 みずちが喋ると、椿が目を大きく開いた。

「リキ様、僕が怖いの知ってたの」
みずちちゃん、ごめんなさい、貴方の所為じゃないのは分かってるんだけど……」

 爬虫類が嫌いなのだろう。亮太だって始めはうっとなった。みずちの仕草や声や態度があまりにも小さく可愛らしい為もう気にならなくなってしまったが、亮太だって恐らく今大蛇を前にしたら全身に鳥肌を立てつつ回れ右して逃げる。

 リキが続けた。

「しかも八岐大蛇も大蛇なんでしょう? もう私怖くって怖くって」
「あれは大蛇っていうよりも龍だったぞ」

 亮太が慰める様に言った。大蛇だと肯定して、協力が得られなくなっても困る。

「あら、そうなの? 少し安心した」
「そこは安心してくれ」

 ツッコミどころは満載だったが、ここは敢えて触れない方がいいだろう。亮太はそう判断した。

「それで、アキラちゃんにも時間がなくなっているし、みずちちゃんは草薙剣を出すことが出来ないしどうしようかって相談する日だったのは分かってたんだけど、私、アキラちゃんを見て気が付いちゃったの」
「アキラを?」

 亮太とリキがアキラを見る。アキラは何のことか分からないらしく、首を傾げるだけだ。

「アキラちゃん、レンのことが好きでしょ?」
「れっ」

 リキが言った途端、アキラの顔が焼けた鉄の様に一気に赤くなった。出た、公開処刑だ。亮太の時は目を逸しやがったこいつが今度は対象になっている。亮太は思わずにやにやとしてしまった。

「私達、許嫁同士だけどお互いそんな気は全くなくて、でも八岐大蛇退治はしないといけないし、八岐大蛇退治をしたらアキラちゃんをお嫁さんに迎えないといけなくて、でもアキラちゃんはレンが好きでレンがアキラちゃんと一緒にうちに戻ってきて、でも二人が恋人同士になったら私……」

 またリキの目が潤んできた。亮太の眉間に皺が寄ったらしく、リキがぐしぐしと目を拭いた。

「それを目の前で見るの? 私の元から居なくなって、今度は私のお嫁さんになる人が、レンと結ばれるのを見ていないといけないの? そう思ったら嫉妬でパニックになってしまって、アキラちゃんがいなくなれば八岐大蛇も退治しなくていいかも、アキラちゃんがうちに来なければ嫉妬もしないって思って」

 亮太は話のおかしな部分に気が付いた。ちょっと待て、ということはこれは、痴話喧嘩というか嫉妬のもつれから発生したということだろうか。

 亮太は先程リキを見つけた時のアキラの様子を思い返していた。蓮を先に行かせまいとするアキラと、アキラに危害を加えられるのではないかと心配して先に行かせなかった蓮を。

 ようやく、亮太の中で話の筋が一本すっと通った。そうか、そういうことだったのだ。

「リキさん、あんたはレンが好きなんだな」

 亮太の言葉に、リキは悲しそうに頷いたのだった。
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