ふれていたい、永遠に

たっこ

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番外編

結婚式の相談✦秋人side✦SS

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「秋人」
「はい?」
「お前、そのデロデロな顔で行くつもりか?」
「デロデロ?」

 迎えに来た榊さんの車に乗り込んで、開口一番にそんなことを言われた。
 幸せな五連休が終わった仕事初日。離れがたくて朝から蓮を襲い、ギリギリまでイチャイチャしていた。
 デロデロって、事後の顔とかそういう意味か? うそだろ?

「……本当に幸せそうだな、秋人」
「……うん、めっちゃ幸せ。全部榊さんのおかげです。ほんと、ありがとうございます」
「俺はなにもしてないぞ?」
「何言ってんですか。榊さんのおかげで、俺らいま一緒に住めてるんですよ? 本当に、感謝しかないです」

 もし榊さんがいなかったら、俺たちが一緒に住むなんてありえなかった。
 そんな“もし”なんていまさら想像もしたくない。
 蓮と毎日一緒にいられなかったら、きっと俺はつらくて苦しくておかしくなってる。すぐに弱って泣いて蓮を困らせてる。そんな自分を簡単に想像できた。

「感謝はしなくてもいいから、あんまり調子に乗るなよ。スーツ姿にのぼせて赤面するとか、もう二度と無しだぞ」
「…………いや、もう本当に……反省してます……」
「ペアウォッチも、また怪しいってチラホラ言われ始めてるからな」
「……はい。わかってます。これ以上ボロは出しません」

 連休のふわふわした気持ちが一気にぎゅっと引き締まる。
 そうだ、夢は終わりだ。またどこでなにを言われても対処できるように気を張らないとだめだ。

「デロデロが収まったな」

 バックミラー越しに俺を見て、榊さんが笑った。

「あ、え? もしかしてわざと?」
「あまりにデロデロだったからな。ちょっとお灸を据えた」
「ええ、そんなにやばかった?」
「やばかった」
「マジですか……」

 やっぱり朝はだめだな。自重しよう。反省……。
 本当はすぐに結婚式のことを榊さんに相談したかったが、なんだか言えない雰囲気になってしまった。
 昨日、蓮のお父さんから電話がきた。一、二月は比較的暇で、隠れて挙式を挙げるには最適だとの返事だったらしい。
 衣装合わせもサイズを伝えるのみで、何もかも任せてくれるなら当日行くだけでいいとまで言ってくれているらしい。
 だからあとはチャペルの空きと、俺たちのスケジュールが合うかどうかだけだった。
 言いずらくても、これは相談しないとだめだよな。だめだろ。一、二月なんてあっという間に終わっちゃう。

「あ、の、榊さん……」
「なんだ?」
「あー……その……」
「なんだよ」
「俺たち……その…………式を……挙げたくて……」
「…………は?」

 バックミラー越しにでも、榊さんの顔が青ざめたのがわかった。榊さんは急いで車を路肩に停めて俺を振り返る。

「なんだって? 聞き間違いか?」
「たぶん、間違ってません。俺たち……結婚式を、挙げたいんです」

 さらに真っ青になった榊さんは、片手で顔を覆いながら深くうつむいた。

「あ、あの、もちろん極秘です。ひっそりと、ただ形だけ挙げたいだけで……」
「極秘でどうやって? 二人で海外に飛んだら、たとえ別々に行っても怪しいぞ。ペアウォッチでさえ言われてるのに、それこそ終わりだ」
「あの、日本で挙げます。蓮の親戚が福島の式場で働いていて、責任者らしいです。いままでも芸能人の極秘挙式を扱ったことがあるみたいで――――」
「ちょっと待て……挙げますって……どこまで話が進んでる? それに、お前たちのことを知ってるのは誰々なんだ?」

 あ、やばい。榊さんの周りに冷気が漂ってる。これ本気で怒ってる。

「あ、の……。俺たちの家族と、福島の親戚の人、リュウジと京、……あ、あとドッキリのときに仕掛け人の加藤さんにも知られて……それだけです」
「……それだけ、だと?」
「あ……いや……」

 ええ……どうしよう、マジで怖い。
 どうして日本で挙げる話になったのかと問い詰められ、蓮の家でのことを事細かく報告した。
 ついでに俺の家での話も簡単に。
 順を追って話をすると、榊さんの冷気は徐々に収まり、最後にものすごく深いため息をつかれた。

「頼むから、この先は勝手に話を進めないでくれ。寿命が縮む……」
「す、すみません……」
「それから、これ以上誰かに話を広めるな」
「それはもう、はい、絶対に言いませんっ」 
「式の話は俺も介入していいか? できれば美月さんも一緒に。スケジュールを合わせるのもだが、どこまで極秘を徹底してもらえるのか確認したい」
「あ、はい。もちろんです。連絡先もらってます。……あの……式を挙げたいとか、わがままを言って本当にすみません」

 膝に額が付くくらいに頭を下げた。
 もしバレたら、きっともうPROUDは終わりだ。それでも挙げたいなんて身勝手すぎる。反対したいだろうに、飲み込んでくれている榊さんにはもう本当に頭が上がらない。

「そこまで本気だとは思わなかった。お前たちはすごいな」

 ゆっくり頭を上げて榊さんを見た。たぶん俺いま、すごい情けない顔になっている。

「安心……したいのかもしれません。どう頑張っても結婚はできないから、せめて式は挙げたくて……」
「……そうだな。うん、わかるよ」

 マネージャーが榊さんで本当によかったとあらためて思った。
 榊さんじゃなければ、こんなこと許してもらえるはずがない。
 俺は本当に周りに恵まれてるな、と胸がジンとした。



 
「おかえり、秋さん」
「ん、ただいま」

 玄関で出迎えてくれた蓮に、チュッとキスをしてからぎゅうっと抱きついた。
 五連休明けの仕事は本当にしんどかった。
 なにがって、蓮不足でつらかった。

「大丈夫? なにかあった?」
「なんもねぇけど、コアラ抱きして……」
「いいよ、はい」
「ん……」

 コアラ抱きで蓮にしがみつく。あー幸せ。蓮ゲージが急速に回復していった。
 洗面所で手を洗い、またコアラ抱きでリビングまで運ばれる。
 ソファに下ろされてから、俺はすぐに気になっていたことを聞いた。
 
「美月さんに電話したか?」

 蓮の休みはまだ続くから、式についての相談を電話ですることになっていた。
 
「あー……。うん、したよ」

 顔中に「うんざり」と書かれていて、一瞬で想像がついた。

「もう大変だった」
  
 こっちも大変だったけど、たぶん蓮の大変は意味が違う。

「予想はついたからさ。いま大丈夫か聞いたんだ。そうしたら事務所にいるって言うから、夜かけ直すって言ったんだけど……」
「だけど……?」
「美月さんのあれは、なんなんだろうね? 予知能力? 俺なんにも言ってないのに、いまから家行くから! って叫んで切れちゃってさ」
「え、家まで来たのか?」
「うん……。一時間びっちり興奮して大騒ぎして嵐のように帰ってった」
「うわー……。すげぇ想像つくわ……」

 でも美月さんがすごい喜んでくれたんだろうことはわかる。二人で目を見合わせて苦笑した。

「榊さんは大丈夫だった?」
「それがさ、車ん中すっげぇ冷気に包まれてさ」
「えっ!」

 朝の一部始終を蓮に報告した。
 蓮は聞きながら青くなり、ホッと息をつき、そして笑顔になった。 
 最後にデロデロだと言われた話もすると、みるみる真っ赤になる。ほんと可愛い、俺の蓮。

「も、もう朝は禁止だからねっ」
「だな。俺ってそんなわかりやすいんだなー」

 答えながら蓮にまたがった。

「秋さん?」
「だから、しよ?」
「だからって……?」
「朝は禁止だろ。だから夜」
「……先にご飯でしょ?」
「やだ、いま。もう俺、蓮が足りない……」

 連休の後遺症が酷すぎる。蓮ゲージは満タンなのに、あふれるくらいにならないと満足できないらしい。 

「シャワーは……」
「入ってきた」
「……準備万端だね?」
「……蓮は……俺不足じゃねぇの?」

 俺ばっかり蓮が足りないみたいでおもしろくない。
 口をとがらせる俺に、蓮は言った。
 
「ねえ秋さん。今日一日、俺がなにしてたかわかる?」
「ん? んー……?」

 突然の難問に俺は首をひねった。蓮は一人オフの日には、いつも家事をしてから台本を読むと以前聞いた。

「台本読んでた?」
「ブー。いま台本はありません」
「そっか。んー……じゃあ家事」
「うん、他には?」
「美月さんの相手」
「うん、あとは?」
「んー……なんだろ……」

 蓮の趣味は仕事と連動してるから、台本がないときになにをしてるのか想像ができない。一人のときってなにしてんの?

「正解はね」
「うん」
「秋さんをずっと見てた」
「ん? え、どういうこと?」
「録画した秋さんのコレクションをずっと観てた。観ながら、ときどき婚姻届眺めてニヤニヤして、ペアウォッチ撫でてデレデレして、また録画の秋さん観て、秋さん大好きってずーっと思ってた」

 また新しい好き好き攻撃に、一気に顔が火照る。

「俺だって秋さん不足だよ。当たり前でしょ?」
「……ん。そっか」

 俺だけじゃなくてよかった。
 今日一日、蓮も俺と同じ気持ちだったんだとわかって、愛おしさで胸がいっぱいになる。

「蓮……抱いて?」
「うん、ベッド行こっか。俺にしがみついて」
「ん」

 コアラ抱きで蓮が立ち上がる。
 俺は足をクロスさせてぎゅっと抱きついた。
 蓮……めっちゃ好き。
 もうご飯なんていらないから、眠るまで蓮にドロドロに甘やかされたい。

「秋さん、今日ハンバーグだからね」
「えっ」
「秋さんの好きなキノコのデミグラスソースだよ」
「…………っ」
「だから、一回だけね」
「…………うう……」

 なんで俺の考えてることがわかるんだ。
 でも蓮のハンバーグは……食べなきゃな。
 ドロドロに溶かされるのは明日でいいか。

「ちなみに明日は、おでん。朝から仕込むから」
「…………っ」

 もう完全に胃袋をつかまれてる俺がいた。
 蓮のおでん、初めてだ。

「おでんってどんなの? 醤油?」
「味噌おでん」
「……なんで俺の好きなの知ってんの?」

 蓮はクスクス笑いながら、愛してるからかな? と言って、俺の頭にチュッとキスをした。

 


end.


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

★京×榊
「セフレなんて嫌なんだ ~変装した俺とマネージャーの恋愛方法~」
ただいま連載中です。もしよろしければ、そちらもよろしくお願い致します.。.:* ♬*゜

 
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