マスターの日常 短編集

たっこ

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知らぬ間に 3

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 キスをしながら、俺は手馴れた手つきでローションを手に取り、誠治の後ろを準備した。
 誠治が切なげに漏らす吐息で耳が犯され、俺の息子はもう痛いくらいに張り詰めている。

「ゆう……き、さん……」
「うん? どうした?」

 誠治は今にもとろけそうな顔でローションを手に取り、俺の息子に塗りつけてきた。

「おい、まだ早いだろ」
「だい……じょぶですから。もう……ほしいです……」
「いや、もう少し待てって」
「襲うって……言ったでしょう? 優しすぎますよ……」

 そういえば言ったなそんなこと。
 指輪の感動ですっかり忘れてた。

「馬鹿か。襲うってそういう意味じゃねぇだろ?」
「わかってます……けど……もう……」
「おい……っ、は……っ……」

 ローションでヌルヌルの手でそれを刺激されると、たまったもんじゃない。

「わかった……っ、でもちょっと待てっ」
「ん……はやく……ゆうき……」

 名前が呼び捨てになった。これはマジのやつだ。
 このままお預けにすれば、誠治は俺を押し倒して自分で入れてくるだろう。
 それは別にいいが、このままだと誠治の後ろがやばい。
 俺は猛スピードで、しかし極力優しく孔を広げる努力をした。

「んっ、はやく……ゆうき……」
「わかったってっ」
「もう……待てません……」
「あーもうっ。痛くても知らねぇぞっ」

 広げていた指を引き抜くと、誠治は嬉しそうに破顔した。

「はやく……ゆうき……」

 そう言いながら俺のものを自分の孔へと導く。

「……っ、たくっ。痛かったら絶対言えよっ?」
「だいじょぶ……ですから……」

 これは絶対言わねぇやつだ。
 誠治を傷つけたくないのに、本人が無頓着すぎてマジで厄介だ。

「痛かったら絶対言えっ! わかったかっ?」
「……はい……ぜったいですね」
「絶対だっ」
「はい」

 ふふっと笑って「はやく……」と懇願する誠治に深く息をついてから、俺はできる限りゆっくりと中に入っていった。

「ぁ……はっ、……っ」
「……きっつ……っ。おい、大丈夫か誠治」
「ん……だい……じょぶ、ですから……止まらない……で……っ」
「ほんとかよ……っ」

 わずかに顔をゆがめる誠治を見て、やっぱ痛いんじゃねぇかっ! と、もう一度ローションを追加した。
 誠治の顔がまたゆがまないかとハラハラしながら、ゆっくりゆっくり先へと進む。
 なんとか奥まで入ると、誠治の身体がぶるっと震えた。

「はぁ……あ……っ、おっきぃ……ゆうき、さん……」

 うっとりとした表情で愛おしそうに腹を撫でる誠治に、俺の息子がドクンと反応する。

「ふふ……かわいい、ゆうきさん……」

 俺の名前を呼びながら、視線の先は誠治の腹だ。

「……だからっ、そういうのは俺を見て言えっていつも言ってんだろっ」

 俺が抱くとき、誠治はいつも腹を撫でながら、中のソレに向かって「可愛い」だの「大きい」だの「好きです」だのと言う。
 なんか違うだろう、それはっ。

「また自分の分身に嫉妬ですか……?」

 クスクスと笑う誠治に「うっせーわっ」と文句をつけ、誠治の表情が緩んでるのを確認してからゆっくり中を出入りする。

「あん……っ、ぁっ、あっ、ゆ……き……さっ、んんっ」

 喘ぎながらふふっと笑う誠治の唇をふさぎ、腰を振った。
 これは嫉妬なのか? 俺は自分の息子に嫉妬してるのか? なんだそれ。馬鹿だろほんと。
 時計を見ると、あと一時間でいつもの誠治の起床時間だ。もう寝かせてやれねぇか……。でも身体は休ませてやんねぇとな。

「んんっ、ふぁっ、ゆ……きさっ、あっ、あぁぁっ!!」
「は……っ、ぅっ……っ!」

 誠治がタチのときは接触厳禁の乳首を、ここぞとばかりにいじり倒して早急にイかせ、中の締めつけと誠治のイキ顔で俺も簡単に果てた。

「はぁ……ゆう……き、さん……」

 終わると必ずぎゅうっと俺を抱きしめる誠治が本当に可愛くて、ただただ愛おしい。
 鎖骨の部分に吸いつきキスマを付けると、誠治が甘い吐息を漏らした。

「大丈夫か? 少し寝るか?」
「そう……ですね。余韻の中でまどろむのもいいですね……」
「じゃあ、まどろんどけ」
「はい……」

 まぶたをとろんとさせた誠治の顔に、ひとつひとつ丁寧にキスを落としていく。額からこめかみ、頬、そして首筋へとキスを落としながら、俺も事後の余韻をじっくりと味わう。
 ほんと……誠治がこんなに愛おしい存在になるなんて、付き合った当初は想像もしていなかった。どうせいつかは終わる関係だろうと思っていたのに、いつ俺は誠治に本気になったんだっけな……と考えて、そうだ、割とすぐだったなと心の中で苦笑した。
 医者の顔で冬磨の症状を説明する凛々しい誠治。
 ベッドの中では可愛く甘えてくる誠治。
 タチのときは男らしい誠治。
 いつでも俺を立てる誠治。
 第一印象から第二、第三と、コロコロと変わる印象と、それから……。

「愛してます……ゆうきさん……」
 
 この誠治の丁寧な敬語も、たまらなくクセになったんだ。
 
「愛してるよ、誠治。もう、死ぬまでお前だけだ」
「……ぇ、……」

 え、ってなんだ? と顔を上げると、誠治が驚いた顔で目を瞬いている。
 あれ? 言ったことなかったか?
 そうか。言葉にするのは初めてだったか。
 最近はもう当たり前にそう思っていたから、初めてだということにも気づかなかった。
 あらためて言い直すにはちょっとクサいセリフだが、伝わらなきゃ意味がない。
 俺はもう一度ゆっくりと、今度は誠治の目をしっかりと見て言葉にした。

「俺はもう、死ぬまでお前だけを愛してるよ、誠治」
「ゆ……ゆうき……さん……」

 誠治の目に再びじわっと涙があふれて、あまりの不意打ちに俺まで目頭が熱くなる。
 指輪の時は予想していたが、まさかここで泣かれるとは思いもしなかった。

「な、なんだよ。結婚したんだから『死ぬまで』なんて今さらだろ?」
「……それでも、まさか言葉にしてもらえるとは思っていませんでした……」

 確かに、結婚を決める前ならありえない言葉だった。できれば死ぬ間際に『結局、死ぬまで一緒だったな』と言えればいいなとは思っていたが。

「わ……私も、死ぬまで友樹さんを……友樹さんだけを愛しています」
「…………なんか……くそ恥ずいな?」
「友樹さんが先に言ったんですよ?」
「まぁ、そっか」

 可愛いネコの表情で涙を浮かべる誠治に優しく微笑み、俺たちはゆっくりと口付けを交わした。
 もし今日のタチネコが逆だったら、どんな誠治が見られたんだろうかと、少しだけ知りたい気もして惜しい気持ちになった。



 誠治の起床時間に二人で起きて一緒にシャワーを浴びた。
「もう寝てください」と俺を気づかう誠治の言葉を「まぁ、いいじゃん」と軽く受け流し、パンとコーヒーの簡単な朝食を用意する。

「わざわざ朝食まで……ありがとうございます、友樹さん」
「ただのベーコンとスクランブルエッグだ。ほれ」

 出来たての朝食をテーブルに並べる俺に、ちゅっとキスをして誠治が微笑む。
 なんだよ。平日に抱き合うと、こんなに甘い朝が迎えられるのか。これなら毎日でもいいな。
 そんなことを考えて一人苦笑した。

 二人で向かい合って席につき「いただきます」と手を合わせる。
 パンにジャムを塗ってかじりついたとき、ふとテーブルの端に置いてある薄い冊子が目に入った。
 なんだあれ。なんかのパンフか?
 一度視線を外してから、ちょっと待てよ、と二度見する。
 表紙に写る人物に見覚えがある気がして、首を伸ばして覗き込んだ。

「あ、やっぱイケおじだ」

 昨日バーに来たイケおじが、白衣を着て写っている。なんだ、イケおじも医者だったのか。有名人か? 見たことねぇけどな。

「イケおじ、ですか?」

 誠治が首をかしげて冊子を手に取りイケおじを眺める。

「イケおじじゃね?」
「そうですかね」

 興味もなさそうにさらりと言って、誠治は冊子をテーブルに戻す。
 嫉妬か? 俺がイケおじなんて言ったから面白くない?
 表情を見てもよくわからんが、嫉妬なら可愛いな、と顔が緩む。

「それ、なんの冊子だ?」
「ただの院内報ですよ」

 院内報?

「え、院内って、まさかイケおじってお前の病院の人?」
「院長です」
「え……院長って……」
「私の父ですよ」
「は……」

 今、なんて言った……? 嘘だろ……? 嘘だよな……?
 手からフォークが滑り落ち、ガシャンと派手な音が響いた。
 
 
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