47 / 92
第46話 へこみまくりのシス
しおりを挟む
お店の外に出てから「下ろしてよ」と伝えると、シスは素直に下ろしてくれた。
当然の様に私の手を大きな手で握ると、考え込む様に唇を噛み締める。無言のまま先頭に立つと、私を引っ張り始めた。
静かすぎるのが不気味で、余程サーシャさんに負けたことがショックだったんだろうな、と勝敗については触れないことにする。触らぬ神に祟りなしってやつだ。
シスの場合、負けたからって怒って暴れたりはないだろうだけど、この様子を見る限り、ひたすら延々落ち込んでいそうだ。それはそれで面倒くさい。
普段明るい奴が自信の根拠を失うとこうなるという実例を、今私は目の前で体験していた。シスの中では、強さが全てだったんだろう。顔なんて滅茶苦茶いいのに、そういえばシスは自分の顔がどうのって言ったことは一度もなかったかもしれない。
亜人の美醜の基準ってどうなってるんだろう。気になった。
シスと比べたら、私は超絶美少女です、なんてとてもじゃないけど言えない。でも一応、自己分析的に、まあ、うんそれなりに程度の認識だ。シスが時折可愛いって言うことを考えたら、亜人とヒトの美意識に大差はないのかもしれない。タロウさんも格好よかったし、サーシャさんも美人だったし。
ちらりとシスの男くさい横顔を見上げた。
声を掛けて励まそうとも思ったけど、よく考えたら、シスは負けた相手に明日も会わないといけない。私はあの二人はたった数時間で大好きになったけど、シスはそうでもないみたいだから、本当は嫌なんだろう。
「……」
ずっとだんまりを決め込んでいるので、日頃はうるさいくらい喋りっ放しのシスだから正直薄気味が悪い。
やっぱり何か言おうかなあ、でもなんて言ったらいいのかなあ、なんて考えている内に、あっさりと宿屋に到着してしまった。
ヒトの町とは違って、亜人街で使われている光源は炎だ。硝子の球体が幾つもぶら下がっていて、その中にあるのは多分オイルランプ。炎が透明の硝子の表面にキラキラと反射して、結構明るい。
そんな何だかノスタルジックな温かい色に出迎えられ、シスの無言にいい加減モゾモゾしていたのも相まって、思わずホッとしてしまった。今日一日頑張ったな、なんて安堵かもしれない。小町、無事生還! て感じかな。
「ああ、おかえりなさい」
にこやかに出迎えてくれたのは、ヤギっぽい角が生えている宿屋の店主だった。緩やかな弧を描いていた店主の目が、シスに移動して丸くなる。
「……あれ? 大浴場に行ったんじゃ」
折角お風呂に入れたのに、シスは数時間で埃だらけになってしまった。しかも傷だらけ。そりゃ言いたくもなるだろう。
それに、折角の眼福が物凄く勿体ない。分かる、分かるよ、おじさん。
「……ちょっとあれこれありまして」
相変わらずシスがムスッとして何も言わないので、私が代わりに伝えた。シスにとってはペットな私が、亜人の応対をしても問題ないんだろうか。まあ、実際の主従の主は私だけども。
「ま、部屋にも小さいけど風呂はあるから。でもその服でベッドに寝転ばない様にお願いしますね」
「分かりました」
店主は無料だから、とガサゴソとカウンターの下を漁り始める。何だろうと思って待っていると、部屋着の貸し出しだった。ついでなので、私の分も借りることにする。
ダボッとした長袖長ズボンで、布はそれなりに分厚い。あまりにも薄いとシスに見られるのはなあ、と思っていたので、ちょっと安心した。……まあ、シスは私のことを喋るペットとしか思ってないから、布が薄かろうが関係ないんだろうけど。そもそもがお子ちゃま脳だし。
「カウンターの横に籠があるから、使用済はそこに入れておいて下さい」
「分かりました、ありがとうございます」
受け取りながらぺこりと頭を下げると、宿屋の店主が鼻をスン、と鳴らした。若干の苦みを含んだ笑いを浮かべる。
「ちゃんと洗ったんですね。よかったよかった」
毎晩せっせとシスが私にこすり付けて蓄積していたシス臭が、ようやく落ちたってことなんだろう。相変わらず私にはさっぱり分からないけど。
「あはは、色んな人に驚かれちゃいました……。そんなに凄かったんですね」
「ええ、そりゃもう」
店主が、実感の籠もった声で言った。
私には多分一生分からないけど、まあ相当シスの独占臭がしていたことは想像に難くない。あれだけ色んな人に言われれば、私にだってさすがに分かる。
「じゃ、じゃあ!」
「はい、おやすみなさいませ」
あまりにも居た堪れなくなり、シスの背中を押しながら部屋へと戻ることにした。明るい所でよく見ると、背中も砂だらけだ。
「シス、はたくよ」
一応ひと口断ってから、シスの背中をはたく。くっついているのは落ちたけど、こびり付いたのは落ちない。シスの隣に追いついて、唇を噛み締めたままのシスを見上げた。
「あんたね、背中も汚れてるから、ちゃんと部屋のお風呂に入りなさいよ?」
「……分かった」
小さすぎる声だけど、一応返答があった。シスに持たせると不安で私が預かっていた鍵で中に入ると、部屋の中は真っ暗だ。
「えっ!? 明かりはないの!?」
真っ暗で何も見えない。私が慌てていると、シスがスッと中へ入って行った。シュッと音がしたと思うと、天井にぶら下がっている、受付にあったのよりひと回り小さめのオイルランプに火が灯る。
「どうやって付けたの?」
しっかりと鍵を締めてから、ランプの下の部分に手を触れているシスの元へ駆け寄る。
「ここにボタンがあるから、これを押すんだ」
「へえー。なるほどね」
「消す時は長押しなー」
あ、ようやく喋ってくれた。ちょっと嬉しくなって、少しはしゃぐ。
「あ、じゃああっちのをやってみよ!」
狭い風呂場の中にも同じランプがあったので、試しにボタンを押してみる。どういう作りかは分からないけど、チリッと火花が散った後、赤い炎が上がった。……うわあ、キレイ。
「……小町」
「うわあっ!」
いつの間にか後ろに立っていたシスに、声を掛けられる。振り返ろうとしたけど、背後から抱き竦められて叶わなかった。
「え!? シ、シス、ななななに!?」
首筋に、シスの熱い息が掛かる。び、びっくりした。シスが、暗い声でぼそりと呟く。
「小町。俺、負けちまった……」
まだ言っている。余程悔しかったらしい。ふう、と息を吐くと、首の下に回されたシスの腕をトントンと叩いてやった。
「相手は空が飛べたから、仕方ないって」
「小町……」
暗い。正直言って、物凄くやりにくい。いつものアホで明るいシスはどこへいったの! あっちの方がいいんだけど!
苦しそうな声で、シスが尋ねた。
「俺は負けたのに、まだ小町の護衛でいていいのか……?」
「へ?」
なあんだ、そんなことでへこんでたのか。何ていうか……馬鹿みたい。可愛いなんて思っちゃったじゃない。
「あ、あったり前でしょ!? あんたがいないと困るんだから、途中で投げ出さないでよね!」
……さすがにちょっと上から過ぎたかな。
でも、返ってきたシスの声は、明るくなっていた。
「……へへ、うん、小町……!」
逞しい腕が、更にきゅっと締め付ける。シスはその後暫く、私の首に頬を擦り付けたままだった。
当然の様に私の手を大きな手で握ると、考え込む様に唇を噛み締める。無言のまま先頭に立つと、私を引っ張り始めた。
静かすぎるのが不気味で、余程サーシャさんに負けたことがショックだったんだろうな、と勝敗については触れないことにする。触らぬ神に祟りなしってやつだ。
シスの場合、負けたからって怒って暴れたりはないだろうだけど、この様子を見る限り、ひたすら延々落ち込んでいそうだ。それはそれで面倒くさい。
普段明るい奴が自信の根拠を失うとこうなるという実例を、今私は目の前で体験していた。シスの中では、強さが全てだったんだろう。顔なんて滅茶苦茶いいのに、そういえばシスは自分の顔がどうのって言ったことは一度もなかったかもしれない。
亜人の美醜の基準ってどうなってるんだろう。気になった。
シスと比べたら、私は超絶美少女です、なんてとてもじゃないけど言えない。でも一応、自己分析的に、まあ、うんそれなりに程度の認識だ。シスが時折可愛いって言うことを考えたら、亜人とヒトの美意識に大差はないのかもしれない。タロウさんも格好よかったし、サーシャさんも美人だったし。
ちらりとシスの男くさい横顔を見上げた。
声を掛けて励まそうとも思ったけど、よく考えたら、シスは負けた相手に明日も会わないといけない。私はあの二人はたった数時間で大好きになったけど、シスはそうでもないみたいだから、本当は嫌なんだろう。
「……」
ずっとだんまりを決め込んでいるので、日頃はうるさいくらい喋りっ放しのシスだから正直薄気味が悪い。
やっぱり何か言おうかなあ、でもなんて言ったらいいのかなあ、なんて考えている内に、あっさりと宿屋に到着してしまった。
ヒトの町とは違って、亜人街で使われている光源は炎だ。硝子の球体が幾つもぶら下がっていて、その中にあるのは多分オイルランプ。炎が透明の硝子の表面にキラキラと反射して、結構明るい。
そんな何だかノスタルジックな温かい色に出迎えられ、シスの無言にいい加減モゾモゾしていたのも相まって、思わずホッとしてしまった。今日一日頑張ったな、なんて安堵かもしれない。小町、無事生還! て感じかな。
「ああ、おかえりなさい」
にこやかに出迎えてくれたのは、ヤギっぽい角が生えている宿屋の店主だった。緩やかな弧を描いていた店主の目が、シスに移動して丸くなる。
「……あれ? 大浴場に行ったんじゃ」
折角お風呂に入れたのに、シスは数時間で埃だらけになってしまった。しかも傷だらけ。そりゃ言いたくもなるだろう。
それに、折角の眼福が物凄く勿体ない。分かる、分かるよ、おじさん。
「……ちょっとあれこれありまして」
相変わらずシスがムスッとして何も言わないので、私が代わりに伝えた。シスにとってはペットな私が、亜人の応対をしても問題ないんだろうか。まあ、実際の主従の主は私だけども。
