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17 インターハイ▶月森said
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毎朝の特訓に、部活終了後も先生に閉め出されるまで残って特訓。
先輩の練習の邪魔になってるんじゃ……そう悩む俺に「お前が俺の心配なんて生意気だ」と頭をはたかれた。
数日後、中村先輩の一言で、未経験組の中で唯一俺だけが経験組に移動することになった。中村先輩が決めたことに反対する人はいない。先輩はそれくらい絶対的な存在だった。
それでも基礎練はまだまだ必要で、特訓の時間の半分が基礎練に費やされるようになった。
うう……先輩との貴重な時間が……!
俺は涙を呑み、貴重な特訓の時間を噛み締めた。
まだまだ皆に追いつくのは厳しいけれど、憧れの中村先輩のプレイに近づいていってる気がして毎日が幸せで充実していた。
「おい月森、なんだお前、ほんとバケモンか?!」
「ほんとに初心者かよっ」
「まじで怖ぇよ。まるで中村のコピーじゃんっ」
「いやそれは言い過ぎじゃね?」
「でも一ヶ月でこれはやべぇって!」
「それでシュートも入るようになったら……うわー! 俺スタメンやばいじゃんかっ!」
初めて試合形式の練習に参加した日、試合終了の笛が鳴ると、皆が俺を囲って興奮気味に褒めちぎった。
スタメンがやばいなんてさすがに大袈裟だと思いながらも、中村先輩との特訓の成果が認められて嬉しくて、そして照れくさい。
「俺が特訓したんだ。当然だ」
中村先輩が真顔でそう言った。
そんなことが言えちゃう先輩はさすがだ。でも本当に、中村先輩の特訓はまるで奇跡だった。
先輩との絆は日々深まっていった。
夏休みには、特訓やバスケなど関係なく、何日も先輩の家に泊まり込むほど俺たちは仲良くなっていた。
「へー、今日は焼肉だとさ。っつってもホットプレートだけど」
部活帰りの電車の中で、先輩がスマホのメッセージを見て嬉しげな声で言った。
一見すると無感情に見える先輩の喜怒哀楽は、俺には声色でわかるようになっていた。
「焼肉なんて、うちでは特別な日にしかしませんよ……?」
「月森が来るからだろ」
「え……」
「お前、すげぇ可愛がられてんだよ。母さんに」
「えぇ?」
いつも先輩の部屋に閉じこもってるだけなのに、可愛がられる要素がないと思う。なぜだろう。不思議すぎる。
中村先輩のお母さんは、まるでお姉さんかと思うくらいに若くて綺麗で、初めて会った時には俺の中の母親像がガラガラと崩れた。
先輩には俺の母さんに合わせたくないな……と思ってしまった。
いや、でも一瞬、ほんのちょっとだけ……!
だってそれくらい先輩のお母さんは、綺麗でオシャレですごくいい匂いがする。今まで出会った誰のお母さんよりも……!
母さん、ごめん!
でも俺は母さんが大好きだよ!
本当にっ!
先輩の家に泊まり込み、夜通し話をしたりゲームをしたり、早朝から一緒に走り込みをしたり、一年の夏休みは中村先輩一色だった。
一年ではさすがにベンチ入りもできなかったけれど、二年に上がって俺は選手に選ばれた。中村先輩との特訓はまだ続いている。
無名でもなく強豪校でもなかった俺たちバスケ部は、中村先輩の代で奇跡のインターハイ初出場を果たした。
この時、いつも厳しく眉を寄せている先輩が心からの笑みをこぼすのを見て、俺は胸が熱くなった。
翌年、俺たちの代も先輩たちに続こうと必死だった。
中村先輩の起こした奇跡を無駄にはできないと、部員全員が必死になって次々と勝ち上がっていった県大会。
「すげぇ良い試合だったぞ」
決勝戦で敗退した俺たちを、中村先輩は笑顔で労ってくれた。
「やっぱお前、すげぇ選手になったじゃんか」
先輩は俺の頭をくしゃっと撫でて、泣き崩れる俺を抱きしめた。
その日、俺は初めて先輩の胸で泣いた。
二年半、勉強をおろそかにしていた俺は、引退後は死にものぐるいで勉強をした。なんとしてでも中村先輩と同じ大学に入りたかった。
先輩のいない日々、俺の心は孤独と寂しさに苦しんでいた。
毎日のように先輩との思い出が頭をよぎり、その幻影が俺を苦しめた。
先輩の胸で泣いたあの日、心に誓った。
俺は先輩との日々を必ず取り戻す!
合格発表の日、自分の受験番号を見つけた瞬間、心臓が止まるかと思った。
気絶しそうなほど嬉しくて、いつまでも涙が止まらなかった。
先輩を驚かせるために連絡を入れず、入学してから大学構内を探し回るもなかなか見つからない。
数日後、やっと先輩の姿を発見した瞬間、思わず笑みがこぼれた。
「中村先輩!」
俺はぶんぶんと手を振って、笑顔で駆け寄った。
先輩は俺を見るなり目を見開いて「お前もっとバスケ強いとこ行けよ。馬鹿か?」と呆れた顔した。
期待した反応とは違って、ガクッと肩を落とし気持ちが沈む。
「いや、それ俺のセリフですって」
落胆を必死に隠して言い返した。
「またお前とバスケすんのかよ」
先輩が顔をしかめたけれど、俺にはわかった。声に嬉しさがにじみ出ている。じっと見つめると「なんだよ」と眉を寄せる先輩の口角がわずかに上がってた。
心が震えるほど嬉しくて倒れそうになって、必死で踏ん張った。
先輩を追いかけてきて本当によかった!
