ふれていたい、永遠に

たっこ

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番外編

本当はやってみたいこと✦side蓮✦SS

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※このお話は、あくまでも秋人ならこう思うだろうな、というのを書きました。私の地雷ではありません。と一応注意書きをしておきます。


◇◇◇◇◇

「ただいまー。あれ? 秋さん?」

 靴はあるのに秋さんがいない。
 今日は午後からオフだったはず。もしかしてどこかに出かけたのかな?
 そう思いながら着替えのために寝室に行くと、ベッドに寝転がる秋さんがいた。

「蓮ー。おかえりー」
「秋さん、ここにいたんだ。あれ、漫画なんてめずらしいね?」

 秋さんが寝転がって漫画を読んでいた。ベッドの脇にも漫画が積まれている。

「何読んでるの?」
「んー。BL漫画」
「えっ?」

 秋さんがBL漫画?
 たしか秋さんの部屋の棚には漫画はなかったし、読んでるのを初めて見た。
 めずらしく読んでるのがBL漫画って……え?

「ちょっと荷物取りに俺ん家行ったらさ。ドラマの参考にってもらった漫画が、紙袋に入ったままにクローゼットの隅に置いてあってさぁ。せっかくだからもっかい読もうかなって」

 なるほど、そういうことか。びっくりした。
 
「蓮も参考に読んだんだよな?」
「うん、何冊か読んだよ」
「あらためてよむとさ、BL漫画ってめっちゃエロいな?」
「ね。俺も読んでびっくりしちゃった」

 服を部屋着に着替えて、俺も秋さん隣にゴロンとなった。

「秋さん、ただいま」
「ん、おかえり」

 チュッとキスをして顔を離すと、なぜか眉間にシワを寄せた秋さんがいた。

「え、どうしたの秋さん?」
「え? なにが?」
「眉間のシワ」

 ぎゅっと寄ってる眉間のシワを、俺は指で伸ばすようにグリグリした。

「え、俺シワ寄せてた?」
「うん、すっごい寄ってた。なんかあった?」
「……んー。だってさぁ。俺全然共感できなくてさぁ。前読んだときはなんも感じなかったんだけど……」

 BL漫画のなにに共感できなかったんだろう?
 いまさら男同士がって部分じゃないだろうし。……ないよね?

「だってこれ見ろよ」

 ムクっと起き上がって、秋さんがベッドの上に漫画を五冊並べた。

「これ今日読んだやつなんだけどさ。全部服着たままなんだよ」
「……ん? え?」
「……だから、五冊とも、全部服着たままやってんのっ」
「……ああ、うん、なるほど」
「こっちの三冊なんてさ、純愛がテーマみたいな内容なのにさ。……おかしくねぇ?」
「う、うんまあ……そう、かなぁ?」
「なんで脱がねぇのっ? って思っちゃってさぁ。せっかく感動して読んでたのに、スンってなった」

 秋さんが、感動したあとにスンとなってるところが目に浮かぶ。
 
「あとさぁ、これ。隣の部屋にベッドあんのにさ、床でやるんだよ。……背中痛いじゃん。せめてソファでやれば? って思っちゃってさぁ……。って、なんでお前笑ってんだよぉ?」
「ふふっ、ご、ごめん」

 秋さんの共感できない部分がそこなんだ、と思ったら、熱弁してるのが可愛くておかしくて笑いが止まらなくなってしまった。

「あのね。漫画のそのシーンってワンパターンになりがちだから、きっと色々パターン変えて試行錯誤で頑張って描いてるんじゃないかなぁ?」
「……そうかもしんないけどさぁ。なんか服着たままだと愛が感じられねぇんだよなぁ。せっかくの感動がさぁ……」

 秋さんの眉間がまたぎゅっと寄った。
 秋さんがいつも脱ぎたがるのを俺は知っているから、必ず脱がせるし俺も脱ぐ。
 裸で抱きしめると、それだけで幸せそうな顔をする秋さんが毎回見られるんだから、そりゃぁ脱ぐに決まってる。
 それに今まで、当たり前にいつもベッドだった。ソファでイチャイチャするときもあるけど、最終的にはいつもベッドに行ってからだ。
 俺たちってなんか模範生みたいだな、とまたおかしくなる。

「なんだよ……蓮もこういうの、ほんとはやりてぇの?」
「ううん。全然。俺はいつも秋さんと裸でぎゅってしたいし、秋さんが痛いとこではやりたくないからベッドが一番だよ」

 俺の言葉に、秋さんはホッとした顔で少し頬を赤らめた。

「そうだよな? 良かった同じで。……ほんとはさ、俺がこういうのやりたいって言ったら、お前がどんな反応するのかやってみようかなってちょっと思ったんだよね」

 そう言われて想像してみた。秋さんが服着たままやりたいとか床でやりたいとか言うってこと……?
 そこで俺はすぐに気づく。

「……それ、もし秋さんが試してたら、俺もやりたいってきっと言ってた」
「……は? なにそれ、結局どっちだよ?」

 秋さんはまた眉間にシワを寄せる。
 
「えっと……秋さん次第みたい」
「……ん?」
「秋さんが裸でぎゅってすると幸せそうにするから俺もそうしたい。もし秋さんが服着たままで幸せそうにするなら俺もそうしたい。……俺、それについては主体性がないみたい」

 ごめんねと謝ると、うっすら頬を染めて「ほんとお前はいっつも俺ばっかだよな」と照れ隠しのように口をとがらせた。

「なんかねぇの? やってみたいこと。いつもやんねぇこと」
「えぇ? うーん……」

 俺は考えてるフリをした。実は一個だけやってみたいと思うことがある。でもそれは秋さんの負担になることだから、それなら別にやらなくてもいいや、と思うんだ。

「別にないかな」
「……あるな。その言い方はあるだろ」
「いや、本当にないよ?」
「お前、ないときはないって言い切るもん」
「……っ、えっ」

 俺ってそんな癖があったの? と驚いた。
 秋さんがジト目で見てくる。

「なんだよ、言えよ、なにやりたいんだよ?」
「いや……そんなにすごいやりたいわけじゃないし……」
「なんだよ、いいから言えって」

 じりっと秋さん近づいてくる。
 ええ……これ本当に言わなきゃダメなやつ……?
 そんなにこだわってるわけじゃないんだけど……。だって秋さんの負担になるし……どうしよう……。
 困り果てて黙っていると「だーっ!」と秋さんが声を上げた。

「もーわかった! じゃあ俺が一個言うから、お前も一個言えよ?」
「え、秋さんもなにかあるの?」
「……いま一個思いついた」
「え、いま?」

 言う前から秋さんの頬がまた赤く染まった。

「……わかった。じゃあ一個づつね?」
「ん」
「秋さんの一個はなに?」
「……俺さ。服着たままはどうしても抵抗あんだけど。…………スーツは別かも……」
「スーツ……」

 先日やったスーツの着せ替えを思い出す。本当に秋さんスーツ好きなんだな……。

「一緒に飯食ってるだけであんだけドキドキすんだし、スーツ着たままだったらどうなんのかな? って想像したらもうドキドキしてきた。……やばっ。……俺、蓮がスーツ着たままやってみたいかも」
「え、俺だけ着たままなの?」
「んー。俺はまあどっちでもいいや。じゃあはい。蓮の一個はなに?」
「俺のは……本当に別にこだわってないんだけど……」
「うん、わかった。で、なに?」
「…………一回でいいから……そのままやってみたい……かな」
「そのまま?」

 秋さんが不思議そうに首を傾げた。

「……えっと。……その。…………ゴムなしで…………」

 俺の言葉に、秋さんが呆れた顔をした。

「…………はぁ?」

 うわ、何言ってんだって顔してるっ。やっぱり言わなきゃよかったと後悔した。

「いや、だからこだわってないから別に……っ」
「おい。それ俺が一番最初にお前にダメだって言われたやつじゃんっ!」
「……あ、うん、そうだね?」
「俺、ゴムなくていいって最初から言ってんじゃんっ?」
「……そ、だったね……?」

 あ、そっか、そういうことか……?

「でもほら、お腹こわすって聞くしね……?」
「かきだせばいいんだろ?」
「……うん。そうだ……ね……?」

 呆れたように笑う秋さんはきっと、なんだそんなことかって思ってるんだろうな。
 
「蓮」
「うん……?」
「はい」

 秋さんが、俺に向かって両手を広げた。

「コアラ抱き、よろしくっ」

 なんでいま? なんて聞かなくてもわかる。

「……えっと、シャワー、行く?」
「うん、シャワー行こっ」

 コアラ抱きで秋さんを抱えて立ち上がった。
 チュッとキスをして、二人でクスクス笑いながらバスルームに向かう。

「お前は上がったらスーツなっ。ネイビーのっ」
「……はいはい」
「お前の一個は……もうずっとでもいいぞ」
「……いや、それは秋さんのお腹が心配になるからダメです」
「じゃあたまにつければいいなっ」
「…………たまに、つけない方で」
「お前は心配性だな」

 秋さんが呆れたように笑った。
 ひとまず今日は、スーツとゴムなしが決定した。
 いっぺんに両方……。興奮しすぎておかしくなりそうだ……。
 無茶をしてしまわないように頑張ろう。俺は気を引き締めなおしてバスルームに行った。




end.
 
 

  
 
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