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第55話 旅支度完了
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「それじゃ、色々とお世話になりました」
サーシャさんとタロウさんに向かって頭を下げたのは、午後も遅くなり屋台で軽めの夕飯を食べ終わった後だった。
「いいえ。小町ちゃん、シスくんのお守りは大変だと思うけど、頑張ってね」
「俺は小町の護衛だぞ、お守りなんかされないし」
私の背中に背後霊の様にべったりとくっついているシスが、サーシャさんに向かって文句を言った。今この状態で既にお守りをされていると思うけど、どうやらシスにはその自覚はないらしい。
「お前はベタベタと小町にくっつき過ぎだ! 小町が困ってる顔をしているじゃないか! 離れてやれよ! ……キャンッ」
シスは無言で足許のロウに蹴りを入れた。
「シスってば。仲良くしてよ。今日から仲間になったんだから」
「俺は仲間に入れてやった記憶はねえ」
「はあ……」
深い溜息を吐くと、サーシャさんがうふふと笑った。そしてシスをちょいちょい、と手で呼び寄せる。
「ちょっと来なさい」
「……んだよ」
「来い」
「……ちっ」
負けた側としては、逆らえないんだろう。シスは実に嫌そうに背中を丸めながら、サーシャさんの方へと進んだ。私の手を握り締めて。引っ張らないでよ。
サーシャさんが、笑ってない笑顔でピシリと命じる。
「お前ひとりで来い」
「小町が心配だからやだ。断る」
即答だった。
サーシャさんが、こめかみをピクピクさせながら低い声を出す。
「ロウくんがいるでしょ? ロウくんはこの後別途お話ね」
「えっ!? 俺も!?」
背中の荷物を震わせたロウが、シスと同じくいやあな顔になった。サーシャさんはにこりともせず、頷く。ロウは尻尾を股の間に挟み込んだ。怖いらしい。
「小町い……っ」
ロウが私の後ろに隠れる。全然隠れてないけど。すると、サーシャさんは静かに伝えた。
「私はシスに勝ったわよ」
「……はい」
やっぱり亜人は強さでランキングが変わるらしい。
「俺が一緒にいるよ」
タロウさんが私の横に立ち、にこやかに笑った。
「タロウ、ありがとう。すぐ済むわ」
「ああ」
サーシャさんはシスの耳たぶを掴むと、「痛いっ!」と情けない声を出すシスを向こうへと引っ張っていった。何の話をするのやら、だ。
離れた場所に耳を引っ張られながら連れて行かれるシスの背中を見送りながら、ロウが溜息を吐く。
「何なんだよ、あの女。迫力ありすぎるんだけど」
「いい人だよ」
少なくとも私には。本当かなあというロウの疑わしげな呟きには、聞こえなかったふりをした。
それにしても、立っているだけというのも暇だ。ぼんやりと往来を眺めながら、確かに温かいな、とシスが半ば無理やり買って着させられた服を見下ろした。
買い物をしようという段階になって、突然シスが露出狂みたいな格好をしながら「小町の肌が見え過ぎなのは問題だ!」主張し始めたのだ。冷えるからって前に言ってたやつかな、と最初は思ったけど、ロウが身体を擦りつけた私の腿の部分を大きな手のひらで懸命に擦っていたから、多分違う。ロウの匂いが私に付くのが嫌なんだろう。自分の匂いと混ざるのが嫌なのかもしれない。
上はフード付きの柔らかい肌触りの生成りのポンチョで、腰まで隠れるものだ。これは、日焼けに参っていた私にとっても嬉しかった。
下は、亜人の女性は大体巻きスカートみたいなものを巻くのが主流だと店主に言われ、それを購入することに決めた。シスが。しかも丈が長いものを。
シスは色とりどりのスカートの中から、鮮やかな青色を選んだ。着方は簡単で、ぐるりと一周半させた後、上からベルトなどで締めるだけ。
私はいつもホルスターを身に着けているから、ショートパンツの上に巻きスカートを巻いて、その上からホルスターで締めた。裾からはフリンジがシャラシャラ揺れていてなかなか可愛いけど、私が着たのを見たサーシャさんとタロウさんが「うわ……っ独占欲」と言った意味がよく分からず、首を傾げた。
意味不明のまますぐ隣にいるシスを見上げたら、「似合うぞー」と言われて頭頂に唇を押し当てられて、それ以上聞けなかった。
正直いって、裾が長すぎて歩きにくい。だけど、シスはこれがいいと言って聞かず、自分は赤茶の長めのポンチョを買っていた。サーシャさんとタロウさんは、ニヤけただけで何も言わなかった。よく分からない。
ちなみにロウはというと、本人の説明通り見事に無一文だったので、シスにお金を貸してくれと頼み込んだ。一緒に旅をする気などサラサラないシスが一蹴してしまったので、私が宥めすかして何とか支払わせたけど、何故か「ロウは俺たちとは離れて寝る」ことと「ロウは小町に匂いをつけない」ことを約束させられていた。ロウは不服そうだったけど、それでもお金は必要だったから約束した。
ロウが一体どんな物を買ったのかは、知らない。だけどそれなりに買い込んだみたいで、ロウの背中には結構な荷物が括られていた。
暫くはシスとサーシャさんの背中を可笑しそうに眺めていたタロウさんが、私を振り向く。
「それにしても、こんな軽装備でよくここまで来られたよね。聞いて驚いたよ」
「やっぱりそう思います?」
タロウさんが、それはそれは深く頷く。
「まさか狩りをして肉を焼いて旅してるとは思わなかったよ。いやあ、さすがシスくん、野生児って感じだよなあ」
あははと笑われた。それに疑問を覚えなかった私も大概だったので、私は苦笑いすることしか出来ない。
ひと通り笑って笑い止んだタロウさんが、穏やかな笑みを浮かべた。
「……ネクロポリスから戻ったら、一回寄ってくれ。サーシャが喜ぶし、小町ちゃんの安否も知りたいから」
「……はい、ありがとうございます」
タロウさんは、年上の笑みを浮かべで私の頭を優しく撫でる。
「シスくんはさ、やっぱり亜人は亜人だけど」
「……はい」
「小町ちゃんのことは、ちゃんと大切に思っていると思うよ」
「そう……なんですかねえ」
はは、と乾いた笑いを漏らした。
「……小町ーっ!」
遠くから、私を見つけて駆け寄ってくるシスの姿がある。驚くほどの速さで私の前に駆け寄ると、タロウさんの手をペシッと叩き落とした。
「ちょっと、シス!」
「小町に触るな」
「あはは、ごめんね」
タロウさんは明るく笑ってくれたけど、叩き落とすのは失礼だろう。
「あのねえ……」
注意しようとシスを見上げた途端、また背後からがんじがらめに抱きつかれる。頭にぐりぐり頬を擦りつけないでってば。身体が火照っちゃうじゃないの。
「重い! 歩きにくい!」
「俺が抱いていくから問題ない!」
「普通に歩かせなさいよ!」
ギャーギャー言い争っている間に、今度はロウがサーシャさんに呼ばれて雑踏の中に消えていった。後ろ姿は、相当怯えている。
「……サーシャさん、何の話だったの?」
シスの顔を押しながら尋ねると、シスはさっと私の腕を躱して私の首に顔を埋めた。
「小町と二人きりになった時に話す」
「……そっか」
結局、ロウがビクビクサーシャさんを振り返りながらこちらに戻ってくるその時まで、シスは私の首に顔を埋めたままだった。
サーシャさんとタロウさんに向かって頭を下げたのは、午後も遅くなり屋台で軽めの夕飯を食べ終わった後だった。
「いいえ。小町ちゃん、シスくんのお守りは大変だと思うけど、頑張ってね」
「俺は小町の護衛だぞ、お守りなんかされないし」
私の背中に背後霊の様にべったりとくっついているシスが、サーシャさんに向かって文句を言った。今この状態で既にお守りをされていると思うけど、どうやらシスにはその自覚はないらしい。
「お前はベタベタと小町にくっつき過ぎだ! 小町が困ってる顔をしているじゃないか! 離れてやれよ! ……キャンッ」
シスは無言で足許のロウに蹴りを入れた。
「シスってば。仲良くしてよ。今日から仲間になったんだから」
「俺は仲間に入れてやった記憶はねえ」
「はあ……」
深い溜息を吐くと、サーシャさんがうふふと笑った。そしてシスをちょいちょい、と手で呼び寄せる。
「ちょっと来なさい」
「……んだよ」
「来い」
「……ちっ」
負けた側としては、逆らえないんだろう。シスは実に嫌そうに背中を丸めながら、サーシャさんの方へと進んだ。私の手を握り締めて。引っ張らないでよ。
サーシャさんが、笑ってない笑顔でピシリと命じる。
「お前ひとりで来い」
「小町が心配だからやだ。断る」
即答だった。
サーシャさんが、こめかみをピクピクさせながら低い声を出す。
「ロウくんがいるでしょ? ロウくんはこの後別途お話ね」
「えっ!? 俺も!?」
背中の荷物を震わせたロウが、シスと同じくいやあな顔になった。サーシャさんはにこりともせず、頷く。ロウは尻尾を股の間に挟み込んだ。怖いらしい。
「小町い……っ」
ロウが私の後ろに隠れる。全然隠れてないけど。すると、サーシャさんは静かに伝えた。
「私はシスに勝ったわよ」
「……はい」
やっぱり亜人は強さでランキングが変わるらしい。
「俺が一緒にいるよ」
タロウさんが私の横に立ち、にこやかに笑った。
「タロウ、ありがとう。すぐ済むわ」
「ああ」
サーシャさんはシスの耳たぶを掴むと、「痛いっ!」と情けない声を出すシスを向こうへと引っ張っていった。何の話をするのやら、だ。
離れた場所に耳を引っ張られながら連れて行かれるシスの背中を見送りながら、ロウが溜息を吐く。
「何なんだよ、あの女。迫力ありすぎるんだけど」
「いい人だよ」
少なくとも私には。本当かなあというロウの疑わしげな呟きには、聞こえなかったふりをした。
それにしても、立っているだけというのも暇だ。ぼんやりと往来を眺めながら、確かに温かいな、とシスが半ば無理やり買って着させられた服を見下ろした。
買い物をしようという段階になって、突然シスが露出狂みたいな格好をしながら「小町の肌が見え過ぎなのは問題だ!」主張し始めたのだ。冷えるからって前に言ってたやつかな、と最初は思ったけど、ロウが身体を擦りつけた私の腿の部分を大きな手のひらで懸命に擦っていたから、多分違う。ロウの匂いが私に付くのが嫌なんだろう。自分の匂いと混ざるのが嫌なのかもしれない。
上はフード付きの柔らかい肌触りの生成りのポンチョで、腰まで隠れるものだ。これは、日焼けに参っていた私にとっても嬉しかった。
下は、亜人の女性は大体巻きスカートみたいなものを巻くのが主流だと店主に言われ、それを購入することに決めた。シスが。しかも丈が長いものを。
シスは色とりどりのスカートの中から、鮮やかな青色を選んだ。着方は簡単で、ぐるりと一周半させた後、上からベルトなどで締めるだけ。
私はいつもホルスターを身に着けているから、ショートパンツの上に巻きスカートを巻いて、その上からホルスターで締めた。裾からはフリンジがシャラシャラ揺れていてなかなか可愛いけど、私が着たのを見たサーシャさんとタロウさんが「うわ……っ独占欲」と言った意味がよく分からず、首を傾げた。
意味不明のまますぐ隣にいるシスを見上げたら、「似合うぞー」と言われて頭頂に唇を押し当てられて、それ以上聞けなかった。
正直いって、裾が長すぎて歩きにくい。だけど、シスはこれがいいと言って聞かず、自分は赤茶の長めのポンチョを買っていた。サーシャさんとタロウさんは、ニヤけただけで何も言わなかった。よく分からない。
ちなみにロウはというと、本人の説明通り見事に無一文だったので、シスにお金を貸してくれと頼み込んだ。一緒に旅をする気などサラサラないシスが一蹴してしまったので、私が宥めすかして何とか支払わせたけど、何故か「ロウは俺たちとは離れて寝る」ことと「ロウは小町に匂いをつけない」ことを約束させられていた。ロウは不服そうだったけど、それでもお金は必要だったから約束した。
ロウが一体どんな物を買ったのかは、知らない。だけどそれなりに買い込んだみたいで、ロウの背中には結構な荷物が括られていた。
暫くはシスとサーシャさんの背中を可笑しそうに眺めていたタロウさんが、私を振り向く。
「それにしても、こんな軽装備でよくここまで来られたよね。聞いて驚いたよ」
「やっぱりそう思います?」
タロウさんが、それはそれは深く頷く。
「まさか狩りをして肉を焼いて旅してるとは思わなかったよ。いやあ、さすがシスくん、野生児って感じだよなあ」
あははと笑われた。それに疑問を覚えなかった私も大概だったので、私は苦笑いすることしか出来ない。
ひと通り笑って笑い止んだタロウさんが、穏やかな笑みを浮かべた。
「……ネクロポリスから戻ったら、一回寄ってくれ。サーシャが喜ぶし、小町ちゃんの安否も知りたいから」
「……はい、ありがとうございます」
タロウさんは、年上の笑みを浮かべで私の頭を優しく撫でる。
「シスくんはさ、やっぱり亜人は亜人だけど」
「……はい」
「小町ちゃんのことは、ちゃんと大切に思っていると思うよ」
「そう……なんですかねえ」
はは、と乾いた笑いを漏らした。
「……小町ーっ!」
遠くから、私を見つけて駆け寄ってくるシスの姿がある。驚くほどの速さで私の前に駆け寄ると、タロウさんの手をペシッと叩き落とした。
「ちょっと、シス!」
「小町に触るな」
「あはは、ごめんね」
タロウさんは明るく笑ってくれたけど、叩き落とすのは失礼だろう。
「あのねえ……」
注意しようとシスを見上げた途端、また背後からがんじがらめに抱きつかれる。頭にぐりぐり頬を擦りつけないでってば。身体が火照っちゃうじゃないの。
「重い! 歩きにくい!」
「俺が抱いていくから問題ない!」
「普通に歩かせなさいよ!」
ギャーギャー言い争っている間に、今度はロウがサーシャさんに呼ばれて雑踏の中に消えていった。後ろ姿は、相当怯えている。
「……サーシャさん、何の話だったの?」
シスの顔を押しながら尋ねると、シスはさっと私の腕を躱して私の首に顔を埋めた。
「小町と二人きりになった時に話す」
「……そっか」
結局、ロウがビクビクサーシャさんを振り返りながらこちらに戻ってくるその時まで、シスは私の首に顔を埋めたままだった。
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