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第66話 別離の決意
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シスの頭を押さえつけていた手に力を入れなくても、シスは私から口を離さなくなった。
ごくん、ごくんとシスの喉が音を立てる回数が増えていくにつれ、私の身体がどんどん重くなっていく。
「ふぁ……っ」
時折息をする為に唇をずらすと、金色に輝く瞳を半眼の恍惚の表情で私を見つめ続けるシスに追いかけられ、即座に塞がれた。
「……――ッ!」
自ら舌をシスの牙に縫い止められにいった私は、ろくに動くことが出来ない。息苦しさもあって固まっていたら、シスの薄い唇が私の唇を柔らかく食み始めた。た、食べられてる……!
先程まで弱々しかったシスの様子が、少しずつ変わっていく。だらんと下げられていた腕はいつの間にか私の二の腕を痛いくらいに掴んでいて、「小町……」と呟き続けていた。止まらなくなるって言ってたのは、このことかもしれない。
キスで蕩けそうな感覚と、血がどんどん抜かれて倒れそうな感覚の中、シスの後ろでアワアワしているロウに手で背中を見てと指示をした。
ロウは、私の指示通りシスの破れたポンチョをそーっとまくる。
ロウの不安そうだった表情が、一気に明るいものへと変わった。
「あ、本当に凄い! 肉が盛り上がってきてる! 治りかけだよ!」
私はそれを聞くと、シスの注意を私に向けることにした。
頬をペチペチ叩いてみる。……無駄。顎を掴んで下に引っ張ってみる。……びくともしない。シスの肩を掴んで前後に揺さぶっても、とろんとした目のシスは夢から目覚めてはくれなかった。
これは拙い。私はロウに別の指示を出した。シスを指差して、何とかしろと言ったのだ。
「ろおーっ! ほへ! ほへ!」
「ええっ!? うわ、怖いな……シス! 正気に戻れよ! シス!」
ロウが怒鳴っても、シスはぴくりとも反応しなかった。口づけが、更に深くしつこくなってくる。そうだ、コイツはしつこい奴だった。
「ふ……っ」
や、やばい……っ! 血は吸われすぎだし、なんか結構気持ちいいしぽーっとしてきてもう……。
シスの肩に乗せられた私の手が、力なく地面に落ちたその時。
「――ええいっ!」
トン、とロウの手刀がシスの頸動脈近くに飛んできたかと思った途端、シスが身体を弛緩させて私はそのまま後ろに押し倒されてしまった。
「き、気絶成功! ひいいいっ怖かったあ!」
どうやらロウが脳震盪を起こさせたらしい。たまにはやるじゃない。
「――んんっ」
未だに深く重なったままの口を、何とかしないといけない。私はシスの口の中に親指を突っ込むと、シスの顎を開けさせてゆっくりと自分の舌から牙を引っこ抜いた。
シスが気絶してたら痛いんじゃないかなーと思ったけど、やっぱり痛くない。さすが吸血鬼の治癒能力だ。
「はあ――……」
苦しかった。そして凄かった。大人の階段を登っちゃった気がする。本来だったら両想いになって初めてのキスは甘くて切ないものな筈だけど、人助け的要素が強かったからか、まだ辛うじて冷静を保てていた。
シスがどうだったのかは、分からない。とりあえず吸い付きが凄かったのだけは確かだ。
私を押し潰しているシスの背中を、ロウがライトで照らしてくれた。
「ほら小町! 見て見て!」
「ぬ、抜け出せない……っ」
これまでにない量の血を吸われた上、かなり濃厚なキスをした。気持ち的にはある程度は冷静だと思ったけど、身体は正直で腰砕けになってしまっている。
私が動けないでいるのを見て、ロウがヨシヨシと私の頭を撫でた。
「大分飲まれちゃったね」
シスの脇を持ち上げて、地面に横向きに寝かせてくれる。シスからはふう、ふう、という息の音が聞こえるので、とりあえず気絶しているだけみたいだ。シスの青い髪に触れて少し梳かすと、シスが「ん……」と小さく反応した。うん、大丈夫そうだ。
差し出されたロウの手に引っ張られて起き上がると、シスの背中を改めて見る。
傷口はまだあるけど、もう切れていなかった。新しい肉が生まれていて、血を拭いてあげれば治りかけの傷にしか見えないんじゃないか。
「あ……凄い! 塞がってるじゃない!」
とんでもない治癒能力だ。
「吸血鬼一族が強いって言われる理由のひとつだよ」
「よかった……っ」
私の所為でシスが死ぬところだった。だけど、ギリギリ助けることが出来たんだ。
あまりにもホッとしたのと、血を抜かれ過ぎたからか、視界がくらりと暗転する。
「……あっぶな!」
私を受け止めたのは、ロウだった。私を抱き止めたまま、心配そうな声で尋ねる。私はもう目を開けていることも辛くて、ロウに体重を預け切っていた。
ロウが、声をひそめながら尋ねてくる。
「ねえ小町。シスはこの先どうするんだ? ここまでってさっき言ってたよね。置いていくの?」
「ん……」
本音を言ったら、シスをひとりにしたくない。治ったのをちゃんと確認して、出来ることならこの先もずっと一緒にいたい。
でも、しちゃ駄目だ。私の都合で、これ以上シスを危険な目に遭わせたくはなかった。だって、シスは平気だ大丈夫だって無理して笑うに決まってるんだから。辛くても痛くても、私に笑顔を向けることをやめはしないんだから。
だから――一緒にいたら駄目だ。この先もっと危険になるかもしれないのに、また危ない目に合わせたら、今度こそシスが死んじゃうかもしれないから。
ぽろ、と涙が溢れた。
「だって……っ私、もう少しでシスを殺しちゃうところだったんだよ……!」
さっきまで止まっていた涙が、また流れ始める。
ロウが、私の頭を撫でた。ロウは情けないけど女の子の扱いはシスよりは上だな、なんて二人に失礼なことを思った。
「……俺が一緒に行ってあげるよ」
「……危ないよ」
ぐす、と鼻を啜りながら返すと、ロウは小さく笑った。
「見てて分かったでしょ? 俺、逃げ足は早いから。戦うのは正直言って苦手だけど、小町を連れて逃げるくらいはできるよ」
「ロウ……」
「俺、いく場所ないしさ。はは」
ぼろぼろと落ちる涙を、ロウは手で掬う。
「シスを怪我させたのは、俺の所為だ。シスの代わりにはならないかもしれないけど、小町を目的の場所まで送り届けてみせるよ」
「でも……っロウも危険な目に遭わせたら、私……っ」
ロウに関しては、そもそもご褒美も何も約束していない。ただ勝手についてきているだけの関係なのに。
私の頭を優しく撫で続ける、ロウの手。その手はシスのよりは小さくてちょっと頼りなさげだったけど、温かかった。
「二度も命を助けてくれた恩返しだからさ。恩返しさせて。ね?」
甘えちゃ駄目だ。分かっているのに、でもシスをこれ以上危険な目にどうしても遭わせたくなくて。
「うん……お願い、ロウ……!」
私は狡い。ロウに頼るのだって間違っているのに。
シスから離れるにはロウに頼るしかなかったから、私は最低だと分かってはいても、そう言わざるを得なかった。
ごくん、ごくんとシスの喉が音を立てる回数が増えていくにつれ、私の身体がどんどん重くなっていく。
「ふぁ……っ」
時折息をする為に唇をずらすと、金色に輝く瞳を半眼の恍惚の表情で私を見つめ続けるシスに追いかけられ、即座に塞がれた。
「……――ッ!」
自ら舌をシスの牙に縫い止められにいった私は、ろくに動くことが出来ない。息苦しさもあって固まっていたら、シスの薄い唇が私の唇を柔らかく食み始めた。た、食べられてる……!
先程まで弱々しかったシスの様子が、少しずつ変わっていく。だらんと下げられていた腕はいつの間にか私の二の腕を痛いくらいに掴んでいて、「小町……」と呟き続けていた。止まらなくなるって言ってたのは、このことかもしれない。
キスで蕩けそうな感覚と、血がどんどん抜かれて倒れそうな感覚の中、シスの後ろでアワアワしているロウに手で背中を見てと指示をした。
ロウは、私の指示通りシスの破れたポンチョをそーっとまくる。
ロウの不安そうだった表情が、一気に明るいものへと変わった。
「あ、本当に凄い! 肉が盛り上がってきてる! 治りかけだよ!」
私はそれを聞くと、シスの注意を私に向けることにした。
頬をペチペチ叩いてみる。……無駄。顎を掴んで下に引っ張ってみる。……びくともしない。シスの肩を掴んで前後に揺さぶっても、とろんとした目のシスは夢から目覚めてはくれなかった。
これは拙い。私はロウに別の指示を出した。シスを指差して、何とかしろと言ったのだ。
「ろおーっ! ほへ! ほへ!」
「ええっ!? うわ、怖いな……シス! 正気に戻れよ! シス!」
ロウが怒鳴っても、シスはぴくりとも反応しなかった。口づけが、更に深くしつこくなってくる。そうだ、コイツはしつこい奴だった。
「ふ……っ」
や、やばい……っ! 血は吸われすぎだし、なんか結構気持ちいいしぽーっとしてきてもう……。
シスの肩に乗せられた私の手が、力なく地面に落ちたその時。
「――ええいっ!」
トン、とロウの手刀がシスの頸動脈近くに飛んできたかと思った途端、シスが身体を弛緩させて私はそのまま後ろに押し倒されてしまった。
「き、気絶成功! ひいいいっ怖かったあ!」
どうやらロウが脳震盪を起こさせたらしい。たまにはやるじゃない。
「――んんっ」
未だに深く重なったままの口を、何とかしないといけない。私はシスの口の中に親指を突っ込むと、シスの顎を開けさせてゆっくりと自分の舌から牙を引っこ抜いた。
シスが気絶してたら痛いんじゃないかなーと思ったけど、やっぱり痛くない。さすが吸血鬼の治癒能力だ。
「はあ――……」
苦しかった。そして凄かった。大人の階段を登っちゃった気がする。本来だったら両想いになって初めてのキスは甘くて切ないものな筈だけど、人助け的要素が強かったからか、まだ辛うじて冷静を保てていた。
シスがどうだったのかは、分からない。とりあえず吸い付きが凄かったのだけは確かだ。
私を押し潰しているシスの背中を、ロウがライトで照らしてくれた。
「ほら小町! 見て見て!」
「ぬ、抜け出せない……っ」
これまでにない量の血を吸われた上、かなり濃厚なキスをした。気持ち的にはある程度は冷静だと思ったけど、身体は正直で腰砕けになってしまっている。
私が動けないでいるのを見て、ロウがヨシヨシと私の頭を撫でた。
「大分飲まれちゃったね」
シスの脇を持ち上げて、地面に横向きに寝かせてくれる。シスからはふう、ふう、という息の音が聞こえるので、とりあえず気絶しているだけみたいだ。シスの青い髪に触れて少し梳かすと、シスが「ん……」と小さく反応した。うん、大丈夫そうだ。
差し出されたロウの手に引っ張られて起き上がると、シスの背中を改めて見る。
傷口はまだあるけど、もう切れていなかった。新しい肉が生まれていて、血を拭いてあげれば治りかけの傷にしか見えないんじゃないか。
「あ……凄い! 塞がってるじゃない!」
とんでもない治癒能力だ。
「吸血鬼一族が強いって言われる理由のひとつだよ」
「よかった……っ」
私の所為でシスが死ぬところだった。だけど、ギリギリ助けることが出来たんだ。
あまりにもホッとしたのと、血を抜かれ過ぎたからか、視界がくらりと暗転する。
「……あっぶな!」
私を受け止めたのは、ロウだった。私を抱き止めたまま、心配そうな声で尋ねる。私はもう目を開けていることも辛くて、ロウに体重を預け切っていた。
ロウが、声をひそめながら尋ねてくる。
「ねえ小町。シスはこの先どうするんだ? ここまでってさっき言ってたよね。置いていくの?」
「ん……」
本音を言ったら、シスをひとりにしたくない。治ったのをちゃんと確認して、出来ることならこの先もずっと一緒にいたい。
でも、しちゃ駄目だ。私の都合で、これ以上シスを危険な目に遭わせたくはなかった。だって、シスは平気だ大丈夫だって無理して笑うに決まってるんだから。辛くても痛くても、私に笑顔を向けることをやめはしないんだから。
だから――一緒にいたら駄目だ。この先もっと危険になるかもしれないのに、また危ない目に合わせたら、今度こそシスが死んじゃうかもしれないから。
ぽろ、と涙が溢れた。
「だって……っ私、もう少しでシスを殺しちゃうところだったんだよ……!」
さっきまで止まっていた涙が、また流れ始める。
ロウが、私の頭を撫でた。ロウは情けないけど女の子の扱いはシスよりは上だな、なんて二人に失礼なことを思った。
「……俺が一緒に行ってあげるよ」
「……危ないよ」
ぐす、と鼻を啜りながら返すと、ロウは小さく笑った。
「見てて分かったでしょ? 俺、逃げ足は早いから。戦うのは正直言って苦手だけど、小町を連れて逃げるくらいはできるよ」
「ロウ……」
「俺、いく場所ないしさ。はは」
ぼろぼろと落ちる涙を、ロウは手で掬う。
「シスを怪我させたのは、俺の所為だ。シスの代わりにはならないかもしれないけど、小町を目的の場所まで送り届けてみせるよ」
「でも……っロウも危険な目に遭わせたら、私……っ」
ロウに関しては、そもそもご褒美も何も約束していない。ただ勝手についてきているだけの関係なのに。
私の頭を優しく撫で続ける、ロウの手。その手はシスのよりは小さくてちょっと頼りなさげだったけど、温かかった。
「二度も命を助けてくれた恩返しだからさ。恩返しさせて。ね?」
甘えちゃ駄目だ。分かっているのに、でもシスをこれ以上危険な目にどうしても遭わせたくなくて。
「うん……お願い、ロウ……!」
私は狡い。ロウに頼るのだって間違っているのに。
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