9 / 48
第一章 観察日記
9 真似っこをされる
しおりを挟む
『十月二十五日 快晴 健康状態◎ ゴラくんの手がとうとう解放された。爪の間に入り込んだ土がなかなか取れない。どうやって取ればいいのか要確認』
長いこと地面に縫い付けられていたゴラくんの手が、観察開始から二十二日経ってようやく自由になった。これまでは、腕の周りにぐるりと帯を巻いて浴衣を着用していた。その浴衣が朝、ゴラくんの元を訪れると地面に落ちていたのだ。手を引っこ抜いたことにより、緩んで落ちたらしい。
地面から生えている膝上辺りから上は、素っ裸。朝日をバックににこやかに手を振るゴラくんは格好いいの一言だったけど、もう少し隠すとかいった恥じらいを持ってはもらえないものか。それともこれは人間特有の感覚で、マンドラゴラに恥じらいを求めるのは酷なのか。
まあ、赤ん坊が裸を恥ずかしがらないのと一緒なのかもしれないけど。
それか、マンドラゴラは媚薬としても使用される伝承があるので、恥じらいよりは曝け出す方が好みなのかもしれない。こんな爽やかで素朴な笑みの持ち主であるゴラくんに露出癖があったらと思うとハラハラしてしまうけど、この辺りに住んでいる限り、殆ど人には会わない。
ゴラくんが自由に歩き回れる様になった暁には、その辺りの一般常識というものも少しずつ学ばせてみよう。
腕が上がる様になったことで、これまで身体の側面に付着していた土も拭き取れる様になった。私が脇腹を拭くと、ゴラくんが身体をよじって逃げる素振りを見せる。くすぐったいらしい。
ちなみに、例の場所を拭いた時は心頭滅却して挑んだのであまり詳細は覚えていないけど、そういえば上半身を少しくねらせていたかもしれない。――深く考えるのはやめておこう。
「ゴラくん、くすぐったいの?」
確認の為、尋ねる。ゴラくんは照れくさそうな笑みを浮かべながら、こくこくと頷いた。
「じゃあさっさと済ませようね」
手さえ自由になるなら、今後は自分で拭ける。これまで苦労させられていた局部についても、きちんと説明すれば出来そうだ。いずれにしても、明日以降の話だけど。
綺麗になった素っ裸のゴラくんに、後ろから浴衣を羽織らせる。袖を通してみると分かる。ゴラくんの腕は長い。浴衣はつんつるてんだ。最近は大きめのサイズの浴衣もあると何かで読んだことがあるので、今夜はそれを探してみよう。
後ろから腕を回して帯を締めると、まるで抱きついている様だ。どうしたって触れる頬と腕にゴラくんの体温が感じられ、少し照れ臭い。
でも、ゴラくんはマンドラゴラだし、額しか出てない頃から面倒を見てきた私は、謂わば育ての親だ。そんな私が照れなどしたら、ゴラくんだって困るだろう。
「はい、完成!」
ポンと背中を叩いて前に回ると、ゴラくんが嬉しそうに手を上げ下げして袂をパタパタさせている。物珍しいのだろう。この場面だけ見ていると、身体が大きいだけの子供にしか見えない。
その様子を微笑ましく思いつつ見守っていると、ゴラくんが私に向かってひょいと手を伸ばしてきた。
「おっ」
肩を優しく抱き寄せられ、バランスを崩した私は、よたよたとゴラくんに引き寄せられる。もう子供くらいの背丈があるゴラくんの額が、私の気持ち程度ある胸にぱふっと埋もれた。
「ゴラくんっご、ごめ……っ」
急いで離れようとした途端、ゴラくんが私の腰に腕を回し、ギュッとしてしまう。――これはもしや、先程までの私を真似ているのか。
「真似っこしてるの?」
私が尋ねると、眼下の放射線状に広がる葉が前後にふるふると震えた。やはりそうらしい。葉があるので表情は窺えないけど、一体どんな顔をしているのか気になる。
だけど、今はそれを見ちゃ駄目だ。
何となくそんな気がしてしまい、ゴラくんが満足して私を離してくれるまで、暫しゴラくんに抱きつかれたままにした。
