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SNSの“Simon”

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「なぁなぁ、もしかしてさ。シモンじゃね? てか絶対シモンだろっ?」
「は……?」
 
 中庭のベンチに座って弁当を食べ終え、いつものように空にスマホをかざして写真を撮っていた。
 すると、突然隣に男が座り俺のスマホを覗き込みながら、シモンだろ、と言ってきた。
 確かに俺の名は史門。高坂史門こうさかしもんだ。
 でも、このイケメンと俺は何も接点がない。
 誰もが口をそろえて良い奴だと言う隣のクラスの人気者、小嶋雅こじまみやび
 良い奴、優しい、カッコイイ、そんな褒め言葉しか聞いたことがない男。  
 背はそれほど高くはない。たぶん俺よりも小さいはずだが、バスケ部では二年で唯一レギュラーらしい。
 そんな評判が、聞きたくもないのに毎日のように耳に入ってくるほどの人気者だ。
 片や俺は、ごくごく普通の……いや、クラスメイトに認識されているかも怪しい影のような存在。

「なぁ、シモンだろって」

 どこか期待したような目でふたたび問われた。
 かき上げた栗色の髪がサラサラと額に流れ落ち、太陽に照らされキラキラと光る。綺麗だな、と思った。
 くせ毛で真っ黒な俺の髪とは大違いだ。……これがイケメンか。
 
「史門……だけど」

 なぜ下の名前で呼びかけるのか。俺が史門だったらなんだというんだ。

「空の写真の“Simon”だろっ?」
「あ……」

 俺はSNSで毎日空の写真をあげている。アカウント名は“Simon”だ。

「なんで知ってるんだ?」
「やっぱりっ! 友達の友達の友達のーってたどっていったらさ。毎日空の写真しかあげてない不思議なやつがいてさ」
「不思議なやつ……」

 まあそうだろうな。

「なんか俺、あの写真すげぇ好きなんだよなっ。んで、なんか毎日空にスマホかざしてるやつがいるからさっ。絶対“Simon”だっ! って思ってっ」

 すごい嬉しそうに笑みをこぼしながらハイテンションで説明された。

「あ、もしかしてフォロワーの“MIYABI”って……」
「それっ俺っ!」
 
 三ヶ月くらい前、突然フォローされたアカウント“MIYABI”。
 毎日“いいね”を送ってくるから、よほど空が好きなんだなと思ってた。

「空が好きなのか?」
「んー、シモンの写真見るまでは全然興味なかった。でも、シモンの写真はすげぇ好きっ。今日はこんな空だったのかーって毎日見てる。シモンって写真部?」
「いや違う。これはただの趣味。カメラなんて持ってないし。空が……なんかわかんないけど好きなんだ」
「すげぇっ。スマホだけであんな綺麗な写真撮れんだなっ! 他にはどこで撮ってんの?」
「どこって……登下校中とか、夕焼けの時間に散歩したり……」
「散歩っ!」

 ふはっと笑われてムッとした。
 
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