可愛がっても美形吸血鬼には懐きません!~だからペットじゃないってば!

ミドリ

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第38話 意外な事実

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 タロウさんとサーシャさんは、二人で決めた料理を手早く注文してくれた。

 シスはジッと警戒する様に正面に座る二人を見たまま、ろくに口を開こうともしない。

 仕方ない。元々シスに話を聞き出すことなんて期待してなかったし、ここは私が主導権を握って進めるしかないと思い、口を開いた。

「それで……お二人はどういった関係なんですか?」

 シスの膝の上に座りながら聞くのもどうかと思ったけど、シスの腕が私の腰回りから離れようとしないので勘弁してもらいたい。

 意識し過ぎると心臓が爆発して多分まともに息も出来なくなるので、私は心頭滅却することにした。私が腰掛けているのは、ちょっと弾力のある椅子。以上。

 サーシャさんが隣のタロウさんを、優しい眼差しで見つめた。あまり色恋沙汰に詳しくない私だって、この二人が恋仲にあることくらいはもう分かる。だって道端でキスしてるし。ずっとイチャイチャしてるし。

 だけど、聞きたいのはそういうことじゃなかった。

 タロウさんはサーシャさんの視線に応える様に、自分の膝の上にサーシャさんの手を持ってきて上から握った。あまりにも自然なその触れ方に、タロウさんはサーシャさんのことを亜人としてじゃなく女の人としてちゃんと見ているんだなと思えた。

 私が座っている椅子とは大違いだ。

 タロウさんとサーシャさんは目配せをした後、タロウさんが目元を緩ませてから私に向き直る。タロウさんが話をしてくれるらしい。

「……俺は海沿いにある海命区カイメイ・ディストリクト出身なんだが、小町ちゃんは知ってる?」

 海命区カイメイ・ディストリクト。この辺りでは、済世区サイセイ・ディストリクトの次に人口が多いヒトの町な筈だ。

「東の海沿いにある町ですよね」
「うん。小町ちゃんはどこの町から来たの?」
済世区サイセイ・ディストリクトです」
「そっかあ……遠くまで来たね」

 タロウさんは感心した様に小さく頷いた後、サーシャさんの手を撫でながら語り始めた。

「俺は 海命区カイメイ・ディストリクトで、元は亜人避けの装置の技師をしてたんだ」

 キリッとした眉の下の瞳は、柔らかい。

「電気結界とか、街道にある亜人避けの音が出る装置の設置工事やメンテナンスが主な仕事なんだけど、当然町の中の仕事に比べれば危険度は増すよね」

 済世区サイセイ・ディストリクトを出て街道が切れるまで、私の安全を守ってくれた装置だ。効果はかなりあるけど、街道が切れたところでシスはすぐ近くまで寄ってきていた。つまりは、短距離しか効果がない。設置している最中に亜人に襲われる危険性が高い仕事ということだ。

「確かに、街道を離れた途端、次々に亜人に襲われました。設置の最中は相当危険ですよね、分かります」

 頷きながらそう返すと、タロウさんの目が見開かれた。

「よく無事だったねえ」
「魚人と人狼に襲われたんですけど、丁度その時にシスに会って、助けてくれたんです」

 現在座っている肉の椅子をちょっとだけ振り返ると、シスは私の額に鼻先を擦りつけた。……うひゃああ。

 シスの顔面に手を当てて後ろに押すと、シスは不機嫌そのものの表情で私の髪の毛に鼻先を突っ込むことにした様だ。ちょっとさっきから何なのコイツ。もう、心臓バクバクで匂い凄くないかな。

 すると案の定、シスがスン、と鼻を鳴らした。

「……何でドキドキしてるんだ、小町」

 ごく小さな低い声が、私に尋ねてくる。ひいい、怒ってるよ、あの怒らないシスが怒ってるよ、怖いんだけど。

 更に低くなった声で、唸る様に呟いた。

「あのヒトか」
「ち、違うってば」

 小声で言い返すと、無理やり話を促すことにする。

「すみません、続きをお願いします!」

 私たちがヒソヒソやっている声が聞こえたのか聞こえてないのかは知らないけど、二人とも微妙な温い目でこっちを見ている。なに、その目は。

 タロウさんが、ゆったりと話を再開した。

「元々、町の外に出るのは伴侶がいない男ばかりなんだ。理由は知ってる?」
「いえ」

 素直に首を横に振る。

「簡単に言えば、死んでも悲しんだり困ったりする人が少ないからかな」
「あ……」

 小さな声を出すと、タロウさんもくすりと小さく笑った。

「俺はマッチングして結婚して一年くらいで、相手が不慮の事故で亡くなったんだよね。相手のことはちゃんと好きだったし、再マッチングも選べたんだけど、そんな気になれなくて」

 奥さんのことを愛してたんだなあと思うと、やはりマッチングは遺伝子レベルで検索されるからか、大分相性がいいのかもしれない。

「これまでは、町の外に出ることはあっても、メンテナンスくらいで新規に設置はやってなかったんだ。でも、ひとり亜人に攫われたか食われたかした奴が戻って来なくなって、俺に番が回ってきた」

 かなり危険度の高い仕事であることに間違いはない。私はごくりと唾を呑むと、タロウさんの言葉の続きを待った。

「半分自暴自棄になってたところもあったと思う。あんまり町から離れるなって散々言われてたけど、俺は言うこと聞かずにどんどんひとりで進んで、それである日、亜人に襲われた」
「だ、大丈夫だったんですか?」

 大丈夫だったからここにいるんだろうけど、聞かずにはいられなかった。

 タロウさんが、苦笑する。

「襲ったのは馬の亜人だった。幸いなことに、俺は食われる為に攫われたんじゃなくて、この亜人街に高値で売られる為に捕らえられたんだそうだ」
「突然ガブリみたいのはないんですねえ……意外」

 私が驚きながら言うと、タロウさんが首を傾げた。

「そっか、外に出る技師の間では常識だったけど、町の中じゃあまり知られてない話だもんな」

 ひとり納得している。

「え? 何がです?」

 タロウさんは、サーシャさんに微笑み掛けながら教えてくれた。

「亜人はね、男の亜人は女のヒトに、女の亜人は男のヒトに無性に惹かれるらしいんだよ」
「……へ?」

 思わずシスを振り返る。シスの金色の目はいつになく真剣そのもので、私を見つめ続けていた。

「逆を言えば、男のヒトばかり外で作業するのは、外を彷徨いて狩りをしたりするのが大抵男の亜人でそこまでヒトに興味を示さないからなんだよ」
「……えええ!?」

 驚きのあまり二人の方に身を乗り出すと、シスが私の腰に巻きつけていた腕に力を入れて、引き戻した。
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