116 / 149
冬磨編
44 伝わってくれ
しおりを挟む
「天音、好きだ」
完全に思考が停止していそうな天音に、もう一度はっきりと伝えた。
天音はわずかに唇を震わせて言葉をこぼす。
「な……なに……言ってんだよ……」
本当にどうして気づかなかったんだろう。演技だと分かって観察すると、天音の必死さが伝わってくる。一生懸命に無表情を装ってるのが分かる。唇の震えを隠すようにキュッと唇を結ぶ天音に、愛おしさがあふれた。
「天音は……俺が好きか?」
敦司から聞いてもう分かっているのに、どこか不安で緊張が走る。
種明かしをされてもまだ自信がない。天音の口からちゃんと聞きたい。ちゃんと聞かせてほしい。
「天音……?」
動揺を隠すようにキッと俺を強く見据えて、天音が口を開く。
「俺は誰も好きにならねぇっつってんだろ? なんだよ。好きだって言わせたかったのか? 残念だったな」
どうしてだろう。天音は否定してるのに、俺の耳には『好きだ』と聞こえる。
必死で気持ちを隠してるのが痛いほど伝わってくる。
天音は必死なのに本当にごめん。俺……顔がゆるんで仕方ない。
もう天音を見てるだけで顔がとろけそうだ。
「ほんと可愛いな、天音」
「……は?」
「そうやって、ずっとビッチの振りしてたのか……」
ほんと……騙された、と笑いながらつぶやく。
ビクッと顔を強ばらせる天音を安心させてやりたくて、俺は優しく微笑んで見せた。
もう今すぐキスがしたい。いやダメだ、ちゃんと天音に好きだと言ってもらってからだ。
あーもー……やべぇ……待ちきれねぇ……。
「さっきから何言ってんだ冬磨。振りってなんだよ。俺は正真正銘ビッチ――――」
「ビッチって何人?」
思わず天音の言葉をさえぎった。
「え」
「ビッチって、何人とやってたらビッチだと思う?」
「な……そんなん、わかんねぇくらいだよ」
もう、ほんと可愛い。
世界一可愛いビッチだな、天音。
「お前の孔、綺麗すぎ。見ればわかるよ。経験浅いってわかってた」
「…………っ」
天音の瞳がゆれた。
わずかに少しづつ、無表情が崩れていく。
「俺は別にビッチじゃなくても、俺に本気じゃなければそれでよかったんだよ。お前、セフレしかいないって言うから、そこそこいるのかと思ったらすごい綺麗だからさ。これは一人か、いても二人か……それも経験浅いなって。でも、マジで騙された。綺麗すぎだとは思ってたけど……」
はぁ、と深く息をつきながら天音に倒れ込み、耳に唇を寄せて優しくささやいた。
「まさか初めてだとは思わなかったよ」
これだけ伝えれば、もう全てバレてるって気づくよな。
もう全部分かってるから、だから天音の気持ちを早く聞かせてくれ。
もう本当に待ちきれない。早く天音を抱きしめてキスしたい。
すると、天音が身体を震わせて、目尻から涙が流れ落ちた。
「初めてなわけ……ねぇじゃん。他にもセフレいるっつってんだろ……」
それでもまだ天音は演技を続け、声がかすかに震えていた。
涙がこぼれる天音の目尻にキスをして、天音を優しく見つめた。
瞳いっぱいに涙をためて、怯えと戸惑い、動揺、そんな感情をひた隠しにして無表情を装う天音が、とにかく可愛くて愛おしくてたまらなかった。
次から次へとこぼれ落ちる天音の涙を指で拭う。
「何しゃべってても可愛いんだけど……ほんと参る……」
俺のそばにいたいと必死で演技を続ける天音に、愛おしさがどんどんふくれあがり、喜びに心が震えた。
「もう泣くな」
こぼれ落ちる天音の涙に何度もキスをした。
「もう泣かなくていいよ、天音。ほんと、ごめんな」
「な……にが」
もう演技も限界だろうに、声も唇も震わせながらも無表情を保とうとする。
「面倒なのが嫌でセフレばっかり作ってたのに……俺が一番面倒臭い俺になってさ」
もういいよ、もう本当の天音に戻って大丈夫だから。
どう伝えれば分かってもらえるだろう。
「天音の目がさ……」
「目……?」
「ベッドでは脈あんのかなって思うのに、終わるとお前、ほんと俺に興味もないって目するから……。掴んでも掴んでも離れて行きそうで。すげぇチキンでごめん。もうずっとお前だけだったのに……マジで怖くて言えなかった」
頬を優しく指で撫でながら、天音の顔にいくつものキスをそっと落とした。
お願いだ。俺の気持ち、伝わってくれ。
「……俺だけ……って、ただセフレを一人に絞っただけ……だろ……?」
「……だよなぁ」
思わず、はぁ、と深いため息が出てうつむいた。
「信用してもらえねぇよな。してもらえるわけねぇもんな。自業自得だな……」
好きだと伝えれば、本当の天音に戻ってくれると簡単に考えていた。でも、そんな簡単な話じゃなかった。
天音は本当に俺と離れたくなくて、本気で必死で演技をしてる。
少しも感情を漏らさないよう、バレないよう、俺に切られないよう、本当に死ぬほど必死なんだ。
そんな天音の本気に心を打たれた。
こんな俺なんかをなんでそこまで……。
心が震えるほど嬉しくて幸せで、でも、俺の本気の気持ちをうまく伝えられない不甲斐なさでいっぱいだった。
俺はふたたび顔を上げて天音を見つめた。
どう伝えれば俺の本気が伝わる?
