136 / 154
番外編
あの男は誰だ✦side冬磨✦ 1
しおりを挟む 隣に立つ課長に視線を向ける。
課長は私の視線を受けて、「佐々木くんに僕の姿は見えてないよ」と言った。そして証拠を見せるように自分のデスクの引き出しを開ける江里菜の傍に行き、 課長は江里菜の肩を叩き、「佐々木くん、久しぶり」と声を掛けた。
江里菜は全く無反応に引き出しの中を漁っていた。
「あった! やっぱりここだったんだ」
江里菜が独り言のように言った。
「じゃあ、帰ります。お疲れ様でした」
江里菜がドアに向かって歩き出した。
「あの、佐々木さん」
「何ですか?」
江里菜が振り向いた。
「見えない?」
視線を課長の方に向けた。
課長は笑顔を浮かべて江里菜の前に立ち、バンザイをしたり、ジャンプしながら、「やあ、佐々木くん、僕の事見える?」と聞いた。
「何を?」
江里菜がきょとんとした表情を浮かべた。
「佐々木さん、本当に見えないの?」
「だから何をです?」
江里菜が眉を寄せる。
「えーと、その課長……」
「課長?」
「いえ、あの、くも。佐々木さんの肩に小さな蜘蛛が」
「えーっ、ヤダー!」
江里菜が凄い勢いで肩を払った。
「ねえ、取れました? 取れました?」
「は、はい。取れました」
「びっくりした。じゃあお先に」
江里菜がオフィスを出て行った。
課長がこっちを向いた。
「ね、島本くんにしか僕は見えないんだよ」
「なんでですか?」
「それは僕にもわからない。残念ながら娘も、両親も兄弟も僕に気づかなかったんだ。 もしかして島本くん、霊感が強いんじゃない? 時々、僕みたいな死んじゃった人見える事があったりしない?」
「しませんよ。死んじゃった人が見えたのは課長が初めてです」
「うーん、そうか」
課長がポリポリと頭をかく。
「後はあれかな」
課長が小声で言った。
「あれ?」
「いや、何でもない」
「何です? 気になります」
「いや、いいんだ」
「教えて下さい」
「だから、何でもないって。そんな事より早く仕事を終わらせなさい。今はあまり残業ができないだろ」
急に課長が上司の表情をした。
渋々パソコンに向かった。
課長は自分の席だった所に座り、腕を組んで何かを考えていた。
課長は私の視線を受けて、「佐々木くんに僕の姿は見えてないよ」と言った。そして証拠を見せるように自分のデスクの引き出しを開ける江里菜の傍に行き、 課長は江里菜の肩を叩き、「佐々木くん、久しぶり」と声を掛けた。
江里菜は全く無反応に引き出しの中を漁っていた。
「あった! やっぱりここだったんだ」
江里菜が独り言のように言った。
「じゃあ、帰ります。お疲れ様でした」
江里菜がドアに向かって歩き出した。
「あの、佐々木さん」
「何ですか?」
江里菜が振り向いた。
「見えない?」
視線を課長の方に向けた。
課長は笑顔を浮かべて江里菜の前に立ち、バンザイをしたり、ジャンプしながら、「やあ、佐々木くん、僕の事見える?」と聞いた。
「何を?」
江里菜がきょとんとした表情を浮かべた。
「佐々木さん、本当に見えないの?」
「だから何をです?」
江里菜が眉を寄せる。
「えーと、その課長……」
「課長?」
「いえ、あの、くも。佐々木さんの肩に小さな蜘蛛が」
「えーっ、ヤダー!」
江里菜が凄い勢いで肩を払った。
「ねえ、取れました? 取れました?」
「は、はい。取れました」
「びっくりした。じゃあお先に」
江里菜がオフィスを出て行った。
課長がこっちを向いた。
「ね、島本くんにしか僕は見えないんだよ」
「なんでですか?」
「それは僕にもわからない。残念ながら娘も、両親も兄弟も僕に気づかなかったんだ。 もしかして島本くん、霊感が強いんじゃない? 時々、僕みたいな死んじゃった人見える事があったりしない?」
「しませんよ。死んじゃった人が見えたのは課長が初めてです」
「うーん、そうか」
課長がポリポリと頭をかく。
「後はあれかな」
課長が小声で言った。
「あれ?」
「いや、何でもない」
「何です? 気になります」
「いや、いいんだ」
「教えて下さい」
「だから、何でもないって。そんな事より早く仕事を終わらせなさい。今はあまり残業ができないだろ」
急に課長が上司の表情をした。
渋々パソコンに向かった。
課長は自分の席だった所に座り、腕を組んで何かを考えていた。
105
お気に入りに追加
2,124
あなたにおすすめの小説

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載

振られた腹いせに別の男と付き合ったらそいつに本気になってしまった話
雨宮里玖
BL
「好きな人が出来たから別れたい」と恋人の翔に突然言われてしまった諒平。
諒平は別れたくないと引き止めようとするが翔は諒平に最初で最後のキスをした後、去ってしまった。
実は翔には諒平に隠している事実があり——。
諒平(20)攻め。大学生。
翔(20) 受け。大学生。
慶介(21)翔と同じサークルの友人。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます

どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる