19 / 48
第二章 事件発生
19 ゴラくん大活躍
しおりを挟む――グラグラグラと激しく揺れる。
これは、このアヒルがわざと揺らしているのだろう。
そのせいで、水が中にどんどん入ってきて、徐々に身体が沈んでいく。
「やっ、やだ! なんで? 私を助ける為に、来てくれたんじゃないの!?」
『グァ"ア"ア"ーーグァァゲゲゲッ! グァア"ア"ゲゲゲッッ!!』
笑っている。いや、これは……嘲笑っている。
「そんな……! あなたは、自由に浮けるからいいじゃないっ! 私はそうじゃないの! 可哀想に思わないの!? 出来る人が、出来ない人を助けるのが当たり前じゃないっ!!」
大きく口を吊り上げ、嗤い、嗤い、嗤われる。
その嗤い顔や、声を聞きたくなくて。私は耳を押さえ、下を向く。
(嫌だ。こんなの……嫌、嫌、嫌。誰か、誰か、助けて……誰か……――)
その時――脳裏に、未来ちゃんの温かな笑顔が浮かぶ。
私は、凜々花たちにいじめられているのをいつも庇ってくれる、未来ちゃんにお礼を言ったことがあった。
すると――『そんな、お礼なんてしなくていいよ。あっ! でも、もし……私が悲しい時があったら一緒にいて欲しいな。それが、一番嬉しいよ』と未来ちゃんは、温かな笑顔を浮かべていた。
「あ……。悲しい、時に…………」
未来ちゃんは、泣いていた。ずっと、ずっと、悲しそうに泣いていた。
『一緒にいて欲しい』という、ささやかな願いすら……私は叶えてあげることが出来なかった。
――未来ちゃんが、私の代わりになると言ってから。凜々花たちに言われるまま、私は未来ちゃんから自然と離れていった。
未来ちゃんは傷ついたような、悲しそうな顔を浮かべて私を見ていたのに……。私はそれを分かっていて、見て見ぬふりをした。
何かを言い返すことは出来なくても。凜々花たちの指示を聞くことをせずに、未来ちゃんと一緒にいることは出来たはずだ。
2人なら、苦しいことも半々になったかもしれないし、助け合えただろう。
そもそもは、未来ちゃんは私のせいで辛い思いをすることになったのだから、そうすることは当たり前なことなのに――。
私は、私をずっと助けてくれた未来ちゃんを、ひどい方法で裏切ったのだ。
「ぁっ、あああああーーー!! 未来ちゃん、未来ちゃん、未来ちゃんっ!!」
今さら、今さらなことなのに……時間を戻してやり直したい。
なんで、今になって大事なことに気が付くのだと。むしろ、気が付きたくなかったと――苦しい胸を強く押さえながら、泣きわめく。
うるさいというように、グワリと足元が傾き。勢いよく水中に放り出された。
「ゲホッ、ゲホッ……!」
水が鼻に入り、ツンとする。
しかし、それが治る前に――身体が、強い流れに引っ張られる。
ゴゥゴゴゴゥウ……! と雷鳴に似た音。
私が引っ張り込まれた場所。そこは、渦潮の中であった。
ブクブクブクブクとたくさんの泡が視界を占めている。もみくちゃに回転して、浮上することなど到底無理だろう。
泡の隙間から顔を覗かせた、白いアヒルが『ギャボッ、ギャボッ、ギャボッ!!』と大きく口を開けて嗤っている。
口の中は、サメの歯のような何重にもなっている鋭い歯が、ビッシリと生えていた。
その白いアヒルに、ガブリと肩を齧られ。鋭い歯が、肌にめり込む――そして、じわじわじわと何かを体内に入れられている。
(……っ、いっ、痛っ、痛い、痛い、痛いぃ"い"い"!!)
身体中が焼けるように痛い。
体内を、ぐちゃぐちゃに掻き回されているような痛さだ。
そして直ぐに、私の身体がドロドロと溶けていく。
それを、悪い視界の中でも理解し。恐怖に叫ぼうと息を吸い込んだことで、ガボガボガボと水を大量に飲み込んでしまった――。
(助け……て、未来ちゃ……――)
私が、助けを求めた人物は――無情にも、己が裏切り、既にこの世を去ってしまった哀れな女の子であった。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。



セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる