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6 ガチギレカイト
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社交辞令もここまでくると凄いなあ、と思いながらシンを見上げる。
「気は使わなくていいから」
「そうじゃないよ」
にこにこにこにこ。よくここまでそう楽しくもない世間話で笑えるなあ。
すると、渡り廊下の奥から女子がキャーキャー言う声が聞こえてきた。体育館の方からだ。私の愚兄が騒がれているのかもしれない。
シンが体育館の方をちらっと見た後、また私を見てにこりとした。
「カイトがいない場所であすみちゃんと話したいんだ」
「……何で?」
カースト上位の女子の様に垢抜けてもなければ、飛び抜けて綺麗でも、明るくて元気な人気者でもない。どちらかというとひとりを好み、連れションは避けまくり、金にうるさく主婦。
つまり人種が違う。
「気になるけど、カイトがいると邪魔されるから」
「はあ」
これはあれか。珍種見たさか? カイトがシンを邪魔するのではなく、多分カイトは私を邪魔と思っているのだとは思うけど。
「まあ、ちゃんとお金を落としてくれるなら、お客さんだから来てもらって構わないけど」
店の売上は、やがて私の賃金として還元される。売上が上がれば、普段の時給だって交渉できる様になるかもしれない。
「やった。じゃあ明日行くから、カイトには俺と話したことは内緒ね」
まあ、知ったらぐちぐちは言われるだろう。私は軽く頷く。面倒を避けたいのは私も一緒だ。
階段を並んで上って行くと、先に私の教室の前に到着する。
「じゃあ」
シンに軽く挨拶すると、シンが私の耳元で囁いた。
「俺にもその内、美味しい肉じゃが食べさせてよ」
私は目を瞠る。
「え……? 何でそれを」
「へへ」
耳に息が吹き掛かる距離で、シンがいたずらっ子の様に笑った。
――カイトがメッセージのやり取りをしていたのは、シンだったんだ。
カイトのガードが固いと言っていた、シンの言葉。カイトの自慢する様な、マウントを取る様な文面。辿り着くのは、あり得ないひとつの可能性。
……ないない、あり得ない。
考えがまとまらないままただ突っ立っていると。
「じゃあね」
シンは軽く手を振って挨拶をして、隣の教室に入って行った。
「……いや、まさか、ねえ?」
シンが消えた後の景色をぼんやりと眺めていると、突然耳元に低い声が響く。
「何がまさかなんだ?」
「うわあああっ!」
汗で髪を湿らせたカイトが、後ろから私の顔を覗いていた。びっくりした。
「……なんだよそのリアクション」
カイトの目が細まる。
「あ、いや何でもない」
慌てて首を横に振ると、カイトの私を見る目が訝しげなものになった。
「何でそんな顔が赤いんだ」
「え、赤い?」
頬を触って確認したいけど、両手でゴミ箱を抱えている。
「しかもゴミ箱抱き締めて突っ立って、俺のクラスの方見て」
ブツブツとうるさい。いいじゃない、ゴミ箱を抱き締めたって。
「あ、ゴミ箱はゴミを捨てに行ってきたからで」
「じゃあ何見てたんだよ」
段々と尋問じみてきた。何となく視線を感じて後ろを振り返ると、女子たちが遠巻きにしてこちらを見ている。
連れ子同士なことは別に隠してもいないけど、あえて広めてもいなかった。どちらにしても面倒だったからだ。
なので、この視線は兄妹が何か連絡事項でも話しているのかというあまり興味のないのが半分、残り半分は何でお前がカイトと仲良く話してるのよ、かな。
だから学校で馴れ合いたくはなかったのに。というか、こいつもいつも私を避けていたのにどういう風の吹き回しだろう。
君子危うきに近寄らず。鉄則だ。
私は逃げの体勢に入った。
「……別に、何も」
「怪しいな」
随分としつこい。何がこいつをいつもとは違う行動を取るように促しているのか。
じっと睨まれているのは居心地が悪すぎて、私は話題を華麗にすり替えた。
「あ、今日買い物付き合ってね。イブのご飯の買い出しを今日全部するから。お金は後で徴収する」
「はぐらかすな」
すり替えられなかった。そして顔が怖い。更にこちらの様子を伺っている女子の目線も怖かった。
こうなれば、残された道は退却のみ。
「私、ゴミ箱戻してきたいんだけど」
徐々に立ち去ろうとすると、カイトが私の腕を掴んできた。怒った様な顔を近付けてくる。
「シンに会ったのか?」
「……なんで?」
どうしてシンの話題がここで上ぼるんだろう。
「バスケやろうって人を誘っといて、いつの間にかいなくなってたから」
「あんたがそんなこと言うくらい、シンくんってやばい人なの?」
どうもカイトとシンの間には何かあるみたいだ。シン、実はヤバい人説とか?
私がそう言うと、カイトの顔がみるみる機嫌の悪いものに変わっていく。クールビューティーが怒るとまじで迫力があって怖い。今すぐ逃げよう。敵前逃亡もやむなし。
「あの、ゴミ箱をそろそろね」
「シンくん? くん? 君付け?」
「あ」
しまった。こういうのを、やっちまった、というのだろう。
カイトは、それは低い低い声を出した。
「……帰るぞ。さっさと支度しろ」
「……はい」
これ以上怒らせたくはない。家の雰囲気が最悪になる。従って、私は素直に従うことにした。
カイトが仁王立ちをして、私が自分のクラスで支度をして戻るのを監視する。その後ろで、シンが頬を楽しそうに緩ませながら、こっそりと反対の廊下に消えて行ったのを視界の片隅で確認した。
何かに巻き込まれた。
そういうことなんだろう。私は首根っこを捕まえられた様な気分で、トボトボとカイトの後ろについて歩き出した。
「気は使わなくていいから」
「そうじゃないよ」
にこにこにこにこ。よくここまでそう楽しくもない世間話で笑えるなあ。
すると、渡り廊下の奥から女子がキャーキャー言う声が聞こえてきた。体育館の方からだ。私の愚兄が騒がれているのかもしれない。
シンが体育館の方をちらっと見た後、また私を見てにこりとした。
「カイトがいない場所であすみちゃんと話したいんだ」
「……何で?」
カースト上位の女子の様に垢抜けてもなければ、飛び抜けて綺麗でも、明るくて元気な人気者でもない。どちらかというとひとりを好み、連れションは避けまくり、金にうるさく主婦。
つまり人種が違う。
「気になるけど、カイトがいると邪魔されるから」
「はあ」
これはあれか。珍種見たさか? カイトがシンを邪魔するのではなく、多分カイトは私を邪魔と思っているのだとは思うけど。
「まあ、ちゃんとお金を落としてくれるなら、お客さんだから来てもらって構わないけど」
店の売上は、やがて私の賃金として還元される。売上が上がれば、普段の時給だって交渉できる様になるかもしれない。
「やった。じゃあ明日行くから、カイトには俺と話したことは内緒ね」
まあ、知ったらぐちぐちは言われるだろう。私は軽く頷く。面倒を避けたいのは私も一緒だ。
階段を並んで上って行くと、先に私の教室の前に到着する。
「じゃあ」
シンに軽く挨拶すると、シンが私の耳元で囁いた。
「俺にもその内、美味しい肉じゃが食べさせてよ」
私は目を瞠る。
「え……? 何でそれを」
「へへ」
耳に息が吹き掛かる距離で、シンがいたずらっ子の様に笑った。
――カイトがメッセージのやり取りをしていたのは、シンだったんだ。
カイトのガードが固いと言っていた、シンの言葉。カイトの自慢する様な、マウントを取る様な文面。辿り着くのは、あり得ないひとつの可能性。
……ないない、あり得ない。
考えがまとまらないままただ突っ立っていると。
「じゃあね」
シンは軽く手を振って挨拶をして、隣の教室に入って行った。
「……いや、まさか、ねえ?」
シンが消えた後の景色をぼんやりと眺めていると、突然耳元に低い声が響く。
「何がまさかなんだ?」
「うわあああっ!」
汗で髪を湿らせたカイトが、後ろから私の顔を覗いていた。びっくりした。
「……なんだよそのリアクション」
カイトの目が細まる。
「あ、いや何でもない」
慌てて首を横に振ると、カイトの私を見る目が訝しげなものになった。
「何でそんな顔が赤いんだ」
「え、赤い?」
頬を触って確認したいけど、両手でゴミ箱を抱えている。
「しかもゴミ箱抱き締めて突っ立って、俺のクラスの方見て」
ブツブツとうるさい。いいじゃない、ゴミ箱を抱き締めたって。
「あ、ゴミ箱はゴミを捨てに行ってきたからで」
「じゃあ何見てたんだよ」
段々と尋問じみてきた。何となく視線を感じて後ろを振り返ると、女子たちが遠巻きにしてこちらを見ている。
連れ子同士なことは別に隠してもいないけど、あえて広めてもいなかった。どちらにしても面倒だったからだ。
なので、この視線は兄妹が何か連絡事項でも話しているのかというあまり興味のないのが半分、残り半分は何でお前がカイトと仲良く話してるのよ、かな。
だから学校で馴れ合いたくはなかったのに。というか、こいつもいつも私を避けていたのにどういう風の吹き回しだろう。
君子危うきに近寄らず。鉄則だ。
私は逃げの体勢に入った。
「……別に、何も」
「怪しいな」
随分としつこい。何がこいつをいつもとは違う行動を取るように促しているのか。
じっと睨まれているのは居心地が悪すぎて、私は話題を華麗にすり替えた。
「あ、今日買い物付き合ってね。イブのご飯の買い出しを今日全部するから。お金は後で徴収する」
「はぐらかすな」
すり替えられなかった。そして顔が怖い。更にこちらの様子を伺っている女子の目線も怖かった。
こうなれば、残された道は退却のみ。
「私、ゴミ箱戻してきたいんだけど」
徐々に立ち去ろうとすると、カイトが私の腕を掴んできた。怒った様な顔を近付けてくる。
「シンに会ったのか?」
「……なんで?」
どうしてシンの話題がここで上ぼるんだろう。
「バスケやろうって人を誘っといて、いつの間にかいなくなってたから」
「あんたがそんなこと言うくらい、シンくんってやばい人なの?」
どうもカイトとシンの間には何かあるみたいだ。シン、実はヤバい人説とか?
私がそう言うと、カイトの顔がみるみる機嫌の悪いものに変わっていく。クールビューティーが怒るとまじで迫力があって怖い。今すぐ逃げよう。敵前逃亡もやむなし。
「あの、ゴミ箱をそろそろね」
「シンくん? くん? 君付け?」
「あ」
しまった。こういうのを、やっちまった、というのだろう。
カイトは、それは低い低い声を出した。
「……帰るぞ。さっさと支度しろ」
「……はい」
これ以上怒らせたくはない。家の雰囲気が最悪になる。従って、私は素直に従うことにした。
カイトが仁王立ちをして、私が自分のクラスで支度をして戻るのを監視する。その後ろで、シンが頬を楽しそうに緩ませながら、こっそりと反対の廊下に消えて行ったのを視界の片隅で確認した。
何かに巻き込まれた。
そういうことなんだろう。私は首根っこを捕まえられた様な気分で、トボトボとカイトの後ろについて歩き出した。
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