先輩の練習の邪魔になってるんじゃ……そう悩む俺に「お前が俺の心配なんて生意気だ」と頭をはたかれた。
数日後、中村先輩の一言で、未経験組の中で唯一俺だけが経験組に移動することになった。中村先輩が決めたことに反対する人はいない。先輩はそれくらい絶対的な存在だった。
それでも基礎練はまだまだ必要で、特訓の時間の半分が基礎練に費やされるようになった。
うう……先輩との貴重な時間が……!
俺は涙を呑み、貴重な特訓の時間を噛み締めた。
まだまだ皆に追いつくのは厳しいけれど、憧れの中村先輩のプレイに近づいていってる気がして毎日が幸せで充実していた。
「おい月森、なんだお前、ほんとバケモンか?!」
「ほんとに初心者かよっ」
「まじで怖ぇよ。まるで中村のコピーじゃんっ」
「いやそれは言い過ぎじゃね?」
「でも一ヶ月でこれはやべぇって!」
「それでシュートも入るようになったら……うわー! 俺スタメンやばいじゃんかっ!」
初めて試合形式の練習に参加した日、試合終了の笛が鳴ると、皆が俺を囲って興奮気味に褒めちぎった。
スタメンがやばいなんてさすがに大袈裟だと思いながらも、中村先輩との特訓の成果が認められて嬉しくて、そして照れくさい。
「俺が特訓したんだ。当然だ」
中村先輩が真顔でそう言った。
そんなことが言えちゃう先輩はさすがだ。でも本当に、中村先輩の特訓はまるで奇跡だった。
先輩との絆は日々深まっていった。
夏休みには、特訓やバスケなど関係なく、何日も先輩の家に泊まり込むほど俺たちは仲良くなっていた。
「へー、今日は焼肉だとさ。っつってもホットプレートだけど」
部活帰りの電車の中で、先輩がスマホのメッセージを見て嬉しげな声で言った。
一見すると無感情に見える先輩の喜怒哀楽は、俺には声色でわかるようになっていた。
「焼肉なんて、うちでは特別な日にしかしませんよ……?」
「月森が来るからだろ」
「え……」
「お前、すげぇ可愛がられてんだよ。母さんに」
「えぇ?」
いつも先輩の部屋に閉じこもってるだけなのに、可愛がられる要素がないと思う。なぜだろう。不思議すぎる。
中村先輩のお母さんは、まるでお姉さんかと思うくらいに若くて綺麗で、初めて会った時には俺の中の母親像がガラガラと崩れた。
先輩には俺の母さんに合わせたくないな……と思ってしまった。
いや、でも一瞬、ほんのちょっとだけ……!
だってそれくらい先輩のお母さんは、綺麗でオシャレですごくいい匂いがする。今まで出会った誰のお母さんよりも……!
母さん、ごめん!
でも俺は母さんが大好きだよ!
本当にっ!
先輩の家に泊まり込み、夜通し話をしたりゲームをしたり、早朝から一緒に走り込みをしたり、一年の夏休みは中村先輩一色だった。
一年ではさすがにベンチ入りもできなかったけれど、二年に上がって俺は選手に選ばれた。中村先輩との特訓はまだ続いている。
無名でもなく強豪校でもなかった俺たちバスケ部は、中村先輩の代で奇跡のインターハイ初出場を果たした。
この時、いつも厳しく眉を寄せている先輩が心からの笑みをこぼすのを見て、俺は胸が熱くなった。
翌年、俺たちの代も先輩たちに続こうと必死だった。
中村先輩の起こした奇跡を無駄にはできないと、部員全員が必死になって次々と勝ち上がっていった県大会。
「すげぇ良い試合だったぞ」
決勝戦で敗退した俺たちを、中村先輩は笑顔で労ってくれた。
「やっぱお前、すげぇ選手になったじゃんか」
先輩は俺の頭をくしゃっと撫でて、泣き崩れる俺を抱きしめた。
その日、俺は初めて先輩の胸で泣いた。
二年半、勉強をおろそかにしていた俺は、引退後は死にものぐるいで勉強をした。なんとしてでも中村先輩と同じ大学に入りたかった。
先輩のいない日々、俺の心は孤独と寂しさに苦しんでいた。
毎日のように先輩との思い出が頭をよぎり、その幻影が俺を苦しめた。
先輩の胸で泣いたあの日、心に誓った。
俺は先輩との日々を必ず取り戻す!
合格発表の日、自分の受験番号を見つけた瞬間、心臓が止まるかと思った。
気絶しそうなほど嬉しくて、いつまでも涙が止まらなかった。
先輩を驚かせるために連絡を入れず、入学してから大学構内を探し回るもなかなか見つからない。
数日後、やっと先輩の姿を発見した瞬間、思わず笑みがこぼれた。
「中村先輩!」
俺はぶんぶんと手を振って、笑顔で駆け寄った。
先輩は俺を見るなり目を見開いて「お前もっとバスケ強いとこ行けよ。馬鹿か?」と呆れた顔した。
期待した反応とは違って、ガクッと肩を落とし気持ちが沈む。
「いや、それ俺のセリフですって」
落胆を必死に隠して言い返した。
「またお前とバスケすんのかよ」
先輩が顔をしかめたけれど、俺にはわかった。声に嬉しさがにじみ出ている。じっと見つめると「なんだよ」と眉を寄せる先輩の口角がわずかに上がってた。
心が震えるほど嬉しくて倒れそうになって、必死で踏ん張った。
先輩を追いかけてきて本当によかった!
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