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第4話 人狼VS吸血鬼
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私を上から押さえつけている亜人は、犬と呼ばれてプライドが傷付いたらしい。必死に訴え始めた。
「酷いぞ! あんなのと一緒にするなあ! 天下の人狼一族を犬って!」
「犬系統でしょ!」
そう叫びながら、私の上に乗って押さえつけようとする人狼の腹を蹴り続ける。とにかくゲシゲシと、休みなく。
「痛いっ! そこは急所! なんて所を蹴るんだよっ」
人狼の目に、涙が滲む。当たったら痛い所を蹴っちゃったらしい。私は、しめたとばかりにそこを狙い続けた。この際、そこが何かなんて気にしていられない。人命の方が大事。
「キャンッ!」
犬っぽい鳴き声を上げた人狼が、怒り任せに噛みつこうとする。私はそれを腕の力だけで押し返そうとした。だけど、相手の力が強すぎて、鋭利な牙が覗く口がどんどん私の首に近付いてきている。拙い、拙いって! 暴力反対!
「このおっ!」
踏ん張る為か、人狼が私の胸の上に前足を置いた。
「ひゃっ!」
むにょ、とした感触の後に、力任せに押された所為で痛みが走る。
「痛い痛い! いったあ! どこ触ってんの、このスケベ犬!」
私の罵倒に、人狼が青い目を見開いた。そして、自分の前足がどこに置かれているのかを確認する。
「ス、スケベ犬……っ!? あ……っむ、胸! や、柔らかあ……」
そんな感想聞いてない。望んでもない。初めて私の胸に触った異性が亜人だなんて、酷すぎる。
「よ、よく見ると若い女……っ」
ハッハッと長い舌を出して、人狼が私の顔をじーっと見つめ始めた。な、なに……?
「食べる前に、あ、味見……あ、いい香り……」
なんかイッちゃってそうなヤバい目になってきた人狼が、私の耳元をスンスンと嗅ぎ始める。これ、ヤバいよね? まさか……貞操の危機ってやつじゃ。断固、拒否!
「……はあああなあああせええええっ!」
初めてが亜人だなんて、ヒトとしてのプライドが絶対に許さない。ていうかその後食われるのは確実だし、ないから!
私は力一杯人狼を押し返しながら、何とか上から退かせようと蹴りを繰り返した。だけど、私と同じくらいの大きさの人狼は重くて、絶体絶命の大ピンチに陥っている。どうしよう。まだ町を出て三日しか経ってないのに、もう終わっちゃうの、私の旅。しかもそんな最期なんて、嫌すぎる。
すると、その時。
「おわっ!?」
私の上に乗っていた人狼が、突然宙に浮いた。な、なに? と思いながらも、体勢を整えるべく急いで起き上がると、目の前に立っていたのは。
「……旨そうな匂いがしたのは、お前か?」
重い筈の人狼を片手で軽々と持って私を見下ろしているのは、背の高い若い男だった。一見、ヒトにしか見えない。人狼には大した興味がないのか、じっと私を見つめ続けている。
「う、旨そうって……」
「ああ……それだ、血だ……」
男の目が、金色に怪しく輝き、目線が私の血だらけの肩に注がれた。ニヤリと笑った口から覗くのは、真っ直ぐに生えた二本の長い牙。
「きゅ、吸血鬼……!」
青い短めの癖っ毛が柔らかそうとか、胸を覆う黒い革の服を着てるのに何で筋肉が張った胸と腹部は丸出しなんだろう、とか色々と思ったけど、割れた腹部に見事な足跡が付いているのを見て「あ」と思わず呟いてしまった。さっき踏んだの、これじゃないか。
「お前を助けたら、それ飲める?」
吸血鬼の男が、小首を傾げた。少しきつめだけど、滅茶苦茶容姿端麗なシュッとした顔をしている。一見大人の男なのに、それに似合わない幼い仕草に、私はどう反応していいか一瞬戸惑った。混乱に陥りつつも、必死にこれまで学んだことを思い返す。
確か、吸血鬼は人食はそこまで好まない。欲しがるのは、その種族名の通り、血液だ。その為か、亜人の中では比較的ヒトに対しては穏やかな気質、だった筈。
――ただし、血を提供してあげていれば、の話だけど。
よし! 人狼よりはマシ! 比較した結果、幾分かマシそうな方を選択した。
「な……舐める程度ならいい!」
私の許可に、真っ向から反対したのは人狼だった。
「おい! このヒトの女は俺が味見した後に食うんだ! 横取りするなよ!」
襟首を掴まれてぶらんとぶら下げられている癖に、偉そうに喚き立てる。吸血鬼は、もう片方の手で胃の辺りをさすると、人狼をふーんという表情で眺めた後、のたまった。
「俺、すっげー腹減ってたんだよ」
「ちょ……っ」
人狼が、焦りからか目を剥く。弱肉強食の世界を垣間見た気がした。
吸血鬼が、牙をニュッと見せて笑う。……おう、超絶美形スマイル。ちょっと牙が目立つけど。
「だから、ちょっと頂戴?」
「わー! や、やめ……っ!」
吸血鬼は、そう言った直後。
カプリ。
問答無用で、人狼の首筋に鋭い牙を突き刺した。
「酷いぞ! あんなのと一緒にするなあ! 天下の人狼一族を犬って!」
「犬系統でしょ!」
そう叫びながら、私の上に乗って押さえつけようとする人狼の腹を蹴り続ける。とにかくゲシゲシと、休みなく。
「痛いっ! そこは急所! なんて所を蹴るんだよっ」
人狼の目に、涙が滲む。当たったら痛い所を蹴っちゃったらしい。私は、しめたとばかりにそこを狙い続けた。この際、そこが何かなんて気にしていられない。人命の方が大事。
「キャンッ!」
犬っぽい鳴き声を上げた人狼が、怒り任せに噛みつこうとする。私はそれを腕の力だけで押し返そうとした。だけど、相手の力が強すぎて、鋭利な牙が覗く口がどんどん私の首に近付いてきている。拙い、拙いって! 暴力反対!
