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第75話 管制塔広場に到着

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 瓦礫の隙間を、縫う様に走っていく。

 シスみたいに華麗にとはいかないけど、それでも確実に前に進めている。

 この細い路地を行けば、突き当たりは管制塔前広場。長大なエントランスを通り過ぎれば、中にはエレベーターホールがある筈だ。

 背後から、狼の吠える声がどんどん近付いてきている。「小町ー! 出てこーい!」という叫び声は、怒りで染まっている様に聞こえた。

 拙い、ヤバい! 早く建物内に入らなくちゃ!

 ヒューッヒューッというおかしな呼吸しか、もう出てこない。でも負けるもんか、と必死で走り続けると、やがて目指していた場所へと辿り着いた。

「はあ……っ!」

 やはり作りは全く一緒だ。管制塔前広場をぐるりと取り囲む様に配置された、議事堂や環境研究施設。その中央にあるのは、見上げても天辺が確認出来ないほどの高さの管制塔だった。

「きた……っ」

 広場の所々に落ちている土砂。放置されたまま朽ちたであろう、元は何だったか分からないほど原型を留めていない錆びた金属の塊。その地面の隙間からは、木の根が逞しくうねり地形を歪ませている。

 頑丈そうな木の幹に手をつきながら奥へと進むと、突然地面が赤く点滅し出した。

 ブゥン、と音を立てて宙に舞い上がったそれは、無人小型航空機だ。苔むしたもの、蔦を絡ませたもの、中には点滅はするものの、飛び立つことが出来ず地面の上に転がったままのものもいる。

 数台の無人小型航空機が、私の周りを探る様に飛び、私に白昼色の光線を向けた。

「ひっ……!」

 攻撃されるんじゃ。思わず二の腕を抱き寄せたけど、……あれ、攻撃してこない。

「……やっぱりヒトには攻撃しないのかな?」

 ボソリと呟くと、私の頭上を旋回していた一台が、ふわりと降りてくる。そのまま、私の目線の高さでホバリングをした。他のとは違って、銀色ボディだ。大分薄汚れてはいるけど、他のよりも特別感がある。

 それが、突然話しかけてきた。

『用件ヲドウゾ』
「あ……っ君、喋れるの!?」
『私ハZ2213型無人小型航空機デス。オ客様ノゴ案内ガ私ノ業務デス』

 話が通じる! 興奮で叫びたくなったけど、そんな場合じゃないと慌てて興奮を抑え込んだ。

「私は済世区サイセイ・ディストリクトの小町。『神の庭』にコンタクトが取りたくて来たの!」

 私の言葉を、Z2213くんが復唱する。ブゥンと音を立てて近付くと、『使徒ノ町ノ子、ヨク来マシタネ』と言われた。

 それを聞いた途端、足元から崩れ落ちそうになる。

「やっぱり……そうだったんだ……っ!」

 私の予想は当たった。この子について行けば、小夏
を助ける手立てがきっと――!

『ゴ案内致シマス。コチラへドウゾ』
「お、お願いします!」

 スーッと管制塔入り口に向かって飛び始めたZ2213くんの後を小走りで追った、その時。

「……小町いいいっ!」
「ヒィッ!」

 広場の前に現れたのは、黄銅色の瞳を血走らせたロウの姿だった。目が血走ってるのは、多分私がスプレーを吹きかけた所為だ。

 Z2213くんが、呑気に尋ねた。

『オ連レ様デスカ?』
「違うよ!」

 即答を返す。人間の姿なのに、ロウの喉は狼みたいにグルルルと唸り続けている。

 すると突然、にこっと笑って私に手を伸ばした。へっ?

「小町、ごめんね! さっきのは冗談だよ!」
「え……っ」
「ちょっとからかっただけだよ! 本気にされたから驚いちゃった!」

 ロウが困った様な顔で笑う。え? そうなの? 冗談って、どこからどこまでが――。

 私は混乱していた。いや、確かにロウは私をここまで連れてきてくれたし、さっき屋内に入るまではこれまでと変わらない態度だったけど、でも。

「シスと別れて小町が落ち込んでいたから、元気付けようとしたんだ! からかいすぎた、本当ごめん、許して!」

 可愛らしく両手を顔の前で合わせるロウ。

「で、でも、首を噛みたいって……」

 じり、と後退りながら、ロウに問いかける。だって、怖かったのに。あの目が、あの雰囲気が全部嘘……?

 ロウが、にこやかに一歩前に出た。

「そりゃ、いつかは噛みたいけどさ! ちょっとからかって、いいよって言ってくれたらラッキーだなっていう気持ちがなかっとは言わないけど、無理やりなんてしないよ!」
「……本当?」

 私は、もう一歩管制塔に向けて下がる。

 ロウの瞳が、キランと怪しく光った。

「……うん、本当。だからさ、小町。そっちに行ってもいい? そいつらが怖くて近寄れないよ……」

 弱々しい声で懇願するロウの言葉は、真実を語っている様にも聞こえる。

 だけど、だけど。

 シスに対する激情を吐露したあの時のロウが嘘だったとは、思えなかった。

「わ、私ね、ちょっとこの子に用事があって」
「うん、俺も一緒に行くよ」
「こ、これは、ヒトの大事な話だから、ロウはそうしたらそこで待っていてくれる……?」

 本気で冗談だったと言うならば、これで折れるんじゃないか。そう思っての言葉は、逆効果だったみたいだ。

「は……?」

 ロウがゆっくりと近付いてくる。

 自分の周りを飛び始めた無人小型航空機を見上げて、ニヤリと笑った。……あれ、怖がらないの?

「小町の言う通り、この姿だと攻撃されないんだね。いいことを聞いたよ」
「ロ、ロウ……?」

 ロウが、にたりと牙を剥いて笑った。

「俺を置いていくなんて酷いよ小町」
「……っ」
「悪い子にはお仕置きしないとね……?」

 私はいつでも駆け出せる体勢を取る。

「……首を噛んで泣かせてやる!」
「お断りしますっ!」

 くるりと背を向けると、管制塔目指して全力疾走を始めた。
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