クリスマスイブは勿論バイトですが文句ないよねだってこれはあんたのせいだ(改)

ミドリ

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7 お弁当のお届け

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 朝、カイトは私より一足早く家を出た。委員会の会議が朝あるとかなんとかボソボソと言っていた。

 昨日のカイトは、不機嫌マックスだった。これ以上機嫌の悪い雰囲気はうんざりだったので、これは助かった。

 元気に「いってらっしゃい!」と明るく送り出してあげた時のカイトの微妙な表情。ざまあみろだ。

 私は人の機嫌に右往左往されるほどやわな人間じゃない。そういうことは、気を使ってくれる別の優しい人間の前でやればいい。

 母と義父も、バタバタと私が用意したお弁当を手に取り家を出る。

「さて」

 私もそろそろ行こう。

 そう思って自分のお弁当を取りにキッチンに行くと、もうひとつお弁当が残されていた。カイトのだ。

「はあー……」

 思わず深い溜息が出た。

 あの機嫌の悪い奴にまた会わないといけないのか。

 しかも学校で弁当を渡すなんて、他の女子が嫉妬ギャーな少女漫画のシチュエーションそのまんまじゃないか。

「面倒くさい……」

 誰もいないキッチンに、私の本音が響き渡る。

 だけど、食事を粗末にすることは私の信条に反する。米の一粒一粒にはそれぞれ七人の神様が宿っているのだ。祖母が教えてくれたその教えは、当時の私の琴線に確かに触れたから。

 ――神様を粗末にする訳にはいかない。

 私は二人分の弁当をトートバッグに入れると、重い足取りで学校に向かった。





 学校に到着すると、まずは自分の鞄と弁当を自分の机の上に置いた。次いでトートバッグに入れた状態のカイトの弁当箱を持ち、隣のクラスへ向かう。

 気分は戦いに赴く武士だ。

 ――委員会は終わったかな。

 そっと教室の中を伺ったけど、ぱっと見た感じ、カイトはいなかった。長引いているのかもしれない。ここで待つか、どうしよう。

 クラスの中に入って机の上に置いていくほどの度胸は、モブの私にはなかった。女子の目が怖すぎる。

 どうしよう、早く戻ってこないかな。そう思ってキョロキョロとしていると、後ろから柔らかい声が降ってきた。

「あすみちゃん、どうしたの?」
「あ」

 カイトの不機嫌の元凶、シンが丁度登校してきたところだった。だけど、シンは同じクラスだ。机の上に置いてくるくらいは、きっとやってくれる筈。

「あの、カイトがお弁当を家に忘れちゃって、悪いんだけど机の上に置いてもらってもいい?」
「お安い御用ですよ」

 シンがふざけた様に言うと、私が持っていたトートバッグごと受け取った。

 肩の荷が一気に下りた気がして、自然と小さな笑みが溢れる。

「助かる。流石に他のクラスには入れなくて」
「まあそうだよね。――これ、中身なに? 美味しそうな匂いする」

 シンが弁当に鼻を近付けると、クンクンと嗅いだ。無邪気な仕草に、今度は普通の大きさの笑顔が出る。

「今日は普通。昨日揚げた唐揚げの残りに、オクラのおかか醤油でしょ、さばをソースカツ煮にしたのと卵焼きと」
「鯖のソースカツ煮ってすごい美味しそうだね」

 今日もキラキラはにこにこしている。朝からこれだけ輝ける人生とは、何と恵まれていることだろう。

 まあ、私は目立つのは嫌いだから、今の自分でいいけど。

「俺も食べたいなあ」

 シンが物欲しそうに弁当を見た。だけど、カイトの食欲は凄いものがある。もし間違ってシンが食べてしまったら、恐らく戦争が勃発するだろう。それは是非とも避けていただきたい案件だった。

「これはカイトのだから、ちゃんと渡してくれる?」
「はーい、分かりました」
「じゃあお願いね」
「うん」

 シンがひらひらと手を振った。その目線が、何故か私の後ろにある。ん? おかしい。

 疑問に感じながら後ろを振り向くと、仏頂面のカイトが立っていた。まだ機嫌が悪いらしい。怖い。

 まあここは用事を済ませて無難に立ち去ろう。私はそう思うと、事務的に要件を伝えることにした。

「あ、委員会終わった? お弁当、家に忘れていったから今シンくんに預け……」

 ぎろ、と無言で睨まれてしまい、黙り込む。カイトはシンが持っていたトートバッグを無言で奪うと、教室に消えていった。残された私とシンの目が合う。

 シンの目は、実に楽しそうに笑っていた。
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