3年2組の山田くん

ことのは

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日常、それは変わらない日々

チャリ通は、家が遠い人間の特権

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 そんなことを言いながら、俺達は駐輪場へ足を進めた。
 俺の通っている学校は、中学生でも自転車通学が認められている。

 もちろん申請すれば全員が自転車で通えるわけじゃない。
 距離や地理的な問題を含め、自転車で通う方が好ましい生徒のみが許可される。
 だから家が近い志村しむらを除いて、俺等3人は自転車で通えるわけだ。

「にしても良いよな。お前等はチャリ通で」
かけるは家が近いんだから、別にチャリで通う必要はないだろ」
「でもさー、歩くって面倒じゃん。チャリで通えるお前等が羨ましいわ」
「そんなこと言うなら小学校の6年間、長い距離歩いてから言ってよね。ほんと大変なんだから。中学がチャリ通許可していて、どれだけ感謝したことか」
「ほんとそれな。夏は暑くて冬は寒くて、マジで地獄だかんな。あん時ばかりは家が近い奴を恨んだなー。なんでこんな目に、ってよー」
「だけどさ、やっぱり俺もチャリで通いたかったな…」
「何で翔はそんなにチャリ通に固執するんだ? 何か用でもあるのか?」
「いや別にそういう訳じゃないんだが…」

 煮え切らない志村を他所に、駐輪場へ着いた俺達は、各々の自転車の元へと向かう。
 それからカバンを荷台に括り付け、カギを外して自転車を押しつつ校門へ足を進める。

「なんだよ翔。オレ等がチャリ通で寂しいのか? ん?」
「茶化すなバカ。でも、1人だけ歩きってのもな…」
「バカはお前だろ。何だよ1人だけって。途中までオレ等も一緒に歩いてんじゃん。気にする必要ねーだろ。ったく繊細だなー、翔はw」
「うるせーよ、バーカ」
「バカって言った方が馬鹿なんですー」
「お前より俺がバカな訳ないだろ」
「は? 言ったな。それ後で後悔させてやるからな」
「やってみろよ。返り討ちにしてやるからよ」

 喧嘩腰に話す志村と鉢須はちす。全く仲が良いんだか悪いんだか…。

「いい加減にしろ。早く帰らなきゃいけないときに喧嘩してる場合か?」
「喧嘩じゃねーよ」
「話し合いだ」
「何が話し合いだよ…。そんな喧嘩腰な話し合いがあってたまるか」
「てか、先に喧嘩売ったのオレじゃねーじゃん」
「売ってねーよ。第一、誰がお前なんかに売るかっての」
「はぁ? お前マジ許さん」
「お前に許されなくても変わらないだろ」
「だから止めろって。全く…、明日卒業式だってのに喧嘩するなよ。みっともない…」
「みっともないって何だよ山田やまだ!」
「煩い。もう時間も時間なんだから外で大声を出すな。ガキじゃあるまいし」
「正論の暴力だ…」
「ほー、お前がそんなこと言うとはねぇ。だが、それは違う。正論の暴力っていうのは――」

 本当の「正論の暴力」を教えてやろうと言いかけた瞬間、青木あおきに頭をスパーンと叩かれた。
 手加減はしているだろうが、地味に痛い…。

「バーカ。木乃伊取みいらとりが木乃伊みいらになってどうすんだよ」
「は? 間違ってるから正そうとしただけだろ? 別に間違ったことはしていないはずだ」
「それはそうだけどさ…」
「むしろ暴力で解決しようとしたお前にだけは、言われたくない」
「ほんっと、山田って偶に頑固だよなぁ…。素直に認めろよ」
「間違ったことをしてないのに何で謝らなくちゃいけないんだ? 意味が分からない」
「…分かった。お前を納得させるのは無理だ」
「国語の成績で俺に勝ったことないんだから当然の結果だろ。それで勝てると思ってるのが可笑しいんだよ」
「へいへい。分かりましたよ」

 不貞腐れた様に頬を膨らませる青木に対し、みんなは楽しそうに笑った。
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