可愛がっても美形吸血鬼には懐きません!~だからペットじゃないってば!

ミドリ

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第87話 シスの実家へ

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 サーシャさんとタロウさんにネクロポリスで見聞きしたこと、ここを離れた後にあったことを語ると、サーシャさんはまずは次に会った時にロウは一回ぶっ飛ばすと宣言し、その後で私とついでにシスに結婚おめでとうと祝福してくれた。

 サーシャさんは、シスの強さから予想し、戦って勝った時に問い詰めて正体を聞いていたそうだ。ちなみにシスは、その時にサーシャさんのお父さんが亜人街のとっても偉い人だと知ったらしい。

 なんで皆知っていて言わないのかなあと呆れていたら、タロウさんが「ヒトとはやっぱりその辺が違うよね」と笑った。

 タロウさん曰く、「亜人って本当権力より物理的なパワーだもんねえ」だそうだ。私も全くの同意見で、こればかりは慣れるしかないんだろうなあと苦笑する。

 サーシャさんは、お父さんに掛け合ってくれることを約束してくれた。何か進展があったら吸血鬼の宗主が住まう里に使いを寄越してくれることになったので、とりあえずは第一段階クリアというとこだろう。

 折角なら今夜は泊まっていけばと誘われたけど、お誘いに乗りかけた私にシスが涙目で「俺たちは新婚だぞ!」と訴えるものだから、渋々諦めた。サーシャさんはそんなシスを呆れ顔で見ていて、タロウさんは笑いすぎて涙が流れていた。

 タロウさんは、亜人とヒトのカップルとしては先駆者だ。だから別れ際、ヒトに対して何か説得が必要な際は遠慮なく呼んでほしいと言ってくれた。本当にありがたいことだ。

 後ろ髪を惹かれながらサーシャさんの家を後にした私たちは、屋台で食事を済ませた。その後はシスに連れ去られる様にして宿屋へ戻ると、多少は慣れてきたと思っていた行為がこれまでは如何に手加減されていたものかを存分に思い知った。

 翌朝、相変わらず微妙な笑顔で私たちを送り出してくれた宿屋の店主に挨拶を済ませる。シスはぐったりとして動けない私を軽々と横抱きにすると、軽やかに草原を駆けていった。

 殆ど下ろされることのなかった帰り道も、私はひたすらシスのお喋りを聞かされていた。今度は亜人の血ランキングじゃなくて、一族にはどういう人間がいて、どいつの性格が捻くれていてどいつがこっそり飯をくれる、とかそういった裏話ばかりだった。やっぱりちょっと視点がずれてるなあと思ったけど、シスの無邪気だけど実は鋭い観察眼は、案外役に立つのかもしれない。

 そういった意味では、シスが私を必死で求め続けてくれたことが嬉しくて仕方ない。私は自分の性格が我ながら可愛くないなあと思う時はあったけど、シスがそこがいいと言ってくれるから、少しは自信が持てそうだった。

 飛ぶようにして進んだ帰路は本当にあっという間で、わずか数日でシスの故郷、吸血鬼の里へ到着した。

 亜人街みたいな作りなのかなあと思ったら、意外や意外、丁寧に積まれた白い石壁に青い屋根が乗った美しい街並みが広がっていた。宗主が住んでいる場所はかつて人間が住んでいた城だそうで、「あれが俺んちだぞー!」と街の入り口で指を差した物は、到底軽々しく俺んちと呼んでいいような代物ではなかった。大きくて立派なお城に圧倒されていた私を、シスは抱えたままずんずん街の中へと進んでいく。

 すると、農作業をしていたり井戸端会議をしていた人たちが、シスを見て驚きを隠さずに騒ぎ始めた。
 
「シ、シス様!?」
「えっ!? その女性は……ええええっ!」

 シスは呑気なもので、「皆久しぶりだなー!」とにこやかな笑顔を振りまいている。

 農民らしき人が別の若い農民に、大慌てで指示を出した。

「城へ! 宗主へ急ぎご連絡を!」
「は、はい!」

 さすがは吸血鬼だ。農民はとんでもない速さで城の方に消えていく。

「あ、あの、私そろそろ下りた方がいいんじゃないの?」

 実家訪問、しかもあんな城に向かっているのに抱っこはさすがにないんじゃないかと思ったけど、案の定一蹴された。

「小町は色々疲れてるからなー! 大丈夫だ、俺がちゃんと運んでやるからなー!」

 シスが控えればいいだけなんじゃないかと思ったけど、どうせ言ってもこの吸血鬼は聞きはしないのはもう分かっている。諦めて小さな溜息を吐いていると。

「――シス!」
「シス様ー!」

 城の方から、物凄い勢いで駆け寄ってくる集団がいる。先頭を走るのは大きな男の人で、青い長い髪はシスの様に緩やかにうねっていた。もしかして、あれがお父さんかな。

 その人の後ろから付いてきているのは、シスよりも少し年上そうな男性たちだ。皆体格がシスと同じくらい、いい。

「お前! 今まで一体どこに!」

 シスに何となく似た青い髪のおじさまが、シスに向かって怒鳴った。次いで、シスの腕の中の私に視線を移し、目を見開く。

「……ヒトを番にしたのか?」
「可愛いだろー? 触るなよ」

 親に対し、なんたる言い草だ。かといって何と口を挟めばいいのかが分からず二人を見比べていると、突然おじさまの目が思い切り垂れた。

「……おおー、可愛いのお!」

 はい?

 シスが、庇うようにして私をきつく抱き寄せる。おじさまを見る目は、結構冷たい。おじさまはそんな目にもめげることなく、物欲しげに手を伸ばしてきた。

「シス、ちょっとだけ触っちゃだめかの?」
「駄目だ」

 にべもない。おじさまが、笑っちゃいたくなるほどの勢いでへこみ始めた。

「ええー、よいではないか。吸血鬼族の女ときたら皆強気で逞しいのはお前も分かっているだろう。まあだから家出もしたのだろうが……いいな、儂も愛でたい……」

 そういえば、井戸端会議をしているスカート姿の女性は皆かなり背が高く、体格も立派だ。小さくて可愛いのが好きと豪語するシスにとっては、確かに恋愛対象になり辛いのかもしれなかった。

「そんなこと言ってると、おふくろに殺されるぞー」
「だから、嫁ならちょっとツンツンするくらいで……」

 すると、背後に控えていた他の吸血鬼たちが、おじさまの服を遠慮がちに引っ張った。

「あの、宗主、そろそろおやめになった方がよろしいかと……」
「ええ? もうちょっとじっくりと至近距離で……」

 おじさまの手が近付いてきたその瞬間。

「あーなーたー?」

 むんずとおじさまの髪の毛を掴んだのは、金色の瞳を怒りで爛々と輝かせた、シスによく似た黒髪の女性だった。
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