「ま、部屋にも小さいけど風呂はあるから。でもその服でベッドに寝転ばない様にお願いしますね」
「分かりました」
店主は無料だから、とガサゴソとカウンターの下を漁り始める。何だろうと思って待っていると、部屋着の貸し出しだった。ついでなので、私の分も借りることにする。
ダボッとした長袖長ズボンで、布はそれなりに分厚い。あまりにも薄いとシスに見られるのはなあ、と思っていたので、ちょっと安心した。……まあ、シスは私のことを喋るペットとしか思ってないから、布が薄かろうが関係ないんだろうけど。そもそもがお子ちゃま脳だし。
「カウンターの横に籠があるから、使用済はそこに入れておいて下さい」
「分かりました、ありがとうございます」
受け取りながらぺこりと頭を下げると、宿屋の店主が鼻をスン、と鳴らした。若干の苦みを含んだ笑いを浮かべる。
「ちゃんと洗ったんですね。よかったよかった」
毎晩せっせとシスが私にこすり付けて蓄積していたシス臭が、ようやく落ちたってことなんだろう。相変わらず私にはさっぱり分からないけど。
「あはは、色んな人に驚かれちゃいました……。そんなに凄かったんですね」
「ええ、そりゃもう」
店主が、実感の籠もった声で言った。
私には多分一生分からないけど、まあ相当シスの独占臭がしていたことは想像に難くない。あれだけ色んな人に言われれば、私にだってさすがに分かる。
「じゃ、じゃあ!」
「はい、おやすみなさいませ」
あまりにも居た堪れなくなり、シスの背中を押しながら部屋へと戻ることにした。明るい所でよく見ると、背中も砂だらけだ。
「シス、はたくよ」
一応ひと口断ってから、シスの背中をはたく。くっついているのは落ちたけど、こびり付いたのは落ちない。シスの隣に追いついて、唇を噛み締めたままのシスを見上げた。
「あんたね、背中も汚れてるから、ちゃんと部屋のお風呂に入りなさいよ?」
「……分かった」
小さすぎる声だけど、一応返答があった。シスに持たせると不安で私が預かっていた鍵で中に入ると、部屋の中は真っ暗だ。
「えっ!? 明かりはないの!?」
真っ暗で何も見えない。私が慌てていると、シスがスッと中へ入って行った。シュッと音がしたと思うと、天井にぶら下がっている、受付にあったのよりひと回り小さめのオイルランプに火が灯る。
「どうやって付けたの?」
しっかりと鍵を締めてから、ランプの下の部分に手を触れているシスの元へ駆け寄る。
「ここにボタンがあるから、これを押すんだ」
「へえー。なるほどね」
「消す時は長押しなー」
あ、ようやく喋ってくれた。ちょっと嬉しくなって、少しはしゃぐ。
「あ、じゃああっちのをやってみよ!」
狭い風呂場の中にも同じランプがあったので、試しにボタンを押してみる。どういう作りかは分からないけど、チリッと火花が散った後、赤い炎が上がった。……うわあ、キレイ。
「……小町」
「うわあっ!」
いつの間にか後ろに立っていたシスに、声を掛けられる。振り返ろうとしたけど、背後から抱き竦められて叶わなかった。
「え!? シ、シス、ななななに!?」
首筋に、シスの熱い息が掛かる。び、びっくりした。シスが、暗い声でぼそりと呟く。
「小町。俺、負けちまった……」
まだ言っている。余程悔しかったらしい。ふう、と息を吐くと、首の下に回されたシスの腕をトントンと叩いてやった。
「相手は空が飛べたから、仕方ないって」
「小町……」
暗い。正直言って、物凄くやりにくい。いつものアホで明るいシスはどこへいったの! あっちの方がいいんだけど!
苦しそうな声で、シスが尋ねた。
「俺は負けたのに、まだ小町の護衛でいていいのか……?」
「へ?」
なあんだ、そんなことでへこんでたのか。何ていうか……馬鹿みたい。可愛いなんて思っちゃったじゃない。
「あ、あったり前でしょ!? あんたがいないと困るんだから、途中で投げ出さないでよね!」
……さすがにちょっと上から過ぎたかな。
でも、返ってきたシスの声は、明るくなっていた。
「……へへ、うん、小町……!」
逞しい腕が、更にきゅっと締め付ける。シスはその後暫く、私の首に頬を擦り付けたままだった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。
ふまさ
恋愛
いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。
「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」
「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」
ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。
──対して。
傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる