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冬磨編
55 最終話 天音の家へ 終
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「冬磨くんはキャンプが好きなのかい?」
お父さんがウキウキとしながら、空になった俺のグラスにビールを注ぐ。
『どうしてひどい生活になったのか』が聞きたいと言っていたのに、一向にそれを聞いてこない。ビールはもうグラスで四杯目だ。やばい……どんどん緊張してくる……。
「大人になってからは初めて行きましたが、すごく楽しかったです。キャンプ、すごく好きです」
「そうかそうか! じゃあ来年は冬磨くんも一緒にみんなでキャンプに行こうかっ」
「え、やだ。俺は冬磨と二人で行きたいもん」
お父さんが興奮気味に提案したキャンプを、天音が容赦なく却下した。
美味しそうに寿司を頬張りながら、俺の視線に気づいた天音がふわっと微笑む。
「なんだよ、冷たいな天音」
寂しそうにお父さんが拗ねる。
先日のキャンプのとき、中学生以来のキャンプだと天音は言っていた。家族キャンプに行きたいと熱くなるお父さんの気持ちが痛いほど伝わってくる。そして、その家族キャンプの中に当たり前のように俺を入れてくれるお父さんが、やっぱり大好きだ。
「あの、私も……いえ、俺も、みなさんと一緒にキャンプ、行きたいです」
お言葉に甘えて堅苦しい話し方を少しゆるめる。
「おっ、よし、じゃあみんなで行こうっ!」
「冬磨……」
天音が心配そうに俺を見て瞳をゆらす。
「父さんの言うことは気にしなくていいよ……?」
「いや、本当に行きたいよ。みんなで行くの楽しそう。二人だけでも行けばいいし、いっぱいキャンプ行こう」
きっとまた俺が疲れてしまうと心配しているんだろう。「本当に?」「大丈夫?」と何度も確認するから「本当に行きたいよ」と笑顔で頭をくしゃっと撫でると、やっと安心したように顔をゆるませた。
「うん、じゃあ俺も行きたい」
「よし、決定だな! 家族キャンプなんて何年ぶりだ?」
お父さんがキャンプの話を熱く語り始め、お母さんはそれをニコニコ笑って聞いて、天音は若干あきれた顔をする。
飽きてないかな、とでも思っていそうな顔でチラチラと俺の顔を確認する天音に、「俺、やっぱお父さんすげぇ好き」と耳打ちすると、また安心した顔を見せた。
「それで、パートナーシップ制度と養子縁組はどうするの?」
お母さんの質問に、一気に緊張が走る。
この話をするということは、『どうしてひどい生活になったのか』という話にもつながる。
お父さんが「養子縁組はやめた方がいいんじゃないか?」と言った。
「養子縁組って、将来もし同性婚ができるようになったときに結婚できないっていうだろ? とりあえずパートナーシップ制度の方がいいんじゃないか?」
お父さんも色々と調べてくれていたんだ、と喜びが胸に広がった。
「パートナーシップ制度は、緊急時に家族だと認められない場合があるそうなんです」
「え、そうなのか?」
「そうなの?」
三人とも驚く声を上げた。
「それと、俺には連絡すら来ない可能性もあります。パートナーだと示す受領カードを持っていても、警察はまず免許証から身元の確認をするようで……」
「そうなのか……いや、確かにそうかもな……」
「それが……すごく不安なんです。俺は、両親を事故で亡くしていまして……」
「ああ。天音から聞いているよ。大学卒業前……だったかな?」
「……はい。もうご存知だったんですね」
そうか。話してあったか。そうだよな。
天音が俺を見て、小さく首を横に振る。これは、事故の詳細は話してないということだろう。
テーブルの下で天音の手をそっと握る。天音は俺をじっと見つめ、繋いだ手に力を込めた。
天音に勇気をもらって、俺はゆっくりと話し始めた。
大学四年の秋、両親に函館旅行をプレゼントしたこと。その帰りの山道でトラックと衝突したこと。警察から電話がきて、慌てて病院に駆けつけたが間に合わなかったこと。
「親を殺した俺がどうして生きてるんだと……もう死んでしまいたいと……自暴自棄になった時期もありました」
「冬磨くん、それは違う。事故は事故だ。君が責任を感じる必要はないんだよ」
「……はい。そう思えるまでに何年もかかりました」
「と……冬磨……っ」
天音の両親が悲しみの表情を見せ、隣では天音が涙を浮かべていた。大丈夫だよ、と俺は天音に笑いかけた。
「あんなつらい思いは二度としたくない、だから、もう俺には大切な存在はいらないと……ずっとそう思っていました。……でも、俺は天音さんに出会った。出会うことができました。俺にとって天音さんは、何よりも大切な存在です。今では天音さんが、俺の生きる意味になりました」
「ぅ゙……とぉ……まっ」
天音を見ると予想通り涙を流していて、俺はまたハンカチで涙を拭った。
お母さんも涙を浮かべている。お父さんはうつむいていて表情は分からなかった。
「そばにいるときは、どんなことがあっても俺が天音さんを守ります。守り抜くと誓います。……でも、そばにいてあげられない時に何か……もし何かあったら……そんなことを毎日想像して不安になってしまうんです」
「冬磨くん……」
「すぐに連絡をもらって駆けつけてもダメだった。じゃあ天音さんがもしもの時に連絡すらもらえなかったら……。想像するだけで恐ろしいです」
天音への想いが日に日に強くなり、どんどん大切な存在になっていく。俺の命に代えても天音を守る。絶対に守ってみせる。
「天音さんに何かあったとき、一番に連絡をもらえる存在になりたい。そのためには養子縁組の方が安心なんです。ただ……世間的には親子ってことになってしまうので、パートナーになる、そう考えるとパートナーシップ制度の方がいい……。もうずっとそんな風に堂々巡りをしています……」
話し終わったときには、シンと部屋が静まり返っていた。
俺の話はちょっと重すぎたかもしれない。冷や汗が流れたとき、天音が俺に抱きついて泣き出した。
「とぉま……っ」
ゔぅーと嗚咽を漏らして泣く。
「ごめん、ちょっと重かったよな?」
ふるふると首を振ってぎゅっと抱きつく天音の背中を優しくさすった。
両親の前でいいのかこれ、と思っていたら、気づけば天音の反対側からお母さんに抱きしめられた。
「えっ」
「冬磨くん……っ」
お母さんも泣いていた。
驚いて固まると、さらに後ろからお父さんがみんなを包み込むように抱きしめた。
「あ、あの……」
驚き、そして戸惑いながら、お父さんも泣いていると気づく。
三人の抱擁に包まれる。お母さんの手が優しく背中を撫で、お父さんの力強い抱擁が温かさを伝え、天音の涙が俺の胸を濡らす。
「冬磨くん、ごめんな。君がそんなにつらい思いをしてきたなんて、知らなくてごめん。でも、君が天音をすごく大切に思ってくれていること、それが何より嬉しいよ」
お父さんに頭をふわっと優しく撫でられた瞬間、グッと涙がこみ上げてきた。
お母さんが涙を拭いながらゆっくりと身体を離し、俺の目をまっすぐに見る。
「冬磨くんはもう星川家の一員だからね。本当の家族って、血とか法律じゃなくて心のつながりだから。どんな形でも、もう私たちはみんな冬磨くんの家族だよ」
星川家の一員……家族……その言葉に、こらえきれず涙があふれる。
俺は、自分が思っていたよりもずっと家族に飢えていたみたいだ。
天音の家族に、こんなにあたたかく迎え入れてもらえるとは想像もしていなかった。天音はどこまで俺に幸せを与えてくれるんだろう。
「養子縁組でも、パートナーシップ制度でも、どちらでもいい。二人の幸せが一番だよ。大事な選択だから、焦らずゆっくり家族みんなで考えよう」
お父さんが優しく俺に笑いかけ、背中をたたく。
「……はい。ありがとうございます」
天音はまだ俺を抱きしめたまま泣き続けていた。
「とぉま……」
「天音。ありがとな。天音のおかげで、また俺に家族ができた」
「ぅ゙……とぉま……っ」
俺の言葉は、天音の涙をさらに増やしてしまったらしい。ますます強くしがみつく天音を優しく抱きしめ、涙が俺の頬を伝った。
ひとしきり泣いて涙が落ち着いた天音は、優しく俺の背中を撫でる。
「俺も……俺も冬磨を守るから。ずっとずっとそばにいて冬磨を守るから」
「天音はそばにいてくれるだけでいいよ」
「俺も守るからっ」
「うん、わかった。ありがとな」
頭を撫でると、若干ムッとしたような顔を俺に向ける。
「本当に守るからねっ」
「ふはっ。うん、わかったって」
もうほんと可愛い。
この可愛い天音を、俺は一生守って生きていきたい。
「よし、もう一度あらためて乾杯しよう!」
お父さんは一気に雰囲気を変えて、明るい声を上げた。
みんなのグラスにビールを注ぎ、お父さんが俺に優しく笑いかける。
「冬磨」
「は、はい」
突然の名前呼びにハッとした。
「星川家にようこそ、冬磨」
お父さんが優しさを込めて「冬磨」と呼んでくれた瞬間、本当に家族の一員になれたんだと実感して、胸の奥がジンとした。
「冬磨……大丈夫?」
天音が俺の泣きそうな顔を見て、伝染したようにふたたび涙を浮かべる。
「大丈夫。すごい幸せでさ……本当に、最高に幸せ」
「冬磨……」
繋いだ手に、お互いぎゅっと力がこもる。天音が涙目で微笑んだ。
「新しく家族になった冬磨に、乾杯!」
「乾杯!」
グラスを合わせる心地いい音が響き、みんなに笑顔が広がった。
父さん、母さん、俺いま本当に最高に幸せだよ。
「冬磨。これからは何か困ったことがあればなんでも話してくれ。家族は助け合うことが大事だからな?」
「冬磨くん、これから一緒にたくさんいい思い出作ろうね」
そんな優しい言葉に心が熱くなる。家族として受け入れてもらえたことで、これまでの孤独感が嘘のように癒されていく。
「お父さん、お母さん……本当に、ありがとうございます」
喉の奥が熱くて声が震える。こんなはずじゃなかった。涙を見せるなんて……自分の親にだってそんなになかったのに。
お母さんが微笑むと、お父さんも、くしゃっと笑ってうなずいた。
目を真っ赤にした天音が、俺を見つめて優しく微笑む。
「冬磨……俺たち、もうずっと一緒だね」
「……ん。もうずっと一緒だ。あー……ほんと、反対されるつもりで来たから、すげぇホッとした……」
事故の話もすべて話し終わり、もう何も隠し事はない。安堵で一気に気が抜けて、急に手が震えてくる。
天音にもそれが伝わったようで、俺の手を両手で優しく包み込んだ。
「幸せだね」
「幸せだな」
声が被って、それがまた幸せで二人で笑った。
家族のあたたかさに包まれ、心が満たされ、幸福感と感謝の気持ちでいっぱいになる。
これからは家族となって、天音と一緒に歩んでいく。
未来へと歩んでいく。
「さて、じゃあ家族キャンプの計画を練ろうか!」
お父さんの張り切った声が響き渡った。
「父さん、気が早いよっ」
「お父さん、気が早いでしょっ」
二人に同時にツッコまれても、お父さんは何も動じず来年のキャンプの計画を立て始め、たまらなく笑いがこぼれる。
この幸せを与えてくれた天音に
天音と出会えた奇跡に
思いが通じ合えた奇跡に
もう天音が存在している奇跡に、俺は感謝した。
「冬磨……大好き」
