40 / 154
40 俺はもう冬磨がいないと……
しおりを挟む
「でもさ、天音」
顔を上げた冬磨は、ふわっと優しい笑顔で俺を見た。
「お前、ちゃんと本命いんじゃん」
「……えっ」
ドクドクと心臓が嫌な音を立てる。
まさか俺の気持ち、バレちゃった……?
「もうフラフラしてねぇでちゃんとしろよ」
冬磨が優しく笑って俺の頭をクシャッと撫でる。
なんか変だ。俺の気持ちがバレたわけじゃなさそう。
「冬磨、なに……言ってんの?」
「お前、今週びっちり昨日の奴んとこ行ってたろ」
「…………っ」
冬磨から何も反応がなかったから、見られてないと思って毎日通っちゃった……っ。早く安心したくて毎日……っ。
なんで……なんで全部見られてるの……っ?
一、二回でいいのにっ。
「悪い。先週お前が俺ん家出てったあと、窓から見てたんだわ。そしたら向かいのアパートに入ってくからびっくりしてさ。お前ん家か? って思ったけど、いやそんなわけねぇよなって。すげぇ気になって。だから、テレビ観ながら毎日なんとなく窓眺めてた。昨日の奴ん家だったんだな」
ど、どうしよう、敦司が俺の本命だと勘違いされてる。
どうしようっ。
「本命なんかじゃねぇよ」
「天音。素直になれって。俺、お前の笑顔すげぇ可愛いって言ったじゃん?」
「……それが、なに」
「あいつの前だとお前、すげぇいい笑顔だったよ。あんなん見たことねぇからマジでびっくりした。あいつの前ならちゃんと笑えんじゃん」
「そ……れはっ」
どう言えばいいのかわからない。何もわからない。血の気が引いて指先が冷たくなっていく。
息がうまくできない。苦しい。
待って冬磨。違う、違うから。お願いだから誤解しないでっ。
「だからさ。もうこんなことやめて、ちゃんとしろ。あいつだけにしろよ。素直になって、ちゃんと幸せになんな。天音」
な? と冬磨は極上に優しく笑って、俺の髪の毛がくしゃくしゃになるくらい撫で回した。
「お前はもう、俺みたいなゲスの相手なんてすんな」
口を開こうとすると唇が震えた。でも、必死で無表情を装って、震えを抑えるためにぎゅっと手を握りしめる。
「ぉ……俺は、誰も好きにならないって言っただろ」
声……震えたかもしれない。涙が込み上げてきて必死でたえる。
冬磨が、しょうがねぇな、というように目を細めた。
「そっか。まだ自分で気づいてないんだな。ちゃんと自分の気持ちに向き合ってみろって。毎日会いたくて、いっぱい笑顔になれるのはなぜなのか、ちゃんと考えてみな。頑張れ、天音」
俺の大好きな笑顔で「じゃあな。元気でな、天音」と俺の頭をポンとして、横を通り過ぎて行く。
元気でな……って、もう二度と会わないつもりなんだ……。
愕然として目の前が真っ暗になった。
完全に誤解された。こんなはずじゃなかったのに……もうどうしたらいいのかわからない……。
冬磨が行っちゃう。もう会えなくなっちゃう。このままだと終わっちゃう。
一緒に天の川見に行くって言ったのに。
キャンプ場だって予約したのに。
デートできると思ってたのに。
俺は振り返りながら走って冬磨の前に出て、冬磨の胸を思いっきり押した。
「違ぇしっ!!」
視界がグラグラした。何もかもが現実じゃない感じ。
「勝手に誤解してんじゃねぇよっ!!」
必死でビッチ天音になりきった。
まだどうにかなるかもしれない。
もう全部なにもかも吐き出してしまいたかったけれど、でも、まだ何かできることがあるかもしれない。
諦めたくなかった。
「勝手に勘違いして勝手に切んなよっ!!」
「あ……天音」
冬磨を失いたくない。
そう思うのに、叫んだら感情が爆発して涙腺が崩壊した。
だめだ……もう完全に終わりだ。
冬磨の前でこんなに大泣きして切るなって叫ぶなんて、冬磨の嫌いな執着する男だ。
気持ちがバレたかもしれない。バレても終わり、本命がいると誤解されたままでも終わり、もう終わりだ……。
手土産のプリンが入った袋を冬磨の胸に投げつけ、俺は走った。
最後、冬磨がどんな顔をしていたのかも涙でぼやけてわからなかった。
いつかこんな日が来るって覚悟していたはずなのに、最近はどんどん冬磨との距離が近くなって幸せすぎて、覚悟なんてどっかに消えていた。
涙でよく見えない道を必死で走る。
冬磨から早く離れたい。離れなきゃ。
そうしないと、冬磨に泣いてすがってしまう。
でも、だめだ。嫌だ。俺はまだ諦めたくない。
冬磨の誤解を解くことができれば、またそばに置いてくれるかもしれない。
考える。どうすれば誤解が解けるか考える。考えなきゃ。
「ふ……っぅ……、と……ま……」
手の甲であふれる涙を何度も拭って駅まで走った。
嫌だよ……冬磨……。俺から冬磨を奪わないで……っ。
俺はもう冬磨がいないと……冬磨がいないと何もできないよ……。
顔を上げた冬磨は、ふわっと優しい笑顔で俺を見た。
「お前、ちゃんと本命いんじゃん」
「……えっ」
ドクドクと心臓が嫌な音を立てる。
まさか俺の気持ち、バレちゃった……?
「もうフラフラしてねぇでちゃんとしろよ」
冬磨が優しく笑って俺の頭をクシャッと撫でる。
なんか変だ。俺の気持ちがバレたわけじゃなさそう。
「冬磨、なに……言ってんの?」
「お前、今週びっちり昨日の奴んとこ行ってたろ」
「…………っ」
冬磨から何も反応がなかったから、見られてないと思って毎日通っちゃった……っ。早く安心したくて毎日……っ。
なんで……なんで全部見られてるの……っ?
一、二回でいいのにっ。
「悪い。先週お前が俺ん家出てったあと、窓から見てたんだわ。そしたら向かいのアパートに入ってくからびっくりしてさ。お前ん家か? って思ったけど、いやそんなわけねぇよなって。すげぇ気になって。だから、テレビ観ながら毎日なんとなく窓眺めてた。昨日の奴ん家だったんだな」
ど、どうしよう、敦司が俺の本命だと勘違いされてる。
どうしようっ。
「本命なんかじゃねぇよ」
「天音。素直になれって。俺、お前の笑顔すげぇ可愛いって言ったじゃん?」
「……それが、なに」
「あいつの前だとお前、すげぇいい笑顔だったよ。あんなん見たことねぇからマジでびっくりした。あいつの前ならちゃんと笑えんじゃん」
「そ……れはっ」
どう言えばいいのかわからない。何もわからない。血の気が引いて指先が冷たくなっていく。
息がうまくできない。苦しい。
待って冬磨。違う、違うから。お願いだから誤解しないでっ。
「だからさ。もうこんなことやめて、ちゃんとしろ。あいつだけにしろよ。素直になって、ちゃんと幸せになんな。天音」
な? と冬磨は極上に優しく笑って、俺の髪の毛がくしゃくしゃになるくらい撫で回した。
「お前はもう、俺みたいなゲスの相手なんてすんな」
口を開こうとすると唇が震えた。でも、必死で無表情を装って、震えを抑えるためにぎゅっと手を握りしめる。
「ぉ……俺は、誰も好きにならないって言っただろ」
声……震えたかもしれない。涙が込み上げてきて必死でたえる。
冬磨が、しょうがねぇな、というように目を細めた。
「そっか。まだ自分で気づいてないんだな。ちゃんと自分の気持ちに向き合ってみろって。毎日会いたくて、いっぱい笑顔になれるのはなぜなのか、ちゃんと考えてみな。頑張れ、天音」
俺の大好きな笑顔で「じゃあな。元気でな、天音」と俺の頭をポンとして、横を通り過ぎて行く。
元気でな……って、もう二度と会わないつもりなんだ……。
愕然として目の前が真っ暗になった。
完全に誤解された。こんなはずじゃなかったのに……もうどうしたらいいのかわからない……。
冬磨が行っちゃう。もう会えなくなっちゃう。このままだと終わっちゃう。
一緒に天の川見に行くって言ったのに。
キャンプ場だって予約したのに。
デートできると思ってたのに。
俺は振り返りながら走って冬磨の前に出て、冬磨の胸を思いっきり押した。
「違ぇしっ!!」
視界がグラグラした。何もかもが現実じゃない感じ。
「勝手に誤解してんじゃねぇよっ!!」
必死でビッチ天音になりきった。
まだどうにかなるかもしれない。
もう全部なにもかも吐き出してしまいたかったけれど、でも、まだ何かできることがあるかもしれない。
諦めたくなかった。
「勝手に勘違いして勝手に切んなよっ!!」
「あ……天音」
冬磨を失いたくない。
そう思うのに、叫んだら感情が爆発して涙腺が崩壊した。
だめだ……もう完全に終わりだ。
冬磨の前でこんなに大泣きして切るなって叫ぶなんて、冬磨の嫌いな執着する男だ。
気持ちがバレたかもしれない。バレても終わり、本命がいると誤解されたままでも終わり、もう終わりだ……。
手土産のプリンが入った袋を冬磨の胸に投げつけ、俺は走った。
最後、冬磨がどんな顔をしていたのかも涙でぼやけてわからなかった。
いつかこんな日が来るって覚悟していたはずなのに、最近はどんどん冬磨との距離が近くなって幸せすぎて、覚悟なんてどっかに消えていた。
涙でよく見えない道を必死で走る。
冬磨から早く離れたい。離れなきゃ。
そうしないと、冬磨に泣いてすがってしまう。
でも、だめだ。嫌だ。俺はまだ諦めたくない。
冬磨の誤解を解くことができれば、またそばに置いてくれるかもしれない。
考える。どうすれば誤解が解けるか考える。考えなきゃ。
「ふ……っぅ……、と……ま……」
手の甲であふれる涙を何度も拭って駅まで走った。
嫌だよ……冬磨……。俺から冬磨を奪わないで……っ。
俺はもう冬磨がいないと……冬磨がいないと何もできないよ……。
189
お気に入りに追加
2,126
あなたにおすすめの小説

僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。


【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる