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冬磨編
26 想像以上に可愛い名前
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気持ちよさそうに眠りに落ちた天音の身体を、濡れタオルでそっと拭う。
たぶん疲れ果てて起きないとは思うが、このまま寝かせてやりたかった。
サッとシャワーを浴びてすぐにベッドに戻る。腕枕をしたい気持ちを押し殺し、肘枕で天音の顔を眺めた。
本当に抱きつぶしてしまった。天音が気絶したように眠りに落ちなければ、やめてあげられなかった。
前と後ろどっちがいいかと聞くと、思いがけず顔を真っ赤にする天音を見ることができた。「お前のキスがしつこいから興奮しただけだっ」といういいわけも可愛かった。
ずっと俺の名前呼んでろよ、と言うと本当にずっと呼んでくれた。素直に俺のわがままを聞いてくれる天音が本当に可愛い。
キスマを付けてとお願いすると、他のセフレが怒るかもじゃん、と言うから「どうでもいいなそんな事」と答えてから、ん? と眉が寄った。矛盾してるだろ。だったらお前も付けられんなよ。俺が怒るかもって気づけよ、この小悪魔。
シャワーに入る時に確認した天音が付けてくれたキスマは、残念ながらワイシャツを着ると隠れる位置に付いていた。外回りもあるから助かるはずなのにガッカリした。そんなことにガッカリする自分にびっくりだ。ほんと天音が相手だと自分が新鮮で驚く。
スヤスヤ眠る天音の髪を梳くように撫でた。
「天音……」
好きだよ、天音。
ごめんな、面倒臭い男になって……。
お前のセフレに嫉妬するバカな男になっちゃってごめん。
「天音……少しづつでいいから、俺を好きになってくれよ……」
と天音の額にキスをしてから、聞かれなかったよな? とヒヤヒヤした。
しかし、本当にどうしたらいいだろう。
天音の頭を撫でながら、俺は吹雪の子について頭を悩ませた。
どうしてこんなに俺の中にあの子が残っているのかわからない。顔もはっきり覚えてなのになぜだ。俺は天音がこんなに好きなのに、その気持ちを否定されてるようで本当に嫌だった。
あの日、吹雪の子のことをもっと知りたいと思ったのは事実だが、今は違う。今はもう俺は天音が大好きで天音だけいればいい。
それなのに、未だに吹雪の子がチラつくから怖くなる。
もしまた吹雪の子に出会ったら俺はどうなるんだろう。
天音への気持ちが揺らぐのか?
……まさか。そんなはずないだろ。
あんなちょっとしか会ったことのない吹雪の子にぐらつくはずがない。
俺はこんなにも天音が好きで大切だ。絶対にそんなことはありえない。
頼むからもう出てくんなよ。今すぐ俺の中から消えてくれ。
身体を起こしてベッドの背に寄りかかり、タバコに火をつけようとしたときにそれは目に入った。ちょうど正面のソファに置いてある天音のリュック。そのポケットから青い紐がピロっと出ていた。
どこか見慣れた紐。俺が会社で首から下げる名札があれと同じような紐だ。もしかしてあれも名札か?
そう思ったら好奇心には勝てなくて、ベッドから降りて近寄った。
「紐をしまうだけ。しまうだけだって」
自分に言い聞かせながら紐を手にする。だめだ。気になって仕方がない。勝手に見たら天音怒るかな……。もし名札だったら、俺も名乗ればいいよな? 天音にならフルネームだろうがなんだろうが教えたい。知ってほしい。
……ごめんな、天音。
頭の中で謝罪をして、俺は紐をスルスルと引っ張った。
出てきたものはやっぱり名札。俺はソファに座ってゆっくりと名札を眺め、ゆるむ口元を隠せなかった。
「冬磨……?」
ベッドから寝起きの可愛い天音の声。どこか甘えてるように聞こえて、それだけで悶えた。……かわい。
「あれ、起きちゃった? 朝まで寝かそうと思ったのに」
「いま何時……?」
「んー、四時くらいかな」
答えながらも、俺は名札から目が離せない。
そこに書かれた天音のフルネームが想像以上に可愛かった。
――――星川天音。
天の川に星の音。可愛い天音にピッタリで、まさに天音のための言葉だと思った。
天音……星好きかな。天音の天の川が無性に見てみたくなった。もう天の川が天音のためにあるかのように感じる。
スーツ姿の天音の表情も、いつもよりもちょっとだけ柔らかくて嬉しい。職場ではこんな感じなのか。できれば俺の前でもせめて職場バージョンにしてくんねぇかなぁ。
「冬磨……なにしてんの?」
「名札見てる」
「そんなのわかってる。勝手に見んじゃねぇよ」
いつものように突っかかってはきたが、そういうほど本気の口調じゃないとわかる。俺はホッとして喜びが込み上げた。
「だってリュックのポケットから紐がピロって出てたからさ。ピロって」
俺のいいわけを天音は無言で聞いていた。
名前が知られることは、それほど抵抗がないみたいだ。
それくらいには気を許してくれてるのかなと思うと、また口元がゆるんだ。
たぶん疲れ果てて起きないとは思うが、このまま寝かせてやりたかった。
サッとシャワーを浴びてすぐにベッドに戻る。腕枕をしたい気持ちを押し殺し、肘枕で天音の顔を眺めた。
本当に抱きつぶしてしまった。天音が気絶したように眠りに落ちなければ、やめてあげられなかった。
前と後ろどっちがいいかと聞くと、思いがけず顔を真っ赤にする天音を見ることができた。「お前のキスがしつこいから興奮しただけだっ」といういいわけも可愛かった。
ずっと俺の名前呼んでろよ、と言うと本当にずっと呼んでくれた。素直に俺のわがままを聞いてくれる天音が本当に可愛い。
キスマを付けてとお願いすると、他のセフレが怒るかもじゃん、と言うから「どうでもいいなそんな事」と答えてから、ん? と眉が寄った。矛盾してるだろ。だったらお前も付けられんなよ。俺が怒るかもって気づけよ、この小悪魔。
シャワーに入る時に確認した天音が付けてくれたキスマは、残念ながらワイシャツを着ると隠れる位置に付いていた。外回りもあるから助かるはずなのにガッカリした。そんなことにガッカリする自分にびっくりだ。ほんと天音が相手だと自分が新鮮で驚く。
スヤスヤ眠る天音の髪を梳くように撫でた。
「天音……」
好きだよ、天音。
ごめんな、面倒臭い男になって……。
お前のセフレに嫉妬するバカな男になっちゃってごめん。
「天音……少しづつでいいから、俺を好きになってくれよ……」
と天音の額にキスをしてから、聞かれなかったよな? とヒヤヒヤした。
しかし、本当にどうしたらいいだろう。
天音の頭を撫でながら、俺は吹雪の子について頭を悩ませた。
どうしてこんなに俺の中にあの子が残っているのかわからない。顔もはっきり覚えてなのになぜだ。俺は天音がこんなに好きなのに、その気持ちを否定されてるようで本当に嫌だった。
あの日、吹雪の子のことをもっと知りたいと思ったのは事実だが、今は違う。今はもう俺は天音が大好きで天音だけいればいい。
それなのに、未だに吹雪の子がチラつくから怖くなる。
もしまた吹雪の子に出会ったら俺はどうなるんだろう。
天音への気持ちが揺らぐのか?
……まさか。そんなはずないだろ。
あんなちょっとしか会ったことのない吹雪の子にぐらつくはずがない。
俺はこんなにも天音が好きで大切だ。絶対にそんなことはありえない。
頼むからもう出てくんなよ。今すぐ俺の中から消えてくれ。
身体を起こしてベッドの背に寄りかかり、タバコに火をつけようとしたときにそれは目に入った。ちょうど正面のソファに置いてある天音のリュック。そのポケットから青い紐がピロっと出ていた。
どこか見慣れた紐。俺が会社で首から下げる名札があれと同じような紐だ。もしかしてあれも名札か?
そう思ったら好奇心には勝てなくて、ベッドから降りて近寄った。
「紐をしまうだけ。しまうだけだって」
自分に言い聞かせながら紐を手にする。だめだ。気になって仕方がない。勝手に見たら天音怒るかな……。もし名札だったら、俺も名乗ればいいよな? 天音にならフルネームだろうがなんだろうが教えたい。知ってほしい。
……ごめんな、天音。
頭の中で謝罪をして、俺は紐をスルスルと引っ張った。
出てきたものはやっぱり名札。俺はソファに座ってゆっくりと名札を眺め、ゆるむ口元を隠せなかった。
「冬磨……?」
ベッドから寝起きの可愛い天音の声。どこか甘えてるように聞こえて、それだけで悶えた。……かわい。
「あれ、起きちゃった? 朝まで寝かそうと思ったのに」
「いま何時……?」
「んー、四時くらいかな」
答えながらも、俺は名札から目が離せない。
そこに書かれた天音のフルネームが想像以上に可愛かった。
――――星川天音。
天の川に星の音。可愛い天音にピッタリで、まさに天音のための言葉だと思った。
天音……星好きかな。天音の天の川が無性に見てみたくなった。もう天の川が天音のためにあるかのように感じる。
スーツ姿の天音の表情も、いつもよりもちょっとだけ柔らかくて嬉しい。職場ではこんな感じなのか。できれば俺の前でもせめて職場バージョンにしてくんねぇかなぁ。
「冬磨……なにしてんの?」
「名札見てる」
「そんなのわかってる。勝手に見んじゃねぇよ」
いつものように突っかかってはきたが、そういうほど本気の口調じゃないとわかる。俺はホッとして喜びが込み上げた。
「だってリュックのポケットから紐がピロって出てたからさ。ピロって」
俺のいいわけを天音は無言で聞いていた。
名前が知られることは、それほど抵抗がないみたいだ。
それくらいには気を許してくれてるのかなと思うと、また口元がゆるんだ。
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