「愛してるよ、天音」
耳元でささやき合い、俺たちは幸せに破顔した。
終 (おまけ♡を本日夜に更新します)
お父さんがウキウキとしながら、空になった俺のグラスにビールを注ぐ。
『どうしてひどい生活になったのか』が聞きたいと言っていたのに、一向にそれを聞いてこない。ビールはもうグラスで四杯目だ。やばい……どんどん緊張してくる……。
「大人になってからは初めて行きましたが、すごく楽しかったです。キャンプ、すごく好きです」
「そうかそうか! じゃあ来年は冬磨くんも一緒にみんなでキャンプに行こうかっ」
「え、やだ。俺は冬磨と二人で行きたいもん」
お父さんが興奮気味に提案したキャンプを、天音が容赦なく却下した。
美味しそうに寿司を頬張りながら、俺の視線に気づいた天音がふわっと微笑む。
「なんだよ、冷たいな天音」
寂しそうにお父さんが拗ねる。
先日のキャンプのとき、中学生以来のキャンプだと天音は言っていた。家族キャンプに行きたいと熱くなるお父さんの気持ちが痛いほど伝わってくる。そして、その家族キャンプの中に当たり前のように俺を入れてくれるお父さんが、やっぱり大好きだ。
「あの、私も……いえ、俺も、みなさんと一緒にキャンプ、行きたいです」
お言葉に甘えて堅苦しい話し方を少しゆるめる。
「おっ、よし、じゃあみんなで行こうっ!」
「冬磨……」
天音が心配そうに俺を見て瞳をゆらす。
「父さんの言うことは気にしなくていいよ……?」
「いや、本当に行きたいよ。みんなで行くの楽しそう。二人だけでも行けばいいし、いっぱいキャンプ行こう」
きっとまた俺が疲れてしまうと心配しているんだろう。「本当に?」「大丈夫?」と何度も確認するから「本当に行きたいよ」と笑顔で頭をくしゃっと撫でると、やっと安心したように顔をゆるませた。
「うん、じゃあ俺も行きたい」
「よし、決定だな! 家族キャンプなんて何年ぶりだ?」
お父さんがキャンプの話を熱く語り始め、お母さんはそれをニコニコ笑って聞いて、天音は若干あきれた顔をする。
飽きてないかな、とでも思っていそうな顔でチラチラと俺の顔を確認する天音に、「俺、やっぱお父さんすげぇ好き」と耳打ちすると、また安心した顔を見せた。
「それで、パートナーシップ制度と養子縁組はどうするの?」
お母さんの質問に、一気に緊張が走る。
この話をするということは、『どうしてひどい生活になったのか』という話にもつながる。
お父さんが「養子縁組はやめた方がいいんじゃないか?」と言った。
「養子縁組って、将来もし同性婚ができるようになったときに結婚できないっていうだろ? とりあえずパートナーシップ制度の方がいいんじゃないか?」
お父さんも色々と調べてくれていたんだ、と喜びが胸に広がった。
「パートナーシップ制度は、緊急時に家族だと認められない場合があるそうなんです」
「え、そうなのか?」
「そうなの?」
三人とも驚く声を上げた。
「それと、俺には連絡すら来ない可能性もあります。パートナーだと示す受領カードを持っていても、警察はまず免許証から身元の確認をするようで……」
「そうなのか……いや、確かにそうかもな……」
「それが……すごく不安なんです。俺は、両親を事故で亡くしていまして……」
「ああ。天音から聞いているよ。大学卒業前……だったかな?」
「……はい。もうご存知だったんですね」
そうか。話してあったか。そうだよな。
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テーブルの下で天音の手をそっと握る。天音は俺をじっと見つめ、繋いだ手に力を込めた。
天音に勇気をもらって、俺はゆっくりと話し始めた。
大学四年の秋、両親に函館旅行をプレゼントしたこと。その帰りの山道でトラックと衝突したこと。警察から電話がきて、慌てて病院に駆けつけたが間に合わなかったこと。
「親を殺した俺がどうして生きてるんだと……もう死んでしまいたいと……自暴自棄になった時期もありました」
「冬磨くん、それは違う。事故は事故だ。君が責任を感じる必要はないんだよ」
「……はい。そう思えるまでに何年もかかりました」
「と……冬磨……っ」
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「あんなつらい思いは二度としたくない、だから、もう俺には大切な存在はいらないと……ずっとそう思っていました。……でも、俺は天音さんに出会った。出会うことができました。俺にとって天音さんは、何よりも大切な存在です。今では天音さんが、俺の生きる意味になりました」
「ぅ゙……とぉ……まっ」
天音を見ると予想通り涙を流していて、俺はまたハンカチで涙を拭った。
お母さんも涙を浮かべている。お父さんはうつむいていて表情は分からなかった。
「そばにいるときは、どんなことがあっても俺が天音さんを守ります。守り抜くと誓います。……でも、そばにいてあげられない時に何か……もし何かあったら……そんなことを毎日想像して不安になってしまうんです」
「冬磨くん……」
「すぐに連絡をもらって駆けつけてもダメだった。じゃあ天音さんがもしもの時に連絡すらもらえなかったら……。想像するだけで恐ろしいです」
天音への想いが日に日に強くなり、どんどん大切な存在になっていく。俺の命に代えても天音を守る。絶対に守ってみせる。
「天音さんに何かあったとき、一番に連絡をもらえる存在になりたい。そのためには養子縁組の方が安心なんです。ただ……世間的には親子ってことになってしまうので、パートナーになる、そう考えるとパートナーシップ制度の方がいい……。もうずっとそんな風に堂々巡りをしています……」
話し終わったときには、シンと部屋が静まり返っていた。
俺の話はちょっと重すぎたかもしれない。冷や汗が流れたとき、天音が俺に抱きついて泣き出した。
「とぉま……っ」
ゔぅーと嗚咽を漏らして泣く。
「ごめん、ちょっと重かったよな?」
ふるふると首を振ってぎゅっと抱きつく天音の背中を優しくさすった。
両親の前でいいのかこれ、と思っていたら、気づけば天音の反対側からお母さんに抱きしめられた。
「えっ」
「冬磨くん……っ」
お母さんも泣いていた。
驚いて固まると、さらに後ろからお父さんがみんなを包み込むように抱きしめた。
「あ、あの……」
驚き、そして戸惑いながら、お父さんも泣いていると気づく。
三人の抱擁に包まれる。お母さんの手が優しく背中を撫で、お父さんの力強い抱擁が温かさを伝え、天音の涙が俺の胸を濡らす。
「冬磨くん、ごめんな。君がそんなにつらい思いをしてきたなんて、知らなくてごめん。でも、君が天音をすごく大切に思ってくれていること、それが何より嬉しいよ」
お父さんに頭をふわっと優しく撫でられた瞬間、グッと涙がこみ上げてきた。
お母さんが涙を拭いながらゆっくりと身体を離し、俺の目をまっすぐに見る。
「冬磨くんはもう星川家の一員だからね。本当の家族って、血とか法律じゃなくて心のつながりだから。どんな形でも、もう私たちはみんな冬磨くんの家族だよ」
星川家の一員……家族……その言葉に、こらえきれず涙があふれる。
俺は、自分が思っていたよりもずっと家族に飢えていたみたいだ。
天音の家族に、こんなにあたたかく迎え入れてもらえるとは想像もしていなかった。天音はどこまで俺に幸せを与えてくれるんだろう。
「養子縁組でも、パートナーシップ制度でも、どちらでもいい。二人の幸せが一番だよ。大事な選択だから、焦らずゆっくり家族みんなで考えよう」
