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4 クリスマスイブの依頼
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しばらく無言で食べていると、カイトがちらっと私を見る。
「……なに」
「いや、あすみさ、クリスマスイブって何か用事あるのか?」
クリスマスイブ。そう、両親が外泊してカイトとふたりきりになってしまいそうでどうしようと思っていた日だ。
彼氏のひとりでもいたらデートと称して家にいなくて済んだだろうけど、残念ながら相手は候補の影すらない。
――いや待てよ。カイトのこの言い方だと、自分は外でデートしてきたいからその確認なんじゃないか?
「特にない。なんで?」
「いや、実はさ……」
いつもは偉そうなカイトが言い淀む。
外でデートじゃなくて、家に彼女を連れ込みたいんだろうか。知り合いだったら嫌だなあ。イチャイチャしてる場面にばったりなんて、見たくもない。まあ、向こうも同じ気持ちだろうけど。
逡巡の後、カイトがボソボソと話し始めた。
「あいつら。今日一緒にいた奴ら、分かるよな?」
カースト上位チームだ。私はもぐもぐしながら無言で頷いた。
「クリスマスパーティーやりたいって勝手に盛り上がっちゃってさ。うちの親がその日いないって聞いた途端、じゃあ会場はうちだって勝手に決めちゃって」
「……いや、勘弁して下さい」
そもそもなんで親が不在なことをぺらぺらと話すのか。
カイトの表情は暗い。一応反省はしてるんだろう。
「あすみも嫌がるだろうなって思って反対したんだけど、全く聞いてもらえなくて」
陽キャの集まりだ。勢いは確かに凄そうだ。話なんて聞いちゃくれなかったんだろう。
家に陽キャの集団。ない。あり得ない。私は決意を固めた。
「じゃあバイト入れる」
「悪いな」
カイトが、あからさまにほっとした表情になる。カイトは私とカースト上位チームの反りが合わないことは分かっているんだろうけど、クリスマスイブにバイトをする様に方向付けたことに関しての罪悪感はないのかな。
「バイト先、ちゃんと迎えに行くからさ」
済まなそうに手を合わせられた。一応、罪悪感はあったらしい。お前彼氏いないのかとか言われなかった分、まだマシなのか。
「いいよ別に」
パーティーを抜け出させるのも心苦しい。というか、陽キャメンバーが何を言うか分からないからはっきり言って迷惑だ。
「駄目だよ。一応女だろ」
カイトが焦った様に言う。言い方ってあるよね。
「一応ってなに」
ジト目でカイトを見ると、カイトは鼻の頭をぽり、と掻いた。
「いや、その」
少し前、この辺りで痴漢被害があった。それを義父がやたらと心配し、バイトは辞めたらどうかとかあまりにもうるさくなったので、仕方なく遅い日はカイトに迎えに来てもらうことにしたのだ。
お金も勿論ほしいけど、家でカイトと二人きりになる時間を減らす為の大事なバイトの時間を奪われたくはなかった。それでその本人に迎えに来てもらうのも、何だかおかしな話だけど。
「あんたのご飯作らないとかなって思ってバイト外してたけど、実はシフトに入れってお願いされてたんだよね」
私のバイト先は町の小さなカフェだ。この日はバイトの子が軒並みシフトを入れたがらないので、マスターが困っていた。
これは時給引き上げ交渉のテーブルに乗る案件だろう。私はどう話を持っていこうか、ひとり作戦を練り出した。
すると、カイトが言いにくそうに続ける。
「それでさ、お願いがあるんだけど」
「……なに」
ほら来た。警戒度をマックスに再度引き上げて、構えた。
「悪いんだけど、何か作って。一応持ち寄りにはしたんだけど、うちもうちで出さないといけなくなっちゃって」
「はい?」
カイトは両手を合わせて小首を傾げる。こういう時だけ可愛らしくするのは、卑怯以外の何ものでもないと思う。
そもそものことを、カイトに訴えてみることにした。
「自分が出席しないパーティーの為に?」
無表情でカイトを見ると、カイトの目が泳ぎ始める。
「うん」
「料理を作ってからバイト?」
声が半音下がったことに、カイトは気付いただろうか。
「……うん」
カイトが俯きがちになった。分かってて言ってるな、こいつ。
「ええー……」
とんでもない依頼だった。人を何だと思っているんだろう。
カイトはパッと顔を上げると、きっぱりと言った。
「ちゃんと謝礼は考えてる!」
謝礼。その言葉に、私の気持ちは大きくぐらりと揺れ動いた。
基本自分の金は自分で稼げな我が家では、謝礼は非常に大きな意味を持つ。
カイトをじっと見つめる。
「――その言葉、信じていいの?」
カイトがクソ真面目な顔で頷いた。むかつくほど顔いいなチクショー。
「男に二言はない」
「――分かった、その話、乗ろう」
「宜しく頼む」
クリスマス料理の話をしているとは思えない言葉を交わしながら、私たちは頷き合った。
「任せて。クリスマスっぽいのを揃えてみせる」
「頼もしいな」
カイトが爽やかな笑顔を見せつつ、ご飯のおかわりをよそいに立った。本当によく食べる奴だ。
にしても、これでクリスマスイブにこいつと二人きりになる心配もなくなり、且つバイトでお金も稼げて更にこいつから謝礼も手に入れられることになった。
先程まで気が重かったクリスマスイブだったけど、少し楽しみになってきたかもしれない。
何作ろうかな。
私の思考は、クリスマスメニュー一色に切り替わった。
「……なに」
「いや、あすみさ、クリスマスイブって何か用事あるのか?」
クリスマスイブ。そう、両親が外泊してカイトとふたりきりになってしまいそうでどうしようと思っていた日だ。
彼氏のひとりでもいたらデートと称して家にいなくて済んだだろうけど、残念ながら相手は候補の影すらない。
――いや待てよ。カイトのこの言い方だと、自分は外でデートしてきたいからその確認なんじゃないか?
「特にない。なんで?」
「いや、実はさ……」
いつもは偉そうなカイトが言い淀む。
外でデートじゃなくて、家に彼女を連れ込みたいんだろうか。知り合いだったら嫌だなあ。イチャイチャしてる場面にばったりなんて、見たくもない。まあ、向こうも同じ気持ちだろうけど。
逡巡の後、カイトがボソボソと話し始めた。
「あいつら。今日一緒にいた奴ら、分かるよな?」
カースト上位チームだ。私はもぐもぐしながら無言で頷いた。
「クリスマスパーティーやりたいって勝手に盛り上がっちゃってさ。うちの親がその日いないって聞いた途端、じゃあ会場はうちだって勝手に決めちゃって」
「……いや、勘弁して下さい」
そもそもなんで親が不在なことをぺらぺらと話すのか。
カイトの表情は暗い。一応反省はしてるんだろう。
「あすみも嫌がるだろうなって思って反対したんだけど、全く聞いてもらえなくて」
陽キャの集まりだ。勢いは確かに凄そうだ。話なんて聞いちゃくれなかったんだろう。
家に陽キャの集団。ない。あり得ない。私は決意を固めた。
「じゃあバイト入れる」
「悪いな」
カイトが、あからさまにほっとした表情になる。カイトは私とカースト上位チームの反りが合わないことは分かっているんだろうけど、クリスマスイブにバイトをする様に方向付けたことに関しての罪悪感はないのかな。
「バイト先、ちゃんと迎えに行くからさ」
済まなそうに手を合わせられた。一応、罪悪感はあったらしい。お前彼氏いないのかとか言われなかった分、まだマシなのか。
「いいよ別に」
パーティーを抜け出させるのも心苦しい。というか、陽キャメンバーが何を言うか分からないからはっきり言って迷惑だ。
「駄目だよ。一応女だろ」
カイトが焦った様に言う。言い方ってあるよね。
「一応ってなに」
ジト目でカイトを見ると、カイトは鼻の頭をぽり、と掻いた。
「いや、その」
少し前、この辺りで痴漢被害があった。それを義父がやたらと心配し、バイトは辞めたらどうかとかあまりにもうるさくなったので、仕方なく遅い日はカイトに迎えに来てもらうことにしたのだ。
お金も勿論ほしいけど、家でカイトと二人きりになる時間を減らす為の大事なバイトの時間を奪われたくはなかった。それでその本人に迎えに来てもらうのも、何だかおかしな話だけど。
「あんたのご飯作らないとかなって思ってバイト外してたけど、実はシフトに入れってお願いされてたんだよね」
私のバイト先は町の小さなカフェだ。この日はバイトの子が軒並みシフトを入れたがらないので、マスターが困っていた。
これは時給引き上げ交渉のテーブルに乗る案件だろう。私はどう話を持っていこうか、ひとり作戦を練り出した。
すると、カイトが言いにくそうに続ける。
「それでさ、お願いがあるんだけど」
「……なに」
ほら来た。警戒度をマックスに再度引き上げて、構えた。
「悪いんだけど、何か作って。一応持ち寄りにはしたんだけど、うちもうちで出さないといけなくなっちゃって」
「はい?」
カイトは両手を合わせて小首を傾げる。こういう時だけ可愛らしくするのは、卑怯以外の何ものでもないと思う。
そもそものことを、カイトに訴えてみることにした。
「自分が出席しないパーティーの為に?」
無表情でカイトを見ると、カイトの目が泳ぎ始める。
「うん」
「料理を作ってからバイト?」
声が半音下がったことに、カイトは気付いただろうか。
「……うん」
カイトが俯きがちになった。分かってて言ってるな、こいつ。
「ええー……」
とんでもない依頼だった。人を何だと思っているんだろう。
カイトはパッと顔を上げると、きっぱりと言った。
「ちゃんと謝礼は考えてる!」
謝礼。その言葉に、私の気持ちは大きくぐらりと揺れ動いた。
基本自分の金は自分で稼げな我が家では、謝礼は非常に大きな意味を持つ。
カイトをじっと見つめる。
「――その言葉、信じていいの?」
カイトがクソ真面目な顔で頷いた。むかつくほど顔いいなチクショー。
「男に二言はない」
「――分かった、その話、乗ろう」
「宜しく頼む」
クリスマス料理の話をしているとは思えない言葉を交わしながら、私たちは頷き合った。
「任せて。クリスマスっぽいのを揃えてみせる」
「頼もしいな」
カイトが爽やかな笑顔を見せつつ、ご飯のおかわりをよそいに立った。本当によく食べる奴だ。
にしても、これでクリスマスイブにこいつと二人きりになる心配もなくなり、且つバイトでお金も稼げて更にこいつから謝礼も手に入れられることになった。
先程まで気が重かったクリスマスイブだったけど、少し楽しみになってきたかもしれない。
何作ろうかな。
私の思考は、クリスマスメニュー一色に切り替わった。
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