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59 同一人物です

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 松島さんが、この世の終わりみたいな顔で俺の両肩を掴んできた。
 
「星川っ。そんな男やめときなっ。絶対傷つくってっ! あんたみたいな純情で真っ白な子には、もっともっと素敵な人がいっぱいいるからっ! ねっ?!」
 
 純情で真っ白って……松島さんは何を言ってるんだろう。
 俺は男なのに、まるで女の子に言うような台詞にポカンとしてしまう。
 
「ま……松島さん、あの、冬磨は本当にすごく優しくていい人なんです。松島さんが見たメッセージが、たまたまその……命令口調だっただけで……」
「はぁぁ…………」
 
 救いようがない、とでも言いたそうな松島さんの目。
 
「恋は盲目とはこういうことか……こういうことなのかっ……」

 松島さんの手が、俺の肩から滑り落ちていく。
 松島さんの嘆きかたがまるで舞台役者……いや、酔っ払い?
 まさか朝からお酒飲んでないよね? 大丈夫かな……。本気で心配になった。
 そのとき、ポケットに入っているスマホが震えた。
 取り出して画面を見る。

「あ……冬磨」

 冬磨からのメッセージに、思わず口から名前がこぼれた。

「冬磨? なんだって? なんて言ってきた? 今度はどんな脅し文句っ?」
「え……っと……」
 
 脅し文句では絶対にない自信があるから、松島さんに見えるようにメッセージを開く。
 松島さんは当然のごとく食い気味に覗き込んだ。

『天音。だめだ……もうお前に会いたい。夕方にワープしねぇかな?』

 冬磨のメッセージに胸がぎゅっとなった。もう、ときめきすぎて苦しいよ。
 松島さんが瞬き多めでスマホを見てる。
 そのときまた新しいメッセージが届いた。

『天音に夢中すぎて写真撮るのも忘れてた。顔も見れねぇ。俺もう死ぬわ……。今日は絶対撮るからな。あー早く会いてぇ……』

 松島さんの瞬き以上に俺の瞬きが増えた。冬磨って……こんなに甘々なメッセージ送ってくるんだ。今までが簡素だったから、あまりの違いに自分の目を疑ってしまう。

「星川……」
「はい」
「これ、別人よね?」
「いえ、同一人物です」
「嘘でしょ? こんなのただのゲロ甘彼氏じゃないの。……って星川、顔真っ赤……」
「……す、すみません」

 冬磨のメッセージ……あとで写真に残しておこう……。
 どうしよう。毎日こうだったら心臓持ちそうにないかも。

「星川」
「はい」
「デレデレしすぎ。もうすぐ時間よ」
「あ、はいっ。すみませんっ」

 松島さんの表情は和らいでいた。
 冬磨が優しい人だってわかってもらえたかな。

「返信しなくていいの?」
「あっ、し、しますっ」

 とはいえなんて送ろう、と困ってしまった。
 今まで素っ気ないメッセージしか送ったことがない。だから、ここでも素を出すことが恥ずかしかった。
 悩んでいたらまたメッセージが来た。

『天音。仕事終わり何時? 待ちきれねぇから会社まで迎えに行っていい?』

 冬磨が迎えに来るっ。
 どうしようどうしようっ。すごい恋人っぽいっ! どうしようっ!
 脳内で暴れていたら、松島さんに「早くいいよって返事っ」と急かされた。

「は、はいっ」

 言われるままに『いいよ』と返信してから、あっ時間、と気づいて仕事終わりの予定時間を返信した。

「よし。これで冬磨がここに来るわね。確認してやるわ」
「えっ、確認って……なにを?」
「冬磨がどんな奴か見極めるのよ。メッセージだけじゃ信用できないもの」
「あの、本当に……心配ないんですよ?」
「心配ないなら確認してもいいでしょ?」
「そ……っか、そう……ですね」
「それより星川、体調はもう大丈夫なの?」
「あ……はい。もうすっかり……元気です。あの……」

 そうだった……。仕事を休んでキスマークを付けて来るなんて……どう思われるだろう。
 あまりに幸せで夢みたいで頭がふわふわしたまま出勤した。そんなことすっかり頭から抜けていた。俺、社会人失格だ……。

「星川が昨日熱があって、どう考えても仕事にならない状態だったのは知ってるからいいわ。ただ……」

 松島さんはポケットから絆創膏を取り出して、俺の首に付いたキスマークの辺りにピタッと貼り付けた。

「みんなはそんなこと知らないから、これはだめ」
「……あの……松島さん、ありがとうございます」

 腰を折って頭を下げると、松島さんが「いいから、ほら行くよ」と俺の背中を押した。
 
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