可愛がっても美形吸血鬼には懐きません!~だからペットじゃないってば!

ミドリ

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第33話 鳥亜人VS豹亜人

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 身体を洗い終わり、椅子と桶を軽く洗い流す。筒の板を元に戻して手動のシャワーを止めると、椅子と桶を元の場所に戻してから湯船へと向かった。

 中には小人タイプの亜人、魚人に鳥亜人の三人だけだ。皆、私を見はしたけど、首に巻き付かれた黒い革の首輪を見ると興味を失った様だった。

 まずは爪先をゆっくりとお湯に浸す。少し熱いかなと感じたけどそのまま足を沈めていくと、底の方は思ったよりもぬるかった。そういや理科の授業で習ったっけなあと思い出しながら、中へと入っていく。

 いくら首輪を付けているとはいっても、今は匂いが落ちている状態だ。血行がよくなった状態で亜人の近くに寄ってガブリ、は嫌だ。

 なるべく全員から間を空けて、石段に腰掛けた。

「……ゔああ――……」

 変な声が出る。でも分かって、これは実に半月ぶりのお風呂。いくら超音波洗浄で汚れは落としていたとはいえ、お湯に浸かるのとは雲泥の差がある。ゆっくりと手足を伸ばしていくと、これまでの疲れがどっと出てきている気がした。

「生き返る……」

 一番上の石段に両肘を付いて上向き加減になると、我ながら形は悪くないんじゃない、と思う両胸がぽっかりと浮かぶ。すると丁度反対側に同じ様に寝そべっている鳥亜人のご立派な胸が視界に飛び込んできて、私は肩まで浸かった。

 そんな私を見て、鳥亜人がウインクをする。うわあ、自信満々で羨ましい。

 さて、あまりシスを待たせても腹減った腹減ったと言われるだろうから、あと二十を数えたら上がろうかな、と考えていたその時。

 ガラガラと木戸が開くと、豹柄の毛皮の亜人が入ってきた。この亜人は顔も中心以外は豹柄で、髪の毛の部分が少し長い。亜人によっても毛の生える部分に個体差があるのかもなあ、なんて思っていたら。

 豹亜人が、私を見て驚いた顔をした。

「おや、ヒトがいるじゃないか」

 豹亜人は何を思ったのか、スタスタと私のすぐ後ろまでやってくる。な、なに。豹亜人はボチャンと入ってくると、突然私の髪の毛を掴んで持ち上げた。

「痛いっ! 何するの!」

 豹亜人の手首を掴んで引き離そうとしたけど、びくともしない。その間にも、豹亜人はクンクンと私の耳元――頸動脈付近の匂いを嗅ぎ始めると、舌なめずりをした。

「やっとこの亜人街に着いたと思ったら宿代は高いしムシャクシャしてたんだけど、こんな美味しそうなのがあるなんてあたしゃツイてるねえ」
「痛いっ痛いってば!」
「なんでヒトが亜人の風呂に堂々と入ってるんだい? 亜人街はよく分からない所だねえ」

 なんてこった。この豹亜人は、シスと同じ田舎者なんだ。だから、亜人街でヒトが飼われていることを知らないらしい。

「私は食べちゃ駄目! しゅ……主人がいるんだから!」

 口に出すのは腹立たしかったけど、プライドと命だったら命の方が大事だ。

「主人ー? なんだよそれは」

 すると、それまで驚いた様に見ていた亜人の内、鳥亜人が立ち上がると豹亜人の手首を掴んだ。

「貴女、よそからやってきた人?」
「……そうだけど、あんたなんだよ。私の食事を横取りするのかい」

 豹亜人が、鳥亜人を睨みつける。鳥亜人は私の腰に腕を回すと、豹亜人と私の間に翼を挟み込んだ。まさかこの人、私を守ってくれるの。うわあ、滅茶苦茶いい人! そして豊満なお胸が背中に押し当てられている! うひゃあ!

 鳥亜人は、呆れた様な溜息を吐いた。

「ヒトを食べるなんて野蛮な真似しないわよ」
「野蛮だってえ……っ!?」

 豹亜人のこめかみが、ビキビキッとなっている。やばい怖いこの亜人。顔を鳥亜人の綺麗な顔に近付けると、シスとはまた違った形をした犬歯をぐわっと覗かせた。

 それでも、鳥亜人は冷静だ。そしてお胸は柔らかい。うは。

「この子の首輪は、ちゃんと主人がいますよっていう証なの。この首輪をしているヒトを襲ったら、主人の亜人に喧嘩を売ったのと同じになるのよ」
「はあ? それがどうした! そいつはあたしより強いって言うのかい!」

 豹亜人の強さなんて知らないしなあ、とビクビクしながら黙っていると、鳥亜人が代わりに答えてくれた。

「この子が身体を洗う前に付いていた匂いは相当だったわよ」

 それはもう散々言われたので、匂いは分からなくとも自覚は十分にある私は、コクコクと頷いた。豹亜人の歯が、ギリギリと嫌な音を奏でる。ひいいい! ゾワッとする!

 鳥亜人は続けた。

「そもそもヒトを飼っている時点で強いのよ。多分、貴女には敵わないわ」
「シ、シスは強いよ!」

 頷きながら鳥亜人に重ねて言うと、豹亜人は突然鳥亜人の顔面を鷲掴みし、湯船に突き飛ばす。盛大な水しぶきが立つと、鳥亜人につられて湯船にダイブした私の足を掴んだ。そのままぐいっと持ち上げられ、逆さ吊りになる。

「その子を離しなさい!」

 立ち上がった鳥亜人が怒鳴りながら、指からニュッと生えてきた鉤爪で、豹亜人の瞼を素早く引っ掻いた。

「ギャッ!」
「うわっ!」

 再び私は放り出され、ジャバンッと背中を水面に打ち付ける。痛い! 

 鳥亜人はそんな私を背中に庇うと、唖然として見ていた小人亜人と魚人に向かって叫んだ。

「番台さんを呼んできて! 早く!」
「わ、分かった!」

 魚人は湯船を泳いだ後に見事に空中に回転ジャンプを決めると、着地した勢いでそのまま外へと飛び出す。小人亜人は、プルプルと隅で震えていた。なんかごめん。
 
「……きっさまあああっ!」

 右瞼から血を垂らした豹亜人が、鬼の形相で私と鳥亜人に近付いてくる。

「二人ともまとめて殺してやるっ!」

 獣みたいな唸り声と共に、豹亜人が跳躍した。

「き……きゃああああっ!!」
「私の翼の中に!」

 死ぬ! さすがに死んじゃうかもしれない! 鳥亜人に庇われながら叫んだけど、……あれ、一向に襲われない。

 咄嗟に閉じていた瞼を開けると、床の上で動いているものがある。なんと豹亜人は、固そうな網に捕まっており、その中で藻掻いていた。

「なっなんだこれはっ!」

 相当絡まっているのか、豹亜人の声は相当苛立っている。あー怖い怖い。

「私の投網技術ってやっぱり最高よねえ!」

 ピンク色の魚人が親指をグッと立てた。

 おお! と私が拍手をしたその直後。

「――小町いいいいっ!」

 バン! と木戸を蹴り倒して飛び込んできたのは、素っ裸のシスだった。
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