長いこと地面に縫い付けられていたゴラくんの手が、観察開始から二十二日経ってようやく自由になった。これまでは、腕の周りにぐるりと帯を巻いて浴衣を着用していた。その浴衣が朝、ゴラくんの元を訪れると地面に落ちていたのだ。手を引っこ抜いたことにより、緩んで落ちたらしい。
地面から生えている膝上辺りから上は、素っ裸。朝日をバックににこやかに手を振るゴラくんは格好いいの一言だったけど、もう少し隠すとかいった恥じらいを持ってはもらえないものか。それともこれは人間特有の感覚で、マンドラゴラに恥じらいを求めるのは酷なのか。
まあ、赤ん坊が裸を恥ずかしがらないのと一緒なのかもしれないけど。
それか、マンドラゴラは媚薬としても使用される伝承があるので、恥じらいよりは曝け出す方が好みなのかもしれない。こんな爽やかで素朴な笑みの持ち主であるゴラくんに露出癖があったらと思うとハラハラしてしまうけど、この辺りに住んでいる限り、殆ど人には会わない。
ゴラくんが自由に歩き回れる様になった暁には、その辺りの一般常識というものも少しずつ学ばせてみよう。
腕が上がる様になったことで、これまで身体の側面に付着していた土も拭き取れる様になった。私が脇腹を拭くと、ゴラくんが身体をよじって逃げる素振りを見せる。くすぐったいらしい。
ちなみに、例の場所を拭いた時は心頭滅却して挑んだのであまり詳細は覚えていないけど、そういえば上半身を少しくねらせていたかもしれない。――深く考えるのはやめておこう。
「ゴラくん、くすぐったいの?」
確認の為、尋ねる。ゴラくんは照れくさそうな笑みを浮かべながら、こくこくと頷いた。
「じゃあさっさと済ませようね」
手さえ自由になるなら、今後は自分で拭ける。これまで苦労させられていた局部についても、きちんと説明すれば出来そうだ。いずれにしても、明日以降の話だけど。
綺麗になった素っ裸のゴラくんに、後ろから浴衣を羽織らせる。袖を通してみると分かる。ゴラくんの腕は長い。浴衣はつんつるてんだ。最近は大きめのサイズの浴衣もあると何かで読んだことがあるので、今夜はそれを探してみよう。
後ろから腕を回して帯を締めると、まるで抱きついている様だ。どうしたって触れる頬と腕にゴラくんの体温が感じられ、少し照れ臭い。
でも、ゴラくんはマンドラゴラだし、額しか出てない頃から面倒を見てきた私は、謂わば育ての親だ。そんな私が照れなどしたら、ゴラくんだって困るだろう。
「はい、完成!」
ポンと背中を叩いて前に回ると、ゴラくんが嬉しそうに手を上げ下げして袂をパタパタさせている。物珍しいのだろう。この場面だけ見ていると、身体が大きいだけの子供にしか見えない。
その様子を微笑ましく思いつつ見守っていると、ゴラくんが私に向かってひょいと手を伸ばしてきた。
「おっ」
肩を優しく抱き寄せられ、バランスを崩した私は、よたよたとゴラくんに引き寄せられる。もう子供くらいの背丈があるゴラくんの額が、私の気持ち程度ある胸にぱふっと埋もれた。
「ゴラくんっご、ごめ……っ」
急いで離れようとした途端、ゴラくんが私の腰に腕を回し、ギュッとしてしまう。――これはもしや、先程までの私を真似ているのか。
「真似っこしてるの?」
私が尋ねると、眼下の放射線状に広がる葉が前後にふるふると震えた。やはりそうらしい。葉があるので表情は窺えないけど、一体どんな顔をしているのか気になる。
だけど、今はそれを見ちゃ駄目だ。
何となくそんな気がしてしまい、ゴラくんが満足して私を離してくれるまで、暫しゴラくんに抱きつかれたままにした。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。



セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる