26 / 42
26 「ごめんなさい」は聞きたくない ※
しおりを挟む
月森の愛撫はどこまでも優しくて、俺はその幸せに身をゆだねた。
止まらない恥ずかしい声に乗せて、何度も好きだと伝える。
月森はそのたびに、泣きそうな顔で「好き」を繰り返し、優しいキスをくれた。
ふと、受け身でいる自分に何も違和感がないことに不思議な気持ちになった。
月森に組み敷かれ愛撫されているこの状況に、ただただ溺れて幸せな自分が不思議だ。
話を聞く限り、前の俺が抱かれる側を選ぶイメージが全くない。
でも、前も今も俺は俺だ。母さんによれば根本は変わらないらしい。それなら、これだって同じ選択をするんじゃないだろうか。
そうか……たぶん、きっと前の俺も、抱かれたい側だ。
違和感がないのがその証拠だと思う。
そう考えると、罪悪感が少し減った。
「あっ、そこ……っ、んんっぁ……っ!」
「すごい。本当にあった……いいところ」
たっぷりのローションで俺の後ろを丹念にほぐしながら、月森が嬉しそうに声を上げる。
そこを押されると全身に快感が走った。
なんだ……そこ……っ。やばい……っ。
月森に抱かれたいと、月森の一番近くに行きたいとは思ったけれど、後ろがこんなに気持ちいいなんて想像もしてなかった。
「あぁ……っ、つきもり……っ……」
月森の腕に手を伸ばしてしがみつくと、月森の手が止まった。
「あ、痛い……ですか?」
「……ち、違う。……もう俺、頭バカになりそう……」
「それって、すごくいいってことですか?」
顔も声も本当に嬉しそう。
「……こんなの……よすぎて、怖い……」
俺はもしかして後ろの経験があるのか……そう思ってしまうほど気持ちがいい。
考えても分からないことをつい気にしてしまう。
「なにも怖くないですよ。もっともっと気持ちよくなってください」
「でも、俺ばっかりじゃん……」
「先輩が気持ちいいと、俺も気持ちいいです」
まだ入れてもないのにそんなわけないだろう、そう思った時、硬く反り勃った月森のものが目に入った。
「で……っ」
でっか……っ!
思わず自分のものと見比べた。
全く比べ物にならないほどでかい。あれはやっぱり身体の大きさに比例するものなんだろうか。
いや待って……あれ、入る? 大丈夫……?
一瞬不安がよぎるも、また与えられる快楽に溺れていった。
「あっ、あぁ……っ!!」
目の前にチカチカと星が飛び、腹の上に温かいものが飛び散った。後ろだけでイかされた。それも指でだ。
記憶喪失のせいで、まるでこれが初めての精通のような快感。それはもう、想像以上の。
ぼんやりと余韻にひたってから、ゆっくりと意識がはっきりしてくる。
静かだな……と月森を見ると、ティッシュで俺の腹を拭きながら、どこか顔色が悪く見えた。
「月森……?」
俺の呼びかけでスイッチが入ったかのように、月森の目に涙が浮かぶ。
なに、どうした……?
聞こうとしたが、声にならなかった。
顔色がどんどん悪くなっていく月森に、声をかける勇気が出ない。
俺の腹がすっかり綺麗になると、月森が俺の胸に顔をうずめ「ごめんなさい……」と泣き崩れた。
血の気が引いていく。
また、ごめんなさい、だ。
思い出した記憶の中で月森が言った『ごめんなさい』は、この一週間ずっと頭の中で繰り返されてきた。
月森の『ごめんなさい』は、もうトラウマになりそうだ……。
「なに……ごめんって……」
声が震える。
このタイミングの「ごめん」だ。俺がイくのを見て、やっぱり男なんて抱けないと思った……?
月森の返事が怖い。聞きたくない……。
「やっぱり……ダメです……」
聞きたくないってば……。
「やっぱり……できません……。無理です……」
無理……か。そっか……無理なんだ……。
たぶん月森は、ゲイじゃないんだな……。
深い絶望感に襲われ、息もできない。
喉の奥が焼けるように熱くなり、視界がぼやけた。
俺の胸で声を殺して泣く月森の身体が震えてる。ここまで頑張ってくれたんだ。月森を責める気持ちはない。悲しいけれど、こればっかりは……仕方ない。
「わかったよ……月森。もう泣かなくていいよ……」
そういう俺も、涙声になった。情けない。
なだめるように月森の背中を撫でると、また「ごめんなさい……」と繰り返えす。
「うん。もういいから……」
月森のごめんなさいを聞くのは……もうつらい。だから、もう言わないで……。
そう思った時、月森の口から予想外な言葉が聞こえてきた。
「夢……みたいで……」
「……え?」
なに……夢?
「なんかもう、夢みたいで幸せで……だから最後まで見ないふりをしたかったんです。……でも……やっぱりダメです……」
「見ないふりって……なに?」
男が抱けないって理由じゃない……?
「前の先輩は……俺を好きじゃないのに……。それをわかってて……こんなこと……っ。もし……もし記憶が戻ったら……っ」
月森が、ぎゅっと俺を抱きしめる。
「だから……やっぱり……ダメです……」
なんだ、そっか。無理ってそういうことか。男が無理なわけじゃなかったんだな。
安堵で肩の力が抜けた。
俺だって、前の俺と今の俺を切り離して散々悩んだ。月森だって悩むのは当然だ。
身体を震わせて泣く月森を、俺は優しく抱きしめた。
止まらない恥ずかしい声に乗せて、何度も好きだと伝える。
月森はそのたびに、泣きそうな顔で「好き」を繰り返し、優しいキスをくれた。
ふと、受け身でいる自分に何も違和感がないことに不思議な気持ちになった。
月森に組み敷かれ愛撫されているこの状況に、ただただ溺れて幸せな自分が不思議だ。
話を聞く限り、前の俺が抱かれる側を選ぶイメージが全くない。
でも、前も今も俺は俺だ。母さんによれば根本は変わらないらしい。それなら、これだって同じ選択をするんじゃないだろうか。
そうか……たぶん、きっと前の俺も、抱かれたい側だ。
違和感がないのがその証拠だと思う。
そう考えると、罪悪感が少し減った。
「あっ、そこ……っ、んんっぁ……っ!」
「すごい。本当にあった……いいところ」
たっぷりのローションで俺の後ろを丹念にほぐしながら、月森が嬉しそうに声を上げる。
そこを押されると全身に快感が走った。
なんだ……そこ……っ。やばい……っ。
月森に抱かれたいと、月森の一番近くに行きたいとは思ったけれど、後ろがこんなに気持ちいいなんて想像もしてなかった。
「あぁ……っ、つきもり……っ……」
月森の腕に手を伸ばしてしがみつくと、月森の手が止まった。
「あ、痛い……ですか?」
「……ち、違う。……もう俺、頭バカになりそう……」
「それって、すごくいいってことですか?」
顔も声も本当に嬉しそう。
「……こんなの……よすぎて、怖い……」
俺はもしかして後ろの経験があるのか……そう思ってしまうほど気持ちがいい。
考えても分からないことをつい気にしてしまう。
「なにも怖くないですよ。もっともっと気持ちよくなってください」
「でも、俺ばっかりじゃん……」
「先輩が気持ちいいと、俺も気持ちいいです」
まだ入れてもないのにそんなわけないだろう、そう思った時、硬く反り勃った月森のものが目に入った。
「で……っ」
でっか……っ!
思わず自分のものと見比べた。
全く比べ物にならないほどでかい。あれはやっぱり身体の大きさに比例するものなんだろうか。
いや待って……あれ、入る? 大丈夫……?
一瞬不安がよぎるも、また与えられる快楽に溺れていった。
「あっ、あぁ……っ!!」
目の前にチカチカと星が飛び、腹の上に温かいものが飛び散った。後ろだけでイかされた。それも指でだ。
記憶喪失のせいで、まるでこれが初めての精通のような快感。それはもう、想像以上の。
ぼんやりと余韻にひたってから、ゆっくりと意識がはっきりしてくる。
静かだな……と月森を見ると、ティッシュで俺の腹を拭きながら、どこか顔色が悪く見えた。
「月森……?」
俺の呼びかけでスイッチが入ったかのように、月森の目に涙が浮かぶ。
なに、どうした……?
聞こうとしたが、声にならなかった。
顔色がどんどん悪くなっていく月森に、声をかける勇気が出ない。
俺の腹がすっかり綺麗になると、月森が俺の胸に顔をうずめ「ごめんなさい……」と泣き崩れた。
血の気が引いていく。
また、ごめんなさい、だ。
思い出した記憶の中で月森が言った『ごめんなさい』は、この一週間ずっと頭の中で繰り返されてきた。
月森の『ごめんなさい』は、もうトラウマになりそうだ……。
「なに……ごめんって……」
声が震える。
このタイミングの「ごめん」だ。俺がイくのを見て、やっぱり男なんて抱けないと思った……?
月森の返事が怖い。聞きたくない……。
「やっぱり……ダメです……」
聞きたくないってば……。
「やっぱり……できません……。無理です……」
無理……か。そっか……無理なんだ……。
たぶん月森は、ゲイじゃないんだな……。
深い絶望感に襲われ、息もできない。
喉の奥が焼けるように熱くなり、視界がぼやけた。
俺の胸で声を殺して泣く月森の身体が震えてる。ここまで頑張ってくれたんだ。月森を責める気持ちはない。悲しいけれど、こればっかりは……仕方ない。
「わかったよ……月森。もう泣かなくていいよ……」
そういう俺も、涙声になった。情けない。
なだめるように月森の背中を撫でると、また「ごめんなさい……」と繰り返えす。
「うん。もういいから……」
月森のごめんなさいを聞くのは……もうつらい。だから、もう言わないで……。
そう思った時、月森の口から予想外な言葉が聞こえてきた。
「夢……みたいで……」
「……え?」
なに……夢?
「なんかもう、夢みたいで幸せで……だから最後まで見ないふりをしたかったんです。……でも……やっぱりダメです……」
「見ないふりって……なに?」
男が抱けないって理由じゃない……?
「前の先輩は……俺を好きじゃないのに……。それをわかってて……こんなこと……っ。もし……もし記憶が戻ったら……っ」
月森が、ぎゅっと俺を抱きしめる。
「だから……やっぱり……ダメです……」
なんだ、そっか。無理ってそういうことか。男が無理なわけじゃなかったんだな。
安堵で肩の力が抜けた。
俺だって、前の俺と今の俺を切り離して散々悩んだ。月森だって悩むのは当然だ。
身体を震わせて泣く月森を、俺は優しく抱きしめた。
168
お気に入りに追加
219
あなたにおすすめの小説
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結

林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
春風の香
梅川 ノン
BL
名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。
母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。
そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。
雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。
自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。
雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。
3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。
オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。
番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!
運命の息吹
梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。
美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。
兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。
ルシアの運命のアルファとは……。
西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。

Endless Summer Night ~終わらない夏~
樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった”
長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、
ひと夏の契約でリゾートにやってきた。
最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、
気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。
そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。
***前作品とは完全に切り離したお話ですが、
世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる