可愛がっても美形吸血鬼には懐きません!~だからペットじゃないってば!

ミドリ

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第71話 気付かされたシスの気遣い

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 無人小型航空機の数は、多くはない。時折上空を彷徨いているのを見かける程度だ。

 今のところ、襲ってくる気配もない。だけど、シスに大怪我を負わせる原因となったやつらだ。警戒しつつ進むことにした。

「小町、こっち」
「うん」

 建物の中でも、比較的原型を留めているものの横を隠れつつ進む。済世区サイセイ・ディストリクトの中ではお目にかかることのなかった半壊の建物は、ロウの様な荒野で生活をする亜人にとっては見慣れたものらしい。

「小町、ここから奥に行ける」

 ロウは瞬時に判断すると、私をグイグイと引っ張って行った。正直、ここに来るまではロウは頼りなかったけど、意外や意外、今はかなり頼もしく感じる。

 戦闘は弱くとも、曲がりなりにも亜人。野生の勘やこれまでの経験の差なんだろうな、とロウの背中を眺めて思った。

 そう考えると、ヒトの町が如何に強固に守られて――いや、管理されていたかが分かる。きっと亜人には、ヒトの様な個人識別番号なんかもないのかもしれない。

 安全とは言えないけど、自由ではある。どちらがよりいいのかは私には判別つかなかったけど、その環境があの底抜けに明るいシスという亜人を育んだのなら――悪くないんじゃない、なんて思ったりして。

「アイツら、飛び回って何してるんだろうな……」

 ロウが、怯えた目で空を見上げる。

「ヒトがいなくなった後も、最後の命令を守ってるんだと思うよ」
「命令? だって、ヒトがいなくなったのって何百年前だよ」

 機械の概念がない亜人には、理解し難いのかもしれない。

「誰かが命令し直さないと、動ける内は永遠に守り続ける。それが機械なんだよ」
「うえ……楽しくなさそう」

 ロウが本当に嫌そうな顔でそう言ったので、思わず笑ってしまった。ロウにとって、意思のない無機物が命令で自在に動くなんてあり得ないんだろう。改めて、ヒトと亜人の環境の差を感じた。

 濃い灰色の空にチカ、チカ、と赤が点滅する度、どうしたって背筋にゾクリとしたものが走る。

 ロウと夜を明かすのは、正直あまり嬉しくはない。シスは単純で裏がない分分かりやすかったけど、ロウはいまいち何を考えているのか分からない。単に、知り合った期間が短い所為はあるだろうけど。

 小町特製亜人撃退スプレーは、常に待機させておこう。私の中の警戒レベルを、こっそり引き上げた。

 いずれにしても、動くのは日が差してる時間帯の方がいい。ロウは夜目が利いても、私は何も見えない。『神の庭』の大事なヒントを見逃す可能性は、極力下げたかった。

 ロウは私の手を引っ張りながら、どんどん狭くて暗い路地へと引っ張っていく。

「ロウ? あの、暗くなり切る前に今夜寝る場所を決めない?」

 まだネクロポリスの地図と現在地を見比べてもいない。ロウに任せきりになって奥に進み過ぎてしまったら、万が一ひとりになった時に迷子になることは必須だ。

 ロウは一体、どこを目指しているんだろう。暗くなる空と荒廃した街を見回す。頼りになる筈のロウの横顔からは表情が読めず、薄ら寒い気分を振り払うことが出来なかった。

 これがシスだったら、「小町、怖いのかー? 大丈夫だぞー」とか言って笑いながら、私を安心させようと食べ物の話でもするんだろう。

 そこで、初めて思った。シスはいつも、シスが好きな物の話ばかりしていた。私が喋らないから、私が笑わないから、だから私を少しでも楽しませようと思って自分が楽しい話を喋り続けていたんじゃないか。

 シスといる時、少しだって気不味いとか居心地が悪いとかいった気持ちにはならなかった。

 うるさいしアホなんだからなんて思って、内心ちょっとほっこりしていた。シスが、ずっと私を気に掛けてくれていたから。

 この後どうする、これはどうかな、小町はどう思う? 全部、しつこいくらいに聞いてくれていた。多分、私が警戒していたから。だから私が笑うと、シスは心底嬉しそうに笑った。

 ――ああ。私は、ここでも何ひとつ気付いてはいなかったんだ。

 置いてきてしまったシスの今の気持ちを思うと、胸が張り裂けそうな思いに駆られた。シスのことだから、きっと凄く心配しているんじゃないか。

 そこには悪意も作為も何もない。あるのは、純粋な好意だけ。

 ……でも、だからこそ、これ以上あの優しい吸血鬼を私の都合に巻き込みたくはなかった。

 私が黙り込んでいる姿を、ロウが横目でチラリと見る。暗闇に近付く中、ロウの黄銅色の瞳がキラリと光るのが、少し怖かった。

「……なら、ここはどうかな?」

 ロウが指したのは、ひとつの建物だった。中は比較的綺麗なままで、壁際に砂塵が積もっている。入り口から木の枝が内部に入り込み、壁三面を蔦が覆い隠していた。

 奥にエレベーターらしき物があったけど、電力の供給がなければ動かないだろう。階段も見えたけど、真っ暗で上がりたいとは思えなかった。

 ロウが先に中に入る。

「生き物の気配も匂いもしないから、そっちの心配はいらないよ」
「あ、うん」
「俺の敷物を敷いてあげるから、ちょっと待っててね」
「うん、ありがと」

 ロウは荷物を下ろすと、鞄の中から敷物を取り出した。私の分はシスの下に敷いてきてしまったから――あれ、まさか今夜、ロウとくっついて寝るの?

 ちょっと考えれば分かることだったのに、あの時は早くシスから離れないとシスを傷付けちゃうと思って深く考えていなかった。

 ど、どうしよう。

 突っ立ったまま、屈み込んで敷物を敷いてポン、と手で叩いたロウが、ゆっくりと私を振り返る。

 笑顔なのに、ゾクリとするのは何故だろう。

「ほら、小町。ここに座りなよ」
「……ま、まだいい」

 身体が勝手に動いて、足が一歩分後退さった。

 ロウが微笑んだまま音もなく立ち上がると、逃げ腰になっていた私の手首をパッと掴む。グイッと引っ張ると、ロウの前に引き寄せられた。

 反対の手で肩を掴まれる。

「痛っ」

 容赦ない強さに身体を捩ると、ロウの顔から笑みがスッと消えた。
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