「このおっ!」
踏ん張る為か、人狼が私の胸の上に前足を置いた。
「ひゃっ!」
むにょ、とした感触の後に、力任せに押された所為で痛みが走る。
「痛い痛い! いったあ! どこ触ってんの、このスケベ犬!」
私の罵倒に、人狼が青い目を見開いた。そして、自分の前足がどこに置かれているのかを確認する。
「ス、スケベ犬……っ!? あ……っむ、胸! や、柔らかあ……」
そんな感想聞いてない。望んでもない。初めて私の胸に触った異性が亜人だなんて、酷すぎる。
「よ、よく見ると若い女……っ」
ハッハッと長い舌を出して、人狼が私の顔をじーっと見つめ始めた。な、なに……?
「食べる前に、あ、味見……あ、いい香り……」
なんかイッちゃってそうなヤバい目になってきた人狼が、私の耳元をスンスンと嗅ぎ始める。これ、ヤバいよね? まさか……貞操の危機ってやつじゃ。断固、拒否!
「……はあああなあああせええええっ!」
初めてが亜人だなんて、ヒトとしてのプライドが絶対に許さない。ていうかその後食われるのは確実だし、ないから!
私は力一杯人狼を押し返しながら、何とか上から退かせようと蹴りを繰り返した。だけど、私と同じくらいの大きさの人狼は重くて、絶体絶命の大ピンチに陥っている。どうしよう。まだ町を出て三日しか経ってないのに、もう終わっちゃうの、私の旅。しかもそんな最期なんて、嫌すぎる。
すると、その時。
「おわっ!?」
私の上に乗っていた人狼が、突然宙に浮いた。な、なに? と思いながらも、体勢を整えるべく急いで起き上がると、目の前に立っていたのは。
「……旨そうな匂いがしたのは、お前か?」
重い筈の人狼を片手で軽々と持って私を見下ろしているのは、背の高い若い男だった。一見、ヒトにしか見えない。人狼には大した興味がないのか、じっと私を見つめ続けている。
「う、旨そうって……」
「ああ……それだ、血だ……」
男の目が、金色に怪しく輝き、目線が私の血だらけの肩に注がれた。ニヤリと笑った口から覗くのは、真っ直ぐに生えた二本の長い牙。
「きゅ、吸血鬼……!」
青い短めの癖っ毛が柔らかそうとか、胸を覆う黒い革の服を着てるのに何で筋肉が張った胸と腹部は丸出しなんだろう、とか色々と思ったけど、割れた腹部に見事な足跡が付いているのを見て「あ」と思わず呟いてしまった。さっき踏んだの、これじゃないか。
「お前を助けたら、それ飲める?」
吸血鬼の男が、小首を傾げた。少しきつめだけど、滅茶苦茶容姿端麗なシュッとした顔をしている。一見大人の男なのに、それに似合わない幼い仕草に、私はどう反応していいか一瞬戸惑った。混乱に陥りつつも、必死にこれまで学んだことを思い返す。
確か、吸血鬼は人食はそこまで好まない。欲しがるのは、その種族名の通り、血液だ。その為か、亜人の中では比較的ヒトに対しては穏やかな気質、だった筈。
――ただし、血を提供してあげていれば、の話だけど。
よし! 人狼よりはマシ! 比較した結果、幾分かマシそうな方を選択した。
「な……舐める程度ならいい!」
私の許可に、真っ向から反対したのは人狼だった。
「おい! このヒトの女は俺が味見した後に食うんだ! 横取りするなよ!」
襟首を掴まれてぶらんとぶら下げられている癖に、偉そうに喚き立てる。吸血鬼は、もう片方の手で胃の辺りをさすると、人狼をふーんという表情で眺めた後、のたまった。
「俺、すっげー腹減ってたんだよ」
「ちょ……っ」
人狼が、焦りからか目を剥く。弱肉強食の世界を垣間見た気がした。
吸血鬼が、牙をニュッと見せて笑う。……おう、超絶美形スマイル。ちょっと牙が目立つけど。
「だから、ちょっと頂戴?」
「わー! や、やめ……っ!」
吸血鬼は、そう言った直後。
カプリ。
問答無用で、人狼の首筋に鋭い牙を突き刺した。
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