告白なんてしたことないからほんとわかんねぇ……。
とにかく俺も必死で想いを伝える。もうそれしかない。
「俺は、お前が好きだよ、天音。本当に、お前だけだ」
俺はゆっくりと言葉にして、気持ちを天音に伝えた。
「……お気に入りの……セフレだろ?」
伝わってくれ。
「天音を抱いてから、他のセフレなんてどうでもよくなった。一日中お前のこと考えて、どんどんお前しか見えなくなった」
「う……嘘だ。だって……俺の代わりにヒデさんを家に……」
頼むよ、伝われ。
「ちゃんと嫌われようと思ったんだ。じゃないとお前を離してやれそうになくて。お前のこと、追いかけちゃいそうでさ……」
天音の瞳がまたゆれた。
そんなの嘘だ、と言いたそうな瞳。
本当だよ天音。信じて……頼むよ。
「でも、俺チキンだから……お前に嫌われることなんて言えそうになくてさ。だからヒデに協力してもらったんだよ。ヒデは家には上げてない」
「……う、嘘」
「天音が特別って。お前の特別も俺になればいいのにって思って何度も伝えた」
「……うそ……だ」
「キスマークにはらわたが煮えくり返ったのなんて……マジで初めてだったよ」
「……うそ……」
天音の目からどんどん涙があふれてこぼれ落ちる。
まるで自分に言い聞かせるみたいに何度も嘘だと繰り返す天音に、もう胸が張り裂けそうだった。
完全に思考が停止していそうな天音に、もう一度はっきりと伝えた。
天音はわずかに唇を震わせて言葉をこぼす。
「な……なに……言ってんだよ……」
本当にどうして気づかなかったんだろう。演技だと分かって観察すると、天音の必死さが伝わってくる。一生懸命に無表情を装ってるのが分かる。唇の震えを隠すようにキュッと唇を結ぶ天音に、愛おしさがあふれた。
「天音は……俺が好きか?」
敦司から聞いてもう分かっているのに、どこか不安で緊張が走る。
種明かしをされてもまだ自信がない。天音の口からちゃんと聞きたい。ちゃんと聞かせてほしい。
「天音……?」
動揺を隠すようにキッと俺を強く見据えて、天音が口を開く。
「俺は誰も好きにならねぇっつってんだろ? なんだよ。好きだって言わせたかったのか? 残念だったな」
どうしてだろう。天音は否定してるのに、俺の耳には『好きだ』と聞こえる。
必死で気持ちを隠してるのが痛いほど伝わってくる。
天音は必死なのに本当にごめん。俺……顔がゆるんで仕方ない。
もう天音を見てるだけで顔がとろけそうだ。
「ほんと可愛いな、天音」
「……は?」
「そうやって、ずっとビッチの振りしてたのか……」
ほんと……騙された、と笑いながらつぶやく。
ビクッと顔を強ばらせる天音を安心させてやりたくて、俺は優しく微笑んで見せた。
もう今すぐキスがしたい。いやダメだ、ちゃんと天音に好きだと言ってもらってからだ。
あーもー……やべぇ……待ちきれねぇ……。
「さっきから何言ってんだ冬磨。振りってなんだよ。俺は正真正銘ビッチ――――」
「ビッチって何人?」
思わず天音の言葉をさえぎった。
「え」
「ビッチって、何人とやってたらビッチだと思う?」
「な……そんなん、わかんねぇくらいだよ」
もう、ほんと可愛い。
世界一可愛いビッチだな、天音。
「お前の孔、綺麗すぎ。見ればわかるよ。経験浅いってわかってた」
「…………っ」
天音の瞳がゆれた。
わずかに少しづつ、無表情が崩れていく。
「俺は別にビッチじゃなくても、俺に本気じゃなければそれでよかったんだよ。お前、セフレしかいないって言うから、そこそこいるのかと思ったらすごい綺麗だからさ。これは一人か、いても二人か……それも経験浅いなって。でも、マジで騙された。綺麗すぎだとは思ってたけど……」
はぁ、と深く息をつきながら天音に倒れ込み、耳に唇を寄せて優しくささやいた。
「まさか初めてだとは思わなかったよ」
これだけ伝えれば、もう全てバレてるって気づくよな。
もう全部分かってるから、だから天音の気持ちを早く聞かせてくれ。
