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冬磨編
13 色付く世界 *
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もう天音以外とは会わない。
そう決めても、なかなか金曜日に天音を誘えずにいた。
すぐにでも会いたくて週明けすぐに約束を入れる。そうすると次の週も金曜日まで待てない。週に二回は引かれるか? そう思うと金曜日に約束ができない。
やばい……俺チキンすぎる……。
ため息をつきながら天音との待ち合わせに向かった。
カウンターに座る天音が目に入るだけで胸があたたかくなる。もうそれだけで癒される。天音が俺に振り返れば、そこだけが色鮮やかに浮かび上がった。
天音は特別。ずっとそう思ってはいたけれど、さらに特別だと気づくと、もう天音だけが鮮やかに見えた。笑顔じゃなくても色付いて見えた。
天音と一緒にいれば、もう俺の世界はモノクロじゃない。
「なに? だからいちいちジロジロ見んなって」
ホテルに向かって歩きながら、天音が俺に毒づいた。
「あーいや。うん」
つい天音の顔色をうかがってしまう。
先日、俺がうっかり『吹雪の子』の話をして、天音の機嫌を損ねてしまった。
どうして天音をセフレにしたのかと問われて、また『吹雪の子』を思い出した俺は、思わず余計なことまでペラペラと口にした。
天音と出会ったときは『セフレのいる天音ならいいかな』と確かに思った。でも今は違う。今は天音じゃないとだめなのに。
天音だけを抱きたくて、天音とだけ一緒にいたくてこうして会ってるのに、俺はついうっかり出会ったときの記憶で話してしまった。
『顔とか全然覚えてねぇんだけど、雰囲気がお前に似てんのかな。思い出したらなんか懐かしくなって。あの子にはふれちゃだめだったけど、天音はいいかなって』
本当にバカだ。あれは完全に失言だった。
そのあと天音に『しらけた』と言われ、慌てて謝ると『どうでもいい。興味ねぇ』と返された。『そもそも俺たち、そういうの気にしない関係だろ』と素っ気なく言い残して、天音はシャワーに行ってしまった。
胸が痛かった。時間を巻き戻してでも言い直したかった。せめて『天音はいいかな』だけは取り消したかった。
だから俺は、会うとつい天音の顔色を見てしまう。
先週も天音は何事もなかったような顔をしていた。常に無表情の天音に変化はない。
いや……どこか穏やかな雰囲気を感じるのは気のせいだろうか。
「なんか最近いいことあった?」
ベッドに上がって天音のバスローブを脱がせながら、やっぱりどこか穏やかな天音が気になった。表情がちょっとだけ柔らかく見える。
「別に……なんもねぇけど」
相変わらずの素っ気なさを可愛いと思ってしまう自分に笑った。
「ふうん。ま、天音がなんか穏やかだと安心するわ」
ちょっと穏やかな理由が、俺と一緒にいるからだといいな。
でも、きっとそれは期待しすぎだ。
天音だけを抱くようになってから、天音の無表情に少しでも変化がないかと期待して観察するようになった。
俺は恋愛の機微には敏感だ。少しでも天音にそれが見えてこないかと、つい期待してしまう。
大切な存在はいらない、そう思っているのに矛盾してる。
『期待する時点でもう本気だろって』
マスターの声が聞こえてくる気がした。
俺は本気じゃない。大切な存在は作りたくない。天音に切られたくないから……本気にはならない。
切られるかもって思うだけでこんな怖いもんなんだな。マジで切られたら……俺どうなっちゃうんだろ。
またモノクロの世界が戻ってくるのかと思うと耐えられない。
これはもう本気かどうかは別として、天音はもう俺の大切な存在になってるんじゃないだろうか……。
そう考えると怖くなった。
違う。大切じゃない。ただのお気に入りのセフレ。それだけだ。
俺の愛撫で天音が震え、俺にしがみついてくる。
怖がらなくていいよ、天音。
「大丈夫。俺は天音を絶対に傷つけないよ」
どんなに優しく抱いても天音の震えはおさまらない。トラウマがどんなものなのか問いただしたくなる。ほんと、どんな抱かれ方されたんだよ……。
俺は怖くないだろ?
大丈夫だからもう震えるな。
天音の手が、今日もまた俺の髪を梳くように撫でる。
黙って愛撫をされてるだけではだめだと思っているのか、いつもハッと思い出したように、俺にしがみつく手を離して頭を撫で始める。天音のその仕草がいつも可愛すぎて笑いが漏れる。
「お前、俺の髪いじるの好きだよな?」
乳首を舐めながら、からかうつもりでそう聞いた。
「ん……すき。……ふわふわで……すき……」
口調の柔らかい可愛い声で、天音は俺の心臓を撃ち抜いた。
そう決めても、なかなか金曜日に天音を誘えずにいた。
すぐにでも会いたくて週明けすぐに約束を入れる。そうすると次の週も金曜日まで待てない。週に二回は引かれるか? そう思うと金曜日に約束ができない。
やばい……俺チキンすぎる……。
ため息をつきながら天音との待ち合わせに向かった。
カウンターに座る天音が目に入るだけで胸があたたかくなる。もうそれだけで癒される。天音が俺に振り返れば、そこだけが色鮮やかに浮かび上がった。
天音は特別。ずっとそう思ってはいたけれど、さらに特別だと気づくと、もう天音だけが鮮やかに見えた。笑顔じゃなくても色付いて見えた。
天音と一緒にいれば、もう俺の世界はモノクロじゃない。
「なに? だからいちいちジロジロ見んなって」
ホテルに向かって歩きながら、天音が俺に毒づいた。
「あーいや。うん」
つい天音の顔色をうかがってしまう。
先日、俺がうっかり『吹雪の子』の話をして、天音の機嫌を損ねてしまった。
どうして天音をセフレにしたのかと問われて、また『吹雪の子』を思い出した俺は、思わず余計なことまでペラペラと口にした。
天音と出会ったときは『セフレのいる天音ならいいかな』と確かに思った。でも今は違う。今は天音じゃないとだめなのに。
天音だけを抱きたくて、天音とだけ一緒にいたくてこうして会ってるのに、俺はついうっかり出会ったときの記憶で話してしまった。
『顔とか全然覚えてねぇんだけど、雰囲気がお前に似てんのかな。思い出したらなんか懐かしくなって。あの子にはふれちゃだめだったけど、天音はいいかなって』
本当にバカだ。あれは完全に失言だった。
そのあと天音に『しらけた』と言われ、慌てて謝ると『どうでもいい。興味ねぇ』と返された。『そもそも俺たち、そういうの気にしない関係だろ』と素っ気なく言い残して、天音はシャワーに行ってしまった。
胸が痛かった。時間を巻き戻してでも言い直したかった。せめて『天音はいいかな』だけは取り消したかった。
だから俺は、会うとつい天音の顔色を見てしまう。
先週も天音は何事もなかったような顔をしていた。常に無表情の天音に変化はない。
いや……どこか穏やかな雰囲気を感じるのは気のせいだろうか。
「なんか最近いいことあった?」
ベッドに上がって天音のバスローブを脱がせながら、やっぱりどこか穏やかな天音が気になった。表情がちょっとだけ柔らかく見える。
「別に……なんもねぇけど」
相変わらずの素っ気なさを可愛いと思ってしまう自分に笑った。
「ふうん。ま、天音がなんか穏やかだと安心するわ」
ちょっと穏やかな理由が、俺と一緒にいるからだといいな。
でも、きっとそれは期待しすぎだ。
天音だけを抱くようになってから、天音の無表情に少しでも変化がないかと期待して観察するようになった。
俺は恋愛の機微には敏感だ。少しでも天音にそれが見えてこないかと、つい期待してしまう。
大切な存在はいらない、そう思っているのに矛盾してる。
『期待する時点でもう本気だろって』
マスターの声が聞こえてくる気がした。
俺は本気じゃない。大切な存在は作りたくない。天音に切られたくないから……本気にはならない。
切られるかもって思うだけでこんな怖いもんなんだな。マジで切られたら……俺どうなっちゃうんだろ。
またモノクロの世界が戻ってくるのかと思うと耐えられない。
これはもう本気かどうかは別として、天音はもう俺の大切な存在になってるんじゃないだろうか……。
そう考えると怖くなった。
違う。大切じゃない。ただのお気に入りのセフレ。それだけだ。
俺の愛撫で天音が震え、俺にしがみついてくる。
怖がらなくていいよ、天音。
「大丈夫。俺は天音を絶対に傷つけないよ」
どんなに優しく抱いても天音の震えはおさまらない。トラウマがどんなものなのか問いただしたくなる。ほんと、どんな抱かれ方されたんだよ……。
俺は怖くないだろ?
大丈夫だからもう震えるな。
天音の手が、今日もまた俺の髪を梳くように撫でる。
黙って愛撫をされてるだけではだめだと思っているのか、いつもハッと思い出したように、俺にしがみつく手を離して頭を撫で始める。天音のその仕草がいつも可愛すぎて笑いが漏れる。
「お前、俺の髪いじるの好きだよな?」
乳首を舐めながら、からかうつもりでそう聞いた。
「ん……すき。……ふわふわで……すき……」
口調の柔らかい可愛い声で、天音は俺の心臓を撃ち抜いた。
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