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冬磨編
54 最終話 天音の家へ 3
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しばらくして、Tシャツにジャージのハーフパンツ姿でお父さんがリビングに戻ってきた。
「すまん、待たせたね」
「父さん……冬磨の前で部屋着って……」
天音があきれた顔でため息をつく。
「俺だけじゃないぞ?」
「え……まさか母さんも?」
「お前たちだよ」
ほい、と渡されたジャージに思わずポカンとなった。
「え……」
俺と天音にそれぞれ渡されたワンセット。ジャージの上下にTシャツとハーフパンツ。
え、着替えろってことか?
天音も俺に困惑顔を見せる。
「冬磨くんのサイズはうちには無いから用意しておいた。せっかくだからみんなでおそろいだ」
「あ、だから身長聞いたんだ……って、そうじゃなくて、何これ父さん……」
「何って、ただの部屋着だよ。スーツじゃ窮屈だろう? 楽な格好でゆっくり飲もう。どうせ泊まるんだから着替えちゃえ?」
「へ? いや、泊まらないよ。もう少ししたら帰るって」
「何言ってる。飲んだら帰れないだろ」
「なに……飲まないってば」
「そんな冷たいこと言うなよ。もう宴会の準備も万端なのに」
「あいさつだけで帰るって伝えてあったでしょ?」
「ただの遠慮じゃなかったのか?」
天音は諦めたように、ふぅ、と息をついた。
「……わかった。宴会はいいけど飲まないよ?」
「酒しかないぞ?」
「え……ノンアル無いの?」
「そんなものは無い」
「ええ?」
笑顔で即答するお父さんに思わず笑ってしまった。
さっきまで、お父さんのイメージがちょっと違うな、と実は思っていた。いつもちゃんとしてる天音からはイメージ通りのお父さんだったが、天音から聞いていたイメージとはちょっと違った。
でも、今目の前にいるのは、思い描いていた通りの陽気なお父さんだ。
お母さんが料理を食卓テーブルに並べながら「あれ? 泊まっていかないの?」と聞いてくる。
「泊まらないよ、帰るよ。明日も用事あるもん」
天音はそう言ったが、明日は何も用事はないはずだった。
きっと、俺が気疲れすると心配しているんだろう。
「そっかぁ。じゃあちょっと買ってくるかな。ノンアルのビールでいい? ジュースも買ってくる?」
「ううん、俺が買ってくる」
立ち上がろうとする天音を俺は止めた。
「あの、お言葉に甘えて泊まってもいいですか?」
「えっ、冬磨?」
天音が俺の腕を掴んで心配そうな顔を向けた。
「もちろん泊まっていって。我が家で宅飲みするときはみんな泊まるコースだから、もう準備もしてあるの」
その言葉から、よく人が集まるにぎやかな家だと分かる。
「冬磨、無理しなくていいよ? ノンアル買ってくるよ。コンビニすぐそこだし」
「いや、なんか飲みたくなった。明日の朝帰れば用事は間に合うだろ?」
一応天音に合わせてそう聞くと「間に、合う、けど……」とたどたどしく答えるから口元がゆるんで仕方ない。かわい……。
「お言葉に甘えてゆっくりしよう。俺、家族でわいわいする雰囲気って懐かしくてさ。ちょっと嬉しいんだ」
「冬磨……」
心配そうに瞳をゆらす天音に「ほんとに、嬉しいんだ」と重ねて伝えた。
まだ信じてなさそうな天音の頭をくしゃっと撫でると、ホッとしたように息をついて「うん、じゃあ泊まってく?」と笑顔になった。
「天音の部屋で着替えておいで。イチャイチャしてないですぐ来いよ?」
ニヤッと笑うお父さんに、「し、しな……っ」と言いかけて止まった天音が頬をピンクに染める。
「すぐ来ればいいんでしょ。イチャイチャは父さんに関係ないじゃん。冬磨行こ」
と反抗的に言い返し、俺の手を取って引っ張った。
「え、あ、すぐ戻ります」
慌てて伝えた俺の言葉は、笑い転げてるお父さんたちにはたぶん聞こえなかったに違いない。
おそろいのTシャツとハーフパンツに着替えてリビングに戻ると、食卓テーブルいっぱいにご馳走が並んで準備万端だった。
「お、来た来た。早く座って。乾杯だ乾杯っ」
お父さんが俺たちの背中を押して椅子に座らせ、グラスにビールを注ぐ。
お母さん以外おそろいのTシャツとハーフパンツという、なんとも奇妙なラフすぎる格好でグラスを手に持った。
「それではっ。天音と冬磨くんの結婚を祝ってっ。乾杯!」
お父さんの乾杯の音頭に二人で顔を見合わせた。
「ま、まだこれからだよ……父さん気が早すぎ……っ」
「いいだろ? もうするって決まってるんだし。ほらほら、乾杯!」
「か、乾杯」
グラスを合わせる音が響く中、俺たちは照れくささに苦笑する。お父さんの早まった乾杯に戸惑いつつも、心の中に幸福感が広がった。
「二人とも顔真っ赤で可愛い。幸せっていいねぇ、お父さん」
「本当だなぁ。今日は最高にビールが美味いよ」
笑顔でご機嫌な天音の両親に心が温かくなった。
初対面でも自然に家族の輪に入れてくれる優しさ。
スーツを脱いだことで、さらにそう感じる。
楽しく過ごそうとしてくれる二人の優しい思いやりに、ふっと肩の力が抜けた。
「ツッコまれなかったね?」
天音が拍子抜けしたように耳打ちしてきて、思わず吹き出した。
天音の部屋でジャージに着替えたとき、「ねぇ冬磨。着替えて戻ったらさ。どうせイチャイチャしてきただろってツッコまれるんだしさ……」とごにょごにょ言い出して、「なら……しよ?」と可愛く誘ってくるから、さすがの俺も慌てた。
『しよ』って何? どこまでっ?
「ね、キス……しよ?」
キスかよっ! ビビるだろっ!
あーもう、ほんと可愛い。どうしてくれようか……まったく。
結果、天音のとろけた顔が落ち着くまで多少時間がかかったのは言うまでもない。
「すまん、待たせたね」
「父さん……冬磨の前で部屋着って……」
天音があきれた顔でため息をつく。
「俺だけじゃないぞ?」
「え……まさか母さんも?」
「お前たちだよ」
ほい、と渡されたジャージに思わずポカンとなった。
「え……」
俺と天音にそれぞれ渡されたワンセット。ジャージの上下にTシャツとハーフパンツ。
え、着替えろってことか?
天音も俺に困惑顔を見せる。
「冬磨くんのサイズはうちには無いから用意しておいた。せっかくだからみんなでおそろいだ」
「あ、だから身長聞いたんだ……って、そうじゃなくて、何これ父さん……」
「何って、ただの部屋着だよ。スーツじゃ窮屈だろう? 楽な格好でゆっくり飲もう。どうせ泊まるんだから着替えちゃえ?」
「へ? いや、泊まらないよ。もう少ししたら帰るって」
「何言ってる。飲んだら帰れないだろ」
「なに……飲まないってば」
「そんな冷たいこと言うなよ。もう宴会の準備も万端なのに」
「あいさつだけで帰るって伝えてあったでしょ?」
「ただの遠慮じゃなかったのか?」
天音は諦めたように、ふぅ、と息をついた。
「……わかった。宴会はいいけど飲まないよ?」
「酒しかないぞ?」
「え……ノンアル無いの?」
「そんなものは無い」
「ええ?」
笑顔で即答するお父さんに思わず笑ってしまった。
さっきまで、お父さんのイメージがちょっと違うな、と実は思っていた。いつもちゃんとしてる天音からはイメージ通りのお父さんだったが、天音から聞いていたイメージとはちょっと違った。
でも、今目の前にいるのは、思い描いていた通りの陽気なお父さんだ。
お母さんが料理を食卓テーブルに並べながら「あれ? 泊まっていかないの?」と聞いてくる。