もう本当に待ちきれない。早く天音を抱きしめてキスしたい。
すると、天音が身体を震わせて、目尻から涙が流れ落ちた。
「初めてなわけ……ねぇじゃん。他にもセフレいるっつってんだろ……」
それでもまだ天音は演技を続け、声がかすかに震えていた。
涙がこぼれる天音の目尻にキスをして、天音を優しく見つめた。
瞳いっぱいに涙をためて、怯えと戸惑い、動揺、そんな感情をひた隠しにして無表情を装う天音が、とにかく可愛くて愛おしくてたまらなかった。
次から次へとこぼれ落ちる天音の涙を指で拭う。
「何しゃべってても可愛いんだけど……ほんと参る……」
俺のそばにいたいと必死で演技を続ける天音に、愛おしさがどんどんふくれあがり、喜びに心が震えた。
「もう泣くな」
こぼれ落ちる天音の涙に何度もキスをした。
「もう泣かなくていいよ、天音。ほんと、ごめんな」
「な……にが」
もう演技も限界だろうに、声も唇も震わせながらも無表情を保とうとする。
「面倒なのが嫌でセフレばっかり作ってたのに……俺が一番面倒臭い俺になってさ」
もういいよ、もう本当の天音に戻って大丈夫だから。
どう伝えれば分かってもらえるだろう。
「天音の目がさ……」
「目……?」
「ベッドでは脈あんのかなって思うのに、終わるとお前、ほんと俺に興味もないって目するから……。掴んでも掴んでも離れて行きそうで。すげぇチキンでごめん。もうずっとお前だけだったのに……マジで怖くて言えなかった」
頬を優しく指で撫でながら、天音の顔にいくつものキスをそっと落とした。
お願いだ。俺の気持ち、伝わってくれ。
「……俺だけ……って、ただセフレを一人に絞っただけ……だろ……?」
「……だよなぁ」
思わず、はぁ、と深いため息が出てうつむいた。
「信用してもらえねぇよな。してもらえるわけねぇもんな。自業自得だな……」
好きだと伝えれば、本当の天音に戻ってくれると簡単に考えていた。でも、そんな簡単な話じゃなかった。
天音は本当に俺と離れたくなくて、本気で必死で演技をしてる。
少しも感情を漏らさないよう、バレないよう、俺に切られないよう、本当に死ぬほど必死なんだ。
そんな天音の本気に心を打たれた。
こんな俺なんかをなんでそこまで……。
心が震えるほど嬉しくて幸せで、でも、俺の本気の気持ちをうまく伝えられない不甲斐なさでいっぱいだった。
俺はふたたび顔を上げて天音を見つめた。
どう伝えれば俺の本気が伝わる?
告白なんてしたことないからほんとわかんねぇ……。
とにかく俺も必死で想いを伝える。もうそれしかない。
「俺は、お前が好きだよ、天音。本当に、お前だけだ」
俺はゆっくりと言葉にして、気持ちを天音に伝えた。
「……お気に入りの……セフレだろ?」
伝わってくれ。
「天音を抱いてから、他のセフレなんてどうでもよくなった。一日中お前のこと考えて、どんどんお前しか見えなくなった」
「う……嘘だ。だって……俺の代わりにヒデさんを家に……」
頼むよ、伝われ。
「ちゃんと嫌われようと思ったんだ。じゃないとお前を離してやれそうになくて。お前のこと、追いかけちゃいそうでさ……」
天音の瞳がまたゆれた。
そんなの嘘だ、と言いたそうな瞳。
本当だよ天音。信じて……頼むよ。
「でも、俺チキンだから……お前に嫌われることなんて言えそうになくてさ。だからヒデに協力してもらったんだよ。ヒデは家には上げてない」
「……う、嘘」
「天音が特別って。お前の特別も俺になればいいのにって思って何度も伝えた」
「……うそ……だ」
「キスマークにはらわたが煮えくり返ったのなんて……マジで初めてだったよ」
「……うそ……」
天音の目からどんどん涙があふれてこぼれ落ちる。
まるで自分に言い聞かせるみたいに何度も嘘だと繰り返す天音に、もう胸が張り裂けそうだった。
115
お気に入りに追加
2,094
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる