89 / 92
第88話 シスのお父さんとお母さん
しおりを挟む
やはり青い髪のおじさまはシスのお父さんで、黒い髪の迫力美女はお母さんだった。
「この子は昔っから小さくて可愛らしいものが好きでねえ」
「そ、そうなんですか」
「やだー! 小町ちゃんたらかしこまっちゃって! うちのお嫁さんなんだから気楽にしてね!」
「は、はい!」
城内部のだだっ広い広間に設置された長大な食卓を挟みながら、お母さんが淹れてくれたお茶をいただく。……シスの膝の上に乗せられたまま。
この状態でかしこまるなと言う方が無理があると思ったけど、その辺は吸血鬼が大らかなのか、はたまた宗主一家が大らかなだけなのか、誰ひとり指摘しないのが怖い。
「それでその……二人の馴れ初めとか、そういった辺りもお父さん聞きたいなあ」
お父さんはごつい身体をモジモジさせながら、乙女なことを言い始めた。恋バナ好きなのかもしれない。それをちょっと冷めた目で見ていたお母さんが、改めてシスと私に尋ねる。
「実は今日、黒狼一族からの使者が来たのよ」
「あ……っ」
ロウはちゃんと説得が出来たんだ。嬉しくなってシスを振り返ると、シスは私に微笑み返した後、当たり前の様に口にキスをした。――親の前えええ!
「……あー、でね」
お母さんはそれを流してくれた。本当シスがすみません。心の中で謝る。
「あまりにも内容が突飛だったから、とにかくシスが帰ってくるならそれまで待ってくれって言って今別室で待たせてるの」
「え、そうなのか?」
お父さんが驚いて尋ねた。
「言ったでしょ。貴方は猫を可愛がるのに夢中で聞いてなかったでしょうけど!」
「す、すまぬライラ! 儂の一番は勿論ライラだぞ!」
擦り寄るお父さんの額に痛そうなデコピンを決めたお母さんは、額を押さえて悶絶するお父さんを尻目に話を進める。
「使者との話を進める前に、貴方たちの口から聞かせてほしいの」
お母さんの目は、優しいけれど真剣そのものだった。それはそうだろう。この辺一帯の亜人の今後が関わってくるんだから。
大任だけど。私の動機は、あくまで小夏を助けたいという個人的なものではあるけど、でも、大好きなシスの種族といがみ合うのも嫌だから。
「――私には弟がいます」
長い話が、始まった。
◇
全てを語り終えた私がカラカラになった喉を潤していると、腕を組んで長いこと考えていたお父さんが、重い口を開いた。
「……理解した」
そのまま、厳しい目でシスを見る。
「シス、お前はどう思った」
それに対し、シスの答えは単純明快だった。
「小町の種族と仲良くなるのは賛成だなー。それに、小町といて色んな知らないことを知ることが出来た。亜人としても悪い話じゃないと思うぞ」
「だが、亜人はこれまでヒトを食し殺してきた。その恨みはそう簡単に晴れるものではあるまい」
確かに、ヒトの町の学校教育は亜人を敵だと教え込んでいる。私だって、ずっとそう思っていた。
けど、違った。中にはそういう亜人もいたけど、シスもサーシャさんも宿屋の店主も地図屋の店員も、皆優しかった。
だから。
「私は、お互いの種族の誤解を解いていきたいんです……! それが簡単な道じゃないのは分かってます。でも、私がシスを好きになった様に」
シスを振り返る。
「……シスが私を好きになってくれた様に、少しずつでも分かり合える機会を作りたいんです」
「小町……」
嬉しそうな笑顔を私に惜しげもなく向けるシス。
「私は亜人のことを知らなさすぎた。だから怖がったし何度も怖い目に遭ったけど、私を助けてくれたのも亜人だったから、だから」
お父さんとお母さんに向けて、ぺこりと頭を下げた。すると、私を乗せたままのシスも同じ様に頭を下げる。
「俺からも頼む。俺は――小町や俺たちの子供が安心して笑顔で過ごせる場所を作ってあげたいんだ……!」
俺たちの子供……! 想像したらうわあと思ったけど、でもこのままいけば遅かれ早かれ出来る、かもしれない。
そうか。小夏や今いるヒトや亜人だけでなく、これから先生まれてくる子供たちの為にも、食う食われるの時代から脱却しないとだ。
「子供……小町ちゃんの子供、可愛いだろうなあ」
お父さんが、想像だけで既にメロメロになっている。お母さんはそんなお父さんを冷めた目で見ていたけど、やがて目元を緩ませると可笑しそうに頷いた。
「そうね、きっと可愛いわ」
おかあさんのそのひと言で、宗主率いる亜人の方針が定まった。
「この子は昔っから小さくて可愛らしいものが好きでねえ」
「そ、そうなんですか」
「やだー! 小町ちゃんたらかしこまっちゃって! うちのお嫁さんなんだから気楽にしてね!」
「は、はい!」
城内部のだだっ広い広間に設置された長大な食卓を挟みながら、お母さんが淹れてくれたお茶をいただく。……シスの膝の上に乗せられたまま。
この状態でかしこまるなと言う方が無理があると思ったけど、その辺は吸血鬼が大らかなのか、はたまた宗主一家が大らかなだけなのか、誰ひとり指摘しないのが怖い。
「それでその……二人の馴れ初めとか、そういった辺りもお父さん聞きたいなあ」
お父さんはごつい身体をモジモジさせながら、乙女なことを言い始めた。恋バナ好きなのかもしれない。それをちょっと冷めた目で見ていたお母さんが、改めてシスと私に尋ねる。
「実は今日、黒狼一族からの使者が来たのよ」
「あ……っ」
ロウはちゃんと説得が出来たんだ。嬉しくなってシスを振り返ると、シスは私に微笑み返した後、当たり前の様に口にキスをした。――親の前えええ!
