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第44話 『神の庭物語』
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ヒトの町で暮らしているなら誰もが知っている、おとぎ話の『神の庭物語』。
内容はこうだ。
昔々あるところに、美しい建造物が天高くそびえ立つ大きな街があった。それは、病気もなく、難しいことは機械がやってくれる、ヒトにとっての楽園だった。
ある日、平和だった楽園に、怖い悪魔がやってくる。悪魔は楽園を破壊し、ヒトはバタバタと死んでいった。
このままでは全滅してしまう。危機感を覚えた楽園の管理者は、かねてより避難場所として用意していたもうひとつの楽園、『神の庭』への移住を決断した。
選ばれし神の子たちは、悪魔により破壊されたかつての楽園を、光る神の船に乗って離れた。向かう先は、遥か彼方に存在する新天地、『神の庭』だ。
荒れ果てた地上に残されたのは、悪魔の子と、それに抗う力を神の子により授けられた使徒。
使徒は、もしどうしても困ったことになったら、『神の庭』へと繋がるかつての楽園を訪れなさい、と神の子に教わった。楽園を訪れた者にのみ、救いの手を伸べようと。
そしていつか使徒が悪魔の子を浄化したら、その時は再び楽園に訪れ、神の子を呼びなさい、と命じられる。
その時、『神の庭』から光る神の船が遣わされ、楽園は再び輝きに満ちるだろう――という話だ。
「かつてのメガロポリス、俺たちヒトが呼ぶところのネクロポリスがそれなんじゃないかって話は、俺もなんとなく聞いた覚えがある」
タロウさんが渡してくれたおしぼりで瞼を拭っていると、タロウさんが考え込む様に話し始めた。
「ネクロポリスの存在自体がヒトの間では眉唾だったけど、あまりにも伝承が多く残ってるから、実際に存在するんじゃないかって言われてたんだよ」
「私も、研究員のお姉さんに聞いて、もうそれしかないって思ったんです!」
拳を握り締めて、私は力説を始めた。
「この使徒っていうのって、多分私たちヒトのことですよね!? だとしたら、『神の庭』に行っちゃった神の子とコンタクトが取ることが出来たら、もしかしたら小夏の命も助かるかもしれない。そう思ったんです!」
前のめりになって、うんうん、と頷いてくれるタロウさんに向かって語り続ける。そう、私は今ようやく味方を得た気持ちになれていたのだ。
両親は、はなから信じていない。もしかしたら、研究員のお姉さんだって、半分も信じてなかったんじゃないか。なのに、一番助かりたいだろう小夏の前でお姉さんがそんなことを口走ってしまったから、お母さんは怒った。もう歩けない小夏が自分で『神の庭』に行くなんてことが出来ないのは、最初から分かっていたから。
心優しい小夏は、亜人が闊歩している町の外に自分を助ける為に誰かに行ってほしいなんて、口が避けても言わない。だから、悲しそうに笑って「本当にあったらいいですね」って言っただけだった。
その顔を見て、私は何とかしないと、と思った。
小桃は、私と一緒に可能性を検討してくれた。私が小夏を溺愛しているのはよく知っていたから、もしかしたら私が納得いくまで一緒に調べて、可能性がないってことを分からせたかったのかもしれない。
だけど、絶対駄目な証拠は出てこなかった。調べれば調べるほど、町の外にはネクロポリスが存在しているんじゃないかと思えてきた。それに、『神の庭物語』がここまでヒトに浸透しているのには、絶対意味がある筈だ。
他のおとぎ話とは、明らかに毛色が違う内容だ。昔から町に定められている推奨するおとぎ話の筆頭に指定されていることからも、実際に昔のヒトが子孫に未来を託したくて残したメッセージなんじゃないか。そう思えてきた。
だから私は、止める小桃を説得して、旅の準備を進めた。
私が言い出したら聞かない姉なのは、小桃はよく知っている。泣いたり怒ったりして散々説得されたけど、このまま小夏が死ぬのを待ってなんていたくないときっぱりと言うと、とうとう折れた。
「そしたら……シスが、死都って呼ばれる場所があるって教えてくれて、それだ! て思ったんです」
そう。シスにはさもネクロポリスはあって当然みたいな話し方をしちゃったけど、まだあの段階ではシスがどんな奴かも分からなかったし、何が亜人の常識なのかもちっとも分かってなかった時だ。だから、さも私は知ってます風に言い切った。
すると、シスは死都のことを詳しく語った。昔ヒトが沢山住んでたすっげー背の高い建物が一杯ある所で、建物の崩壊があって危ないから近寄っちゃ駄目だって言われてる『死の都』があると。
それを聞いた瞬間、足許から崩れ落ちそうになった。あった、本当にあったんだって、信じられない思いで一杯になった。
町の外に滅多に出ないヒトは知らなくても、外の世界を自由に歩き回れる亜人が知っているなら、絶対そっちの情報の方が正しいに決まってる。
「だから、シスのことは全然信用出来なかったけど、アホッぽいから嘘は言ってないだろうし、と思って、信じることにしてみたんです」
私の言葉に、タロウさんが口に拳を当ててブッと吹いた。
「アホッぽいって……くく、まあ分かんなくはないけどね」
ひと通りアハアハと笑った後、タロウさんは胡座の上で指を絡ませつつ、私を見てにこりとする。
「シスくんがいい亜人だって、今は思ってるんだろ?」
「へ……っ」
いきなりなんでシスの話に切り替わっちゃったんだろう。思わずドギマギしていると、タロウさんが安心させる様な穏やかな声で続けた。
「ヒトだとか亜人だとか、俺はサーシャと出会ってどうでもよくなったよ」
「そう……なんですか?」
「まあ、生活習慣も常識も町とは違うから、戸惑うことも多いけどね」
バチン、と聞こえてきそうなウインクをされる。やっぱり大分色々違うらしい。便利な科学なんて殆ど何もない亜人の生活は、さぞや不便だったろう。
――でも、シスが全部面倒を見てくれた。アホだ馬鹿だって私が思っているのに、アイツは全部私が困らない様に笑顔で何でもやってくれた。
タロウさんとサーシャさんの仲睦まじい様子を思い返すと、シスの言う通り、自分がちょっと冷たく当たりすぎている気になってきてしまった。
タロウさんは、穏やかに続ける。
「それでも、亜人の気持ちの真っ直ぐさは、不自然な遺伝子マッチングが当たり前になってた俺の常識を塗り替えてくれて、俺はようやく色んなものから自由になれた気がしたよ」
「自由……ですか?」
タロウさんは深々と頷いた。
「そ。好きなんだから別にいいじゃないかって、ただそう思えた相手だからね」
だから、ヒトの町に戻りたいとはもう思わない。
爽やかにきっぱりと言い切って窓の外を眺めるタロウさんの横顔は、清々しいものだった。私は何と答えていいか分からず、ただそれを見つめることしか出来なかった。
内容はこうだ。
昔々あるところに、美しい建造物が天高くそびえ立つ大きな街があった。それは、病気もなく、難しいことは機械がやってくれる、ヒトにとっての楽園だった。
ある日、平和だった楽園に、怖い悪魔がやってくる。悪魔は楽園を破壊し、ヒトはバタバタと死んでいった。
このままでは全滅してしまう。危機感を覚えた楽園の管理者は、かねてより避難場所として用意していたもうひとつの楽園、『神の庭』への移住を決断した。
選ばれし神の子たちは、悪魔により破壊されたかつての楽園を、光る神の船に乗って離れた。向かう先は、遥か彼方に存在する新天地、『神の庭』だ。
荒れ果てた地上に残されたのは、悪魔の子と、それに抗う力を神の子により授けられた使徒。
使徒は、もしどうしても困ったことになったら、『神の庭』へと繋がるかつての楽園を訪れなさい、と神の子に教わった。楽園を訪れた者にのみ、救いの手を伸べようと。
そしていつか使徒が悪魔の子を浄化したら、その時は再び楽園に訪れ、神の子を呼びなさい、と命じられる。
その時、『神の庭』から光る神の船が遣わされ、楽園は再び輝きに満ちるだろう――という話だ。
「かつてのメガロポリス、俺たちヒトが呼ぶところのネクロポリスがそれなんじゃないかって話は、俺もなんとなく聞いた覚えがある」
タロウさんが渡してくれたおしぼりで瞼を拭っていると、タロウさんが考え込む様に話し始めた。
「ネクロポリスの存在自体がヒトの間では眉唾だったけど、あまりにも伝承が多く残ってるから、実際に存在するんじゃないかって言われてたんだよ」
「私も、研究員のお姉さんに聞いて、もうそれしかないって思ったんです!」
拳を握り締めて、私は力説を始めた。
「この使徒っていうのって、多分私たちヒトのことですよね!? だとしたら、『神の庭』に行っちゃった神の子とコンタクトが取ることが出来たら、もしかしたら小夏の命も助かるかもしれない。そう思ったんです!」
前のめりになって、うんうん、と頷いてくれるタロウさんに向かって語り続ける。そう、私は今ようやく味方を得た気持ちになれていたのだ。