お父さんが優しく俺に笑いかけ、背中をたたく。
「……はい。ありがとうございます」
天音はまだ俺を抱きしめたまま泣き続けていた。
「とぉま……」
「天音。ありがとな。天音のおかげで、また俺に家族ができた」
「ぅ゙……とぉま……っ」
俺の言葉は、天音の涙をさらに増やしてしまったらしい。ますます強くしがみつく天音を優しく抱きしめ、涙が俺の頬を伝った。
ひとしきり泣いて涙が落ち着いた天音は、優しく俺の背中を撫でる。
「俺も……俺も冬磨を守るから。ずっとずっとそばにいて冬磨を守るから」
「天音はそばにいてくれるだけでいいよ」
「俺も守るからっ」
「うん、わかった。ありがとな」
頭を撫でると、若干ムッとしたような顔を俺に向ける。
「本当に守るからねっ」
「ふはっ。うん、わかったって」
もうほんと可愛い。
この可愛い天音を、俺は一生守って生きていきたい。
「よし、もう一度あらためて乾杯しよう!」
お父さんは一気に雰囲気を変えて、明るい声を上げた。
みんなのグラスにビールを注ぎ、お父さんが俺に優しく笑いかける。
「冬磨」
「は、はい」
突然の名前呼びにハッとした。
「星川家にようこそ、冬磨」
お父さんが優しさを込めて「冬磨」と呼んでくれた瞬間、本当に家族の一員になれたんだと実感して、胸の奥がジンとした。
「冬磨……大丈夫?」
天音が俺の泣きそうな顔を見て、伝染したようにふたたび涙を浮かべる。
「大丈夫。すごい幸せでさ……本当に、最高に幸せ」
「冬磨……」
繋いだ手に、お互いぎゅっと力がこもる。天音が涙目で微笑んだ。
「新しく家族になった冬磨に、乾杯!」
「乾杯!」
グラスを合わせる心地いい音が響き、みんなに笑顔が広がった。
父さん、母さん、俺いま本当に最高に幸せだよ。
「冬磨。これからは何か困ったことがあればなんでも話してくれ。家族は助け合うことが大事だからな?」
「冬磨くん、これから一緒にたくさんいい思い出作ろうね」
そんな優しい言葉に心が熱くなる。家族として受け入れてもらえたことで、これまでの孤独感が嘘のように癒されていく。
「お父さん、お母さん……本当に、ありがとうございます」
喉の奥が熱くて声が震える。こんなはずじゃなかった。涙を見せるなんて……自分の親にだってそんなになかったのに。
お母さんが微笑むと、お父さんも、くしゃっと笑ってうなずいた。
目を真っ赤にした天音が、俺を見つめて優しく微笑む。
「冬磨……俺たち、もうずっと一緒だね」
「……ん。もうずっと一緒だ。あー……ほんと、反対されるつもりで来たから、すげぇホッとした……」
事故の話もすべて話し終わり、もう何も隠し事はない。安堵で一気に気が抜けて、急に手が震えてくる。
天音にもそれが伝わったようで、俺の手を両手で優しく包み込んだ。
「幸せだね」
「幸せだな」
声が被って、それがまた幸せで二人で笑った。
家族のあたたかさに包まれ、心が満たされ、幸福感と感謝の気持ちでいっぱいになる。
これからは家族となって、天音と一緒に歩んでいく。
未来へと歩んでいく。
「さて、じゃあ家族キャンプの計画を練ろうか!」
お父さんの張り切った声が響き渡った。
「父さん、気が早いよっ」
「お父さん、気が早いでしょっ」
二人に同時にツッコまれても、お父さんは何も動じず来年のキャンプの計画を立て始め、たまらなく笑いがこぼれる。
この幸せを与えてくれた天音に
天音と出会えた奇跡に
思いが通じ合えた奇跡に
もう天音が存在している奇跡に、俺は感謝した。
「冬磨……大好き」
「愛してるよ、天音」
耳元でささやき合い、俺たちは幸せに破顔した。
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