可愛がっても美形吸血鬼には懐きません!~だからペットじゃないってば!

ミドリ

文字の大きさ
上 下
81 / 92

第80話 男の勲章

しおりを挟む
 初めてのことだらけで強張ってしまった身体に鞭を打ちつつ、身支度を整える。シスは余裕なもので、「さっきの銀色呼んでくるなー!」と太陽みたいに笑った後、立ち上がるとくるりと背中を向けた。

 シスの背中を見て、思わずぎょっとする。

「うわっ」
「ん? どうした小町」

 穏やかな笑みをたたえたまま振り返るシスの背中には、思わず笑っちゃうほど酷い引っかき傷が無数に走っていた。私がつい付けちゃったやつだ。い、痛そう……。

「背中、沢山引っ掻いちゃった……ごめん、痛いでしょ」

 シスは「んー?」と身体を捻って肩越しに見たり背中に手を回して触れて確認すると、こそばゆそうに微笑む。え、それって笑うところかな?

「小町が付けた傷、小町らしくて可愛らしいな!」
「は?」

 これの一体どこが可愛らしいんだろう。結構えぐいくらい抉れてる箇所もあるんですけど。

 だけど、シスはそんなことはお構いなしらしい。ニパーッと笑うと、さっきまでのムンムンの色気は霧散し、いつもの無邪気なシスが現れた。ああ、やっぱり可愛いなあ。

「言うならば男の勲章だもんな! つがい成立記念に、暫くこのままにしておくぞ! サーシャたちにこれを見せたら驚くかもな!」

 前言撤回。言ってることはちっとも可愛くなかった。番成立記念ってなに。そんな記念日が亜人にはあるのか。

「え、いや、待とうかシス」
「んー? とにかくこれはこのままにするからな、痛くないから心配しなくていいぞー!」

 待て。待て待て。心配してるんじゃないから。そんなこっ恥ずかしいものを、他人に見せびらかす宣言をしないでほしい。

 やっぱりシスにはいまいちデリカシーってものが足りないみたいだ。……まあでも、物凄く優しかったけど。大人の色香をプンプンさせるもんだから惚れ直しちゃったけど。

「冗談言ってないで、ちょっと血を吸ったら治せるんじゃ……」

 私がそう言った途端、シスが踵を返して戻ってきた。私の前にしゃがむと、一瞬も躊躇わずに濃厚なキスをしてくる。

「んむう……っ」

 いきなりなに! さっきもっと凄いことはしたけど、それでもやっぱりまだ半分夢の中にいる気分でいた私は、シスに攻められて目を白黒させた。

 暫くシスの好き勝手にされた後、ぷはっと口を離す。……全然お子ちゃまじゃない!

 シスの真剣な眼差しが、私を真っ直ぐに射抜いた。

「小町は俺の大事な唯一の番だ。こんな小さな傷だし、しかも可愛い小町が付けた大切な傷だぞ。それを治す為に大切な小町の血を吸うなんて、したくない」
「でも……」

 その背中で彷徨かれるのもなあ。そうは思っても口に出来ないでいると、シスが私の頬にキスをして、頭を撫でる。

「じゃあ、次の時はデザートに少しいただく。三口みくちだけ。な?」

 次の時。今まさに大人の階段を突然登ってしまった私に、次回予告をしないでほしい。はい喜んでなんて言えるほど、乙女は奔放じゃないんだから。

「さ……さっさと呼んできてよっ!」

 シスの肩をグイッと押すと、シスはにこにこと笑いながら立ち上がり、Z2213くんを今度こそ呼びに行った。

「ああ、もう……っ」

 さっきまでは無我夢中で訳が分かってなくていっぱいいっぱいで余計なことなんて一切考えられなかったけど、思い返せばとんでもなく大胆なことをしてしまった。しかも、もう絶対後戻りできない大きな一歩を踏んでしまった。

 正直、この先自分がどうなっていくのか、皆目見当がつかない。

 だけど。

 だけどやっぱりさっき考えた様に、シスは私が困ったことにならない様、私の気付かないところで気を配り続けていくんだろう。気が付けばシスに守られて囲まれてもうヒトの生活になんか戻りたくないって思えるくらい、大事にしてくれるんだろう。

「……全く、仕方ないなあ」

 声に出してみると、やっぱりちょっと偉そうだ。でも、強がってる私が可愛いって言ってくれたシスには、もしかしたらこれくらいの方が合ってるのかもしれない。

 それに、私がしっかり手綱を掴んでおかないと、シスはすぐに暴走しちゃうから、小言が多いくらいで丁度いいんだろう。

「小町ー!」

 シスとZ2213くんが、連れ立って戻ってきた。

「ありがと。じゃあ行こうか!」

 立ち上がると、足に力が入らなくてガクンと崩れ落ちそうになる。そんな私を当然の様に横抱きに抱き上げると、シスが明るく笑った。

「小町、無理するなー」
「う、うん……」

 立てないほどになるなんて、恥ずかしい。でも、シスの包み隠さない優しさを全面に受け取るのは、はっきり言って幸せ過ぎてやめたくない。

済世区サイセイ・ディストリクトノ小町サマ、オ連レ様モ同行デヨロシイデスカ』
「あ、うん、お願いします」
『カシコマリマシタ。――エレベーターホールニ電力供給再開、接続確認』

 パ、パ、とエレベーターホール内に照明が灯されていく。それまで蔦の中に半ば埋もれていたエレベーターの扉の奥で、モーターがブウンと動き始める音が聞こえてきた。

 シスが、若干不安そうな目でキョロキョロと見ている。私はそんなシスの首に腕を回すと、シスの口の横、唇が重なるかどうかぎりぎりの場所にキスをした。

「小町……」

 シスが嬉しそうに笑う。全くもう。可愛すぎてこっちまで笑っちゃったじゃないの。

 笑顔でシスを見上げた。

「シス、これから見るのはシスにとっては初めてのことばかりだと思うけど、怖がらないで。ヒトの町にある物と一緒だから、怖くないから。……私がついてるから」

 シスがこくんと頷く。

「小町が大丈夫って言うなら、信じられるからなー」

 なんせ小町は頭いいもんな、と微笑みながら言われて、私は私の無邪気で最高に格好いい番の唇に、今度こそしっかりと唇を重ねたのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。

ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。 事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

【完結】私は側妃ですか? だったら婚約破棄します

hikari
恋愛
レガローグ王国の王太子、アンドリューに突如として「側妃にする」と言われたキャサリン。一緒にいたのはアトキンス男爵令嬢のイザベラだった。 キャサリンは婚約破棄を告げ、護衛のエドワードと侍女のエスターと共に実家へと帰る。そして、魔法使いに弟子入りする。 その後、モナール帝国がレガローグに侵攻する話が上がる。実はエドワードはモナール帝国のスパイだった。後に、エドワードはモナール帝国の第一皇子ヴァレンティンを紹介する。 ※ざまあの回には★がついています。

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

21時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...