上 下
11 / 14

11

しおりを挟む
Yさんとよく行く、
行きつけの食堂があった。


時にはそこで
他の旅人と話をしたり、思いがけない再会があったり、
ローカルの店員との会話を楽しんだりする。


この日は珍しくローカル客が多くて
私達は2人だけで遅めのブランチをとった。


「美雨ちゃん、今日予定ある?」


注文が済むと Yさんが聞いた。


「特にないです。なんで?」



「服、見に行こか?」



「ぇ?いいの…??」



「勿論さぁ~^^ じゃ、決まり!」



このエリアには、試着中に女性客の体に執拗に触れたり、隠し撮りしたりする店も少なくない。


日本は世界的に性の取り締まりに緩いといわれているが、


当時のその国も
それを遥か上回る、想像を絶する度合いであった。


ーーーーーーーーーーーーーー

「ん~~。こっちのスカートに、
コレ合わせてみて。」


布屋さんの如く天井の棚までうず高く積み上げられた、色とりどりの衣類に目がチカチカする。


店内に一度入れば、Yさんはカリスマファッションデザイナーみたいに的確で鋭いアドバイスで、インスピレーションが冴え渡る。


ものの30分で
大量にある衣類の森林から
私に似合うものを選んでくれた。


日本でアパレル経験もあったYさんだけど、販売員というよりも、ファッションショーに出品するデザイナーさんを思わせる立ち振る舞いだった。


鮮やかな巻きスカートとスッキリとした綿麻シャツ。
自分がそれまで着ることのなかったタイプの服。
けれどとてもしっくりきて、自分のコンプレックスも気にならない。
ーーこんな着方もあるのか。。


おろしたてのスカートを身につけたまま、その店を後にした。


「ん~、やっぱり似合うね~^^
もっとお洒落したらいいのに~~」


「………ありがとう。………お洒落…か…。」


「そうよ?女の子楽しまなきゃ~。アクセサリーとかは付けないの?」


「ん~…あまり付けないかな。。リングとかは買ったことがあるけど…」


「ピアスはあいてるん?」


言いながら、Yさんは私の髪を耳にかけた。


「うん。インダストリアルだけ。」


「は?!ェ? リブは?」


「帰ったら開けようかなぁ~と思ってたとこ^^」

「リブ開けないで軟骨開けてる子、初めて会ったわ。俺。 きゃー笑」


「Yさん、あんまり付けてないけど、たくさんあいてますよね。今つけてるのもルビーみたいで綺麗…」


「これいーでしょ?気に入ってるんよ~。
あ。あそこの店、ちょっと見ていい?」


Yさんと私は、同じエリアのアクセサリーショップに入った。


店内には
民族的、伝統的なデザインから、
ガラス製のもの、近代的なデザインのもの…
色とりどりのブレスレットやペンダントなどが、所狭しと並んでいた。


赤ちゃんからピアスをする習慣があるこの国では、アクセサリーショップは女性達で賑わい、中には若いカップルもいたりする。
そういうところを見ると、何故だかほっこりした。



「わぁ…カラフル~~」



ピアス類はボードにズラリと並んでいて
サイズも様々だった。


私は蝶々のレリーフが入った風に揺れる
ライトグリーンのピアスと
ブルーのガラスビーズと鈴のついたピアスを手に取った。


Yさんは目がチカチカする小さなサイズを見ている。


「何か気に入ったのありました~~?」


「んーーもうちょっとよ~~」


ファッション関係を選んでいるときの彼は
目の光が特別だった。


「これとこれ。美雨ちゃんは好き?」


「私?」


自分用のを選んでくれていたとは知らず、
驚く。


白くてユニセックス風で個性的なデザインと
ダイヤモンドを模したシンプルなデザインの2つだった。


「綺麗ですね。好きだな^^」


「なら決まり!」


Yさんは私が選んできたものと合わせて
買ってくれた。


一度は遠慮して自分で払うと言ったけれど、
俺なら交渉して安く買うから。と
スマートに値切っている様子に
ただただ感心してしまう。


~~~~~~


その日、宿に帰った後に2人で包みを開けた。


「ん~~やっぱりいいわ~。」


満足げに本日の戦利品を眺める。
3週間ほど共に過ごしたYさんの口からは
否定的な発言やネガティブな言葉は聞いたことが無かった。


「この2つさ、
俺一個ずつ貰ってもいい?」


ーー!


なぜだかドキッと心臓が脈打った。
心についていかない表情のまま会話を繋ぐ


「もちろんですよ~~^^
付けてみて?」


Yさんはベッドの縁に半分腰掛けてピアスを付けると、サッと立ち上がり
そばの壁の鏡でチェックした。


「ん!気に入った!」


そう言いながら振り向く笑顔は
あどけない少年を思わせる。


彼はベッドに歩み寄りながら、
反対の耳に付けていた、ルビー風のピアスを外した。


「代わりにコレあげるよ。俺もう片方持ってるから。」


日本帰ってピアス開けたら付けて。
似合うと思うから。と
彼はそれを私に手渡した。


ーーーーなんで…こんなの 
…なんか…ズルくない…?


「……うん。ありがとう。」



アジア経由でヨーロッパを巡り、再びアジアに来ていたYさんは、この後中東とアフリカに向かう予定だ。


私の旅は、終盤に差し掛かっていた。


ーー日本に…帰るんだ。私……



逃げて来た現実が目の前に戻ってくる心細さに、ふいに胸が詰まる。


手のひらに乗せられた赤いピアスが
夕日を受けてキラキラと輝いている


その美しさが、まだ少し瘡蓋に染みて
旅愁の物悲しさを誘っていた。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

とりあえず、後ろから

ZigZag
恋愛
ほぼ、アレの描写しかないアダルト小説です。お察しください。

下品な男に下品に調教される清楚だった図書委員の話

神谷 愛
恋愛
クラスで目立つこともない彼女。半ば押し付けれられる形でなった図書委員の仕事のなかで出会った体育教師に堕とされる話。 つまらない学校、つまらない日常の中の唯一のスパイスである体育教師に身も心も墜ちていくハートフルストーリー。ある時は図書室で、ある時は職員室で、様々な場所で繰り広げられる終わりのない蜜月の軌跡。 歪んだ愛と実らぬ恋の衝突 ノクターンノベルズにもある ☆とブックマークをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

人妻の日常

Rollman
恋愛
人妻の日常は危険がいっぱい

【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました

utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。 がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。

合法カタストロフィー

霜月美雨
恋愛
デートで急な眠気に襲われて、気がつくと彼の部屋だった… 20代の甘い恋愛、非日常的な悦楽を描く。 合法ドラッグ、読み切りキメセクストーリー。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...