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番外編
ぶどう狩り◆モブ視点◆ 2
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バスを降り、二号車の人たちと合流してぶどう狩りの説明を受ける。その間、私たちは女性陣からのきつい視線をあびた。覚悟はしていた。あのバスへの乗り込み方では仕方ない。
でも、そんな視線は全く気にならないほど、バスの中の主任と天音くんは眼福だった。
一号車……ありがとう!
皆で果樹園の中に移動し、さっそくぶどう狩りが始まった。
始まったのに、女性陣は動かない。あちこちに散らばるのは家族連ればかりで、女性陣は不自然に主任と天音くんの周りに集まっている。かくいう私たちもその仲間だけれど。
「ね、冬磨、何から食べる? 俺、ぶどう狩りって聞いてたからぶどうだけかと思ってたけど、色々食べれるんだね」
はい! 私もぶどうだけだと思ってました!
「だな。他はなんだっけ。りんごと梨だっけか?」
「あとね、プルーンって書いてある」
詳細が書かれた紙を見ながら、天音くんが説明する。
「俺、プルーンってドライフルーツでしか食べたことない」
はい! 私も同じです!
「俺は食ったことねぇな」
「そうなの? じゃあプルーンから食べる?」
「いや。天音が一番好きなのからにしよ」
天音くんが、パッと可愛い笑顔を主任に向ける。
「じゃあ、ぶどう!」
「いいよ。ぶどうはどっちだ? あの辺か?」
「えっとね……うん、あっち!」
果樹園のマップを見ながら天音くんが指をさし、自然に主任と手を繋いで歩き始める。
私と先輩がグッと拳を握って歓喜にひたっていると、他の女性陣がキャーキャーと騒ぎ出した。
あ! バカ! そんなに騒いだら……!
「あ……っ」
天音くんが周りを見渡し、騒いでいる女性陣に気づいてしまった。一瞬で顔を真っ赤にし、慌てて繋いでいた手をぱっと離した。
「ごめん、冬磨……っ、ついクセで……」
「別に今日はそのままでもいいと思うぞ?」
「ダメだよ、ちゃんとしないと。もしここに松島さんがいたらきっと注意されてるよ……」
「そうか? 松島さんって、キスマは注意するけどこれはなんも言わなくね?」
キ、キスマに注意されたんですかーーー?!
主任ってキスマ付ける人なんだっ!!
ってか、注意されるってどれだけつけたんですかーーー!!
キスマと言えばベッドでイチャイチャよね……イチャイチャ……はぅ……っ!
「ちょっと、二人行っちゃうよ! 鼻血出してる場合じゃないでしょ!」
「えっ、は、鼻血出てます?!」
「出てないけど今にも出そうな顔」
「え、ちょっと、どんな顔ですかそれ」
ビビらせないでくださいよっ。
主任と天音くんが動けば女性陣も動く。主任の周りが常に人混みというカオス状態だった。
少し奥に進むと、ぶどうの棚が見えてきた。たわわに実った房が重たげに垂れ下がっている。
「わぁ! 美味しそう!」
天音くんが笑顔で駆け寄り、さっそく房をハサミで取って一粒パクッと口の中へ。
「ん~! おいひい! とぉまも、はいっ!」
もう一粒取って主任の口へ。
「ん、美味い」
「ねっ! 幸せ~」
天音くんがまた一粒摘まみ主任の口に入れると、主任は嬉しそうに微笑んで、今度は主任が天音くんの口にぶどうを入れる。お互いの口にぶどうを運びながら幸せそうに微笑み合う二人の姿があまりにも自然で、思わず胸が熱くなった。
「尊いね……」
「ですね……」
もう、その言葉しか出てこない。
今まで読んできたどんな小説や漫画よりも、どんなドラマよりも、二人の姿は格別に尊くて、心が震えるほどだった。
「ね、冬磨、もっと甘いぶどう探そ~」
「んじゃ俺は天音よりもっと甘いの探すわ」
「じゃあ勝負しよっ。絶対負けないからね!」
「ふは。かわい」
そんなやり取りのあと、二人がそれぞれ甘いぶどうを探しに離れて歩き出す。
主任がこちらに近づいてきて、私は慌てて咄嗟に目の前のぶどうの房をハサミで取った。ぶどう狩りを楽しんでますよ~というアピールだ。
「……っ、酸っぱっっ!!」
一粒食べたぶどうのあまりの酸っぱさに仰天する。
よく吟味もせず適当に取ったから自業自得だ。
このぶどうは責任をもって持って帰ろう……。お持ち帰り二kg付きコースでよかった。帰ったら砂糖漬けにしようかな。
「それ酸っぱいの?」
「え?」
ふいに話しかけられて顔を上げると、主任がすぐそばに立っていて飛び上がりそうになった。
「え、あのっ」
会社では挨拶程度しか言葉を交わしたことがない。
少なくとも顔は覚えてもらえてたんだ! と嬉しくなった。
「それ、どんくらい酸っぱい?」
「あ、た、食べてみます?」
「お、さんきゅ」
一粒摘んで食べてみた主任が、顔をしかめて「酸っぱ!」と言って笑う。
「マジで酸っぱいな」
「で、ですよね」
「これ、もらっちゃダメか?」
「え? こんな酸っぱいのを……ですか?」
「ダメ?」
「い、いえ、こんなのでよければ……どうぞ」
ぶどうの房を手渡すと、主任は優しく微笑んで「さんきゅ」と受け取った。
その酸っぱいぶどう、どうするんだろう。私は主任と会話をした興奮よりも、そのぶどうの行方が気になった。
主任が離れていくと、先輩が興奮したように「ちょっとちょっとずるいじゃん!!」と言いながら私の身体を揺すって抗議した。
「私も酸っぱいぶどう探そ!」と言って先輩が離れていき、周りの女性陣も「酸っぱいの酸っぱいのっ」と、ぶどう狩りの趣旨から離れていく。
みんな……たぶん二度目はないと思うよ。
「天音~、これすっげぇ甘いぞ~」
えっ?!
驚いて主任を振り向いた。
なんと、主任はあの酸っぱいぶどうを手に「すごい甘い」と言って天音くんを呼び寄せている。
主任がそんな子供みたいないたずらを……!
うわっ。すごい満面の笑み。そんな優しい笑顔じゃ天音くん絶対に騙されちゃうよ……っ。
主任……詐欺師になれそう……。
「冬磨もう甘いの見つけたの?」
「うん、見つけた。ほら、甘いぞ?」
と、天音くんの口に酸っぱいぶどうを一粒コロンと入れた。
「っんん?! 酸っぱぁっ!!」
「ふはっ」
目いっぱい目尻を下げて吹き出しながらも、愛おしそうに天音くんを見つめる主任の気持ちが分かりすぎた。
天音くんは顔をしかめても可愛い!
何をしてても可愛い!
どうしてあんなに愛くるしいんですかっ?!
「ひ、ひどいよ冬磨~!」
「ははっ、ごめん、てか可愛い」
「可愛くないっ! 俺怒ってんのっ!」
「うんうん、かわい……」
「もうっ!」
怒ってる天音くんも可愛いです……っ!
ひたすら天音くんを愛でている主任も可愛いです……っ!
二人の可愛らしいやり取りに、私たちを含め周囲の女性陣は心を射抜かれて悶絶した。
でも、そんな視線は全く気にならないほど、バスの中の主任と天音くんは眼福だった。
一号車……ありがとう!
皆で果樹園の中に移動し、さっそくぶどう狩りが始まった。
始まったのに、女性陣は動かない。あちこちに散らばるのは家族連ればかりで、女性陣は不自然に主任と天音くんの周りに集まっている。かくいう私たちもその仲間だけれど。
「ね、冬磨、何から食べる? 俺、ぶどう狩りって聞いてたからぶどうだけかと思ってたけど、色々食べれるんだね」
はい! 私もぶどうだけだと思ってました!
「だな。他はなんだっけ。りんごと梨だっけか?」
「あとね、プルーンって書いてある」
詳細が書かれた紙を見ながら、天音くんが説明する。
「俺、プルーンってドライフルーツでしか食べたことない」
はい! 私も同じです!
「俺は食ったことねぇな」
「そうなの? じゃあプルーンから食べる?」
「いや。天音が一番好きなのからにしよ」
天音くんが、パッと可愛い笑顔を主任に向ける。
「じゃあ、ぶどう!」
「いいよ。ぶどうはどっちだ? あの辺か?」
「えっとね……うん、あっち!」
果樹園のマップを見ながら天音くんが指をさし、自然に主任と手を繋いで歩き始める。
私と先輩がグッと拳を握って歓喜にひたっていると、他の女性陣がキャーキャーと騒ぎ出した。
あ! バカ! そんなに騒いだら……!
「あ……っ」
天音くんが周りを見渡し、騒いでいる女性陣に気づいてしまった。一瞬で顔を真っ赤にし、慌てて繋いでいた手をぱっと離した。
「ごめん、冬磨……っ、ついクセで……」
「別に今日はそのままでもいいと思うぞ?」
「ダメだよ、ちゃんとしないと。もしここに松島さんがいたらきっと注意されてるよ……」
「そうか? 松島さんって、キスマは注意するけどこれはなんも言わなくね?」
キ、キスマに注意されたんですかーーー?!
主任ってキスマ付ける人なんだっ!!
ってか、注意されるってどれだけつけたんですかーーー!!
キスマと言えばベッドでイチャイチャよね……イチャイチャ……はぅ……っ!
「ちょっと、二人行っちゃうよ! 鼻血出してる場合じゃないでしょ!」
「えっ、は、鼻血出てます?!」
「出てないけど今にも出そうな顔」
「え、ちょっと、どんな顔ですかそれ」
ビビらせないでくださいよっ。
主任と天音くんが動けば女性陣も動く。主任の周りが常に人混みというカオス状態だった。
少し奥に進むと、ぶどうの棚が見えてきた。たわわに実った房が重たげに垂れ下がっている。
「わぁ! 美味しそう!」
天音くんが笑顔で駆け寄り、さっそく房をハサミで取って一粒パクッと口の中へ。
「ん~! おいひい! とぉまも、はいっ!」
もう一粒取って主任の口へ。
「ん、美味い」
「ねっ! 幸せ~」
天音くんがまた一粒摘まみ主任の口に入れると、主任は嬉しそうに微笑んで、今度は主任が天音くんの口にぶどうを入れる。お互いの口にぶどうを運びながら幸せそうに微笑み合う二人の姿があまりにも自然で、思わず胸が熱くなった。
「尊いね……」
「ですね……」
もう、その言葉しか出てこない。
今まで読んできたどんな小説や漫画よりも、どんなドラマよりも、二人の姿は格別に尊くて、心が震えるほどだった。
「ね、冬磨、もっと甘いぶどう探そ~」
「んじゃ俺は天音よりもっと甘いの探すわ」
「じゃあ勝負しよっ。絶対負けないからね!」
「ふは。かわい」
そんなやり取りのあと、二人がそれぞれ甘いぶどうを探しに離れて歩き出す。
主任がこちらに近づいてきて、私は慌てて咄嗟に目の前のぶどうの房をハサミで取った。ぶどう狩りを楽しんでますよ~というアピールだ。
「……っ、酸っぱっっ!!」
一粒食べたぶどうのあまりの酸っぱさに仰天する。
よく吟味もせず適当に取ったから自業自得だ。
このぶどうは責任をもって持って帰ろう……。お持ち帰り二kg付きコースでよかった。帰ったら砂糖漬けにしようかな。
「それ酸っぱいの?」
「え?」
ふいに話しかけられて顔を上げると、主任がすぐそばに立っていて飛び上がりそうになった。
「え、あのっ」
会社では挨拶程度しか言葉を交わしたことがない。
少なくとも顔は覚えてもらえてたんだ! と嬉しくなった。
「それ、どんくらい酸っぱい?」
「あ、た、食べてみます?」
「お、さんきゅ」
一粒摘んで食べてみた主任が、顔をしかめて「酸っぱ!」と言って笑う。
「マジで酸っぱいな」
「で、ですよね」
「これ、もらっちゃダメか?」
「え? こんな酸っぱいのを……ですか?」
「ダメ?」
「い、いえ、こんなのでよければ……どうぞ」
ぶどうの房を手渡すと、主任は優しく微笑んで「さんきゅ」と受け取った。
その酸っぱいぶどう、どうするんだろう。私は主任と会話をした興奮よりも、そのぶどうの行方が気になった。
主任が離れていくと、先輩が興奮したように「ちょっとちょっとずるいじゃん!!」と言いながら私の身体を揺すって抗議した。
「私も酸っぱいぶどう探そ!」と言って先輩が離れていき、周りの女性陣も「酸っぱいの酸っぱいのっ」と、ぶどう狩りの趣旨から離れていく。
みんな……たぶん二度目はないと思うよ。
「天音~、これすっげぇ甘いぞ~」
えっ?!
驚いて主任を振り向いた。
なんと、主任はあの酸っぱいぶどうを手に「すごい甘い」と言って天音くんを呼び寄せている。
主任がそんな子供みたいないたずらを……!
うわっ。すごい満面の笑み。そんな優しい笑顔じゃ天音くん絶対に騙されちゃうよ……っ。
主任……詐欺師になれそう……。
「冬磨もう甘いの見つけたの?」
「うん、見つけた。ほら、甘いぞ?」
と、天音くんの口に酸っぱいぶどうを一粒コロンと入れた。
「っんん?! 酸っぱぁっ!!」
「ふはっ」
目いっぱい目尻を下げて吹き出しながらも、愛おしそうに天音くんを見つめる主任の気持ちが分かりすぎた。
天音くんは顔をしかめても可愛い!
何をしてても可愛い!
どうしてあんなに愛くるしいんですかっ?!
「ひ、ひどいよ冬磨~!」
「ははっ、ごめん、てか可愛い」
「可愛くないっ! 俺怒ってんのっ!」
「うんうん、かわい……」
「もうっ!」
怒ってる天音くんも可愛いです……っ!
ひたすら天音くんを愛でている主任も可愛いです……っ!
二人の可愛らしいやり取りに、私たちを含め周囲の女性陣は心を射抜かれて悶絶した。
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