「……あー、でね」
お母さんはそれを流してくれた。本当シスがすみません。心の中で謝る。
「あまりにも内容が突飛だったから、とにかくシスが帰ってくるならそれまで待ってくれって言って今別室で待たせてるの」
「え、そうなのか?」
お父さんが驚いて尋ねた。
「言ったでしょ。貴方は猫を可愛がるのに夢中で聞いてなかったでしょうけど!」
「す、すまぬライラ! 儂の一番は勿論ライラだぞ!」
擦り寄るお父さんの額に痛そうなデコピンを決めたお母さんは、額を押さえて悶絶するお父さんを尻目に話を進める。
「使者との話を進める前に、貴方たちの口から聞かせてほしいの」
お母さんの目は、優しいけれど真剣そのものだった。それはそうだろう。この辺一帯の亜人の今後が関わってくるんだから。
大任だけど。私の動機は、あくまで小夏を助けたいという個人的なものではあるけど、でも、大好きなシスの種族といがみ合うのも嫌だから。
「――私には弟がいます」
長い話が、始まった。
◇
全てを語り終えた私がカラカラになった喉を潤していると、腕を組んで長いこと考えていたお父さんが、重い口を開いた。
「……理解した」
そのまま、厳しい目でシスを見る。
「シス、お前はどう思った」
それに対し、シスの答えは単純明快だった。
「小町の種族と仲良くなるのは賛成だなー。それに、小町といて色んな知らないことを知ることが出来た。亜人としても悪い話じゃないと思うぞ」
「だが、亜人はこれまでヒトを食し殺してきた。その恨みはそう簡単に晴れるものではあるまい」
確かに、ヒトの町の学校教育は亜人を敵だと教え込んでいる。私だって、ずっとそう思っていた。
けど、違った。中にはそういう亜人もいたけど、シスもサーシャさんも宿屋の店主も地図屋の店員も、皆優しかった。
だから。
「私は、お互いの種族の誤解を解いていきたいんです……! それが簡単な道じゃないのは分かってます。でも、私がシスを好きになった様に」
シスを振り返る。
「……シスが私を好きになってくれた様に、少しずつでも分かり合える機会を作りたいんです」
「小町……」
嬉しそうな笑顔を私に惜しげもなく向けるシス。
「私は亜人のことを知らなさすぎた。だから怖がったし何度も怖い目に遭ったけど、私を助けてくれたのも亜人だったから、だから」
お父さんとお母さんに向けて、ぺこりと頭を下げた。すると、私を乗せたままのシスも同じ様に頭を下げる。
「俺からも頼む。俺は――小町や俺たちの子供が安心して笑顔で過ごせる場所を作ってあげたいんだ……!」
俺たちの子供……! 想像したらうわあと思ったけど、でもこのままいけば遅かれ早かれ出来る、かもしれない。
そうか。小夏や今いるヒトや亜人だけでなく、これから先生まれてくる子供たちの為にも、食う食われるの時代から脱却しないとだ。
「子供……小町ちゃんの子供、可愛いだろうなあ」
お父さんが、想像だけで既にメロメロになっている。お母さんはそんなお父さんを冷めた目で見ていたけど、やがて目元を緩ませると可笑しそうに頷いた。
「そうね、きっと可愛いわ」
おかあさんのそのひと言で、宗主率いる亜人の方針が定まった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。
梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。
王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。
第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。
常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。
ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。
みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。
そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。
しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。
ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。
事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる