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1 あすみ
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私は山田あすみ、十六歳。
都内の共学の私立高校に通う高校二年生だ。
彼氏はいない。これまでの人生、一度たりといたことはない。
悲しいことに、一緒に通学する友達もいない。
友達自体はいなくはないけど、今年の夏に母親が再婚。生まれてからずっと住んでいた町を離れ、東京の東から西に引っ越してしまったので、近くに気軽に遊べる友達がいなくなってしまったのがその原因だ。
引っ越す前までは、同じ方面の子たちと帰っていた。でも今は彼女たちとは帰る方面が真逆になってしまい、今更反対方面の帰宅グループに混じれないでいる。
何故か。
これは別に、私が引っ込み思案だからとか、奥ゆかしい性格をしているからとか、ハブられてるからとかじゃない。
第一の理由。そのグループが、スクールカースト上位メンバーで占められているということ。そして最大の理由が、グループの中に再婚して同居することになった奴が混じっているということだ。
何も、わざわざ娘と同じ学校に通う息子がいる男性と再婚することはないじゃない。まあ、義父はとてもいい人なので、そこはいいけど。
私はあまりキラキラしている人間に免疫がない。髪の毛も染めてないし、眉毛は気持ち揃えるけど、上位の子たちがしている様なしっかりメイクはしていない。
そもそも、ファンデーションを付けると大体荒れる。口紅を塗るとプツプツ湿疹が出る。色が付くリップだけは大丈夫だったけど、あんなものはすぐに落ちてしまう。アイシャドウを塗って瞼が腫れた日は、さすがに凹んだ。
つまり私は、化粧品が肌に合わない敏感肌の持ち主。
幸い、ニキビはそこまで出来ない体質の様なので助かっているけど、最近鼻の頭にそばかすがちらほら見られるようになってきたのが若干気になっている。
日焼け止めも、物によっては塗った後に皮がむける。もう何とかしたいけど、こればかりはどうにもならない。ひたすら探して、反応しないものを探す他はなかった。
そんな化粧品難民の私の小遣いは、たかが知れている。そう幾つも買って試しては出来ない。
なので、基本はノーメイクだった。
そこで最初の問題に戻る。そのノーメイクの状態で、あのきらびやかなスクールカースト上位の中に混じれるか。
――無理だ。浮きまくるのが余裕で想像出来る。
あの子たちは、別にそこまで性格が悪くはないようだ。でも、お互い微妙な笑顔で噛み合わない会話をすることを考えたら、ひとりでのんびり音楽を聴きながら電車の窓の外をぼーっと眺めて帰る方がまだマシだった。
カースト上位グループの何人かが、乗り換えの駅でパラパラと降りていく。私はその様子を、少し離れたドアの端から横目で確認した。
残るのは、同じ学年なのに兄となってしまった山田海人と、カイトと仲がいいイケメンのふたり。確か、名前は何だっけ――田村なんとかだった。
周りにたむしんと呼ばれているので、田村しんたろうとかしんじとかしんのすけとかそういった名前なんだろう。
いずれにしても、カースト中位の下の方に位置する私には関わりのないことだ。
現在はまっている少し激しめでアップテンポなロックを聴きながら、ちらりとカイトとたむしんを横目で見た。
カースト上位に入っているだけあって、二人とも垢抜けている。当然顔もいい。
カイトは冷たい印象を与える黒髪のクールビューティーという感じだけど、たむしんは明るめの茶髪で少しタレ目。アイドルになれるんじゃないかという可愛い顔をしている。
性格も明るくて、何であんな陰険なカイトとつるんで平気なのかが不思議だ。
まあ、隣のクラスだし私にはそこまで関わりもない。というか全く接点はない。だから別に知りたいとも思わなかった。
一瞬、カイトと目が合う。ギロリと睨まれてしまい、私は不貞腐れて視線を窓の外に向けた。
ああ腹が立つ。イケメンだけに余計腹が立つ。
フツフツと込み上げる怒りを抑えるべく、耳に鳴り響く音楽に没頭することにした。
一瞬、たむしんも私を見る。カイトの義理の妹だと分かったんだろう、にこりと手を振ってきた。
私は軽い会釈で済ます。またカイトが、イラッとした表情になって睨んできた。
ちょっと何アレ。失礼にもほどがある。挨拶をしてきたのを返しただけで睨まれるのは、あまりにも理不尽だ。
「はあー……」
私は小さく溜息を吐いた。
関わりたくない。放っておいてくれ。
私達の家がある駅のひとつ手前の駅で、たむしんが降りていった。またちらりと見られたけど、今度は気付かないフリをする。
君子危うきに近寄らず。カースト上位の男子に近付いていいことなんて何もない。トラブルの元になるだけだ。
窓の外は夕焼け。暖かそうに見えるけど、もう十二月、立派な冬だ。クリスマスイブももう後三日後に迫っている。
