79 / 92
第78話 再確認
しおりを挟む
ふかふかの枯葉の上に敷かれたポンチョは、まるで天然のベッドみたいだ。その上に座らされて、シスが覆い被さり超至近距離で私を覗き込んでいるこの状況とは如何に。
「シ、シス……あの?」
思わず引き攣り笑いが出た。シスはそんな私の頬を優しく撫でると、真剣な目つきで囁きかける。
「小町。俺たち、番になる約束をしたよな……?」
番になる約束。片方が血を吸わせてと聞いて、もう片方が舌から血を吸わせたら婚約成立、とロウが言っていたやつだ。
確かにしたけれども、あれは成立ってことでいいのか。好きとお互い言い合いはしたけど、だからって番になるって話は一度も出なかった。他の亜人にもヒトにもやるもんか、とぼそりと呟かれたことがあったくらいで、それをプロポーズと受け取るほど私は馬鹿でも純粋でもない。多分。
だから、何となくスッキリしない。私はジリジリと追い詰められている感を全身で感じながら、時間稼ぎに舵を切った。
「わ、私、あれがそういう意味って聞いてなかったんだけど!」
そう、嘘じゃない。私は全く知らなかった。シスが「美味いらしぞー」なんて呑気に言っていたのを聞いたことがあっただけだ。
「じゃあ、舌から血を吸わせたのは何でだ?」
今にも鼻の頭が付きそうな距離に、あれだけ会いたかったシスがいる。たった一日離れていただけなのに、会いたくて苦しくて、どうにかなってしまいそうだった。本当は、今すぐ抱きついてシスがちゃんとそこにいることを確かめたい。
だけど何となく、このままはっきりさせずに済ませるのは違う気がした。乙女の勘が、私にそう告げている。
「それは……っ! シスが、血を吸わないって言い出すから、だから! 前にあの飲み方の話をしてくれたのを思い出して……!」
シスと私の鼻の頭が触れた。ち、近い! そして目が爛々と光ってる! なんか怖い!
「俺になら、キスしながら血を飲ませてもいいと思ったのか?」
「う……っ」
いつもの子供っぽいシスはどこにいったんだろう。これじゃまるきり大人の男の人だ。
ああ、恥ずかしい。でも、嘘を吐くのも何かが違う気がして、これに関しては素直に頷いた。
「う、うん……。だってその前に一回してたし、シスは絶対に死なせたくなかったし……」
私は焦っていた。シスの色気があまりにも心臓を刺激するものだから、脈拍がヤバいことになっている。多分、頸動脈からもとんでもなく血の匂いが放出されているんじゃないか。
シスの手が、私の手を正面から握った。指を絡めた握り方は優しいけど、絶対逃がさないという意思をひしひしと感じる。
シスの目は、一度も逸らされることはない。だから私も逸らせなかった。魅入られた様に、ただひたすら見つめ返す。
「じゃあ、番になる約束は有効ってことでいいんだな?」
ひい……っどストレート!
でも、誤魔化すのは嫌だ。済世区に住むことはもう出来なくなるだろうけど、小夏を助けられたなら、後は町の外で暮らしたってきっとシスが私を一所懸命守ってくれる。もう二度と、シスと離れたくないから。
「う、うん……」
私が頷いた瞬間、シスが太陽みたいな笑顔を見せた。ま、眩しい!
ちゅ、と軽めに唇を重ねるシス。あ、もう心臓が口から飛び出る。顔を上げたシスは、相変わらずジッと私を見つめ続けた。……シスはこんなになるほど、私の何にそんなに惹かれたんだろう。ふと、疑問に思えてくる。
生意気で可愛くない態度ばっかり取ってるのに、これのどこがいいんだろう。我ながら疑問だった。
すると突然、シスが訳の分からない話を始める。
「今回のことは、俺の判断が間違ってた」
「は、判断?」
シスが頷いた。
「小町の態度が可愛すぎて、もっと見たくて先延ばしにしてた」
「は? 私の態度って?」
よく分からない。私が首を傾げると、シスの唇が今度は私の目尻に触れた。……や、柔らかくてゾゾゾッてした!
「そ、そもそも、シスは私の何がそんなにいい訳!? 血が美味しそうだから!?」
恥ずかしさを誤魔化そうと、思わずツンケンした言葉が飛び出す。違う、そんな言い方したいんじゃないのに。どうしてこの口は、可愛くないことばかりペラペラと出てくるのか。
シスは、私のこんな態度にも笑顔で返す。お子ちゃまだなんだって散々馬鹿にしてたけど、私より全然大人じゃない。お子ちゃまなのは、やっぱり私の方だ。
「違う、小町。俺は――」
スウ、とひと息吸った後、シスは一気に語り出した。
「シ、シス……あの?」
思わず引き攣り笑いが出た。シスはそんな私の頬を優しく撫でると、真剣な目つきで囁きかける。
「小町。俺たち、番になる約束をしたよな……?」
番になる約束。片方が血を吸わせてと聞いて、もう片方が舌から血を吸わせたら婚約成立、とロウが言っていたやつだ。
確かにしたけれども、あれは成立ってことでいいのか。好きとお互い言い合いはしたけど、だからって番になるって話は一度も出なかった。他の亜人にもヒトにもやるもんか、とぼそりと呟かれたことがあったくらいで、それをプロポーズと受け取るほど私は馬鹿でも純粋でもない。多分。
だから、何となくスッキリしない。私はジリジリと追い詰められている感を全身で感じながら、時間稼ぎに舵を切った。
「わ、私、あれがそういう意味って聞いてなかったんだけど!」
そう、嘘じゃない。私は全く知らなかった。シスが「美味いらしぞー」なんて呑気に言っていたのを聞いたことがあっただけだ。
「じゃあ、舌から血を吸わせたのは何でだ?」
今にも鼻の頭が付きそうな距離に、あれだけ会いたかったシスがいる。たった一日離れていただけなのに、会いたくて苦しくて、どうにかなってしまいそうだった。本当は、今すぐ抱きついてシスがちゃんとそこにいることを確かめたい。
だけど何となく、このままはっきりさせずに済ませるのは違う気がした。乙女の勘が、私にそう告げている。
「それは……っ! シスが、血を吸わないって言い出すから、だから! 前にあの飲み方の話をしてくれたのを思い出して……!」
シスと私の鼻の頭が触れた。ち、近い! そして目が爛々と光ってる! なんか怖い!
「俺になら、キスしながら血を飲ませてもいいと思ったのか?」
「う……っ」
いつもの子供っぽいシスはどこにいったんだろう。これじゃまるきり大人の男の人だ。
ああ、恥ずかしい。でも、嘘を吐くのも何かが違う気がして、これに関しては素直に頷いた。
「う、うん……。だってその前に一回してたし、シスは絶対に死なせたくなかったし……」
私は焦っていた。シスの色気があまりにも心臓を刺激するものだから、脈拍がヤバいことになっている。多分、頸動脈からもとんでもなく血の匂いが放出されているんじゃないか。
シスの手が、私の手を正面から握った。指を絡めた握り方は優しいけど、絶対逃がさないという意思をひしひしと感じる。
シスの目は、一度も逸らされることはない。だから私も逸らせなかった。魅入られた様に、ただひたすら見つめ返す。
「じゃあ、番になる約束は有効ってことでいいんだな?」
ひい……っどストレート!
でも、誤魔化すのは嫌だ。済世区に住むことはもう出来なくなるだろうけど、小夏を助けられたなら、後は町の外で暮らしたってきっとシスが私を一所懸命守ってくれる。もう二度と、シスと離れたくないから。
「う、うん……」
私が頷いた瞬間、シスが太陽みたいな笑顔を見せた。ま、眩しい!
ちゅ、と軽めに唇を重ねるシス。あ、もう心臓が口から飛び出る。顔を上げたシスは、相変わらずジッと私を見つめ続けた。……シスはこんなになるほど、私の何にそんなに惹かれたんだろう。ふと、疑問に思えてくる。
生意気で可愛くない態度ばっかり取ってるのに、これのどこがいいんだろう。我ながら疑問だった。
すると突然、シスが訳の分からない話を始める。
「今回のことは、俺の判断が間違ってた」
「は、判断?」
シスが頷いた。
「小町の態度が可愛すぎて、もっと見たくて先延ばしにしてた」
「は? 私の態度って?」
よく分からない。私が首を傾げると、シスの唇が今度は私の目尻に触れた。……や、柔らかくてゾゾゾッてした!
「そ、そもそも、シスは私の何がそんなにいい訳!? 血が美味しそうだから!?」
恥ずかしさを誤魔化そうと、思わずツンケンした言葉が飛び出す。違う、そんな言い方したいんじゃないのに。どうしてこの口は、可愛くないことばかりペラペラと出てくるのか。
シスは、私のこんな態度にも笑顔で返す。お子ちゃまだなんだって散々馬鹿にしてたけど、私より全然大人じゃない。お子ちゃまなのは、やっぱり私の方だ。
「違う、小町。俺は――」
スウ、とひと息吸った後、シスは一気に語り出した。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。
ふまさ
恋愛
いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。
「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」
「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」
ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。
──対して。
傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる