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68 天の川は特別です

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「よし、そろそろバーベキューすっか」
「うんっ」 
 
 コンロの火起こしは冬磨が、野菜の準備は俺がやった。
「包丁使えるか?」と笑う冬磨に「使えるよっ」と怒ってやった。
 予約をしていたジンギスカンと野菜をジンギスカン鍋に並べていく。そして、缶ビールで乾杯。
 三種類のジンギスカンを食べ比べて「美味いっ! なんだこれ、すげぇ美味いっ!」とハイテンションの冬磨に、自分の事のように嬉しくなった。

 ねっ、ジンギスカン美味しいでしょっ。
 このキャンプ場も素敵でしょっ。
 でもね、もっと暗くなったら星がすごいんだよっ。
 
 俺の熱弁を、うんうんとニコニコ笑って冬磨は聞いてくれた。
 
「ほんと、恋人になってから来れてよかった……」
「……うん」

 もう薄暗いし……他のキャンパーも近くにいないし……タープの中だし……ちょっとだけいいかな?
 そんな気持ちがお互いに伝わって、そっと唇を重ねた。
 本当に幸せ……。

 デザートのプリンも食べてお腹もいっぱいになって外も真っ暗になった。

「天音、星すげぇっ!」
「うんっ。天の川だっ!」

 いよいよ天体観測だっ。

 椅子に座ったまま観ようとする冬磨に手招きをして、テント裏のプライベート空間にレジャーシートを広げた。
 キャンプ場の端のサイトを選んだから、テントの裏なら人の目も気にしなくていい。

「あ、寝っ転がるのか?」
「うん。じゃないと首が痛くなるよ」
「そっか、なるほど」
「あ、でも……観る時間が違うかも……」
「ん?」 
「俺は観るってなったら何時間も平気で観ちゃうから……」
「いいよ。一緒に観るよ。てかそのために来たんじゃん?」

 広げたシートに冬磨が先に横になって俺の手を引いた。
 まるでベッドに誘われてる感じがして胸が高鳴る。いや、違うでしょ。星を観るだけだからっ。
 脳内で自分にツッコみながら、冬磨の隣に横になった。
 予想はしてたけど、冬磨はやっぱり腕枕をしてくる。

「冬磨、布団じゃないから腕痛いよ……」
「全然?」
「でも」
「いいから早く星観るぞ」
「……うん」
 
 まさか冬磨の腕枕で星を観るなんて……本当に夢みたいだ……。
 見上げた空には一面に星が瞬いていた。
 まるで吸い込まれそうなほどの満天の星。
 あふれるほどの輝く星たちに包まれると、まるで宇宙空間にでもいるような気分になる。
 
「すげぇな……本当に星に手が届きそう」
「うん。満天の星……最高」
「やっと観れた。天音の天の川。ほんと最高だな」
 
 冬磨にそれを言われるともうだめだ。
 何度聞いても泣きそうになる。
 
「泣いちゃう? 天音」
「えっ……」
「天音の天の川って言うと、前にも泣きそうになってたから」
 
 冬磨は優しい瞳で俺を覗き込んで唇にキスをくれた。
 
「……あのね。俺……冬磨が天音の天の川って言ってくれたから、天の川がすごい特別になったんだ……」
「俺も特別だよ、天の川」
「天の川を見るたびに……きっとずっと思い出す……」

 冬磨のこと……。

「……ん?」
 
 なにを? と聞き返された。
 
「あ……えっと……なん、でもない」
 
 冬磨とはいつまで一緒にいられるだろう……とか、何年一緒にいられるだろう……とか、終わりなんか来なきゃいい……とか、そんなこと思ってるなんて言えない。
 まだ始まったばかりなのに、終わりを考えちゃうなんて言えない。
 今の冬磨の瞳を見れば、俺を好きだってちゃんとわかる。伝わってくる。だから、すごくすごく幸せだ。
 でも、それがいつまで続くのかなって……不安になるなんて絶対言えない……。 
 
「……あっ、流れ星」
「えっ、どこっ? ……くっそーわかんなかった」
「ゆっくり眺めてたらまた見えるよ」
「つってもそんなすぐ流れねぇよな……」
「ううん、ここは街中と違って流れ星いっぱい見えるよ。それに、来週はペルセウス座流星群がくるから、結構活発なんだよ。流れやすくなってるの」
「へぇ。さすが詳しいな? じゃあゆっくり眺めるわ」
「うん。次はきっと一緒に見れるよ」
 
 腕枕をしながら頭を撫でる冬磨の手があたたかくて、また涙がにじんでくる。
 さっき不安なっちゃったから……だめだな。今すぐの話じゃないんだから忘れなきゃ。
 もう少し、まだ、もうちょっと、俺のこと好きでいて……お願い冬磨。できれば……ずっと。

「…………あっ、流れた」
「はっ? 嘘だろ? 俺全然見つけらんねぇ……」
「あのね、流れ星を観るにはコツがあるんだ」
「コツ?」
「うん。横になって真上のどこか一つ明るめの星決めて、そこだけ見るの」
「え、そこだけ?」
「うん、そこだけ。なんとなくぼやーと、そこだけ見てるとね、だんだん視野が広がっていって、そのうち全体を見れるようになるの。流星群が近くなくても、十五分も眺めてれば一個は流れるよ。街中じゃ無理かもだけど」
「え、まじか。すげぇ。やってみるわっ」
「うん」
 
 冬磨の指が俺の髪をつまんではサラサラと落とし、またつまんでは落とす。そうして、ゆっくりと星を眺める。すごくすごく至福の時間だった。
 夜が深くなって星の数がさらに増え、その星空の美しさに息を呑むほど圧倒された。
 もう星座を見つけるのも難しいくらい、無数の星たちが空一面に埋め尽くされていた。
 
「あっ」
「おっ流れた!」
 
 二人で同じ方向を指さして声がハモる。
 
「すげぇ! 真ん中見てただけなのに右端の流れ星が見えるってなんか不思議だなっ?」
「うん、だよね?」
 
 子供みたいにはしゃぐ冬磨がすごく可愛い。
 出会った頃の冬磨は、すごく華やかだけどどこかクールなイメージだった。
 でも、知れば知るほどすごく優しくて、よく笑うその笑顔が素敵でとにかくカッコイイ、それが冬磨だった。
 でも、今の冬磨はそれだけじゃない。すごく甘々で、ときどき可愛くて、思っていたよりもずっと素直だ。
 よく俺に不意打ち好きだよな、と言うけれど、冬磨も負けてない。
 
「おっ流れた!」
 
 冬磨の声にハッとした。
 
「あれ? 天音見えなかった?」
 
 くりんと俺に顔を向けた冬磨に、火照った顔で無言の答えを返す。
 
「もしかして星じゃなくて俺見てた?」
「…………うん」

 冬磨がふはっと笑って「かわい……」と言葉をこぼした。

「そんなに俺のこと好き? 星よりも?」
「……うん、大好き」

 あーくっそ可愛いっ! と冬磨が俺をぎゅうぎゅうと抱きしめる。
 冬磨のぎゅうぎゅう、本当に可愛くて大好き。

「お前流れ星、何個見た?」
「えっと……三個、かな」
「俺まだ二個だ。んじゃ、俺があと二個見るまで俺のこと見てていいぞ」
「ぷはっ。なにそれ」
「絶対お前よりいっぱい見る」
「流れ星もいいけど、星座講座はいらない?」
「いい。いま流れ星見つけんの楽しいから。星座は次回な」
「ふふ、うん、わかった」
 
 俺も子供の頃はそうだった。父さんが一生懸命星座の話をしてるのに、ずっと流れ星を探してた。
 冬磨の瞳がキラキラしてて、本当に楽しんでいるのがわかる。
 一緒に来ることができて、本当によかったな。
 
 
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