――ああ、クリスマス。
また、私の気持ちがずん、と沈んだ。
都内の共学の私立高校に通う高校二年生だ。
彼氏はいない。これまでの人生、一度たりといたことはない。
悲しいことに、一緒に通学する友達もいない。
友達自体はいなくはないけど、今年の夏に母親が再婚。生まれてからずっと住んでいた町を離れ、東京の東から西に引っ越してしまったので、近くに気軽に遊べる友達がいなくなってしまったのがその原因だ。
引っ越す前までは、同じ方面の子たちと帰っていた。でも今は彼女たちとは帰る方面が真逆になってしまい、今更反対方面の帰宅グループに混じれないでいる。
何故か。
これは別に、私が引っ込み思案だからとか、奥ゆかしい性格をしているからとか、ハブられてるからとかじゃない。
第一の理由。そのグループが、スクールカースト上位メンバーで占められているということ。そして最大の理由が、グループの中に再婚して同居することになった奴が混じっているということだ。
何も、わざわざ娘と同じ学校に通う息子がいる男性と再婚することはないじゃない。まあ、義父はとてもいい人なので、そこはいいけど。
私はあまりキラキラしている人間に免疫がない。髪の毛も染めてないし、眉毛は気持ち揃えるけど、上位の子たちがしている様なしっかりメイクはしていない。
そもそも、ファンデーションを付けると大体荒れる。口紅を塗るとプツプツ湿疹が出る。色が付くリップだけは大丈夫だったけど、あんなものはすぐに落ちてしまう。アイシャドウを塗って瞼が腫れた日は、さすがに凹んだ。
つまり私は、化粧品が肌に合わない敏感肌の持ち主。
幸い、ニキビはそこまで出来ない体質の様なので助かっているけど、最近鼻の頭にそばかすがちらほら見られるようになってきたのが若干気になっている。
日焼け止めも、物によっては塗った後に皮がむける。もう何とかしたいけど、こればかりはどうにもならない。ひたすら探して、反応しないものを探す他はなかった。
そんな化粧品難民の私の小遣いは、たかが知れている。そう幾つも買って試しては出来ない。
なので、基本はノーメイクだった。
そこで最初の問題に戻る。そのノーメイクの状態で、あのきらびやかなスクールカースト上位の中に混じれるか。
――無理だ。浮きまくるのが余裕で想像出来る。
あの子たちは、別にそこまで性格が悪くはないようだ。でも、お互い微妙な笑顔で噛み合わない会話をすることを考えたら、ひとりでのんびり音楽を聴きながら電車の窓の外をぼーっと眺めて帰る方がまだマシだった。
カースト上位グループの何人かが、乗り換えの駅でパラパラと降りていく。私はその様子を、少し離れたドアの端から横目で確認した。
残るのは、同じ学年なのに兄となってしまった山田海人と、カイトと仲がいいイケメンのふたり。確か、名前は何だっけ――田村なんとかだった。
周りにたむしんと呼ばれているので、田村しんたろうとかしんじとかしんのすけとかそういった名前なんだろう。
いずれにしても、カースト中位の下の方に位置する私には関わりのないことだ。
現在はまっている少し激しめでアップテンポなロックを聴きながら、ちらりとカイトとたむしんを横目で見た。
カースト上位に入っているだけあって、二人とも垢抜けている。当然顔もいい。
カイトは冷たい印象を与える黒髪のクールビューティーという感じだけど、たむしんは明るめの茶髪で少しタレ目。アイドルになれるんじゃないかという可愛い顔をしている。
性格も明るくて、何であんな陰険なカイトとつるんで平気なのかが不思議だ。
まあ、隣のクラスだし私にはそこまで関わりもない。というか全く接点はない。だから別に知りたいとも思わなかった。
一瞬、カイトと目が合う。ギロリと睨まれてしまい、私は不貞腐れて視線を窓の外に向けた。
ああ腹が立つ。イケメンだけに余計腹が立つ。
フツフツと込み上げる怒りを抑えるべく、耳に鳴り響く音楽に没頭することにした。
一瞬、たむしんも私を見る。カイトの義理の妹だと分かったんだろう、にこりと手を振ってきた。
私は軽い会釈で済ます。またカイトが、イラッとした表情になって睨んできた。
ちょっと何アレ。失礼にもほどがある。挨拶をしてきたのを返しただけで睨まれるのは、あまりにも理不尽だ。
「はあー……」
私は小さく溜息を吐いた。
関わりたくない。放っておいてくれ。
私達の家がある駅のひとつ手前の駅で、たむしんが降りていった。またちらりと見られたけど、今度は気付かないフリをする。
君子危うきに近寄らず。カースト上位の男子に近付いていいことなんて何もない。トラブルの元になるだけだ。
窓の外は夕焼け。暖かそうに見えるけど、もう十二月、立派な冬だ。クリスマスイブももう後三日後に迫っている。
――ああ、クリスマス。
また、私の気持ちがずん、と沈んだ。
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