ふれていたい、永遠に

たっこ

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番外編

結婚式✦side秋人✦2

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 チャペルに入ると、真紀さんが急いで鍵を閉めた。
 
「大丈夫だ。誰にも見られてない」
 
 榊さんの言葉に安堵の息をつき、俺たちは黒い布を静かに取り外した。
 蓮と手を繋ぎ、並んでドアの前に立つ。
 やばい、どうしよう。いよいよだ……。
 緊張で何がなんだかわかんねぇ……。
 
「それでは新郎蓮さん、新郎秋人さんの入場です。みなさま、盛大な拍手でお迎えください」

 拍手が沸き起こる。
 司会者の聞き覚えのある声に、俺は驚いて姿を探した。
 正面左にあるマイクの前にはリュウジが立っていた。

「はっ?! リュウジっ、なんでっ」
 
 参列席の一番後ろで手を振っている人物も声を上げた。

「俺もいるぞー!」

 大声でアピールしたのは京だった。
 二人が来るなんて聞いてない。
 俺は驚きすぎて固まった。

「めっちゃ変装してきたから心配すんなよーっ」
「うんうん、大丈夫、完璧っ!」
「そんな心配してねぇって……」

 二人が慎重に行動することくらいわかってる。心配なんか必要ない。
 まさかメンバーにも参加してもらえるなんて思ってなかった。
 やっぱり嬉しいもんだな、と自然と顔がほころんだ。

「ありがとな、リュウジ、京」

 京は「当ったり前じゃんっ」と言って親指を立てる。
 一方、リュウジは頭をかきながらマイクに向かってぼやいた。
 
「俺、榊さんに司会頼まれたんだけどさ。かしこまった司会なんてできねぇんだわ。もうさ、普段どおりの俺でやっていいか?」
 
 なに言ってんだ。リュウジなら完璧にこなすだろ。とは思ったが、かしこまった司会なんて俺たちは求めてない。
 そう答えようとした俺よりも先に、素早くみんなからの声が飛んだ。
 
「かしこまった司会じゃないほうがいいよね?」
「人前式なんだし、普段どおりのほうが楽しくていいじゃない?」
「リュウジくん、気にせずいつもどおりの君でやってくれ」
「そうそう。そんな司会の本どおりにやったってつまんねぇって!」
 
 最後は京が悪い顔をして、リュウジが司会の本を隠し持っていることを暴露する。
 
「京、お前っ、こんにゃろ……っ」
 
 チャペルが笑いに包まれた。
 挙式が始まる雰囲気とは、あまりにも遠くかけ離れた会場の空気。
 でも、それがなんだか逆に俺たちらしい結婚式が始まる予感がして、俺は嬉しくなった。
 蓮を見ると、その笑顔とキラキラした目で、もうすでにわくわくしている様子が伝わってくる。
 俺たちは目を見合わせて笑った。
 
「リュウジ! いつもどおりのお前でよろしく!」
 
 笑顔で答えた俺に、リュウジが嬉しそうに笑った。

「さんきゅ! そうさせてもらうわっ。んじゃあ、あらためて。新郎秋人、新郎蓮くんの入場ですっ」

 ゆったりとしたメロディがチャペル内に静かに響き渡る。
 優雅な音色が空気を変え、穏やかな気持ちを運んでくれた。
 
「ではみなさん、通路に並んでください。榊さん、よろしくっ」
 
 え、みんなが通路に並ぶ?
 不思議に思っていると、榊さんが目の前に立ち、俺たちの手を取った。
 
「秋人、蓮くん、結婚おめでとう。困ったことがあればいつでも助けになるからな。……とは言っても、スーツ姿に赤面して発熱騒動なんてのはもう勘弁してくれ」
 
 榊さんの言葉に、みんなの驚く声と笑いが起こる。

「やっぱりっ!」

 という美月さんの興奮した声。
 え、なんだよ、なんでいまそんな暴露されてんの?
 恥ずかしいし意味がわからないしで、突然なにが始まったのかとポカンとした。いまから俺たち入場じゃないのか……?
 すると榊さんは俺たちの手を引いて歩き出し、後方にいる美月さんにバトンタッチした。
 
「蓮くん、秋人くん、おめでとうっ! 私の夢を叶えてくれて本っっ当にありがとうっ! はぁ……尊い……っ! 今日の一部始終は私がしっかりビデオカメラに収めるからまかせてねっ!」
 
 美月さんの夢を叶えたつもりは無いが、ビデオカメラについてはお礼を伝える。
 美月さんは俺たちの手を引いて歩き、後方にいる京にバトンタッチした。
 やっと理解した。こうして順番にバトンタッチをされながら入場するんだ。
 二人で手を繋いで歩いて行くだけだと思っていた。
 早々に俺の涙腺が刺激される。こんなの感動するに決まってる。蓮を見ると、やっぱりすでに目が潤んでいた。
 
「秋人、おめでとっ! 幸せすぎてデロデロの顔で仕事来んじゃねぇぞ? 蓮くん、秋人をよろしくね。こいつ、すぐ一人で頑張ろうとするからさ。まぁ、蓮くんの前だと素直に甘えられるんだろうし、心配ないかっ」
「京さん……っ。俺、秋さんが素直に甘えたり弱音を吐いたりできる存在でありたいと思ってますっ」
「うんうん。蓮くんはそのまんまで大丈夫だわっ」

 京がにやけた顔で笑って、俺と蓮の肩を強くバシンッと叩いた。

「痛てぇよ、ばか」

 デロデロとか甘えるとか、まさにその通りで俺はなにも言い返せない。だから文句だけこぼした。
 そんな俺に愉快そうに笑いながら雫ちゃんのパパ、守さんにバトンタッチする。

「蓮くん、秋人くん、おめでとう。蓮くん、素敵な人と出会えて本当によかったね。お幸せにねっ! そうだ、雫が秋人くん秋人くんってうるさいんだよ。よかったら家に遊びに来てね」

 マジか。やばい。雫ちゃん可愛いっ。
 遊びに行きます! と俺は即答した。

「え……秋さんだけ? 俺は……?」
「ん? もちろん二人で来てよ」
「じゃなくて……俺の名前……」
「うーん、いまは秋人くんブームかな?」
「え……寂しい……」
 
 蓮の寂しそうな表情を見て、背中を撫でてやりたい衝動にかれれた。でも、蓮とお兄さんと手を繋いでいて慰めてやれない。今だけ腕が三本ほしいと思った。
 蓮はショックを隠せない顔のまま、次のお姉さんにバトンタッチされた。
 
「蓮っ! 秋人くんっ! ほんっと結婚おめでとうっ! 蓮、よかったねっ。演劇に夢中すぎて友達もいなかったあんたが……まさか結婚できるなんて思わなかったよっ! ほんっとよかったねっ。秋人くん、蓮をよろしくねっ!」

 そういえば以前、ニコイチどころか親友もいないと蓮は言っていた。それくらい演劇に夢中だったんだな。蓮らしいな、と笑みが漏れる。
 もちろんです、と答えた俺に、お姉さんは満面の笑みを返してくれた。

「姉さん、ありがと」
「うん、うんっ」

 お姉さんは涙をにじませながら、俺の両親にバトンタッチした。

「秋人、蓮くん、おめでとう」
「本当におめでとうっ!」
「また今度、親子で酒でも飲もうな」
「ドッキリ大成功の紙がもったいないから、また今度使うわねっ」
「いや、絶対やめてくれ」

 なにを言い出すんだよ、と冷や汗が出た。
 まわりから「なんの話だ?」「なになに、面白そう!」「あとで聞かせてもらおっ」と聞こえてくる。

「ほらもう、余計なこと言うから……」
「だって榊さんが面白い話を教えてくれたから、私もなにかと思って」
「はぁ? もぉ、ほんとそれ母さんの悪いとこだからな?」
 
 楽しそうなことを見ると、すぐにやりたくなる悪い癖。
 ドッキリだってそうだ。いつも家族が振り回される。
 
「楽しいんだもの、いいじゃないの。次はどんなドッキリにしようかな?」
 
 俺が言い返そうとすると、蓮に先を越された。
 
「楽しいならいいですよね」
「でしょう?」
「おい蓮、またドッキリ仕掛けられんだぞ?」
「うん、楽しいならいいよ? あ、泣いたりつらかったりは無しでお願いします」
「任せてっ!」
 
 あきれて開いた口が塞がらない。
 ドッキリだぞ? 蓮、ほんとに分かってんのかな。

「秋人。諦めろ」
 
 父さんが目を閉じてうなずく。
 なるほど。父さんは諦めて今に至るんだな、と俺はしみじみ悟った。
 父さんが俺の手を、母さんが蓮の手を引いて、隣に並ぶ蓮の両親にバトンタッチする。

「蓮、秋人くん、結婚おめでとう」
「二人とも本当におめでとうっ。もう私まで緊張しちゃって、さっきからずっと手が震えてるの。変よねぇ」

 俺の手をにぎるお母さんの手から、震えが伝わってくる。
 お母さんも俺たちのように、緊張するほどの思いで今日を迎えたんだと思うと胸が熱くなった。
 素直にお礼を伝えると、はにかむ様にお母さんは笑った。

「父さん、なに考えてるの?」
 
 蓮の言葉の意味がわからなくてお父さんを見ると、なにかを考え込んでいた。どうしたんだろう。
 
「父さん、いま面白い話をする流れじゃないからね?」
「いや、そういう流れだろう?」
「……違うよ?」
 
 母さんのせいで、蓮のお父さんまで何か面白い話をしようとしているらしい。
 いや、これは暴露大会じゃないですよ。と言いたいけれど呑み込んだ。

「面白い話は思いつかないが…………お前たちがあのドラマで、お互いに好きすぎて役になりきれていなかった、という話はどうだ?」
 
 それ一番言っちゃだめなやつっ!

「嘘でしょっっ?!」
「嘘だろっっ?!」
「マジかっっ!!」

 案の定、美月さんとリュウジ達の驚愕の声が響き渡る。
 
「えっ! 秋人だけじゃなかったのっ?!」
 
 ついでに母さんの声も。
 後ろでお姉さんが興奮したように話し出す。

「そうなんですよっ! 二人ともあれは演技じゃなかったんですってっ! わかってから観ると……もうっ!」

 くぅーーっ! と謎のうめき声を発している。

「蓮くんも演技じゃなかったのねっ! すごいっ!」
「帰ったらまた観なくっちゃっ!!」
 
 母さんと美月さんが興奮気味に騒ぐ中、驚愕の顔で固まるリュウジと京。
 だよな。俺、PROUDじゃそういうキャラじゃねぇもんな。
 一応リーダーなんだよ。
 しっかり者のはずだったんだよ。
 自分でも未だに信じられない話だよ。
 蓮のお父さんは、みんなの反応に大満足という表情で笑みを浮かべていた。
 
「父さん……」
 
 蓮が羞恥心と戦うような顔をしている。

「……すまん。やりすぎたか?」

 お父さんが、しまった、という顔で俺たちに問う。

「全然大丈夫です」
 
 俺が答えると「どこが……」と蓮がつぶやいた。

「大丈夫だって蓮。ここにいる人にしかバレてねぇんだしさ」
「でも……」
「そもそも俺の母さんのせいだしな?」
 
 いや、榊さんのせいか。
 そう気づいて、おかしくなって吹き出した。
 笑う俺を見て、蓮が安堵したのがわかる。
 そうなんだよな。自分の親が何かしでかすと本当にいたたまれないんだよな。

 最後は祭壇の前で、みんなの方を向いて二人で並んだ。
 俺は笑いながら小声で蓮に話しかける。

「なんか感動もしたけどハラハラした入場だったな?」
「……うん。父さんのとどめが爆弾級すぎる……」
「ふはっ。もう忘れろそれ」

 両家の父が前に出て、俺たちの胸に花飾りを付けてくれた。
 新郎の胸元を飾る花。チャペルを飾っている白い花とグリーン。それと同じブートニアだ。

「それじゃあ今から、秋人と蓮くんの人前結婚式を始めますっ」

 みんなの拍手が響く。

「あ、みなさん。途中なにか気になることがあったら、遠慮なくじゃんじゃんツッコミ入れちゃってねっ」
「おいっ」

 さっそく俺がツッコむと、みんなが吹き出すように笑った。
 
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