【完結】本気だと相手にされないのでビッチを演じることにした

たっこ

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番外編

クリスマス 1 ✦side冬磨✦ 

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ご無沙汰しております。
多忙で新連載がなかなか準備できないため、せめてクリスマスの番外編を、と書き始めたら、どんどん長くなってしまい……全5話です。あれ……おかしいな?汗
クリスマスに完結にしたかったのに、クリスマスにスタートになってしまいました(> <。)ごめんなさい!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 外勤で歩き慣れた道が様変わりしている。夕方の薄暗い空の下、あちこちの店がクリスマスの飾り付けで街を彩り、光がまるで星のように輝いていた。
 並木に目をやると、枝に巻きついた無数の電飾が赤や金色の暖かな光と青や白の冷たい光を放ち、まるで街全体がイルミネーションに飲み込まれたようだった。
 
「クリスマスか……」
 
 親が生きていた頃は、クリスマスには焼いたチキンとケーキが出てきた。
 高校に上がった頃からツリーは飾らなくなったが、毎年クリスマスリースを玄関のドアに飾ってたっけな。
 事故のあと一人になってからは、クリスマスがただの虚しさにしか感じられなくなった。家族と過ごす温かい日々が思い出として残るだけで、どんなに周りが楽しそうにしていても、俺には何も響かなかった。

 でも、そんなクリスマスはもう終わったんだ。
 これからは天音がいる。
 今年は天音と一緒に迎える初めてのクリスマスだ。
 せっかくだしツリーも飾るかな。
 母さんが捨てるわけがないから、まだどこかにあるだろう。探してみるか。天音がウキウキで飾り付ける姿が目に浮かぶ。
 イブにはチキンとケーキとプレゼントと……想像したら自然と顔が緩んだ。
 プレゼントはどうしようか。
 できれば、何にか特別なものを贈りたい。
 でも、何がいいんだろう。
 財布? 時計? ネクタイ?
 どれだけ考えても、定番なプレゼントしか浮かばない。
 何を選んでも物足りない気がするな……。
 天音へのプレゼント……何がいいのか全然わからない。
 天音とのデートに悩んだ時を思い出し、思わず苦笑する。
 今はデートよりもプレゼントの方が難しい。
 地下鉄に揺られながら、全く答えは見つからなかった。
 会社のビルが見えてきて、ため息をつきながら中に入った。

「クリスマスプレゼントっすか?」
「うん。お前、今まで彼女にどんな物もらった?」

 早速佐竹に問いかけたが、ちょっと不貞腐れたように肩をすくめる。

「今カノが初カノなんで。親にもらった物しかないっす」
「あ、そっか、悪い。ま、俺も同じだ」

 慰めに、外勤でもらった菓子の小袋を佐竹のデスクに乗せると、「どうもっす」とすぐに袋を開け、口に放り込むなり「うまっ」と一言。たちまち機嫌が直った。

「天音さんへのプレゼントで悩んでるんすか?」
「うん。何がいいのか全然わかんねぇんだよ」

 天音の好きな物……甘いもの、ポトフ、エビフライ、卵、星……。
 もうそこでネタ切れだ。
 佐竹とプレゼントの候補をあれこれと話しながら、帰る支度をして事務所を出た。
 エレベーターを目指して廊下を歩き、少し前を歩く『もぶえ』こと西原を追い抜いた瞬間、目に入ったそれに俺は釘付けになった。
 西原の手にあるスマホ。そのケースだ。

「もぶえ……」

 思わず呼び止めようとして、西原がいま通話中だとやっと気がつく。
 ふと目が合った西原が、俺の強い視線に目を瞬き、俺を追い抜いた先で足を止めた。

「――あ、ごめん、また後で電話する……っ」

 西原はそう言って慌てたように通話を終了し、俺を振り返った。

「あ、すみません。えっと、あの、私になにか……?」

 戸惑っている様子で俺を見ながらスマホをバッグにしまおうとする西原を、俺は「待て!」と強く止めた。

「え……っ?」
「悪い、それちょっと見せてくれないか?」
「え? それ? って、どれ……?」

 西原の手元から視線を離さない俺に、「これ……ですか?」とスマホを見せてくれる。でも、俺が見たいのはスマホの画面じゃない。

「裏だ。裏を見せて」
「う、裏……ですか?」

 戸惑うように裏返された西原の手元のスマホケース。
 漆黒の背景に煌めく星々が散りばめられ、まるで夜空そのものを切り取って閉じ込めたようなデザインだ。
 シンプルながらもどこか幻想的な雰囲気を醸し出すそのケースに、俺は目を奪われた。
 天音にピッタリだ! まさに天音のための物だろ!

「これ、どこで買った? どこに売ってんの? ネット?」
「えっ……と?」 
「このスマホケース、どこで買えるのか教えてくれ!」

 俺の懇願に、西原はさらに高速で瞬きをしながら答えた。

「あの……これ、手作りなんです」
「え、手作り? これが?」
「は、はい。わりと簡単に作れるんですよ」

 簡単に作れると聞いて、一気に気分が高揚した。
 ただ選んで買うだけのプレゼントじゃ味気ないと思ってたんだ。
 手作りのものなら、もっと特別に感じてもらえねぇかな。

「俺でも作れるか?」
「え……っ、主任がですか?」
「頼む。俺に作り方、教えてくれっ」
「えぇっ?」

 こうして俺は、早速明日から西原によるスマホケース講座を受講することになった。

 
 
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マスターの日常 短編集
冬磨×天音のおまけ♡LINE風会話
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