「泊まらないよ、帰るよ。明日も用事あるもん」
天音はそう言ったが、明日は何も用事はないはずだった。
きっと、俺が気疲れすると心配しているんだろう。
「そっかぁ。じゃあちょっと買ってくるかな。ノンアルのビールでいい? ジュースも買ってくる?」
「ううん、俺が買ってくる」
立ち上がろうとする天音を俺は止めた。
「あの、お言葉に甘えて泊まってもいいですか?」
「えっ、冬磨?」
天音が俺の腕を掴んで心配そうな顔を向けた。
「もちろん泊まっていって。我が家で宅飲みするときはみんな泊まるコースだから、もう準備もしてあるの」
その言葉から、よく人が集まるにぎやかな家だと分かる。
「冬磨、無理しなくていいよ? ノンアル買ってくるよ。コンビニすぐそこだし」
「いや、なんか飲みたくなった。明日の朝帰れば用事は間に合うだろ?」
一応天音に合わせてそう聞くと「間に、合う、けど……」とたどたどしく答えるから口元がゆるんで仕方ない。かわい……。
「お言葉に甘えてゆっくりしよう。俺、家族でわいわいする雰囲気って懐かしくてさ。ちょっと嬉しいんだ」
「冬磨……」
心配そうに瞳をゆらす天音に「ほんとに、嬉しいんだ」と重ねて伝えた。
まだ信じてなさそうな天音の頭をくしゃっと撫でると、ホッとしたように息をついて「うん、じゃあ泊まってく?」と笑顔になった。
「天音の部屋で着替えておいで。イチャイチャしてないですぐ来いよ?」
ニヤッと笑うお父さんに、「し、しな……っ」と言いかけて止まった天音が頬をピンクに染める。
「すぐ来ればいいんでしょ。イチャイチャは父さんに関係ないじゃん。冬磨行こ」
と反抗的に言い返し、俺の手を取って引っ張った。
「え、あ、すぐ戻ります」
慌てて伝えた俺の言葉は、笑い転げてるお父さんたちにはたぶん聞こえなかったに違いない。
おそろいのTシャツとハーフパンツに着替えてリビングに戻ると、食卓テーブルいっぱいにご馳走が並んで準備万端だった。
「お、来た来た。早く座って。乾杯だ乾杯っ」
お父さんが俺たちの背中を押して椅子に座らせ、グラスにビールを注ぐ。
お母さん以外おそろいのTシャツとハーフパンツという、なんとも奇妙なラフすぎる格好でグラスを手に持った。
「それではっ。天音と冬磨くんの結婚を祝ってっ。乾杯!」
お父さんの乾杯の音頭に二人で顔を見合わせた。
「ま、まだこれからだよ……父さん気が早すぎ……っ」
「いいだろ? もうするって決まってるんだし。ほらほら、乾杯!」
「か、乾杯」
グラスを合わせる音が響く中、俺たちは照れくささに苦笑する。お父さんの早まった乾杯に戸惑いつつも、心の中に幸福感が広がった。
「二人とも顔真っ赤で可愛い。幸せっていいねぇ、お父さん」
「本当だなぁ。今日は最高にビールが美味いよ」
笑顔でご機嫌な天音の両親に心が温かくなった。
初対面でも自然に家族の輪に入れてくれる優しさ。
スーツを脱いだことで、さらにそう感じる。
楽しく過ごそうとしてくれる二人の優しい思いやりに、ふっと肩の力が抜けた。
「ツッコまれなかったね?」
天音が拍子抜けしたように耳打ちしてきて、思わず吹き出した。
天音の部屋でジャージに着替えたとき、「ねぇ冬磨。着替えて戻ったらさ。どうせイチャイチャしてきただろってツッコまれるんだしさ……」とごにょごにょ言い出して、「なら……しよ?」と可愛く誘ってくるから、さすがの俺も慌てた。
『しよ』って何? どこまでっ?
「ね、キス……しよ?」
キスかよっ! ビビるだろっ!
あーもう、ほんと可愛い。どうしてくれようか……まったく。
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