両親は、はなから信じていない。もしかしたら、研究員のお姉さんだって、半分も信じてなかったんじゃないか。なのに、一番助かりたいだろう小夏の前でお姉さんがそんなことを口走ってしまったから、お母さんは怒った。もう歩けない小夏が自分で『神の庭』に行くなんてことが出来ないのは、最初から分かっていたから。
心優しい小夏は、亜人が闊歩している町の外に自分を助ける為に誰かに行ってほしいなんて、口が避けても言わない。だから、悲しそうに笑って「本当にあったらいいですね」って言っただけだった。
その顔を見て、私は何とかしないと、と思った。
小桃は、私と一緒に可能性を検討してくれた。私が小夏を溺愛しているのはよく知っていたから、もしかしたら私が納得いくまで一緒に調べて、可能性がないってことを分からせたかったのかもしれない。
だけど、絶対駄目な証拠は出てこなかった。調べれば調べるほど、町の外にはネクロポリスが存在しているんじゃないかと思えてきた。それに、『神の庭物語』がここまでヒトに浸透しているのには、絶対意味がある筈だ。
他のおとぎ話とは、明らかに毛色が違う内容だ。昔から町に定められている推奨するおとぎ話の筆頭に指定されていることからも、実際に昔のヒトが子孫に未来を託したくて残したメッセージなんじゃないか。そう思えてきた。
だから私は、止める小桃を説得して、旅の準備を進めた。
私が言い出したら聞かない姉なのは、小桃はよく知っている。泣いたり怒ったりして散々説得されたけど、このまま小夏が死ぬのを待ってなんていたくないときっぱりと言うと、とうとう折れた。
「そしたら……シスが、死都って呼ばれる場所があるって教えてくれて、それだ! て思ったんです」
そう。シスにはさもネクロポリスはあって当然みたいな話し方をしちゃったけど、まだあの段階ではシスがどんな奴かも分からなかったし、何が亜人の常識なのかもちっとも分かってなかった時だ。だから、さも私は知ってます風に言い切った。
すると、シスは死都のことを詳しく語った。昔ヒトが沢山住んでたすっげー背の高い建物が一杯ある所で、建物の崩壊があって危ないから近寄っちゃ駄目だって言われてる『死の都』があると。
それを聞いた瞬間、足許から崩れ落ちそうになった。あった、本当にあったんだって、信じられない思いで一杯になった。
町の外に滅多に出ないヒトは知らなくても、外の世界を自由に歩き回れる亜人が知っているなら、絶対そっちの情報の方が正しいに決まってる。
「だから、シスのことは全然信用出来なかったけど、アホッぽいから嘘は言ってないだろうし、と思って、信じることにしてみたんです」
私の言葉に、タロウさんが口に拳を当ててブッと吹いた。
「アホッぽいって……くく、まあ分かんなくはないけどね」
ひと通りアハアハと笑った後、タロウさんは胡座の上で指を絡ませつつ、私を見てにこりとする。
「シスくんがいい亜人だって、今は思ってるんだろ?」
「へ……っ」
いきなりなんでシスの話に切り替わっちゃったんだろう。思わずドギマギしていると、タロウさんが安心させる様な穏やかな声で続けた。
「ヒトだとか亜人だとか、俺はサーシャと出会ってどうでもよくなったよ」
「そう……なんですか?」
「まあ、生活習慣も常識も町とは違うから、戸惑うことも多いけどね」
バチン、と聞こえてきそうなウインクをされる。やっぱり大分色々違うらしい。便利な科学なんて殆ど何もない亜人の生活は、さぞや不便だったろう。
――でも、シスが全部面倒を見てくれた。アホだ馬鹿だって私が思っているのに、アイツは全部私が困らない様に笑顔で何でもやってくれた。
タロウさんとサーシャさんの仲睦まじい様子を思い返すと、シスの言う通り、自分がちょっと冷たく当たりすぎている気になってきてしまった。
タロウさんは、穏やかに続ける。
「それでも、亜人の気持ちの真っ直ぐさは、不自然な遺伝子マッチングが当たり前になってた俺の常識を塗り替えてくれて、俺はようやく色んなものから自由になれた気がしたよ」
「自由……ですか?」
タロウさんは深々と頷いた。
「そ。好きなんだから別にいいじゃないかって、ただそう思えた相手だからね」
だから、ヒトの町に戻りたいとはもう思わない。
爽やかにきっぱりと言い切って窓の外を眺めるタロウさんの横顔は、清々しいものだった。私は何と答えていいか分からず、ただそれを見つめることしか出来なかった。
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